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干支の考案者は猫派か?

作者: ウィリアム後藤田

「何で干支に猫が入ってないの!?」と憤ったことのある全ての猫派に告ぐ


【登場人物】


僕…日本の高校生。猫派。猫アレルギーに悩む。


ボス…WCA(世界愛猫家過激派団体)のトップ。その正体は謎に包まれている。40代の日本人男性で、数年前に離婚されたと噂されている。


組織員…話を進めるための脇役。


【本編】


2017年、WCAの決議によっては、日本は滅亡していた。


WCAとは世界愛猫家過激派団体の略称だ。

世界中の権力を裏から支配している。


僕はWCAの組織員の1人だ。

散歩中に見つけた猫を全力で追いかけていたところをスカウトされた。


これは僕が初めて参加した、そして日本が存亡の危機に瀕することになった、WCA定例会議の内容だ。


………………………………………………………


ボス)日本は干支に猫が入ってないと聞いたのだが…滅ぼしてもいいかな?


組織員A)まぁ、猫を尊重出来ない文化を持つ種族は途絶えて当然でしょうね。


組織員B)日本在住の猫には悪いが、彼らの可愛らしい姿はツイッターやフェイスブックの中で永遠に生き続けるわけだな。


ボス)異論はあるか?無かったら核ミサイルを発射することになるが…


僕)…いやぁ、滅亡はちょっと


ボス)ほう。ならば、その理由を述べてみよ。


僕)たとえば、干支を作った人が実はすごい猫派で、猫を好きすぎて干支に入れなかった、みたいな理由があったとしたらどうでしょうかね…


ボス)猫が好きなら干支に入れればよいだろう。どういうことだ。詳しく話せ。


………………………………………………………


滅亡を阻止しようとしたのは、日本人男児として当然の行いだったと思っている。


ただ、適当なことを言ったせいでマズい展開になってしまった。

「干支の考案者が猫好きだったし、それ故にネコを干支に入れなかった」という理由をでっちあげなければならない。


かつてないほど、僕の脳は回転した。


数秒ののち、僕は天啓を得た。


………………………………………………………


僕)たとえば、「一年を通しての猫に注げる愛」「猫派としてのモチベーション」を『ネコネコ度』で表すとします。


ボス)ネコネコ度


僕)0から100までで表すとき、ボスの今年のネコネコ度はいくらでしょうか?


ボス)100ネコネコだな。


僕)さすがです。即興で単位を『ネコネコ』だと推し量って下さったところも含めて………では、来年のネコネコ度は…


ボス)100ネコネコだ。どの年であろうと。


僕)なるほど。では、仮に来年を猫年とします。


ボス)うむ。愉快だな。


僕)猫年のネコネコ度は…


ボス)むろん100ネコネコだ。たとえ妻に離婚を告げられたりしても、猫年なら100ネコネコだ。


僕)離婚…?はい。では、翌年は


ボス)くどいぞ。どの年でも100ネコネコだ。


僕)それは、猫年と他の年のネコネコ度に差が無いということでしょうか。


ボス)それは違う…猫年のネコネコは、言うなれば110ネコネコといった感じで……


僕)ですが、上限を100と決めた以上、猫年と他の年の差を付けるとするなら、猫年以外のネコネコ度を100未満にする必要があるのではないでしょうか。


ボス)う、うむ…


僕)とすると、12年間でのネコネコ度の合計は、今のネコ無しの干支なら1200ネコネコです。ところが、猫年を入れると、他の年を99ネコネコとしても、12年間で1189ネコネコにしかならないのです。


ボス)ハッ!!


僕)つまり、干支にネコを入れなかったのは、ボスのような人々が、全ての年で最大限にネコを愛せるようにするためだったのです!


ボス)なるほど…だから、干支のエピソードではネコを出して印象付けておいて、あえて干支自体には入れなかったのか。


僕)はい。「特別な1つ」を定めないことで、逆に全てのものを特別に捉えられるようにする、素晴らしい奥ゆかしさ…大和撫子の心なのです。


ボス)そうか…特別な1つを定めないことで……そうだったのか……!!


………………………………………………………


それから、突然ボスは泣き始めた。そして数年前に自身に降りかかった悲劇について語り始めた。

結婚して数年の奥さんから離婚を告げられたこと、子供の親権を取られたこと、更には奥さんの引っ越し先の住所を明かしてもらえなかったこと……

そして、残された唯一の家族であった飼い猫への愛が、このような過激派組織を作るきっかけになってしまったと語った。


………………………………………………………


「私は、妻はただ私と関わりを切るために住所を教えなかったのだと思っていた。だがそれは違った。彼女はあえて自分の家を教えないことで、他の全ての家を、自分の家だと捉えられるようにしてくれたのだ。特別な1つを定めないことで、他の全てが特別になる。君が教えてくれたことだ。そう考えられさえすれば、私は毎日の仕事も頑張れると…彼女はそう考えていてくれたのだ。ありがとう。もう私にこの組織は必要ない。毎日の会社勤めに専念するよ…」


………………………………………………………


ボスはそう言い残し、会議室を出ていった。

明らかな思い違いだが、彼がそう思うことで幸せならそれでいいと思う。


WCAはそのまま解散となり、日本滅亡は免れた。

かくして迎えた2018年も、それ以降も、日本中の愛猫家達はネコを愛し、SNSにアップしていくのだ。


おわり

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