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鬼少女との日常  作者: ゆーむ
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始まる日常

始まる日常



桜の花びらが、可憐な少女の頬に落ちる。桜色に染まった可愛らしい頬に桜の花びら、実に絵になる。あれから、十分程経っただろうか?俺はリュックから取り出した、長袖の体育着を着せてあげた。まだ、春先。寒いかなと思って持ってきていたのだが、その心配は杞憂に終わってしまった。だから、ちょうどよかった。まあ、着せる時はかなり苦労したが。そんな苦労を彼女は、


「むにゅむにゅ………くかっ!」


とまあ、なんとも幸せそうな寝息をたてて、俺の理性との戦いを露程も知らないだろう。まあ、いいのだけれど。

にしても、これからどうするかなぁ。このまま背負っていくのはちょっと無理がある。いや、無理すればいけなくもないのだが、まあ、少し面倒くさいというのが本音だ。

……仕方ない、あの人に頼むか。

俺はスマホを取り出し、一つの連絡先にタッチする。

無機質な音が耳元で響く。しばし待つ。


『もしもしぃー、どうしたの?あんたから電話かけてくるなんて』

「いやまあ、確かにめったにないけどさぁ。それより、ちょっと迎えに来てくんない?」

『は?なんで?自転車じゃないの?』

「そうなんだけど……」


俺は少女を見る。……やべぇよどうやって説明すんだよこの状況を!何て言う?何か言い訳を考えねば!


『どうしたの?』

「え?あ、ああ何でない。とりあえず迎えに来てくれ」

『ん、わかった。じゃ待ってなさい』


そう言って会話は途絶えた。

さて、どう説明したものか……。まあ、その場しのぎでどうにかするしかないか。

それにしても、この角。これは一体なんだ?俺は彼女の額の角に少し触れる。感触はどうも骨に近いみたいだ。とても頑丈。よく観察すれば、先端は尖っていなかった。少し丸みを帯びていると言った方がいいか。まあ、そんな感じだ。何かのアクセサリーと思っていたのだか、というかそうとしか思っていなかったのだが、これはどうもアクセサリーではなかった。これは、()()()()()()()()()()()()()

何か、もうすでにファンタジー感が半端なく伝わってくるのだが……。地図に映らない場所、そして、見てビックリの全裸に角生やした少女。あり得ないと思う。俺は目を瞑る。考えすぎると余計な混乱が生じる。ここは、心を無にして、瞑想だ。精神集中!

……柔らかかったなぁ。

…………………………ぼ、煩悩たいさぁーん!

ものの数秒で、そこの少女の着替えの時を思い出してしまった。結構、大変だったのだ。見ないよう見ないようにと、目を瞑りながら。変なところに触れないようにと頑張ったのだ。

……でもね。やっぱり触れてしまうのですよ。いくら頑張っても無理なものは無理なんです……。


「はあぁ」


どっと疲れが押し寄せてきた。コーラを飲む。少しはリラックスできただろうか。多分なっただろう。

俺はビーフジャーキーを見る。この子はこのビーフジャーキーに飛び付いてきた。よっぽど腹を空いたのだろう。

……念のため、もう食べないで残しておこう。

桜がまた、散っていく。桜吹雪が華麗に、俺の視界に入り込む。

……暖かい陽気、肌に触れる桜の花びらは少しこそばゆい。

隣には、心地よさそうな寝息をたてている。

まあなんというか、それなりに絵になる構図なのではないか?いや、ないか。

そんな事を考えていた時だった。俺のスマホが音を鳴らす。電話だ。


「もしもしー」

『着いたわよー』

「へーい、今行くから待っててくれ』


さて、ではそろそろ動きますか!俺は少女の姿勢を少し起こし、おんぶする。とても軽い。そして、とても柔らかい。

……あ、やべぇ。背中の感触はヤバイかもしれない。平常心、平常心。落ち着け俺。いちいちこんな事で反応するのは中学生までだろ!

俺は歩を進める。もと来た道を辿る。もう何年も体験した行き帰りの道のり。最近は来ていなかったが、もう体と脳がしっかり覚えている道だ。

耳元で聞こえる寝息。起こさないようにそっと、ゆっくり運ぼう。

歩くことしばし。参道に出て、俺は自転車置き場までの道のりを歩く。駐輪場と駐車場は同じ場所にある。出口がもう目前に来た。もう五メートルも無い。

そして、俺たちは参道を抜け、駐輪場に辿り着く。俺はずり落ちそうになった少女をもう一度しっかり抱え直した。


「おーい」


俺は呼び掛けた。一人の女性に。すぐに見つけられた。まあ、長い間一緒にいたからな。その女性は車に寄っ掛かりながらたそがれている。長い黒髪に白い白衣。何で白衣なんだ?と思ったなら、それは簡単に答えられる。俺の母は研究者だ。何の研究をしているのかは知らないのだけれど。とりあえず何かの研究者だ。名を如月(きさらぎ)裕美子(ゆみこ)と言う。


「お、来たね……………うん?」


まあ、そういう反応はされると思った。


「何?その背負ってる子。女の子だし。………え?まさかっ!この馬鹿息子!何て事なの!私はそんな子に育てた覚えはないわよ!」

「まてまて誤解だ。大いなる誤解だ!倒れてたんだよ参道で」


出会った経緯はショートカットする。親には、「そこで倒れていたから背負ってきた」という事にする。間違いではないのだから嘘にはならない。


「え!そうなの。じゃあ病院まで運ぶ?」

「ああ、そうしようと思って呼んだんだ」


実際、これ以上はこの子の力にはなれないだろう。とりあえず病院。そのあと警察に預けるのが妥当だろう。


「そう、じゃあ運ぶわよ。乗せ…………ん?」

「どうした?」

「いや、その額のやつ………。まさか……」


おそらくだが、この反応は、少なからず何かを知っているのだろう。まあ、とりあえず訊いてみる。


「これなんなんだ……」

「そんな事より!」


俺がこの角の事を訊ねようとした途端、それを遮るように、というか遮って、俺の母は次の事を言った。


「病院はいいわ、家に直行よ」

「え?なんで?」

「ちょっと事情ができたの。というわけだから、さあ!乗った乗った!」


半ば強引に車に乗せられる。後ろの少女はいまだにぐっすりおねむだ。俺は少女を後部座席に静かに乗せる。


「ああ、自転車も頼む」

「早く持ってきなさい」


俺は自転車を取りに駐輪場へ。

それにしても、何故母さんはあの子を見た瞬間、あんな態度をとったのだろうか?あんな驚愕な表情は初めて見たかもしれない。

俺は自転車に鍵を付け、車に向かう。

車の荷室に自転車を入れる。車は普通自動車で、自動車は入れようと思えば入れられるくらいの大きさはある。できるだけ傷を付けないように工夫しながら入れる。それらの作業が終われば、後は乗車。


「終わったぁ?」

「ああ」


俺は助手席に乗り込む。俺の定位置だ。


「で?さっきのあの反応はなんだ?彼女の事、知ってるのか?」


藪から棒にと言われても仕方ないくらい唐突に、俺は質問した。だって、気になるし。好奇心だ。


「その話は家に帰ってからね」

「なんで?今話せばいいだろ?」


とりわけ、家で話すのとここで話すのに何ら違いはないだろうに。


「まだ、確証が無いの。おわかり?」

「へいへい、わからんが別にいいよ。いつ聞いても変わらんしな」

「ん、物わかりがよろしくて何より」


俺は後ろの少女を見る。見た目は、そこらの美人より可愛らしいと思う。体型も……、まあ、素晴らしいと思う。結局、この少女は、何処にでもいる可愛らしい少女。違うところは頭にある角くらい。つまり、俺の価値観からは、彼女は一般人と何ら変わらない。

ただ、母さんは少し、違うらしい。俺とは違う、何かを見ている。それを今知る術は無いけれど。まあ、家に帰ればわかるのだろう。今はそれでいい。

彼女を見ていて、なんというか俺は少し直感している。俺の何かが変わるのではないかと。唐突だったかもしれないが、俺はそれを思わずにはいられなかった。衝撃的な事柄、事象というのは、終始衝撃的な事が起こるものだと俺は思っている。よく映画とかフィクションの中だと、主人公が巻き込まれるとんでもな事件では、終始衝撃的な展開があるように、俺の日常もそんな衝撃的な何かに、侵されるのではないかと、そういう事が脳裏を過る。まあ、考えすぎなのかもしれないが。もし、その衝撃的な事が起こるのだとしたら、どうか穏便に済みますように……。何か、こういう事ばかり考えると良くない方に思考が行きそうなので他の事を考えよう。


ああ、そういえば。……今日の晩飯、何にしようかな?冷蔵庫に何か有ったかなぁ。

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