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三女神の破壊活動 ―板金鎧に転生した男―  作者: 莞爾
Ⅰ章 異世界召喚編
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継承者、神殿に集う❖2


 ――なぁ、アーミラ。『いさな』って何だ?


「…勇名は、勇ましい名前と書きます。その道を極め、武具を名乗る者の名前です。

 アマトラは『鎧』。……アキラは自分を鎧と名乗っているから、勇名」


 ――なるほど、…でも、それって、めっちゃ強い人だと誤解されない?


「…され、てますね。うん…されてます。勇名は、例えば槍使いなら『我こそが槍! この身体こそ槍!』って宣言してるのと同じわけですから」


 ――おいおい、俺そんな境地に達してねーよ! 名乗って大丈夫なのか?


「…大丈夫です。ある意味ではアキラは()()()()()なので」


 ――んな言葉遊び……。


 アーミラは俺の不安なんて他人事で、足を止めることなく部屋に着くと中へ消えた。

 しょうがないので俺も自分の部屋に入る。


 最初の街よりも文明のレベルが高い。

 絹の光沢があるカーテン。窓に嵌められているものはガラスだ。ベッドも厚みがあり、上に掛けられたシーツにはシワひとつ無い。


 壁に掛けられた壁画はロビーと同じテーマで統一されているのか、同じ筆致の天使の姿と、恐らくは三女神であろう女性三人が描かれている。しかし、悲しいかな、肉体を持たない俺にはこの部屋は必要無い。ベッドで眠らないし、風呂にも入らない。


 ――いいなぁ、人間の身体で来たかったなぁ。


 俺は部屋の物に何一つ触れることなく踵を返し、アーミラの部屋に向かった。

 コンコンコン。扉を叩く。


「ひゃい!?」アーミラは俺とは知らず、部屋の向こうで人嫌いを発動している。


 ――俺だ。


「なんだ、アキラですか。どうしました?」アーミラは扉を開ける。


 ――俺には部屋は必要ないだろ、暇だからこっちに来た。


「えぇ、これからお風呂入るんですけど」


 ――うぅむ。


 門前払いか。しかし仕方ない。


「いつもみたいに散歩でもしてみては?」


 ――そうだな。そうする。





 宿を出て、石畳の敷かれた舗道を当てもなくブラブラと歩き回る。


 見る限りでは人は疎らにいるが、俺みたいな旅人の姿はない。皆この神殿に住む人だろう。服装は白い清潔な着物で統一されているのですぐにわかる。門番もカムロも同じ服を着ていた。


 と、その時。


 石畳の敷かれていない玉砂利の上を音を立てて歩く騎士がこちらに近付いてくる。


「こんなところでお仲間発見。お兄さん、何してるんだ?」


 舗装された石畳の道を無視して、堂々と一直線にこちらに向かう立ち振る舞いの豪快さ、そして、一目でその騎士が女だとわかる。


 燃えるような赤い長髪を左右に分けて、細くしなやかな身体は凛々としている。


 何より胸が大きい。……つい、視線が吸い込まれてしまう。言い訳をさせてもらうと、彼女は背が高い。一八〇センチはあるだろうか。そのせいで、俺の視線の先に丁度胸がある。


 俺は平静を装い、顔を上げる。

 板金鎧で良かった。表情という概念がないのは助かる。


 ――俺は……そうだな、三女神の刻印を持つ者の護衛をしているんだ。そちらは?


「おぉ! 本当にお仲間。私も三女神の一人だよ。

 護衛じゃなくて、本人だけど」


 なんと、このいろいろと大きい女もまた三女神の一人だという。アーミラとは別の人種、俺は突然の事に驚く。


 ――三女神本人!? そういえば先に来ていると聞いていた……えぇと。


「ガントールだ。リブラ・リナルディ・ガントール。三女神の長女。天秤の継承者。よろしく!」


 そうだ、思い出した。

 カムロに案内された時に『リブラ様が先に来ている』と言っていた。


 てっきり三女神は皆魔女みたいなものだと思っていたが、騎士だとは。

 ともあれ、俺も自己紹介を返す。


 ――俺はアキラ・アマトラ。天球儀の継承者、アーミラ・ラルトカンテ・アウロラの護衛だ。よろしく。


「へぇー。勇名の者か! 三女神を前に堂々とした態度。…うんうん。相当な実力者と見た!

 さすが、護衛を任されるわけだな!」


 ――う、あぁ。……そうだな。


 もしかして、三女神に対してはもっと低い態度を取るべきだったか!?


 不躾な俺の態度を、堂々としたものと受け取るガントール。すっかり実力者だと誤解されてしまった。


 ……勇名の者。…早速嫌な予感がする。


「なぁなぁ、この神殿って暇だろ? 体が鈍って仕方ない。アキラもそうだろ??」


 ――うーん…どう、でしょうねぇ……? さっき着いたばかりですので、リブラ様は……


「どうした急に? 私のことはガントールでいいよ。

 …いや、実はさ、あるんだよ。…闘・技・場」


 ――……まさか。


「そのまさかだ。血が騒ぐだろ!」なっはっはっは!


 ガントールは笑う。

 昂ぶる気持ちを抑えられないようで、がっしりと俺の腕を掴んで、連れ去っていく。


 行き先は闘技場。


 どうするんだこれ……。





 神殿の広い敷地をガントールに連れ回され、たどり着いてしまった闘技場。

 頑丈な鉱石のブロックで構成された円形の台の上に二人が立っている。俺とガントールだ。


 成り行きに任せてここまで来てしまった。……いや、逃げることができる状況ではなかった。


「……さて、得物は流石にダメだよねぇ。組手にしよっか?」ガントールは腰に提げている片手剣を引き抜いて弄ぶ。剣の先が平たく、斬首剣であることがわかる。

 俺はなんとかこの場をやり過ごす方法を考えるが、猶予も無い。とにかく説得を試みる。


 ――な、なぁ、やめないか? 俺は三女神の護衛のためにいるんだ。


「お、強気だねえ。『三女神を怪我させるために来たんじゃない』ってか」


 ――いや、違……


「いざ! 勝負!!」


 ガントールは得物の片手剣を闘技場の外へ突き刺した。

 わずかに視線を誘導されたその刹那、ガントールは俺との距離を詰める。


 ――っ!?


 瞼を持たない俺の視界は辛うじてその姿を捉え、反射的に両腕で腹部を庇い、防御する。

 鈍く重い衝撃が腕に掛かり、受け流すために後転する。

 すぐにガントールを視界に捉える。


 最悪だ。


 結局始まってしまった。


「不意打ちを見切るとは、流石だね! アキラ・アマトラ」


 ――違うんだって!


 瞼がないからこその反応だ。防御が上手いのもこれまでの旅で対峙してきた魔物との経験。

 決して強くなんてない。


 ガントールの先程の一撃で力量差は充分に理解した。身のこなし、一撃の重さ、そして知性。全て魔獣の比ではない。俺は絶対に勝てない。


 それをガントールに伝えても、まともに取り合ってはくれないだろう。

 こうなってしまっては仕方が無い。ひたすら防御してやり過ごし、満足してもらおう。


「やっぱり重さが足りないな……『レイズ』!」


 闘技場の端と端、俺と向かい合っていたガントールが何かを叫んだ。恐らく魔法詠唱を行ったのだろうが、周りに変化はない。

 何をした……?


「そぉら!」


 ガントールが再び間合いを詰める。

 最初の不意打ちよりもさらに速さが増して、捉えるのが難しい。力強い瞬発力。まるで弾丸のように俺に向かって跳び蹴りを浴びせる。


 視界にとらえたところで、対応する余裕は無い。

 とにかく全身を丸めて腕で防御。手のひらでガントールの足を受けた……が、弾かれるように体は吹き飛ばされる!


 ――なんッ?!


 そしてガントールは追撃で俺の懐に潜り込み、拳を固めて振り上げる。俺は成す術なく空に飛ばされた!

 体がこんなに易々と宙に浮くはずが無い。魔獣の突進でさえビクともしない板金鎧の体だぞ!?


「『フォールド』!」


 闘技場から俺を見上げるガントールが再び叫んだ。

 凛々とした詠唱。

 そしてガントールは全身を折り畳み、バネのように跳躍する。

 俺よりも高く空に跳んで、体を巧みに動かして宙返り。とどめに踵を俺の背中に叩き込む!


 ズゥゥゥン……


 地面に叩き落とされて、闘技場は地鳴りを響かせて縦に揺れた。

 着地すること叶わず、地面に倒れている。体が重い。


 舞い上がる土煙の中で闘技場を歩く足音。ガントールは倒れる俺を見つめて、勝利を収めた。


「『レイズ』。…流石に三女神の力には勝てないか」ガントールはつまらなそうに呟いた。


 詠唱をトリガーにして、重くのしかかる俺の体が急に楽になる。

 そうか……。


 ――それが、天秤の力か。


「!?」


 俺は立ち上がる。

 もとより体力に限界は無い。痛覚もない。


 ――重さを操作するんだな。


「……すごいな…! アンタ。…あれを喰らってすぐに立ち上がれるなんて」ガントールは感激している。


 あの衝撃を食らったら、内臓や骨に尋常ではないダメージが与えられるだろう。勇名の者だという前提の攻撃。恐らく呼吸もしばらくは困難なほどの衝撃。


 ガントールは目を輝かせて拳を固める。第二戦を行うつもりらしいが、俺は手を振って止める。


 ――勘弁勘弁、もう手打ちにしてくれ。俺が三女神を攻撃することはできない。


「えー! 全然やり返してくれていいよ!?」


 ――駄目だって。周りを見てくれ、さっきの衝撃でギャラリーが集まってるだろ?


 神殿にいた人たちが、衝撃音と揺れに驚いてぞろぞろと闘技場に集まっている。それだけの衆目の中で、ただの騎士が三女神に暴力なんて、きっと問題になる。


「……なるほど。確かにこれじゃ反撃できないね。

 うんうん…フェアじゃない。残念だけどお開きだな」ガントールは納得してくれた。俺を一方的に痛ぶるような残忍さは無いようで安心する。


 ガントールと戦うつもりが無い俺にはこの野次馬は渡りに船。組手を終わらせる理由にはもってこいだ。

 ガントールは闘技場の外に置いていた得物――斬首剣――を腰に戻し、それから俺に向かって握手を求めた。


「息切れ一つしていないな。アキラ・アマトラ。…やはり相当な実力者」


 ――いや、本当にそんな実力は無……


「また相手をしてくれることを楽しみにしているぞ!」ガントールは俺の言葉を最後まで聞いてくれない。握手もそこそこに、闘技場に集まってきた人たちに駆け寄って、事情を説明している。


 ――………。


 まぁ、難は凌げたかな。

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