表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三女神の破壊活動 ―板金鎧に転生した男―  作者: 莞爾
Ⅳ章 三女神建国編
41/131

束の間の暇❖2


 その後も世間話は続く。


 ――セルレイの方こそ、何か連絡はあるか?


 音沙汰がないと言えばギルスティケー国王のセルレイだ。相変わらず女をはべらせているのだろうか。


「セルレイか」ガントールは何かを思い出したように一人笑う。「妹を迎え入れてからはすっかり一途だって言うんだ。おかしいだろ」ガントールはけたけたと子供のように笑う。


 ――一途!? スークレイにか?


 スークレイは三年前、前線での奇襲を受けた際、胸に槍を貫かれるという致命傷を受け、眠り続けた。

 オロルによって時間を止められ、災禍の龍討伐後、改めて神殿で治癒術式が行われた。


 本来一個人の命に神殿が動くことはないのだが、前線での功績や血縁、三女神の申し出によって、例外的にその命が救われたのだ。


 今はセルレイの許婚いいなずけとしてギルスティケーとラーンマク間で忙しそうにしているとは聞いていたが。


「な? おかしいだろ」なっはっは。ガントールはついに腹を抱えて笑う。「あの毒舌がたまらないんだってさ」


 ――あらまぁ……


 俺はそれ以外の言葉がでない。アーミラも口元を押さえて笑みをこらえる。

 あの獅子のような大男……否、大女が被虐性愛者マゾヒストだとは誰も思うまい。口を開けば毒を吐くスークレイにすっかりご執心とは、驚きだ。


「…で、でも……ふふっ。…お似合いですね」と、アーミラ。今にも吹き出してしまいそうだ。


 ――確かにお似合いだよな。見た目はめっちゃ強そうだし。


「んうぅ……! ひ、ひひひ……」アーミラは俺の言葉に悶絶して笑いを堪えようと蹲る。「笑ったら…ひっ…し、失礼……ですよね……ひっひひひ……」


「いやいや、私も笑ったよ。女好きでどうしようもない国王だとは思っていたけど、ある意味全て丸く収まったもんだ!」


 ガントールは呵呵かかと笑い飛ばした。





 一夜明けて、朝。

 アーミラはベッドに腰掛けて水晶球を見つめる。その表情は昨夜とは一転して不安そうだ。


「…結局、オロルからは音沙汰ありませんでしたね」


 ――そうだな。


 夜中に連絡が来るかもしれないと、夜通し気にかけてはいたが、ついぞ水晶球が語り出す事は無かった。


 誰よりも聡い三女神の頭脳が、まさか予期せぬ事態に巻き込まれたとは思えないが、事実としてオロルは沈黙を続けている。


 ――約束通り、行ってくるよ。


「それなら、()()を使ってください」アーミラはベッドから立ち上がり、寝癖を手櫛で整えながら言う。


 ――あぁ。あれだな。


 アーミラの差すものを理解して、俺は頷く。

 三(イバン)の月日をただ建国だけに費やしたわけではない。使用するのは久しぶりだが、問題はない。


 瞼を擦り欠伸をかみ殺すアーミラを置いて寝室から出ると、俺は邸の中庭へ向かう。

 そこには一人静かに精神を研ぎ澄ませているイクスがいた。

 俺の気配に気付いて振り返る。


「お……アキラか……。おはよう」


 その顔には仮面が付けられておらず、額から顎先に走る深い傷跡が露出していた。


 ――……おはよう。傷を見るのは初めてだ。


「おっと! いけねぇな。見せるつもりは無かった」イクスは慌てて足元の仮面を拾い上げて顔にかけた。「アキラが魔導具で助かるよ……この顔を見たやつは皆、怖れるか、哀れむような顔をする」


 ――気まずくなるのが苦手なんだな。


「それもあるが、この傷は名誉の傷だ」イクスはきっぱりと言う。「この傷と引き替えに部下の命を勝ち取った……浮かない顔で見られるのは、癪にさわるもんだぜ」


 イクスはそう言って顔を背ける。なんとも言えない哀愁のある戦士の背中。いや、哀愁を感じては失礼なのか……しかし、どうなのだろう。


 俺は下手に言葉を返すのははばかられるような気がして、ただ黙っているしか無かった。


「アキラはこんなところに何の用だ?」と、イクスは話題を変える。そうだ。イクスに会う事が目的ではないのだ。


 ――この庭の龍に用があってな。


 そう答えて俺は中庭の中央に眠る板金の龍を指差した。


「アレに……? ただの展示品じゃないのか?」


 ――あぁ。いつもはただの展示品だけどな。


 俺は心の中で得意顔をし、龍の前に立つ。

 そして、三(イバン)の日々の中で会得した力を披露する。


 ――勇名いさなの極致……とは違うか。


 俺の体は熱を帯び、溶解する緋緋色金は意志を持って形を変える。


「お、おい……!? アキラ……?」イクスは俺の板金が溶け出す姿にたまらず声を漏らす。


 ――平気だ。


 俺はそれだけ返して、アレスに集中する。意識を保たなければ板金は俺に従わない。


 眠りを知らぬ体。そこに宿る魂に集中し、俺は揺らぎのない精神の覚醒に至る。


 そして詠唱。


 ――布留部ふるべ 由良由良止ゆらゆらと 布留部ふるべ……



 少しずつ緋緋色金はとろけ、隆起して、有機的な枝となる。……それは細く伸びて龍の額に繋がった。


 俺の獲得した唯一の魔呪術マギカ。それはアーミラと過ごす日々の内に手に入れた術の一つだ。


 『布留部 由良由良止 布留部』


 俺の核は溶け出した枝を経由して板金龍へ移動する。

 抜け殻となった板金鎧フルプレート・メイルが中庭の芝の上に倒れた。イクスはその側に歩み寄る。


「アキラ? 何をしたんだ?」


 俺は板金鎧に話しかけているイクスの背中に声をかけた。


 ――そっちじゃないよ。今はこの龍になってる。


「は……はははっ」イクスは開いた口が塞がらないといったように、呆然と俺を見上げ、笑う。「すげぇや、アキラは魔法が使えるのか?」


 ――今の所はこれ一つだけだよ。


 長くこの世界に生きている内に、もう元の世界のことは忘れ、記憶は以前よりも深く暗い所に潜り込んでしまった。

 家族も友人も、誰の名前も思い出せないし、思い出したいという焦燥の念も消えた。


 それでも……元の世界の記憶はなくとも、有様はまだ覚えている。建造物や、生活に根差した知識。例えば俺の詠唱だって、元の世界の言葉を使っている。


「一体何をしたんだ?」イクスは尋ねる。


 ――俺の核を、鎧から龍に移したんだ。


 『――そもそも、魔法や呪術を使えないアキラが、何故この体を自由に動かせるのでしょうね……?』


 最初はアーミラの疑問から始まった。

 そして、結論としてはこうだ。


 俺はこの世界の言葉スペルアレスを受け付けないが、己の体――緋緋色金の板金鎧――に限り、自身の意のままに扱える。……らしい。


 少なくともこれが、現段階での結論である。


 もとより魔力を持たない緋緋色金は俺の魂と親和性が高く、それ故に使用できる唯一の魔呪術だろう。


「聞きなれない言葉スペルだったが、アーミラが紡いだのか?」


 ――……まぁ、そうだな。


 俺は嘘をつく。

 本当はアーミラも知らない特異な言葉。元の世界の知識に他ならない。


 元の世界の知識で、覚えている呪文は三つある。

 アブラカダブラ。

 開けゴマ。

 そして布瑠ふること……先程使用した『布留部 由良由良止 布留部』がそれだ。


 この三つならば、純粋に格好がいい言葉を選ぶだろう。詠唱は言葉の意味よりも、詠唱時の精神状態が強く反映されるのだから当然だ。

 己を鼓舞し、強くイメージを反映させる言葉を選んだに過ぎない。


 ともあれ、俺は翼を広げ、全身を確かめるように動かした。スァロ爺が修理しただけあって、関節は心地良く滑らかに動いた。


 ――よし、俺は邸をしばらく留守にするよ。アーミラの事頼んだぞ。


「それは、わかったが……この体はどうするんだ?」


 ――中庭に座らせて置いてくれ。


 俺はそう言って跳躍し、邸を飛び越えて前庭に移動すると邸の露台ベランダからアーミラが見送りに出ていることに気付いた。遅れてイクスが玄関から現れ、ナルも前庭に出てきた。龍を前に珍しく驚いている。


「アキラさん。すぐ帰ってこれますか?」と、アーミラ。


 ――うぅむ。オロル次第だよな……


「出来るだけ早くお願いしたいんですけど」


 ――承知。オロルにあったら水晶球に連絡を入れるように伝えるよ。


「はい」


 ――んじゃ、行ってくる。


 俺は翼をはためかせて大気を叩き、板金龍の体で東の空を駆ける。





 下に広がる巨大な窪地、そこは三年前にアーミラが穿った地で、現在では雨水が溜まり湖となった。


 人は『二つ目の涙のさかずき』と呼んでいる。


 前線には魔獣の姿は見当たらず、やはりオロルがやられたという線は薄いと見た。

 ならば何故連絡をしないのか……


 板金龍の体を用いて大陸を駆けること一時間。すでに視界の果てには五代目三女国家チクタクが見えた。


 ――この体じゃ警戒されるか?


 俺は地上を見下ろす。

 前線に貼られた巨大な防壁。その上には蟻の行列のように戦闘魔導具が設置され、その砲門は既に俺を見つめていた。


 オロルの国にはすでに防衛機構が確立しており、そしてそれは正しく機能しているようだ。

 しかし俺の目には、あまりにも過剰な防衛機構に見える。


 ――オロルー! 俺だーー!


 と、高度を下げて国王の名を呼ぶ。

 返事は光弾で帰ってきた。龍が飛んでいるのだ。魔獣と誤解されても責められない。


 俺は飛び交う光弾を回避しながら防壁内へ侵入し王宮を探す。


 ――攻撃をやめてくれー! 俺はアーミラの戦闘魔導具だー!


 俺の言葉に戦士は戸惑う。しかし戦闘魔導具は自動的に光弾を放ち続ける。


 『攻撃を中心せよ!』


 国内に響く司令。その一言で戦闘魔導具は沈黙した。

 その声は間違いない。オロルのものだ。水晶球と同じような通信を行っているのか、声は全土に響いている。


 『……阿呆が……正門で待て。迎えに行く』


 姿は見えないが声だけは届く。俺はオロルの指示に従い、一度防壁の外へ戻り、正門に移動した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ