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三女神の破壊活動 ―板金鎧に転生した男―  作者: 莞爾
Ⅰ章 異世界召喚編
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出征の日❖4


 アーミラは顔面蒼白ながら、カムロから紙を受け取り、震える指で紙面を見つめる。

 演技を続けているが、俺を操り名前を読み上げる事は出来ない……詰みだ。


 途方に暮れるその時……


 カチッ……


 と、何かが噛み合う音がして、俺はその音の原因を探すために辺りを見回す。


 一見して、すぐには違和感の正体に気付けなかった。しかし、見つめる内に理解する。一秒、二秒と見つめる内に違和感は浮き彫りになる。


 景色が止まった。

 誰一人動かない。


「…驚いたか? アキラよ」


 ――オロル……!


 下に視線を落とすと金色の瞳と目が合う。

 止まった景色のなかで、いつの間にかオロルが俺の側にいた。


「三女神の三女、柱時計……その能力の一つじゃ。まぁ、わしが触れているもの以外は動かせん難儀な力じゃな」


 ――驚いた……そうだ! その力で協力して欲しいんだけど。


「もちろん。そのために時を止めた。既に一人目の名前は把握した。時が動き出した時、『オクタ』と言うのじゃ。良いか? オクタじゃ」


 ――わかった。


「では、わしはアーミラにも話してくる。またな」


 カチッ……


 そして、時間は動き出した。

 まるで白昼夢。俺は、何事もなく動き出す景色の中でオロルを見る。時を止める前と変わらない。

 次にアーミラを見る。……確かに目が合った!

 俺は、一人目の名前を言う。


 ――……一人目は、オクタ。


 俺の言葉に神族たちは騒めく。カムロは信じられないという表情でアーミラを見る。


 『二人目はザルマカシムじゃ』


 ――ザルマカシム。


 『最後はヤーハバルじゃ』


 ――ヤーハバル。


 まるで天啓。

 授けられた神の声をそのまま呟くような感覚。

 オロルによって答えは簡単に手に入る。


 ――いかがでしょうか? カムロさん。


 俺はカムロに向かって、まるでアーミラに操られたという口調で、締めくくる。

 カムロもこれ以上は疑う余地もなく、険しい顔をして俺を見つめたが、すぐに笑顔を作った。


「ありがとうございました。三女神の次女アーミラ様。

 皆様も今一度拍手をお願い致します!」


 カムロがにこやかに拍手をする。神族の者たちもすっかりアーミラの高い魔術操作を信じ切って感嘆の声と拍手を惜しまない。


 式典の最後、これから旅発つ三女神に向かって、祈祷と加護の詠唱が行われると、出征の時が迫る。


 高く聳える神殿の周りを囲む防壁、そして巨大な門。その重厚な門扉がゆっくりと開かれると、三女神の継承者、長女ガントールを先頭に歩き出した。


 拍手で送られる俺たちは、石畳の道を悠然とした態度で歩き、門をくぐる。


 遠くなる拍手を背中に浴びながら、門が閉まるまでは誇り高い三女神の継承者として歩き続ける。


 山を切り開いた石畳の道を下ること数分。門が閉じた音が神殿内外に響き渡る。

 そこでやっと、緊張の糸が切れた。


「…はぁぁぁ……。緊張したな」ガントールは少しだけ首を回して、そう呟く。


「…死ぬかと、……思いましたぁ」アーミラは未だに顔面蒼白。声も震えている。


「…死ぬかもしれないのは、この先の旅からが本番しゃわい」オロルは手厳しい。しかし、その通りだ。


 ――いろいろ大変だったけど、旅は今始まったんだよな。


 俺の言葉にみんなは頷く。


「…でもさ、アキラは門の外で待ち合わせればよかったんじゃない?」


 ガントールはふと思いついたらしく、そんなことを言う。


「そうすればこんな面倒は起こらんかったかもしれんな」と、オロル。


「……あー」アーミラはそんな声を漏らして、俺を見る。「…そうすれば、面倒にはならなかったかもですけど、私は楽しかったですよ?」


 ――……アーミラァ……!


 俺は沸々と湧き起こる怒りに身を任せてアーミラを睨む。天球儀の杖の中でもいい。回避する方法はいくらでもあったのだ。


「ひっ!? ごめんなさい!!」


 アーミラはその視線に背中を強張らせて咄嗟に謝る。

 そんな俺たちを見て呵々(かか)と笑うのはガントールとオロル。


 いよいよ旅が始まる。




❖Ⅰ章 異世界召喚編 ―終―

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