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こちら陰陽屋でございます  作者: だっつ
9/15

九妖目【彼女は何を思い、彼はなんのために動くのか】

どうも恋です。

前回はハンターさん。そして、噂となっていた死神という妖怪と会うため行動をしてました。

でも、葵さんたちを止めたのは他でもない、酒呑童子さんでした。彼はどこか悲しそうな顔をしていて……そして、葵さんもどこかに行ってしまいました……


ーーーーー

「なんの冗談ですか……!!」

ーーーーー

「なんの、冗談だろうな……」


どこかの山の上で赤い髪を伸ばし、ツノが生えた男性。酒呑童子が酒をあおるように飲んでいた。月はそんな彼を見下ろしていた。


酒を一口飲むたびに、彼の心を無理やり癒してくれていく。しかし、それは一瞬であり、彼は間髪入れずに酒を飲んだ。


「どうです?月見酒は美味しいですか?」

「……はんっ。俺の心を読めばお前さんならわかるだろうが。なぁ、覚さんや」


覚と呼ばれた片目を包帯で隠し、和服を着た少年が酒呑童子の横に座り込んだ。彼は、しばらくくすくすと笑い、自分が持ってきたであろう酒をチビチビと飲み始めた。


「こんな風貌ですから……お酒を買うのは一苦労ですよ」

「しるか。で?俺の心読んで、それでもなお『こっち』で戦わせるのか?」

「いやぁ、申し訳ない。私、この包帯を取らないと人の心を読めないんです。だから貴方の心は『読めません』」


覚がそう言ってにこりと笑う。しかし、酒呑童子はそうかと短く言ってまたグイッと酒を煽った。覚はそれすらもニコニコとした顔で見るだけであった。


空に昇っている月が、彼らを照らしていた。酒呑童子が、その月を見上げると、雲に隠れてしまい、あたりを深い夜へと染めていった。



◇◇◇◇◇



「……ここ、どこでしょう……」


どこかにある、小さな公園で一人ボーッと座り込んでいる少女。彼女は葵と言った。時間的には今、学校に登校してる子供が多いらしく、オレンジ髪の少女や、青い髪のアホ毛の少女などが学校に行く様子が見れた。


あんな髪で校則は大丈夫なのかとか考えていた時、ふと、あの時をと思い出した。座敷童子から頬を打たれたあの時の感触と、感情。


(童さん……泣いてました……)


理由はわかっている。最後に自分で言ってしまった言葉である、人形という一言であろう。そんなこと言われて嬉しい者などいないとわかっていても、なぜかあの言葉が出てしまった。言ってはいけないと、頭ではわかっていたのに。そのことが葵を暗くさせていく。


どんどん深くベンチの上でうなだれていくと、地面が光ってる子が目に入ってくる。葵は不思議に思いながら、その光ってるところまで行き、そこを見る。


そこには鈴が落ちていた。薄汚れていて、葵はウエストポーチからハンカチを取り出してそれを丹念に拭き上げた。


「……少し子供っぽい行動かもしれませんね……帰ろう……」


葵はそう言ってその鈴をポケットに押し込んで歩き出す。


と、歩き出したものの、彼女は無我夢中といった感じでここに来たため、ここがどこかわからず、どうやって帰っていいかもわからないスマホで道を調べようとしても、いつのまにか電源が落ちていて調べようもない。


そして結局は先ほどいた小さな公園にたどり着いて、またベンチに座りこんで大きく息を吐く。少し動くと鈴の音が聞こえて少し気が楽になるが、現状は何も変わらなかった


「…………んっ。この匂い……」


葵の鼻の中に流れるように入ってくる香りに誘われて葵はすくっと立ち上がる。すんすんとその香りを追い、歩く。


そこから漂うのは焼きたてのパンの匂い。のれんには『三月パン』と書かれており、葵はこっそり店内を覗き込む。


「なんだ、可愛い泥棒さんだな」

「コッッ!?」


突然後ろから声をかけられて葵はびくりとしながら慌てて後ろを振り返る。そこには黒い髪を短く切りそろえ、三月パンと書かれたエプロンを着た女性が立っていた。


「あっ、えっと……ちがっ……」

「ん、あぁ。驚かしちまったか。悪い悪い……えっと、じゃぁお客さんか?」

「お客さん……」

「そそ。お客さん。ちゃんとお金を払ってくれれば、この移動型店舗『三月パン』はそこそこ味に自信があるパンをご提供させていただきますよ」


と言いながら、女店主はどうする?と言いたげにこちらを見てくる。が、葵は今1円も持ってきておらず、バツが悪そうな顔をして頬をかく。


「すいません。いま、持ち合わせがな……」


葵のセリフを遮るように、葵のお腹から大きな音が聞こえてきた。女店主はその音を聞いた後、腹を抱えて笑いだして、葵は下を向いて耳まで赤くしてしまう。


「お腹空いてんだなお前!しゃーねぇ……ほれ、できたでじゃないがメロンパンだ。どうぞ」

「えっ、でも私お金……」

「子供がいっちょまえに遠慮すんなっての。ほれほれ、食べてみんしゃい」


女店主にグイッと突き出されたメロンパンを恐る恐るといった感じにパクリとかじった。


一口食べて、葵は目を見開いた。もう一口もう一口。次の瞬間には女店主からメロンパンを奪い取って無我夢中で食べ続けていた。


メロンパンの全てが葵のお腹の中に消えて行くのはまさに一瞬の出来事であり、その事実に気づいた葵が顔をさらに赤く染めて行くのも一瞬であった。


「あの、ごめんなさ……」


葵が誤ったのと同時に、また大きな音が葵のお腹から聞こえてきてしまう。女店主はまた大きな声で笑い出して、葵の肩をパンと叩く。


「はっはっは!なぁ、うまかったかあたしのパン!」

「えっ…………はい……」

「それは良かった!んじゃ、もっと食うか!!」

「で、でも……」

「でも、うまかったんだろ?じゃ、遠慮せずにもっと食べろ!あたしのおごりだ!」

「う……う……ん……」


そう女店主に色々と言われた葵は匂いの誘惑に対して。


「じゃ、すこし……」


一瞬で折れてしまったが、女店主はとても嬉しそうにしていた。



◇◇◇◇◇



「いや、ほんといい食べっぷりだなぁ」


女店主は葵が食べたパンの袋を見ながらそう呟いた。それが聞こえて葵は改めて袋を見ると何十個もあって、さすがに申し訳なくなり思わず謝る。


「ん〜謝らないでいいぞ。こっちがしたくてやったことだしな……謝るんじゃなくて素直な感想を聞かせてくれ」

「えっ……と、とても美味しかったです……」

「ははは。ならいいよ。で、本題に入るけど……ここらじゃ見ない顔だけど、どこの子?」

「わ、私は安倍葵と言います。住んでるところは新月町で、陰陽師として働いてます」

「お、陰陽師……?」

「あ、陰陽師っていうのは……失せ物探しや、占いとか……あ、呪いやよ、妖怪退治も受け付けてますよ」

「ふーん……妖怪退治、ねぇ……」


葵の言葉を女店主は頷きながら聞いていた。が、突然葵の方を真剣な目で見ながら、口を開ける。


「で、その陰陽師さんがなんでここにいるんだ?」

「……そ、それは……」

「言いたくねぇのなら別に言わなくてていいぞ。何してるかわからんけど、青春するならお姉さん応援するからな」


女店主はそう言って立ち上がる。しかし、葵はなぜかそんな女店主に対して、変な話だが心が惹かれていた。まるで、彼女と会うためにここにきたかのようであった。


だから、どこかに立ち去ろうとする女店主の腕をギュッと強く握った。女店主は葵の方を見下ろした後、少し困ったような顔をして葵の横に座る。


葵はしばらく俯いて黙っていて、女店主はそんな葵が口を開けるまで、ただじっと待っていた。


やがて、葵はゆっくりと口を開けて、最初に例えばと言う単語をつけてから話し始めた。


「もし……もし、ですよ。一人の戦う女の子がいて、その子が一度殺されかけた時いつも助けてくれる人が助けてくれなくて……そして、慰めてくれた人さえも、ひどい言葉をかけて傷つけてしまった……とか、ええっと……その……あ、あれ?」


葵はしどろもどろになりながらそう言葉を続けるが、突然身体がガタガタと震え始めた。


思い出してしまったのだ。死神に襲われた時の恐怖や、裏切り、裏切ってしまったことに対する、感情を。


葵は目がだんだんと霞んで行くのがわかった。泣いちゃダメだと、自分に言い聞かせながら、頑張って言葉を続けようとする。しかし、言葉がうまく出ない。


「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……上手く、言葉が出ませんでした……」

「いいさ。それで……よく、言えたな。多分、それはお前の経験談だろ?」

「えっ、でも……」

「はっはっは。まぁ、あたしも昔同じようなことしてたからなぁ。っと。それはいいや。まぁ、その。なんだ。葵」


そう言って女店主は葵の頭をポンポンと優しく撫でる。葵と女店主は暫くそのままにしていて、葵は小さく呟いた。


「私、どうすれば良いのでしょうか……」

「どうすればかぁ……大事なのはお前が『どうしたいか』じゃねぇのか?」

「どうしたいのか……ですか……」

「そう。お前はどうしたい?何をして、何を思い、なんのために働く?」

「私は……皆と……仲直り……したいです……でも」

「でも?」

「怖い……です」


そう言って葵は言葉を一度切る。女店主もまた、葵の言葉の続きを待ちながら、空を見上げていた。


「……怖いんです。また、死にかけるんじゃないか。また、裏切られんじゃないか……そう思うと、身体が動かなくて、なにもできないんでーーー」


葵の言葉はそこで途切れた。理由は簡単で、女店主が葵を抱き寄せて、何度も背中を優しく叩いたからだ。


「葵、もしかしてこれ以上逃げるのはダメだとか思ってんじゃないか?」

「……もう、逃げちゃダメです。立ち向かう勇気が、欲しい……」

「なぁ、葵。立ち向かうのってそんなにいいことか?逃げるのって、そんなに悪いことか?」

「……どう言うことです……?」

「逃げるのってよ、それにもまた勇気がいるものだぜ。それにあたしが気づいた時には、もう色々と遅かったが……いいか。立ち向かうのはいいことで、とても素晴らしいことだぜ。でもな、逃げて、逃げて……それで、また進む。それでもいいんじゃねぇか?」

「…………そんな、こと……ないっ……そんなことない!!」


葵は突然叫び、そして走り出した。女店主は追いかけようとして手を伸ばしたが、足が動かなかった。


「まだ、師匠みたいにはなれねぇのかなぁ……あーあ。子供いるってのに、よ」


そう言って女店主はポケットから小さな指輪を取り出して、それを天にかざした。


彼女は、葵の背中はどんな理由であれ押したのだ。だからあとは葵がどうしたいかである。葵がどうするかを彼女は知る由はなかった。


◇◇◇◇◇



「全く……安倍葵のやつ。どこに行ったのよ……」


イライラしながら机を指でバンバン叩くのはヘソを出した服を着ている少女、蘆屋こころ。彼女は何度も何度も安倍葵という単語を繰り返していた。


「化け狐さん……あれ……」

「ええ、はい。俗にいうツンデレ……例えるなら、そう。ここ葵とかいうのができそうな雰囲気です。薄い本がどえらくぶ厚くなりますなこれは」

「聞こえてるわよクソえろ狐。というかわたしより、童さんの方が心配じゃない?」


そう言ってこころたちはチラリと座敷童子の方を向く。彼女はただじっと窓から外を見下ろしているだけで、先程から動こうとしていなかった。


葵が何処かに行ってしまってからもう直ぐ一日以上たってしまう。そして、彼女がいなくなってから座敷童子はずっとあの調子なのだ。


「あの、座敷童子さんと安倍さんっていつから仲がいいのですか……?」


視線は座敷童子の方に向けながら学ラン少女の恋が、こころに声をかけた。こころは視線を座敷童子から外して恋に目を合わせた。しかし、すっと上にずらして、こころは話し始める。


「そうね……安倍家の天才児として産まれた葵の、物心ついた頃からの妖怪や陰陽師としてのなんたるかを教える家庭教師みたいなポジションだと思うわ。因みに戦いを教えたのは酒呑童子さんね」

「じゃぁ、結構長いのですね」

「そうね。まぁ、人形になった理由はわからないけど……なんかあるのだろうけどね」


意味のない行動はしないから。と言いながらこころは座敷童子に視線を向ける。確かに、彼女が意味もなく人形に自分の魂を憑依させてるとは思えない。


しかし、なぜ人形に入れてるのか。それを聞くのはなぜかすこし躊躇われた。そもそも聞いてもうまいことあしらわれて答えが返ってこないような気もしていた。


「でも尚更なんで、安倍さんは座敷童子さんと喧嘩したんでしょうか……」

「そうね。悲しいけど、安倍葵は子供なのよ。大人びたつもりでも、冷静になろうとしても後一歩足りない、子供なのよ。まぁ、私も子供だけどね」

最後に自嘲気味に笑ったこころを恋はなんとも言えない目で見ていた。こころが一番大人に見えたのは、気のせいなのだろうか。

「確かに下の毛も生え揃ってないこころお嬢様はまだまだこどぶふぉ!!」

「何言ってんのよこの変態エロ狐!!」

が、化け狐の腹を蹴り上げて怒りながら、蹴り上げてる姿を見るとまだこころは子供なのかなあと思っていたりする。こっそりと自分の股のあたりに視線を落としながら。


「……おい。お前らこッちこいよ。サイトにメール届いてらァ」


パソコンをいじくっていた天狗がそう言って、河童がトテトテとした足音を出しながら、パソコンを見せにくる。


サイト。というのは先日ハンターというものが作っていたサイトを発見して、なんとなく作って見た。と、天狗は話していた。


そして、そのサイトに来ていたメールはどこにも妖怪退治だとは書かれてなかったが、短い文章が書かれていた。


「えっと……!?こ、これって!!」

「はい。もしこの情報が正しかったら葵さんは……」

「そうと決まれば……座敷童子さん!!」


と、恋が後ろを向くと座敷童子が先ほどまでいた場所には、ただ風が吹くだけで、誰もたっていなかった。



◇◇◇◇◇



ーーーーーー

「ぐっ、つぅ……」

ーーーーーー

「おうおうどうした葵。もうへばってんのか?」

ーーーーーー

「でも……私が強くなっても、酒呑さんや童さんたちが強いから、私自身が強くなる必要なくないですが?」

ーーーーーー

「ふむ。確かにな」

ーーーーーー

「でしょ?だから、もう特訓なんかやめて、私と契約してくださいよ」

ーーーーーー

「でもな、俺の強さは俺だけの強さ。お前さんの強さは、お前さんだけの強さだ。兎に角、俺がお前さんに契約される条件はーーー」

ーーーーーー


「ぬぁっ!?」


ガバッと冷や汗をかきながら葵は起き上がる。どうやら今、彼女はどこかの森の中にいるらしく、2日以上着ている服に汗が染み込んでいて、すこし匂いがした。


流れていく汗を、右腕の裾でぬぐいながら、ゆっくりと立ち上がる。天気は晴れで、まだ昼だが森の中のためか薄暗くて、何処か不思議な雰囲気があった。


「酒呑さん……童さん……恋さん、こころさん、みなさん……」


見知った人の名前を繰り返して、彼女は顔を深く沈めながら、体操座りをする。深くため息をつき、そこ音が自分の耳に入ってくるのがすこし嫌だった。


葵は、今可能なら家に帰って美味しいご飯を食べて、お風呂に入って気持ちよくなりたいものであったが、帰りたくなかった。


恐らく、それが彼女のことを周りが時々子供と呼ぶ一つの所以であろう。良くも悪くもプライドが高いのだ。


「……今からどうしましょう……きっと、童さんは許してくれなさそうですけど……私って、こんなにめんどくさい女でしたっけ……ってか、体くさい……」


強いため息をついて葵は憂鬱な表情になる。冷たくて凍てつく風が葵の頬をかすめて行き、なぜかとても孤独な気持ちになる。


「……んん?なんか、変な音が聞こえる……?」


特にすることもなかった葵はゆっくりと立ち上がって、その音が聞こえた方まで歩いていく。向かい風が何度も吹いて、うまく前に進めないが、なぜかその音が気になって仕方なかった。


しばらく歩くと、大木が目の前に現れた。まるで、こちらを見下ろしていると思うほど、生命力にあふれていた。


しかし、どこかがおかしかった。生命力というか、比喩表現無しで、生きている。そんな印象が強かった。それに、風に乗って強い血の匂いが漂ってきていた。


「……おかしい。よく考えたら、風が吹くだけで、鳥のさえずりとかが一切聞こえないって……おかしい……っ!まさか!!」


葵は何かを勘付いたように、後ろに大きく飛んだ。風がその葵の不吉な考えを肯定するように、大木の木の葉を激しく揺らしていた。


「もしかして、妖か、いっ!?」


シュン!そんな音が聞こえたかと思うと、葵の中の天地が逆転した。葵が足の方に視線を向けると、そこには古びた木の枝のようなものが結び付けられてきた。


葵がそれに気づいて取ろうとするより早く、強い勢いで木に叩きつけられた。葵は口から血を出してしまう。ピチャリと地面に跳ねた血を見ながら、そのまま今度は背中から地面に叩きつけられる。


「グハァッ……!!」


ゴホゴホと咳き込みながら立ち上がると、先ほど葵が吐いた血に木の枝のような触手がまとわりついていて、血を吸うようにしていた。


「体は木で……血を吸う……貴方の……正体はお見通し……ですよね、『樹木子じゅぼっこ』さん……!!」


名前を呼ばれた妖怪、樹木子が唸るように木の葉を鳴らし、そして葵めがけて触手を伸ばしてくる。葵は息を整えながら、ウエストポーチから札を数枚取り出した。


一瞬、変身ということを考えたが、すぐに頭を振りその考えをうちけしながら、札に妖力を込めはじめる。


「喰らえっ『爆札』!!」


そう葵は叫んで札を数枚樹木子に投げつける。それは、ピタリと木の肌に張り付いて、次の瞬間に大きく爆発した。樹木子は苦しそうな声をあげながら、もう一度というように触手を伸ばしてきた。


「木の弱点……それは、これっ!」


普通、木の弱点と言えばそれは炎となるだろう。しかし、これは妖怪との戦い。そんな常識は大きく通用はしない。


葵はまた札に妖力を込め始め、そして樹木子の触手を避けながら、それを投げる。それは大きな爆発はしなかったが、代わりに大きく光るだけであった。


数秒の沈黙の後、葵の顔からだんだん血の気が引いて行く。理由は簡単。葵が投げたのは金の札であり、それは確かに木の妖怪には多大なるダメージを与えるだろう。しかし、悲しいかな。葵が使える金の札は対象者の耐久力を上げるだけであり、はっきりいうと。


「グギュュュゥアゥゥゥ!!」


葵はただ単に樹木子の戦闘力の向上に力を貸しただけであった。

葵は樹木子の攻撃から逃げようと足を進め、樹木子の周りを走り回る。樹木子は忌々しいというように触手を伸ばして葵の体を狙い続ける。


「ーーーいっ!」


しかし、疲れからか葵は足がもつれて顔から地面に衝突する。樹木子が、そのチャンスを逃すわけがなく、今度こそとばかり触手を伸ばして葵の血を吸おうとした。


しかし、葵は怯えた顔を一切見せず、ただニヤリと笑ってウエストポーチから札を取り出して遠くに投げた。


「弾けろーーー『爆札』!!」


葵がそう叫ぶと同時に、ドォン!と大きな音がして爆発が広がる。しかし、その爆発は樹木子から遠く離れたところなので、あまり気にしてなかった。が、ふと視線を戻すと、葵の姿が綺麗に消えていた。


「貴方から逃げながら貯めていたこの札の火力……ゼロ距離で使わせてもらいますっ!!『爆札』!!」


突然聞こえてきたその声と同時に、今までのものとは比べものにならないぐらいの大きな爆発が起きた。樹木子は声に ならない叫びをあげて燃えていった。


その燃え盛る樹木子を見ながら、葵は緊張が切れたように膝から崩れ落ちる。そして、震える声を喉から絞りながら、口を開ける。


「は、はは……どうですか、私一人でも……妖怪相手に勝てるんです……よ……は、ははは……は、は?」


ドンッ。そんな音が葵の胸のあたりから聞こえてきて、葵は少し体が熱くなるように感じた。そして、ピチャリという音がして、それを確かめるために顔を下に下げる。


「ーーーは、はひ?」


葵の足元には血の海が広がっていた。そして、葵の胸から伸びているのは木の枝。樹木子は先ほど倒したはずなのに、なぜこうなるのか。理由は簡単。単純に樹木子が『二体』いたのだ。


「ひ、ひぐっ……あ、あぅ……」


痛みで叫び声をあげそうになるのを抑えながら葵は爆札に妖力を込めようとするが、体が一切言うことを聞いてくれず、代わりに体から血が抜かれて行くような感覚に襲われ続ける。


(そんな……私は、逃げちゃダメなのに戦わなくちゃならないのに……ここで、終わるなんて……そんなの……)

「いや、だよぉ……」


葵がそう呟くと同時に血の海の中に、一つ。彼女の涙が落ちて、ぴちゃんと跳ねた。そしてその涙は血に混ざるのを、ゆっくりと辞めていった。


「ドアホォオォオォォォオォォォォォッッッッ!!!」


葵が諦め掛けていたそんな時、どこかからか大きな火炎が樹木子の触手を燃やした。葵は膝から崩れ落ち、口から血を吐きながらその声が聞こえた方を見る。


「ドアホドアホドアホドアホ!!何諦めてるのじゃ!ドアホじゃない、バカじゃ!バーカバーカ!!」

「わ、童さ、ん……なんで……?」

「そんなのあとでよいじゃろ!!ほら、たたんかバカ葵!!」


浴衣の少女、座敷童子が葵の肩を掴んで立ち上がらせる。葵はそんな彼女の顔を直視できずに、視線をどこかにずらしてしまう。


「なんで、助けるんですか……?私は貴方にあんなにひどいことを言ったというのに……」

「何言ってんじゃ」


座敷童子がそう言って葵の頭を優しく自分の胸に抱き寄せる。葵は、彼女の胸の硬さに、どこか暖かさを感じて、思わずまた涙が流れる。


「主はあの状況から逃げるためにあんなことを言ったんじゃ……別に悪いことではない。寧ろ、少し強めに怒った儂も悪い……とにかく、主の発言はいわば子供。子供が言ったことをいつまでも根に持ってるのは、それは仲間ではなかろう。家族、でもなかろう……違う、か?」

「童さん……童、さん……!!」

「よしよし、泣いてもいいんじゃ。それが主の強さとなるからの」


座敷童子がそう言いながら、葵の頭を優しく撫でる。葵は涙をぬぐいながら、血と涙が混ざった地面を踏みしめて立ち上がり、ウエストポーチから札を取り出して構える。


「ーーー行けるか?葵」

「ーーー私は子供です。今までそんなことを無視して進んでいた……大人のなろうとしていた。でも、違うんですね。子供でもいいんです……だから、私は子供らしくやりたいことをやります!私はこの場を乗り切り、そしてーーー酒呑さんを、連れ戻しますッ!!」


葵はそう言って9枚の札を空に投げ飛ばす。そして、その札に座敷童子の魂のようなものが入り、葵の周りをくるくると回り始める。葵はビシッと手を突き出して口を開けた。


「行きます!臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前!!!変化!!『座敷童子』!!」


ようなものをあげる。


【童さん。私、なんだか今とても清々しい気分です。二回も言われたら……納得しないといけませんしね】

「葵、よいか。これから先、どんなに辛いことがあっても……儂『等』は主を支える。じゃから、何もかもやりたいようにやれっ!!」


座敷童子はそう言い切って妖力を込め始めた。狙うは樹木子の体。そして打ち砕くのはーーー


「轟け。我が火炎の龍よ!『煉獄火炎龍三昧れんごくかえんりゅうざんまい』!!」


座敷童子がそう叫ぶと火がまるで龍のように唸り、轟き、樹木子を包み込むように襲いかかる。樹木子は叫び声を上げる暇もなく、だんだんと燃え尽きて行く。


【童さん】

「……なんじゃ?」


座敷童子がそう聞き、どさりと芝生の上に倒れこむ。空を見上げて、大きく息を吐き、葵の言葉の続きを待った。


【私、なんだか……スッキリした気分です。変に気張らなくてもきっとあなたたちが……守ってくれますよね?】

「……当たり前じゃ。バーカ」

【ふふっ……バーカ】


そう言った座敷童子の顔と葵の顔はどこか、爽やかな顔で空を見上げていた。



「どうも。安倍葵です。早いものでここを担当するのは2回目ですね。もうネタが尽きてくるなんてさすがは作者さんです」

「……私は、まだまだ子供です。だから、大人に憧れたいし、欲しいものは全部手に入れます。だから、皆さん見ててくださいね?」

「さて次回は……願いを一つ、叶えられそうです」

「では、またお会いしましょう」

次回、第10妖目

『大人の戦い。子供の戦い』


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