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こちら陰陽屋でございます  作者: だっつ
8/15

八妖目【闇に潜む影。少女は死神】

どうも。楠木恋です。

前回。私たちは学校の七不思議を解明しに行きました。そして、バスケットボールの七不思議の正体は目目連という妖怪の仕業だということがわかりました。

一度倒しましたが、なんと、目目連は体育館にくっついて私達に襲いかかります。そんなピンチを救ってくれたてはハンターさんでした。

まるで綺麗に洗ったかのような月が、街を照らす中、一人の男性が走っていた。手に、多くの札束を握りしめながら。


普通、札束を持ってると、少なくとも顔は喜びに包まれるはずだが、彼はそうではなかった。別に強盗してきたとかそういうわけではなく、安全に入手している。が、彼の顔は真っ青になって染められていた。


口の中では何度も己の過失を呪いながら、彼はとうとう行き止まりにぶつかる。肩で息をしながら、ここまで来たら大丈夫だろうと、安心したように息を吐く。


が、何か足音が聞こえてきて、彼はゆっくりとその音が聞こえた方に顔を向けた。そこには小さな少女が、不釣り合いなほどの鎌を持って、こっちに歩いてきた。


「ねぇ、お兄ちゃん。なんで逃げるの?お願い、叶えたのに」

「ヒ、ヒィ!?く、くるなぁ!!」


男はその少女に対して異常なまでの恐怖を見たのか、少女が一歩歩くごとに顔を青にだんだんと染めていく。


「く、くるなぁ!しにがみぃ!!」

「死神と知ってて契約したのはお兄ちゃんじゃない……約束を守れないお兄ちゃんには、私が強制的に守らせてあげる」


死神という少女はそう言いながら、鎌を構えて走り出す。男性は咄嗟に己の体を守るように両手をクロスにして顔を守ろうとした。


しかし、彼女の鎌はその男性の腕をすり抜け、ズバン!と音を立てて男性の首と体を切り離した。空を飛ぶその首から飛び散る血は、あたりを赤く弧を描き染めて行った。


「これで私の約束は終わったね……お兄ちゃんにはお金を。私には命を……クスクス」


死神はそう無表情で言いながら闇の中に消えていった。後に残された男性の体は強く札束を握りしめていた。



◇◇◇◇◇



とことこと道を歩くのは学ランを着た少女。楠木恋であった。しかし、時期はもう六月に入り、彼女はとても暑そうに胸のあたりをパタパタとしていた。


「服脱ぎたいけど……なんでしょう。脱げるのは海ぐらいな気がします」


そんなメタ的な発言をしながら、彼女はいつもの道を歩き、いつものようにあの場所へと歩いていく。


すると、後ろからペタペタと歩く音が聞こえてきて、恋はゆっくりとそこを向く。そこには緑色の生物がいた。


「あ、河童さん」

「こ、これは、えっと……楠木さん。あの、河童です」


そう言って恥ずかしそうに頭の皿を掻く河童。恋は河童に視線を合わせて、何か用かと尋ねた。


河童はごそごそと何か甲羅の中を漁り始める。そこに荷物が入るのかと、恋は少し驚きながら見ていた。


そして恋に河童は封筒を渡す。恋はそれを見ると、そこには陰陽屋と書いてあった。これを見て、陰陽屋に用があると知った恋は、河童を突然ひょいと持ち上げる。


「私もそこに用があるんです。一緒に行きましょー」


恋はそう言いながらズンズンと河童を抱いて歩き出す。河童の方は緑の顔を少し赤く染めていくのを、恋は気づいていなかった。



◇◇◇◇◇



「ふむぅ……あの海の姫め……面白そうじゃからと、儂等に押し付けおって……」


座敷童子が河童からもらった封筒に書いてある文章を読んで深くため息を吐く。しかし、恋はそれ以上に机の上でうなだれている友人。安倍葵のほうに視線を向けていた。


「あの、安倍さん……?大丈夫……ですか?」

「あ、楠木さん……ええ。私は大丈夫です。しかし、二週間ほど、酒呑さんが帰ってこなくて……」


そう言って葵は今度は深く息を吐き、恋はそれでと合点をつける。葵が酒呑に仲間以上の思いがあることには気付けなかったが。


すると、ドアからコンコンとノックする音が聞こえてきて、座敷童子がはいといいながらドアを開けた。


「やぁやぁやぁ、元気にしてるかね安倍さんたち」

「ヤッホーです」


そこにはお隣さんの蘆屋こころとその相棒の化け狐が立っていた。葵が座敷童子に出て行くように促すが、こころたちはずかずかと入り込んできた。


「あ、恋久しぶり〜」

「え、あ、はい。えっと……」

「こころでいいわよ。少し話したらもう友達ってね」


こころはそう言って礼儀正しく頭をさげる。それにつられて恋も頭をさげるが、それを見た葵の顔は少し険しくなっていた。


「で?なんのようですか万年へそだし発情女」

「久しぶりにその罵倒聞いた気がするわ……まぁいいや。みんなに見て欲しいものがあるのよ。ほら、この新聞読んで」


こころはそう言いながら、バッグの中から一つ新聞を取り出して、ばさっと広げる。そのこころの後ろから葵達が新聞を覗き見た。


そこには大きな見出しが書いてあり、恋が眼鏡をかけ直しながら、読み上げる。


「えっと、怪奇、首を刈り取られた死体……?なんか物騒ですね」

「首を刈り取られた……なんか聞いたことある気がします」

「うーん……確かに。でもどこでしたっけ?忘れちゃいました」

「まぁまぁ、今はそんなことどうでもいいの。問題はこれの犯人よ。まさか、人の首を収集する欲がある奴が犯人なわけないでしょ?多分、犯人は妖怪よ」


こころがそう言うと、一気に空気が張り詰めてきた。確かに、こんな残忍なことができるのは妖怪の仕業である可能性が高い。


しかし、なんの妖怪であろうか。そう考えると皆、口を閉じて考え始める。妖怪は基本おさき狐のように精神を食らうもの。牛鬼のように、肉体すべてを食らうものが多い。


人間の頭だけを食べるような妖怪など、聞いたことがない。葵もこころも、さらには座敷童子も黙ってるため、本当に心当たりがないのかもしれない。


「人間の仕業……と考える方が怖いですね」

「そう、ね。こんなことをする人間がいると考えると、寒気と怒りを感じるわ」


こころはそう言って新聞を握る手に、力を込めていた。あまりに力を入れすぎたのか、ビリっと音がして新聞紙が破れた。


こころはあははと笑いながら、新聞をバッグの中に入れた。葵達はなんとなく、こころに声をかけることができなかった。


「おい、みつけたぜェ……もしかしてタイミングわるかッたか?」


ひょっこりと天狗がバツが悪そうな顔をして、パソコンを手に持ちこちらにやってくる。葵が大丈夫だと言ってパソコンを渡してもらった。


「へぇ。あの天狗パソコン使えるんだ」

「えぇ。結構なんでもできるそうで……調べてと頼んでたのがあったのです」

「なんです?無料でたくさん観れるエロ動画のまとめですか?初心者がとりあえず詐欺に引っかからない方法は、アマゾンとか以外で年齢確認されたら、おとなしくブラウザバックすることですね」

「黙りなさいエロ狐……って、これ?安倍葵」

「ええ……やっぱりありましたね。ハンターさんのサイトです。ここで、妖怪退治の依頼を受けてるのでしょうね……」

「あァ。そうらしい。ここまで行くのに何回同じ場所をたらい回しにされたかおぼえてねェぜ」

「お疲れ様です天狗さん……おや、依頼内容を見ることができるのですね……ほほぉ。成る程。堂々と書くことで仕事を終えたことのアピールをする……というわけですか。私達もネット受付しようかしら……」


葵がそう言いながら、そのハンターのサイトを見る。レイアウトはシンプルイズベストといった感じで、みやすくまとめられていた。


その時恋が一つ気になる文章を見つけて、これ。と葵に見るように促す。葵は思わずパソコンの画面を何度もタッチして、動かないことに首を傾げていた。


「ちょっと、動きませんよ?壊れてるんじゃないんですか?」

「もっと力強くおさなあかんのかえ?」

「貴女達……それマジで言ってたら一周回って怖いわよ」


こころがそう言いながら、マウスを使いはじめ、葵達はおーといいながら、こころの操作をずっと見ていた。


そしてクリックしたのは一つの依頼内容。そこには今朝見たように首を切られた死体について書かれていた。


「ハンターさん達もこれを追ってるのですね……でも、どこにいるか見当ついてるのでしょうか?」

「そうねぇ……いや、わかってるらしいわよ」


そう言ってこころはトントンと指で画面を触る。そこには日時、場所が細かく書かれていた。普通に考えれば妄言だろう。が、しかし。天狗はこのサイトを見つけるのにとても苦労をしたと言っていた。わざわざいたずらをするためだけに、こんなサイトを探すだろうか?答えは、ノーだ。


葵達はごくりと生唾を飲み、その書き込みを読んでいく。そして最後の文がスルリと目の中に入ってきて、それを読み上げた。


「死神に殺される……?」



◇◇◇◇◇



街を照らす街灯の下で、一人の男性が立っていた。顔立ちは整っており、黒い大きなコートを羽織って誰かを待っているようであった。


すると、男性はどこかから聞こえる足音に気づき、ゆっくりと顔を上げる。その足音が聞こえてきた方にいたのは一人の女性であり、彼女は男性を見つけた瞬間、パッと顔を輝かせて、走り寄ってきた。


「えっと、あなたがハンターさんですか?」

「ええ、私がハンターです。というわけでお嬢さん。前金に今履いてるやつでいいからパンツを……」

「……は、はい?」

「いや、なんでもございません。行きましょう、お嬢さん」


そう言って二人は歩き始める。二人の姿が消えた時、三つの影が、男性達を追いかけ始めた。


「あのエロバカ狐……後でぶんなぐろうかしら」

「ふふふ。こころや、少し落ち着きなんし」

「そうですよ。流石にぱ、パンツを要求するのには引きますが……」

「……言っておくけど私がそう仕込んだわけじゃないからね?そんな目で見ないでくれる?」


影というのは、恋とこころと既に憑依している座敷童子の3人組であった。見失わないように、見つからないようにしながら、ゆっくりと目の前を歩く男性達を追いかける。


今回の作戦は、簡単に言えば男性に化けた化け狐が、依頼主とともにいて、そして死神を誘い込もうという単純なものであった。


暫くついていってるが、目の前の化け狐達は楽しそうに会話しながら歩いており、まるで恋人のように見えた。それを見るとこころが何か舌打ちをしたように、聞こえた。


「あいつ……仕事わかってんの?なめてんの?イチャイチャすんなっての見苦しい……」

「あ、あははは……」


恋はそう笑っていたが、化け狐達が角を曲がったあたりで慌てて追いかける。そして、角を曲がったあたりにこころと座敷童子はピタリと動きを止めた。


「……葵。わかるか……?」

【そうですね……なにか、近づいてきてます】

「ええ。これ、結構やばいわよ」


座敷童子たちがそう言った時、恋もなにか、背中に氷を入れられたような悪寒を感じ、二人に視線を向ける。そのことにも化け狐は気づいたらしく、女性をかばうようにして立った。


カツン。なにか、向こうから足音が聞こえてきて、それと同時に恋達は今まで以上の寒気を受けた。


「お姉ちゃん。言われた通りにちゃんと来たよ。来たから、命もらっていい?」

「あ、あの子が……死神……?」


前から大きな鎌を引きずりながら、一人の少女が歩いてきた。彼女の目は血のように赤く染まっており、そしてなぜか片目を包帯で隠していた。


あの少女が死神かどうか。座敷童子達には一瞬で分かってしまうほどの、オーラを彼女は纏っていた。だから、考えるより先に座敷童子とこころは駆け出していた。


「エロバカ狐!!憑依するわよ!!」

「あいあいさー。ささ、お嬢さん。お逃げなさい」


化け狐はまず女性の背中をトンと押して逃げるように指示する。状況よく理解してない女性であったが、こそっと恋が手を引いて一緒に逃げ始める。


「お姉ちゃん達、誰?私はちゃんととーかこーかんで、あのお姉ちゃんの命をもらうんだよ?えっと、確か、甘いの食べたいとかだったかな?」

「そんな命令で命を上げさせるわけにはいかんの!」


座敷童子が先手必勝というように火の球を飛ばした。それは一直線に死神に襲いかかるが、死神はそれを首の皮一枚でちょんと避ける。


座敷童子が驚いたような声を上げるが、今度はというように薙刀を突き出しながら、化け狐が飛んでくる。死神は手に持った鎌でその攻撃から身を守った。


「やりますねぇ!」

【こら化け狐。自分から墓穴を掘りに行かないの!……といっても、確かにやるわね】

「お姉ちゃん達……私の邪魔するの?じゃ、先に殺してい〜い?」


子供のように無邪気に、しかし無表情で死神はそう聞いてきて、二人は思わずぞくりとする。そのせいで動きが少し止まった化け狐を死神は鎌で大きく弾き飛ばす。


地面に倒れこむが、なんとか薙刀を使いすぐに立ち上がる。しかし、すでに目の前には死神の鎌が迫ってきており、間一髪。化け狐はその場にしゃがみこんでその鎌を避ける。


死神は容赦なく追撃しようと、空中で器用に体勢を変えて、鎌で襲いかかるが、化け狐は先に薙刀をしならせて、その勢いで横に吹き飛び鎌の攻撃から逃れた。


「うーん。なんで殺させてくれないの?」

「そりゃ、死にたくないからに決まってるでしょうが」


死神にそういうが、彼女はふーんと興味なさそうに呟く。本当に子供のようで、化け狐は少し足が竦む。世界で一番恐ろしいのは、悪を悪と知らない者だ。


「おっと、儂のことを忘れたらこまるのぉ!」


後ろから座敷童子が突然に火炎を投げる。四方八方から来るその攻撃を死神は避けれるはずもなく、直撃する。


ドォン!と大きな音が聞こえ、爆発をする。煙が出てきてあたりが見えなくなり、みな死神に大ダメージを与えたと思い込んだ。


そして、煙が消えていき、そこには満身創痍の死神が倒れている。


はずだった。


「……っ!?なんでいないんじゃ……!」


そこには死神がいなかった。まるで、どこかに隠れたかのように。そこだけ、切り取ったかのように。威力に掻き消されたかと思ったが、そこまで座敷童子の攻撃は強くはなかった。


が、現に死神はそこにはいない。座敷童子がゆっくりと先ほどまで死神がいたところまで歩く。が、やはりそこには誰もいなく、内心首をかしげる。


そんな時、また寒気を感じる。しかもそれは、首筋に直接感じるほどであった。そして、目だけで右を見ると、そこには鎌の先端が見えた。


「捕まえた〜ねぇねぇ、殺していい?」

「な、なんで儂の後ろに主がおるんじゃ……!」

「死神はね、闇に紛れれるんだ。簡単に言えば私にとって闇は『海』……って覚お兄ちゃんがいってた。とにかくね、海を自由に泳げる魚である私をお姉ちゃん達は捕まえれる?」


そう言って彼女はニヤリと口だけ笑う。そのあまりの奇妙な顔に、化け狐は助けに行くタイミングが一瞬遅れてしまった。


その一瞬だけで、死神は鎌を使い座敷童子の首を切り落とすのには充分であった。死神は強く力を込めずに、徐々に鎌を座敷童子の首元に沈めていく。


少し進むごとに垂れる血は、座敷童子が憑依してる葵に恐怖を覚えさせるのには充分で、彼女は声にならない叫びをあげる。


「さよなら、お姉ちゃん」

【や、やだ……!】


そうして、死神の鎌が一人の少女の命を刈り取ってしまう。と、なるはずだった。


突如こちらに向かって一つの火炎が襲いかかってくる。死神は少し慌てて闇に紛れながら、そこから離れる。そこにいたから、座敷童子はその火炎の直撃を食らって大きく吹き飛んだ。


「な、なんじゃ!?」

「やれやれ。人の獲物を狙ったかと思うと、まさか失敗するとはな。これだから陰陽師は嫌いなんだ」


そこには、化け狐が化けたものではなく、本物のハンターがこちらに向かって堂々と歩いてきていた。死神は闇から現れて、ハンターの方をじっと見る。


「えっと、あなた何者なの?」

「何者でもいいだろ。さて、貴様の最後は私が与えてやろう!」


そう言いハンターは片手から炎を吐き出す。死神は今度は慌てずにスッと闇に紛れて姿を消してしまうが、ハンターの方も全く慌てずにギュッと両手を握りしめる。


「闇に紛れれても……消えたわけじゃない。実態はそこにある。それだけで充分……!!」


ハンターはそう言って、地面に向かって手を突き出す。そうすると、辺り一面が火の海と化けた。轟々と燃え盛る赤い大海原から、一つ少女の叫び声が聞こえた。


そうすると、ハンターはその声が聞こえたところをいち早く察知し、そこに向かって飛び出した。両手を突き出し、大きく炎を出す。


「あつい!やめて!!」

「いいだろうやめてやる。ただし、灰となったらな」

「ーーー!私、お兄ちゃん嫌い!」

「すまないが、私はもう男でも、女でもない」


そういいハンターはさらに火力を上げる。死神は苦しいという声を上げて、鎌をふるうがハンターに当たることはなく、更に燃やされていく。


「燃えて灰とかせ」

「嫌だ、嫌だ!助けてお兄ちゃん!!」


死神がそう叫ぶと、突如強い風が吹いて、炎をかき消した。ハンターは困惑の表情を浮かべて風が吹いてきた方を見た。


「な、何が起こったのじゃ……?」

【……そ、そんな……】


座敷童子もハンターが見た方向に顔を向け、葵は絶望した声を漏らす。そこには、二人の影があった。一つは小さく、片目を死神のように隠した少年。そしてもう一つは座敷童子も、葵もよく知っている、大きな男性の影であった。


その影は葵達を見ると、少し時間をおいて、手に持ったひょうたんから豪快に飲みだした。そして、いつものような軽口で葵達に笑いかけた。


「よう、お前さん方。元気か?」

「し、酒呑……さ、ん……?」


そこにいたのは、見間違えようもない。酒呑童子そのものであった。彼はそこにいるのが当たり前というようにそこに立っていた。


「狩りの邪魔を……するな!」

「おおっと、ワリィな。こっちから見たらただの子供の火遊びだったもんで、それを止めるのが大人の役目というだろう?」


「ふざ……けるなぁ!!」

ハンターは叫びながら、酒呑童子に襲いかかる。酒呑童子はその攻撃を見て、ダンッと駆け出した。


ハンターは片手を突き出して炎を出したが、酒呑童子はそれを避けることもなく、直撃を食らいながら、突っ込んでくる。


ハンターは予想外すぎるその行動にギョッとした顔を浮かべた。そして、酒呑童子はその顔めがけて拳を振り上げた。およそ、人から聞こえていいような音ではないものが聞こえ、ハンターは大きく吹き飛ばされる。


「張り合いのねぇな。さて、帰りますか、死神と覚さんよ」


酒呑童子がそう言って、覚と言われた少年がコクリと頷いて、どこかに立ち去ろうとする。


「まってください!」

「……あん?」


しかし、酒呑童子達を葵は呼び止めた。酒呑童子はしばらく迷ったようにした後、葵の方を向いた。


葵はしばらく目を閉じて、そして意を決したように酒呑童子の方を向きながら、口を開ける。


「なんで、そっちにいるんですか……なんの、冗談ですか!」


葵は、どこかで酒呑童子のギャグだと思っていた。心臓に悪いタイプの。だから、きっと冗談だと笑い飛ばしてくる事を期待していた。


が、しかし。酒呑童子はハッと鼻で笑った後、葵を強く見つめて彼女に向かって声を出した。


「冗談じゃねぇよ。残念ながらな……お前は俺を倒さねぇといけねぇんだ」

「そ、そん……な……」


葵は膝から崩れ落ち、酒呑童子は葵の前に立ちながら見下ろす。その酒呑童子の冷たい視線を受けながら、葵は小さくうずくまる。


「次会うときは……容赦するなよ」


酒呑童子はそう短く言って歩き出す。葵はそんな彼の背中すら、見ることができなかった。


「そんな……酒呑さん……嘘です……嘘……」


葵はそんな風にぶつぶつとつぶやきながら、うずくまる。酒呑童子と死神。そして、影しか見てないが、少年のような妖怪が去っていくのを耳でしか把握できなかった。


ピチャリと、雫が滴り落ちる。葵は目の当たりから何かが流れている感覚があったため、涙かと思った。しかし、なぜか地面が少し赤く染まっていた。


ピチャリ。また音が聞こえて、葵はゾクリとしながら、首のところに手を持っていく。するとまた、ピチャリと同じような音がして、ネトっとした感触と共に自分の手を見る。


「……ヒッ……!」


そこには血が付いていた。先程死神に襲われた時に首元から出て来た血であることを、葵は思いだして顔をサッと青くする。


「葵……大丈夫かえ?」

「え、えぇ……大丈夫です……大丈夫……」


葵は座敷童子の手を握って立ち上がる。しかし、その時突然。本当に突然、葵は酒呑童子のことを改めた思い出した。


「あ……あぁ……」


酒呑童子はもういない。彼は何処かに行ってしまった。


「ぅ、あぁ……う……」


何処かで必ず助けてくれた彼が、葵の敵となってしまった現実が、葵に改めて襲いかかる。


「あぁああぁああぁあぁあ!!」

「お、おい!葵!落ち着け、落ち着かんか!!」


葵は叫びだした。それはきっと、この現実が耐えられなくて、葵にとってはそれほどまでに、厳しい現実であり、それが彼女の小さな背中に重く襲いかかって来る。


「あぁああぁあああ!!あぁああぁああああぁああぁあああ!!」


錯乱した様子で葵は大きく泣き叫ぶ。死への恐怖と、大切な人を失ってしまったということが少女を錯乱させる。


パシン


葵は突然の音に驚き、そして、目の前で葵のように涙を流している座敷童子の姿。そして、彼女の手が、葵が座敷童子にぶたれたことを、表していた。


突如、ゴロゴロと天気が悪くなって来た。そして、ポツリポツリと雨が降り始める。葵達はその雨を体に受けながら、暫くの間固まっていた。葵は濡れた手で自分の頬を触る。ジンジンと、痛む頬が彼女の目がさらに涙を溜めていく。


「馬鹿者!安倍家の者とあろうのに、なんじゃその体たらくは!!酒呑童子は元々山で大暴れしておった悪の妖怪じゃ!むしろ、契約しないでここまで何もなかったことの方が奇跡に等しいじゃろうが!そんなことをわからぬのか!そんなのじゃからお主は小娘なんじーーー」

「あなたにはわかりませんよ!」

「……なに?」

「こんな事態になっても……涙ひとつ流さない、あなたに、わかるわけがない、わかるわけがないんです!!人形のくせに!!」

「っーーーー!!」


バシン!今度は先ほどより大きな音が響き、葵は頬を強く叩かれる。葵は目を強くつむり、雨の中走りだした。バシャバシャと、雨を踏みしめる音がして、葵の姿がだんだんと見えなくなって来た。


「たわけ……儂だって……人形になりたくて、人形になったわけではない……」


座敷童子はそう呟いて、下を見る。すると、彼女の目の部分を滴りながら、雨が地面に落ちて行った。座敷童子は、肩を震わせながら、地面を強く踏みしめた。


それに合わせるかのように、雨は音を立てて段々と激しくなっていく。座敷童子はその場から動けなくて、そんな自分が不甲斐なくてまた小さな声で、たわけ。と呟いたのは、おそらく、彼女の耳には聞こえなかった。


「お兄ちゃん、それともお姉ちゃんかな。私は死神だよ」

「今回、人間達を追い詰めたけど……あの、ハンターのおいちゃん?お姉ちゃん?とにかく、そいつに邪魔されちゃった……もう。覚お兄ちゃんにいいところ見せれなかったなぁ……次はきちんとしよ」

「そういうわけで次回に続くよ……そこのお姉ちゃんとお兄ちゃん。願いを一つ叶えてあげるから……命、ちょーだい?」


次回、第九妖目

『彼女はなにを思い、彼はなんのために動くのか』

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