七妖目【新月中事件ファイルその2〜バスケがしたいです〜】
楠木恋です。前回はてんぐの森に行きました。そうするといたずら好きな天狗さんに会い、彼が仕掛けたお酒を飲んでしまい私以外クラクラに。
そんなとき現れた何かに操られた彦山さん。絶体絶命のピンチに助けに駆けつけてくれたのは天狗さんもとい天さんでした。
そして彼は今陰陽屋に住んでいます
「…………」
楠木恋は困惑していた。時刻は今放課後であり、彼女は今便器の上に座っている。学ランと下着をずらしておそらく用を足したのであろう。
とりあえず下着と学ランのズボンを上げる。そしてドアの鍵を開けてゆっくりと開けて、目の前に広がるものを見てゆっくりとドアを閉めて鍵をかける。
そしてもう一度すとんと便器に座り込み頭をかかえる。なぜか。それは目の前にあったのは壁ではなく小便器。そしてそんなものは女子トイレに置いてあるわけがない。
「なんで私男子トイレに……?」
彼女は今男子トイレの中にいた。もちろん彼女はそういうのが好きな変態とかでも、男子トイレに何かを感じたわけではなく、彼女の心境は気づかないうちにここにいたという、この一言に尽きる。
「よぉ、気分はどうだ〜?」
「その声……花子さん?」
にゅっと壁から顔を出してこちらに手を振るのは目が隠れるほどに髪を伸ばした女性。その名も花子さん。いや、首を横に振ったから今は太郎さんか。
太郎さんは、少し前に男子トイレにいた妖怪、見上げ入道に住処を追い出されたが葵と酒呑童子の活躍で元に戻った。
しかし、今目の前にいる太郎さんはいししといたずらっ子のように笑っていた。恋はごくりと生唾を飲み、シドーッとした目で太郎さんを睨んだ。
「もしかして、私が今男子トイレにいるのは……」
「そ、俺の仕業。というか俺がお前に憑依してみた」
「ひ、憑依……?」
「あぁ。どうやらお前、結構幽霊とかを誘いやすい体質らしいぜ。俺ですら憑依できる」
「でもここんところの記憶がないのですが……」
「そりゃ、あの陰陽師?みたいなほどの妖力は持ち合わせてねぇからな。意識も完全に俺がのっとる。まぁやりたい放題だな」
「……っ!!」
恋は顔を真っ赤にして自分の体を抱きしめる。それを見た太郎さんはしばらく考えた後、大きく笑い始めた。そして肩をポンと叩きにこりと笑う。
「大丈夫、変なことはしてない。けどあれだなお前おっぱいでけぇんだな」
「っーーー!!ばかーー!!」
◇◇◇◇◇
「さてそういうわけで第二回七不思議探索会議をしたいわけですが……恋さん?どうしてそんなにむすっとしてるんですか?」
恋はあの後太郎さんにビンタをかましていつもの新聞部の部室に来ていた。そこには翔子と宇治の二人がすでにいた。
「いや、別に……って、あれ。今私のこと……」
恋がそう言って翔子の方を見る。彼女は初めて恋の事を名前で呼んだのだ。それを指摘されてか、翔子は照れ臭そうにはにかみながら口を開ける。
「やっぱり同じ部活にいる者同士、下の名前で呼んだ方がいいと宇治と話してたんです。というわけで改めてよろしくです、恋さん。ほら、宇治も」
「……よろしく恋。でも私はあなたのことを認めたつもりない。そこは間違えないで。翔子の隣は私」
「は、はは……それでは、恋さんからも呼んでくれません?」
翔子がそう促すと、恋はえっとと口ごもって縮こまる。が、やがてモニョモニョと口を動かし、顔を赤くしながら、翔子たちを見た。
「し、翔子さ」
「あ、さん付け禁止、敬語も禁止。その方が可愛いと思うからお願いできます?」
翔子からそう言われ恋はピクリと肩を弾ませる。そして、顔をもう赤一色に染めながら帽子を深く被り、ボソボソと口を開けた。
「し、翔子ちゃんと……宇治ちゃん……よ、よろしく、ね……」
「グッド!そういう感じですよ恋さん!!」
翔子はそう褒めるが、恋にとっては少しむずがゆくてさらに帽子を深くかぶってしまう。が、悪い気はしなかった。
その後3人で名前呼びを繰り返して五分ほど経っただろうか、翔子がようやくカバンから大きな紙を取り出して机の上に置く。
そこには大きく『新月中七不思議その二〜夜聞こえる体育館のボールが跳ねる音〜』と書かれていた。おそらくこれが今度取材する七不思議なのであろう。
しかし、夜聞こえるボールが跳ねる音。というのはただバスケ部が練習してるだけではないか?という突っ込みを翔子に投げると、彼女は首を横に数回振った。
「そう思って1日監視していた先生がいたんですが、それでも音が聞こえてきたそうです」
「えっと、その先生って……」
「大岩先生ですね。なんか、バスケ部の先輩後輩が夜のバスケをしてるとか言ってふんふんしてました」
なんとなく顧問である大岩先生に対する評価が少し変わっていった恋。が、これで今回の事件は確実に怪奇現象が起きてると言える。
「ではまた金曜日に集合といった感じで……そういえば安倍さんやし、酒呑童子しゃんを呼んでもらえたりとか……」
「え、はい。じゃなくてうん。呼んでみるよ」
恋がそういうと翔子は顔がにやけ始める。それを見た宇治は少し強い視線を恋に送ってきた。恋は言われもない非難に両手を挙げて翔子に助けてと合図を送る。
が、翔子は顔のにやけが止まらないらしく、その合図に気づいてなかった。が、恋も睨まれてはいるがそれが今の生活ならと、受け入れる努力をしようと思ったのであった。
◇◇◇◇◇
夜も深くなった新月町。そこにある河川敷に一人の和服を着た少女が座って鼻歌を歌っていた。そして靴を脱いだ足をつけて、パシャパシャと水を跳ねさせていた。
「今日は水は気持ちいいもんやなぁ……夏なら泳ぎたくなるぐらいや」
「たのしそうだにゃ川姫。ぬらりひょん様の復活までまだまだだとにゃというのに」
「あらぁ、猫又はん。そう言いながら手に握ってるのはお魚さんやないか。あんさんもあまりやる気ないんどす?」
「う、うるさいにゃ!今働いてるのは覚にゃよ。にゃあたちができることはなにもにゃしにゃ。その時まで待つしかにゃか」
猫又と呼ばれた少女が手に握っている魚をがぶりと頭から噛みちぎる。魚はまだピチピチと手の中で暴れるが、活け造りというのだろうかこれは。
猫又が魚を差し出すが、川姫は顔を横に振っていらないという意思を示す。猫又は小声で美味しいのにと呟くか、川姫はそれを聞かずに川に映る月に視線を送る。
「新月町……ほんま毎日お月さんが新品のように綺麗やなぁ……妬いてまうわほんま」
「お主が言うと冗談に聞こえんにゃ」
猫又はそう言いながら魚の血がついた口を拭った。川姫は猫又の声を聞きながら、月の上に足を踏み込んだ。
ピチョン。水は空高く跳ね上がり、川姫に全てぶつかっていく。彼女は濡れた服を嬉しそうに見つめていた。
少し遠くで猫又が変な女だと野次を飛ばしてくるが、今の彼女にとってはそれは空を飛ぶ虫の羽音のように聞こえていたのであった。
◇◇◇◇◇
何もかもが闇に染まり始めて、何も声が聞こえない夜の中学校。そこの体育館の前に数人、影があった。
メンバーは新聞部の面々と青いシャツを着た安倍葵。そして、座敷童子と天狗の6人であった。新聞部の一人の翔子はぷくーっと頬を膨らませていた。
「ごめんなさ……ごめんね、翔子ちゃん。酒呑童子さんはいま、蘆屋さんと一緒にいるから……」
「……怒ってませんよ。多分」
そう言いながら確実に機嫌が悪い翔子。それとなぜか葵もどこか虫の居所が悪いらしく、恋のことをじっと見つめていた。
恋はなんとなく座敷童子にどうすればいいか聞いたが、彼女は彼女でわからないのかと言いたげな視線を送ってきたため、恋は帽子を深くかぶり直した。
「まァとりあえず。はいッてしまおうぜ」
天狗がそう言いながら、体育館のドアを開けた。意外に苦もなく開いたドアの先には校内よりか深い闇で埋め尽くされていた。
一歩踏み出すだけで辺りに音が響きわたる。そのせいで、自分がこの空間に一人しかいないような。そんな感覚にとらわれて、思わず恋はゾッとした。
「み、みなさんいますかー?」
「変なこと聞くのぉ。もちろんおるに決まっておるじゃろう」
座敷童子の声が聞こえて恋はホッとして息を吐く。すると何か音が聞こえてきた。それは恋達の足音かと思えたが、彼女達より明らかに多い音が聞こえてきた。
トン……トン……
「何か聞こえますね……れ……楠木さん。下がってくださーーー」
葵がそう言った瞬間に、連鎖するかのごとく天井のライトが光り始める。それは体育館の全てを照らしていく。
すると、体育館の真ん中にバスケットボールが落ちてるのが見えた。葵は警戒しつつ、そのボールのところまで歩く。跳ねるボールは葵の前でピタリと止まり、コロコロと転がっていく。
「……くるっ!」
そう葵が入った瞬間ボールが葵めがけて飛んでいく。葵はそのボールを手で弾いくが、ボールは無数にあり、それが襲いかかる。
葵は後ろに大きく飛んで札を構える。するとボールも何かを察してか空中で何コマのボールが止まる。その不思議な光景を見て、恋達は後ろに一歩下がった。
「成る程……その行動そしてこの現象……ポルターガイスト……いえ、違う。まるで私達が見えてるような行動……あなたの正体お見通し。ですよね?『目目連』さん」
葵がそう言うと、宙に浮かんでいたボールがピタリと止まり、恋は思わず叫び声を上げた。なんと、そのボールの一つ一つに目が浮かび上がってきて、こちらを睨みつけてきたのだ。
「おうおう、ねぇちゃん。俺らの正体よくわかったじゃねぇか」
「別に。ただ、物に取り付く妖怪かと思ったので……読みが当たってよかったです」
葵がそう言うと目目連は目だけで笑い出す。それはもちろんバカにしての笑いであり、葵はそれに気づいているため内心ムッとする。
葵はウエストポーチから札を取り出す。そうすると座敷童子が葵の隣に立ちちらりと葵を見上げた。葵はこくりとうなずき、札を宙に投げた。
「いきます!臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前!!!変化!!『座敷童子』!!」
葵がそう叫ぶと座敷童子の魂が葵の中に入っていった。そうすると光が弾けとび、彼女は白い和服に身を包んだ少女となった。
少女。座敷童子は扇子を口元に持って行きくすくすと目目連たちを笑いながら見ていた。目目連にとってはそんなことは気に入るはずもなく、まさに目の色を変えて座敷童子に襲いかかる。
座敷童子はヒョイと器用に避け続け、お返しというように火の玉をぶつける。が、目目連もそれを軽く避ける。
体育館の壁にぶつかり大きく爆発する火の玉をみて、座敷童子は、ほう。と感心したような声をあげた。思ったより軽く避けられたからだ。
「どうしたお前……陰陽師も大したことねぇな!」
「そうじゃな。まぁ、儂『以外』はな……さぁて、悪い子は火の折檻を与えてやろう!」
座敷童子は扇子を上に突き上げると、そこに座敷童子から放出された火炎が集中していく。轟々と響く火炎の音は、幻想的な音を奏でて、皆はそれに見とれていた。
「轟け、我が火炎の龍よ……煉獄火炎龍三昧!!」
座敷童子がブンと扇子を振ると、集まっていた火炎がまさしく龍のようになり、目目連たちに突っ込んでいく。
目目連はそれを避けるが火炎の龍は意識があるかのように、目目連が入ったバスケットボールを端に端に追いやり、やがてゴウッと音を立ててそれを燃やし尽くした。
トントンと床に落ちたバスケットボールには少し焦げ目があったが、それ以外は外傷はなかった。どうやら座敷童子の火炎は妖怪にしかダメージがないみたいである。
「お、おわったのかな……?」
「……そうだろうなァ。お疲れさ……ま……!?」
天狗が声を出した瞬間、体育館が大きく揺れた。まるで『生きてる』ように動き出した体育館を見るべく、座敷童子らは外に出た。
「な、なんですかこれぇええぇええっ!?」
恋が思わず声を上げると、皆が体育館を見る。そして皆が口を開けてあっけにとられる。なんと、体育館全体に目があった。それも一つや二つではない、まさに無数。数えることすら放棄するほどの数の目がこちらを睨みつけていた。
「お前たち……もう許さんぞ……!!」
「くっ、なんじゃありゃ……酒呑の奴ならいけるやもしれんが、儂じゃきついぞ……!」
座敷童子がそんな弱気な声を漏らした瞬間、体育館の目目連がなんと入り口から火炎を吹いてきた。座敷童子は少し慌てて扇子を降り、敵の攻撃を弾く。が、やがて耐え切れないように、座敷童子の体に火炎がぶつかる。
「ぐぅぁうぅあ!!」
座敷童子の身体が大きく跳ね上がり、地面に衝突する。口から血を吐きつつ、ゆっくりと立ち上がる姿は、こんなところでも、どこか優雅に見えた。
が、座敷童子は諦めておらず、扇子を降りまた火炎の龍を放出する。が、それは体育館の硬さには及ばなかったのか、バスケットボールよりかは小さい焦げ跡をつけるだけで、おわってしまった。
目目連はニヤリと笑い、また火炎を吐く。座敷童子は横に大きく飛ぶが、爆風によりさらに大きく吹き飛ばされる。
「座敷童子さん!ど、どうしましょう天さん……!!」
「うン……オレじャ上手く助けれねェな……万事休すか」
「そんな…」
体がボロボロになりつつも座敷童子は立ち上がるが、それをもうやめろというような声が聞こえてきた。が、終わるわけにはいかなかった
「逃げれたら楽なんじゃがな……でも、後ろに仲間がいるからの」
パンッ。おおきなおとをたてて座敷童子は扇子を振って、相手を威嚇する。
目目連はまた扉から火炎を吐く。座敷童子はすんでのところでそれを避け、その火炎をちらりと見る。なんとなく視線があったような気がして、あぁと納得する。
「こやつ、先程の儂の炎に取り付いておるんじゃなぁ……こりゃ厄介じゃな」
【わ、童さん!何か手は……!!】
「ふむぅ。儂はデカイ妖怪相手に有利に戦うのは苦手じゃからの。酒呑の奴が居ればすぐ終わったんじゃが……おおっと」
座敷童子は攻撃をやめて、避けることに専念し始めた。だから敵の攻撃は当たらなくなるが、それだけでは意味がない。事態は一点に好転せず、時間だけが過ぎていく。
「仕方ない……ここは一旦逃げて体勢を……」
座敷童子がそう一旦瞬間、何かが近づいてくるのに気付いた。それはだんだん加速してきて、その気配は座敷童子の真上でピタリと止まった。
「どけ、雑魚」
そんな声が聞こえてきた矢先、目目連にめがけて炎が落ちていく。それの火力は座敷童子のソレよりかとても高いようで、目目連が初めて痛みで悲鳴をあげる。
座敷童子達が驚く間もなく、空から一人の人間が降り立った。黒いコートと長いズボンを履き、髪を一度消したように白くしており、両手にグローブをはめていた。そして、背は結構高い。
「な、なんじゃお主は……」
「……私の名前か?今はそんなこと言ってる場合ではないだろう」
目の前の人間はそういうと、両手を前に突き出した。すると、グローブから勢いよく赤と青の炎が飛びてきた。それはもう一度目目連を焼き尽くすが如く、轟々と燃え盛る。
「火力を上げるか……鬼火、狐火。全力を出す」
人間がそう言った瞬間、グローブからさらに勢いよく飛び出していく炎は目目連を包み込み、大きく燃えていく。目目連は最初は負けじと火炎を吐き出すもそれは人間の炎に全てかき消されていく。
目目連は大きな叫び声を上げていき、そして最後は体育館だけを残して、消えていった。
「目標のーーー」
「待てお主。お主の名前はあえて聞かん。が、目目連をどこへやった?」
座敷童子が険しい顔で人間にそう聞くと、人間はチラリと座敷童子の方見る。その無感情な赤い瞳を見て、座敷童子は思わずたじろいだ。それに合わせてか、人間も口を開ける。
「目目連は殺した。妖怪は排除。これが私の使命であり、戦う理由でもある」
「……主、人間とおもたが、その両手のグローブ。ただの人間ではなかろう?鬼火と狐火。並の人間じゃあんなに大きな火力で操れんわ」
「私は人であり人にあらず。人の身の限界はとうの昔にーーー」
人間はそう言って片目を隠すように伸びてきた髪をかきあげた。その下には。
「超えて、しまったよ」
ボロボロ焼きただれた顔の半分があった。それは、人間が超えてはいけない、その一線を超えていることを表していた。
座敷童子はその顔をじっと見る。人間はというと、そう見られるのに慣れてないのか、スッと髪を元の位置に戻した。
「なにがそこまで主を駆り立てる?」
「初対面に聞かれるような質問ではない。黙っててもらいたいが、どうだ?」
「きつい相談じゃ。儂はお節介なものでの……お節介すぎる故に人形に己の魂を入れてこやつについてきたんじゃ」
彼女はそう言って自分の体をポンポンと優しく叩いた。人間は顔色一つ変えず、目を閉じた。そして、片手をゆっくりと上げた。
「焼き尽くせ、鬼火」
「走れ、煉獄火炎三昧!」
お互いがほぼ同時に出した攻撃がぶつかり合うと同時に、大きな爆発音が多発した。
ドン!ドン!花火のような爆発が響き、恋たちはハラハラしながら二人を見ていた。が、手を出そうにもそれは彼女たちの死を意味する。
「鬼火で消えない炎に初めて会った。名前を言え」
「座敷童子。我が従う主人は安倍葵という」
「そうか、なら前言撤回。私の名前は……そうだな。私の名前は」
「ちょっとちょっとちょっとーーー!!なにしてるんですかハンターさん!!」
突然二人の戦いを邪魔するかのような声が聞こえてきた。ムッとした表情のハンターとなに?という顔の座敷童子がその声が聞こえてきた方を見る。
そこにはピンクの髪を伸ばし、くちばしの絵がプリントされたマスクをつけた小さな少女が肩で息をしながら、ハンターの方を見ていた。
「ちょっと……いやほんとなにしてんですか?妖怪ならまだしも、陰陽師あいてに……?」
「私は悪くないぞアマビエ」
「えぇ、開き直りますか普通……というか私のことはサポちゃんと……もう、早く帰りますよ!」
アマビエと呼ばれた少女は、慌てるようにハンターの手を握り、走り出そうとした。が、座敷童子が彼女らを呼び止めた。
「主ら、結局何者なんじゃ?」
「……簡単だ。私は、妖怪ハンター。陰陽師のような生ぬるい覚悟で妖怪と戦ってるわけではない……次会うときは、敵同士か、何方かが死体の時だ」
ハンターはそうセリフを吐いて、アマビエを連れて歩き出した。座敷童子はそんな彼女達を追いかけようとしたが、なぜか体が動かなかった。
「……ぬぅ?」
ドサリと彼女は膝から崩れ落ちた。座敷童子は空にある月を見上げながら、歳はとりたくないものだと自嘲気味につぶやいた。
◇◇◇◇◇
「よぉ、元気かお前さん……おいおい、そんな怖い顔すんなよ。これでも昔はよく話してたじゃねぇか。今は敵同士かもしんねぇけどよ」
祭り好きの鬼。酒呑童子がドスンと座り込んで酒を飲んでいた。盃は二個あり、一つは巨大な岩の前に置かれていた。
辺りは暗く、まるで洞窟のようであり、そこにいる彼は全くその場に合ってないような態度で、岩と酒を飲んだいた。
「……なぁ、お前さん。俺が嘘をついてまでここに来た理由、わかるか?わかんねぇか……」
酒呑童子は頭をぽりぽりと掻きながら、もう一度口に流し込む。喉のつっかえをとるような勢いであったためか、ゲホゲホと咳き込んだ。
口についた酒をぬぐいつつ、酒呑童子は相手の盃に酒をなみなみと注いだ。もちろん相手は岩であり、酒を飲めるはずもなく。しかし、酒呑童子はそれでも満足はしていた。
「俺よ、陰陽師に使われてんだけど……はっきり言って俺がいなくてもあいつらは多分大丈夫なんだわ……かっかっか。お前らしくないって?まぁ、いいじゃねぇか。酒の席だ。多少己をさらけ出すことぐらい、許してくれてもバチはあたらねぇぜ?」
酒呑童子はまたそこで面白いと言うように笑い出す。岩は、その声を黙って聞いていた。
「さて、本題だ……なにが言いたいかわかるか?」
岩はそう言われてもうんともすんとも言わない。が、それでも酒呑童子はそれでいいというように、ゆっくりと立ち上がり盃には入ってる酒を全て岩の上に流した。
「この酒うめぇから飲んでみろよ……なぁ、俺を使ってくれや。色々と確かめてぇんだ……同族の好でなんとかしてくれねぇか?」
彼が流した酒は盃から岩の上に注がれていき、岩はそれを飲むかのように、瞬く間に吸収していく。酒呑童子はそれを見たあと、岩の上に手を置いて口を開けた。
「なぁ。俺らの総大将さん」
◇◇◇◇◇
「……童さん、酒呑さん。いつ帰ってくるんですか?」
「そうじゃな、儂にもわからんことはあるんじゃよ」
葵は開店椅子に座りながら、ぐるぐる回り座敷童子の言葉を聞いていた。酒呑童子がどこかに行ってから一週間。一緒についていったと言ったこころたちも知らないと言っていた。
酒呑童子がふらりとどこかに行くことは今までなんどもあったが、一週間帰ってこなかったのは一度もなかった。
葵は心配してるからか、いつものように紙の上でペンを滑らせるが、文字を一文字も書いていなかった。
「酒呑さん……」
「なんじゃ葵。まるで恋する乙女のようじゃぞ」
座敷童子が茶化すようにそういうと、葵はしばらく固まった後、バン!と机に頭を打ち付けた。
「マジかよ……」
普段マジとか言わない座敷童子が初めてマジと漏らした。それは、葵の顔は見る見る紅く染まっていっているのを見てしまったからだ。
「違います、これは仲間として心配なだけで……」
葵が何か喋ってるが座敷童子のほうは、あぁと納得していた。なんせ、男性にあまり会ったことがない葵にとって、酒呑童子は数少ない男性。多少意識するのは仕方ないか。
(面白いことになってるの……早よ帰ってこんかい、酒呑や)
座敷童子はそう思いながらも、ニヤニヤと葵の方を見ていた。葵はそれに気づかなかったのだが。
しかし、未だどこかで楽観視していた彼女たちの思いは、やがて打ち壊されるのだが、それはまた別の話である。
「よォまた天狗だ」
「今回は特にオレは戦えなかッたけどよォ。これでもやろうとおもッたんだぜ?でも、無理なもんは無理なんだよなァ」
「ま、次があればやるだけやるさ」
「次回はあのハンターとかいう奴がまた来るらしィぜ……いや、他にもやばそうな奴が来るような……そンなきがする」
次回、第八妖目
『闇に潜む影。少女は死神』
お疲れ様でした。次はなる早で投稿したいです