四妖目【自称ライバル蘆屋こころ】
楠木恋です。私が新月中に通うことになった時、同じクラスの神仙さんと野宮さんに誘われて新聞部に入部しました。そして、最初の活動として新月中七不思議の一つ。花子さんについた調べることに。
葵さんと協力して花子さんに会いましたが、神仙さん達が妖怪に襲われました。最初は座敷童子さんでもかなりきつそうでしたが、代わってくれた酒呑童子さんの力で勝ちました。
「あ、あの、楠木さん。本当にここが葵さんの陰陽屋なんですか?」
「嘘ついたらおよそ人に言えないことをする」
「ちょっ、野宮さん怖いこと言わないでください……ここであってますよ。絶対に」
そういう三人の少女。恋とその友人達は今、古ぼけたアパートの一つの扉の前でこそこそとしていた。
前回の花子さん騒動で葵がかなり大変なことになってると聞いたため、早速日曜日に様子を見に来たというわけだ。葵達が好きな豊ばぁの羊羹を持って準備は万端。
少しドキドキしながら、扉をノックして木がこすれる音を聞きながらドアを開け、恋が先に行き、あとから翔子達がおっかなびっくり付いていく。
そしていつのも応接間のようなところに来た時、恋はどこかおかしいと思った。なんせ、いつもの椅子に座っていたのは茶色い髪の葵ではなかった。
こちらをニコニコと見ているのは紫色の髪を赤と黄色のリボンでツインテールにして、ヘソが見えるぐらい短いピンクのシャツに緑のスカート。そして紫の靴下に赤と黄色を交互に入れた菱形の模様があり、青い布で肩の下から手首までを覆っていた。
こちらをニコニコと見ているが、どこか生意気そうな印象を受けた。とにかく恋は彼女がどういうものが気になったので、あの。と遠慮がちに質問をする。
「えっと、あなたは……?」
「あぁ、自己紹介がまだでしたね。わたし、体の不調により倒れた安倍葵の代わりにこちらでしばらく陰陽屋をさせてもらう、蘆屋こころと申します。短い間ですがどうぞご贔屓に」
またそこで彼女はニコリと笑う。悪い子ではなさそうだが、しかし今彼女達が会いたいのはこころではなく葵だ。そのための羊羹まで買ったのだ。
「あの、私達葵さんに会いに来たんです。それに体の不調ってこの前の戦いで何かあったかもですし……」
意を決して翔子がそういうとこころがガタッと明らかに動揺した音を立てながら翔子に近づく。そして、強く翔子を見つめながら、あの戦いって?と優しく聞く。目は笑ってなかったが。
「えっと……み、見越し入道だかなんとか……」
「…………ちょーっとお待ちくださいね〜」
こころはあくまで笑顔を崩さずに奥の扉へと消えていく。何事かと思った三人の耳の中に次の瞬間聞こえてきたのはこころの怒声であった。
三人はしばらく扉越しに聞こえるこころの怒声をなんとなく正座しながら聞いていたが、その怒声が止んだ頃こっそりと奥の扉に近づいてゆっくりと開ける。
そこにいたのは肩で息を吸っているほど疲れているこころとベッドの上でぼーっとして、こころの声を半分以上無視している葵の姿であった。
「あんた……何考えてるかわかってるの!?さっきから何回も言ってますけどね……陰陽屋とあろうものが陰陽師としての仕事をしてるところを見つかったらダメって教えられたでしょう!」
「仕方ないじゃないですか。見られないと助けられなかったんですよ。眼の前で人が困ってるなら助けないといけないってお母さんに習いませんでしたか?私は習いました」
「ん〜!!それとこれとは話が別!仕事をしてるならそれを守ってでも助けるのがわたし達プロでしょ!」
「……うるさいなぁ万年ヘソ出し発情女……」
「なんですって……!!」
「私だって見られたくなかったの!でも仕方ないじゃない!見られちゃってたんだもん!一回見られたらもうどうでもよくなったし!!」
「キーッ!!座敷童子さん!この子どういう教育してるんですか!!」
恋達が来たというのにそれに気づかないほど口論をヒートアップさせていく葵とこころ。見たことのないような葵の言葉遣いに少し苦笑いをこぼしてしまう恋。確かに子供っぽい。
「おーおーおー。お前さんがた少し盛り上がりすぎだ。祭りはまだ早いだろ?」
「そうは言ってもね酒呑……こほん。そうですね。少し盛り上がりすぎました」
葵は酒呑童子の制止に一瞬噛み付いてやろうかという顔を浮かべるが、恋達の姿が目に入り慌てて元に戻す。
こころはまだ不服そうだが、仕方ないというように大きくため息をついて葵と同じベッドの上にドカンと座る。
「わたし達今から大事なお話するからあんた達は応接間で待つかもう帰りなさい」
「えっ、でも……」
「いいから!これは例えるなら大人のレディーの会話なの。あなた達子供は帰った帰った……お願いします酒呑童子さん」
こころがそういうと酒呑童子はりょーかいと短くいい、恋達の背中を押して部屋から出して扉を閉めた。
残されたのは葵とこころ。それと座敷童子の三人。葵達はお土産の羊羹をつまみながら、こころの言葉を待った。
「安倍葵さんも気づいてるでしょうけど……最近妖怪が凶暴化してるっての。知ってる?」
「ええ。最近退治した妖怪には、人に直接危害を加えることがない妖怪も多々いました」
「確かにのぉ蟹坊主はまだしも……おさき狐と見上げ入道は、自分から危害を与えるような妖怪ではなかった……」
「ええ……このことから推測されるに……何かが妖怪達を裏で操ってるような気がするの。人を殺したりすることで得られる恐怖のエネルギーを集めて」
「でも……そんなことしてなんになるのでーーー」
「ぬらりひょんの復活……と言えばわかるかしら」
こころがぬらりひょんと呟くと二人が顔を青く染めておし黙る。ぬらりひょんという単語はそれほどまでに彼女達にとっては重要であった。
こころはその二人の反応を見た後、滑るように口からさらに情報を出す。日本各地で今まで以上に妖怪が暴れてるということ。人に利益を与える妖怪も同様であること。そしてそのエネルギーがここ、新月町に集まっていること。
「で、でも……ぬらりひょんは……」
「ええ。安倍葵さんの父上が倒して封印した……でもこれが現実なの」
そういうと葵はボフンとベッドの上に顔を埋めてウーと唸る。ぬらりひょんの復活はは彼女達にとってはハルマゲドン、恐怖の大王と同じである。
それを葵の父は死に物狂いで退治しそして、それ以降葵の父の音沙汰はない。便りのないのはいい便りとよく言うが、皆諦めていた。
しかし、葵の母は諦めてなく、葵に陰陽師のやり方とここのアパートを残して何処かに行ってしまった。葵はいつか二人が帰ってくると信じてこのアパートで陰陽屋をしているのだ。
だからこそ、ぬらりひょんの復活というのは葵を深く意気消沈させた。逆に言えば父はあの時負け、そしてーーー
「……復活までは時間はあるはずですよね。こころさん」
「ん?……まぁ、そうでしょうね。百を零にするのは簡単だけど零を百にするには時間がかかるわ」
「でしたらぬらりひょんの復活までに……酒呑童子さんの扱いになれるか……アレを使うしかありません。安倍家と蘆屋家と天狗が共同して封印している……」
「妖刀ムラマサのことか!?葵それは無理に決まっておろう!!アレを扱えた奴はお前の両親と安倍晴明様ぐらいしかおらんぞ!!」
「でも!それを使わないと私はぬらりひょんに勝てないんですよ!……私の力は、私がよく理解してるつもりです……それを踏まえた上の、判断です」
「はいはい。そういうことはあとで決めましょうね。安倍葵さんも、座敷童子さんも険悪なムードはダメダメ……これだから安倍家は……まぁいいわ!早く応接間にいる子たちにあいにいきなさーーー」
ガシャン!
こころがそう言った瞬間応接間の方から大きな音が聞こえた。そういえば酒呑童子の姿がなく、それと聞こえる応接間の騒ぎの音。
葵は慌てて体の痛みも忘れながらドアを開ける。そしてその扉の向こうで行われてる事態を見て口をアングリとあけて、ぽかんとそれを見る。
「なんじゃありゃ……」
葵の後ろから覗き見た座敷童子も先ほどまでの声もどこへやら、呆れたような声を漏らす。そこにいたのは酒呑童子と恋達だが、予想と反して酒呑童子は馬乗りされていた。それも、乗ってるのは目をハートにしている翔子であった。
恋と宇治は翔子をなんとかして酒呑童子からひき剥がそうとしているが翔子はテコでも動かないように、ビクともしない。
「酒呑童子しゃん……ムキムキきんにきゅ……しゅてき……密着取材したい……!!」
「かっかっか!まさか中坊に好かれるとはな!人生も捨てたもんじゃねぇな!いやぁ、愉快愉快」
「ちょっ、野宮さんこれはいったい……!力強すぎませんか……!」
「翔子は前から筋肉とかが好き……!目の前に筋肉があって耐えられなかった……!それに気付けなかったのは私の不覚……!!」
ある意味地獄より恐ろしいその光景を前に、葵はただただ絶句する。その後ろでこころはくすくすお腹を抱えて笑っていたのであった。
◇◇◇◇◇
「そんじゃま、お邪魔しましたー」
と言いながらアパートから出て行くのは蘆屋こころ。どうやら葵の筋肉痛はほぼ治ってるものと判断したので帰るようだ。
空を仰ぎながら、彼女は大きく伸びをした後、コツンと、古びた鉄を踏むような音を出しながら、こころは一段一段階段を降りていく。
「そろそろ出てきたらどう?化け狐」
こころがそう呟くと、後ろにだんだんと何かの姿が形を成していく。少年か少女かわからないような中性的な顔立ちで、カフェエプロンのようなものをつけていた。目は茶色で、黄色い髪。そして狐の耳と尻尾のようなものが生えていた。
そんな彼が、トテトテとこころの横まで走り寄る。こころはちらりと彼に視線を送り、尻尾と耳を隠すように耳打ちする。それを聞き耳と尻尾を消すと、完全に人間の子供と瓜二つとなった。
彼はこころがそう呼ぶように、化け狐である。性別は化け狐曰くどちらでとなれるらしいが少年であるときのほうが多いため、便宜上は彼とよぶ。
「お嬢様。今回はもうよろしいのですか?」
「んー?まぁ、いいんじゃない?葵さんも元気だし……伝えることは伝えたわ。それに、あまり近くにいたくないし……」
「およよ……化け狐は悲しゅうございます……昔はお互いのことを呼び捨てで呼び合うぐらい仲が良かったのに……」
そう言いながら何か布のようなもので涙を拭うふりを始める化け狐に、こころは大きくため息をついたあとその布のようなものに視線を注ぐ。
ハンカチのように見えるが少し形がおかしい。それをよく見てみると、それは青と白の縞々模様のーーー
「って!あなた誰のパンツよそれ!」
「葵様です。喧嘩をしてらっしゃる時にちょちょいっと」
「ばかっ!この……とにかくバカ!もう、わたしのハンカチ使いなさーーーってあら。ハンカチがない……置いてきちゃったかも……」
そこまでいって、こころはまた大きくため息をつく。やはり葵といてはペースが多少乱されてしまう。今後近づくことがあった時のために何か対策がいるかもしれない。まぁ、どちらかといえば化け狐のせいだろうが。
化け狐は葵のパンツに鼻を近づけてクンクンと匂いを嗅いでいるのを見たこころはどうしようか悩む前に思い切り腹をどついて、パンツを取り上げる。
「全く……後で返しに行かないとね……ん?ねぇ、化け狐。あそこみて」
「了解ですお嬢様!」
そう言って化け狐はこころが指差す方向……ではなくスカートの中に顔を入れて目の前にあるパンツを凝視する。
「スーハースーハー!!お嬢様から感じる少し酸っぱい香りが私の鼻腔をくすぐりまーーー」
「ばっ、ちょっ……ちっがーーう!!」
こころは顔を真っ赤にして、化け狐に思い切り膝蹴りを見舞う。顔にめり込むほどの勢いをつけたため、化け狐は鼻を抑えて倒れ込む。
こころは肩で息をしながら化け狐の持ち上げて顔を強制的に前に向けて指を指した方向を見せた。
そこは川。普通の川だったが、その川の近くで和服を着た少女が糸を巻いていた。それを見たこころはどこか怪しい雰囲気に視線を集中していた。
「あんなところで糸を巻く……何でかしらね」
「さぁ。もしかして私を誘ってるのかもしれません。どこかの国ではそういう奴があるのかも……」
「ないわよバカ。でもアレね……少し気になるわ」
そう言いながらこころは化け狐をひきずりながら、その少女のところまで近寄る。近寄れば近寄るほどその美しい顔に見惚れていきそうになる自分に、気づかないふりをする。
「ねぇあなた。こんなところで何してるの?」
「……おや、何をしてるなんておもろいこときくなぁ……うふふふ」
少女はそう妖しく笑い、ジッとこころを見据えてきた。こころはそんな彼女の目を見るとどきりと心臓が跳ね上がるのに気づく。
「うふふ。もしかしたらうちはあんさんに会いたかったのかもしれんなぁ……かわいらしいお顔やし……」
「なっ、何を言って……」
明らかに動揺するこころ。そんなこころを子供を見るような優しい目で見て、そっと唇を近づけーーー
パシッ
そんな少女の首根っこを化け狐は引っ張る。それを見たこころはハッとして少女から飛んで離れて、自分の顔をぱしんとやる気を入れるように叩く。
「ごめん化け狐。少し油断した」
「ええ。仕方ありませんよ。なんせ彼女は……」
「おやおや。ウチの正体に気づきんしゃったん?なんや、いうてみぃ……?」
「余裕綽々かしら?……はぁ……川で糸を巻いてるあたりで気づくべきだった……」
そう自嘲気味に笑ったこころはピシッと相手の顔に向かって指を刺した。そんな中でも少女はくすくす笑っていてそれがこころは少し気に食わなかった。
「あんたの正体はわたしは確信してる。そうでしょ?『川姫』さん」
そうこころが言うと、少女、川姫はまたくすくすと笑っていた。何がおかしいのかわからなかったが、こころは少し身構える。
「あんさん、陰陽師やろ?ウチ、わかんねんな……うふふ。まぁこれもある意味運命かもしりゃあせん。まさかぬらりひょん様のためにはるばるここにやってきたら最初に邪魔な虫を見つけることができたんやからなぁ」
「ぬらりひょん……あなたもしかして!」
「……うふふ。まぁええわ。ウチはあの人みたいに戦わんタイプやさかい……というわけで、後は頼むで牛鬼はん」
川姫がそうパチンと指を鳴らすと、川が突然せり上がる。川の水を浴びないようにこころは距離をとり、そこに現れる巨大な影を見る。
体は蜘蛛のようで、しかし顔はよく知れ渡っているような鬼のような顔であり、それがこちらを睨んできている。そして目には精気が見られなかった。
「うふふ。うち、サトリはんみたいに妖怪を操るのが得意なんや。というわけでまたあいまひょ」
そう言って川姫は川に潜ってどこかに消えていった。それを追いかけようにも、目の前の牛鬼がこちらを見据えてたためどうしようもない。
すると突然牛鬼が吠えたかと思うと、口から大粒の火の玉を吐き出してきた。こころは小さく舌打ちをして、化け狐を掲げた。
すると化け狐がドロンと煙を出して形を変えて9枚の札となる。こころの手の中に入る。
そしてそれをこころはパッと上に投げる。それは縦の円の形になるようにこころの周りをくるくると回りはじてて、光り輝く。そしてこころは威勢良く声を上げた。
「臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前……憑依!!」
そうこころが叫ぶと彼女の周りに赤、青、緑、黄色の炎が現れ、彼女を包むように回転して収束していく。牛鬼の攻撃をはじき返し、牛鬼は驚きで一歩飛んで距離をとる。
炎はしばらくで続けていたが、中から何か刃物のようなものが出てきて、その炎を真っ二つにまるで紙を切るかのように切断する。
その中から現れたのは可愛らしいヘソがチラリと見えるぐらいの短さの真ん中に狐のマークがある黄色い服を着て、カフェエプロンのようなものをつけており。さらに狐の耳、狐の尻尾をつけて、黄色い髪をツインテールにまとめていた。
その小柄な体型のほぼ倍の長さがある薙刀を手に持っている少女はその得物の感じからは想像がつかないぐらい、ニコニコと笑っていた。
「さて、お先に私の自己紹介を。私の名前は化け狐。主人はこのウサギのパンツを履いた最近胸が大きくなる方法を調べているこころお嬢様でございます」
【ちょっ!何言って……というかなんでしってんのよ変態!エロ狐!!】
「私、お嬢様のことはなんでも知っております。スリーサイズから自分を慰めてる回数や生理の日とか。匂いでわかります」
【%$+〆|°##$¥☆♪×<\:〜〜〜ッ!!もういい!早くあの妖怪倒しなさい!】
「御意。では、狩られる側が狩る側になった時の恐ろしさ。身をもって知ってもらいましょう」
化け狐はそう言ってダンッと牛鬼に向かって一直線に駆け出す。牛鬼は低く唸った後、口から何発もの火炎の球を吐き出していく。
化け狐はそれを一発一発丁寧に避けていく。しかし、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるということわざ通り、化け狐の片足に命中して、片膝をつく。
これ好機にと牛鬼はさらに火炎を出し続ける。しかし、化け狐は少しも焦る顔を見せずに手を前に突き出す。すると化け狐の手から大量の水が放出された。
「ウルトラ……もとい、化け狐水流でしょうか、ね」
火炎をかき消し化け狐はまた走り出す。牛鬼は攻撃しようと顔で化け狐を追うが、先ほどとは比べ物にならない速度で化け狐は動いていた。そのとき緑色の炎が化け狐の足についていたが、牛鬼はそこまで頭が回らず適当に火炎を乱射した。
ガキン!
いつの間にか近くにいた化け狐が薙刀を振り下ろすが、牛鬼の硬い甲羅の前では満足いくダメージを与えられず、弾き返されるだけであった。地面に降り立ち、また武器を構える。表面上は余裕を保ってるようだが、こうも決定打がないとうまく戦えない。
牛鬼の方はというと顔も心も余裕が出てきたようでニタニタと笑っていた。それが気にくわないのはこころも化け狐も一緒であったが、その場から動けないでいた。
「どうしましょうウサギパン……お嬢様。あの憎たらしい顔に一発ぶち込んで殺りたいのですが」
【あんた……わかったわ。わたしの事はいいから思いっきり殺っちゃいなさい!」
「御意!!」
化け狐はそう声をあげ、クルクルと薙刀を回す。牛鬼は少し何かくるかと予想するが、それよりも先に倒せばいいと考えて、また火炎を吐く。
ドォン!大きな爆発を起こして火炎が炸裂した。牛鬼は仕留めたと思いニヤリと笑う。しかし、先ほどまで化け狐がいたところに、化け狐の姿形はなかった。牛鬼はキョロキョロと顔を動かしてどこにいるか探す。
そして見つけた。化け狐は大きく空に飛んでいたのだ。太陽を背にしてこちらを睨みつけていて、牛鬼は少し萎縮する。しかし、自分が負けるはずはないという甘い考え。それが牛鬼に攻撃をさせる要因となり、さらにそれが牛鬼の負ける要因ともなる。
ゴォン!先ほどより大きな火力で火炎を吐き出す牛鬼。しかし、化け狐は慌てる様子なく片足を大きく上げて薙刀を構える。その薙刀には先ほどの4色の炎がまとわりつき、轟々と音を鳴らし出す。それが薙刀の先端に集まり、4色の炎が綺麗に混ざった瞬間、化け狐は大きく目を見開いた。
「隕石一閃!!」
そう叫ぶやいなや、化け狐は全身を大きく拗らせてその勢いを乗せ、薙刀を牛鬼めがけて投げ飛ばす。四つの炎を纏うその薙刀はまさに隕石の如く、まっすぐ突き進む。
それは牛鬼の火炎をかき消しながら突き進みやがて、牛鬼の顔に突き刺さる。それでも勢いはやまず、徐々に深く刺さっていく。
「化け狐ーーークラッーーーシュ!!」
しかしそれで終わらない。化け狐は今なお進む薙刀に蹴りを入れて、勢いを加速させる。そのまま真っ直ぐと突き進み、やがて牛鬼を貫き大きく爆発する。
「さて、元の世界におかえりなさい、牛鬼さん」
化け狐はそう言って札を一枚はる。やがて牛鬼の姿はみるみる消えていき、そこには何も残らなかった。
「くっ……つっ……ふぅ。お疲れ、化け狐」
「お嬢様も。あの技はお嬢様の体に大きな負荷がかかりますゆえ、あまりしたくはなかったのですが……」
「なぁにしおらしくなってんのよ。勝てたからいいの。それに一度契約した妖怪とはもう契約を切らない。それが、蘆屋流でしょう?」
そう言って変身を解いていたこころは大きく伸びた後芝生の上に倒れこむ。風が疲れた体を癒してくれて、どこか心地よかった。
化け狐はこころの隣にちょこんと座った。しばらくそんな二人を優しい風が撫でていた。が、突然こころの携帯が大きく鳴り響く。
なになにとこころは穏やかな気分を邪魔された事に対するイライラを込めながら携帯を開ける。すると携帯にメールが届いており、短く簡単に業務的な文章が送られていた。
「え……う、うそ」
「どうしたのです?お嬢様?もしやエロサイトの詐欺に引っかかりました?だからあれほど突然広告が来るからサイト開いたらちょっと時間を置けと……」
「違うわよ!だー!もう!おばあさまは一体何を考えてるのよ!!」
ウガーというようにこころは芝生の上でしばらくジタバタした後、スクッと立ち上がり芝生の土手を上がっていく。化け狐は少し悩んだ後慌てて心を追いかけて行った。
化け狐は、風は少し荒れているような印象を受けながら、こころの背中を見ていた。
◇◇◇◇◇
「あらぁ。牛鬼はんが……こりゃあきまへんなぁ……うふふ」
「なにがあきまへんなぁ。にゃ!あんたは最近変なことしすぎだにゃ!もっと真面目にしないかにゃ」
川姫はあの後、実は牛鬼の戦いを遠くの方で見ていた。そしてそんな川姫に噛み付くようにしゃべる少女はピンクのドレスに身を包んでいた。
川姫は変わらずくすくすと笑っていたが、こころの後ろ姿を追う目は笑ってはいなかった。
その近くでピンクのドレスを着た女性がにゃーにゃー騒いでいて、川姫はそれをみて、子供を見るようにまたうふふと笑ったのであった。
◇◇◇◇◇
「よしっ、今日から真面目に頑張るぞい」
「何言ってんるんじゃお主」
あの後数日後、葵の筋肉痛は完全に引いた。最初は心配していた酒呑童子はやがて居心地が悪かったのか、それとも外に遊びたい欲求から逃げられなかったのか、何処かに行って今はいないのだが。
葵はいつものように豊バァの羊羹をかじりながら何か文章を書こうかと考える。しかしここ最近特に何もしてなく、あったことといえば葵の下着が一枚なくなっていたことであった。
そんな中ピンポンというチャイムの音とコンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。葵は恋達か、それとも酒呑童子が帰ってきたと思い扉をガチャリと開ける。
「やっほー」
「……どうしたんです?万年ヘソ出し発情女」
扉の前に立っていたのはまさかのこころと化け狐であった。こころは葵の言葉にピクリと頬を動かすが、平静を装いつつ何か箱を差し出す。
「なんですかこれ?毒?それともポイズン?」
「それ、どっちも毒じゃないの……まぁアレよ。この隣にわたし引っ越してきたから。中身は確かプリンよ」
「……成る程。隣町からこれを持ってくるなんて。蘆屋はお金持ちですね」
「違うわよ。わたしが来たのはここの隣。あんたの隣室よ。よろしくね、葵さん」
こころはそう言って去っていき、確かに隣の部屋に入りドアを閉める。葵はポカンとこころの後ろ姿を見つめていた。
座敷童子はというと葵から粗品を奪い去り、ルンルンとした顔で箱を開けていた。バリバリという音が聞こえるたびに、葵の中で何かが崩れていうよくな感じに襲われていく。
「……おい、葵。あったぞ」
「……何がですか?」
葵は扉を閉めて座敷童子の近くに寄る。座敷童子が見せたのは青の縞々模様の……
「主のパンツじゃ。よかったの」
「………………」
「葵?おーい、小娘やーい……ありゃ。こりゃ、気絶しておるなぁ……」
座敷童子はそう呟いたあと、粗品の中にあるプリンを一つ食べはじめた。とろける食感を今一番えたいのはおそらく葵だろうが。
座敷童子は一つ食べた後、満足そうな顔をしてとりあえずといった感じに葵の下着をタンスの中に片付けてプリンを冷蔵庫に入れたのであった。
「わたしよ!蘆屋こころよ!いやぁ、今回はわたしの大活躍だったわね〜!でもまさか葵さんの隣に引っ越すことになるなんて……はぁ。おばあさまは何を考えてらっしゃるのかしら……まぁ、あの偉大なおばあさまのことだし、何か考えてるんでしょうけど……そういえば化け狐が居ないわね」
「まぁいいわ!次回は……えっ?特別編?人気ないくせにコラボっちゃう?……チャレンジ精神だけは買うわ」
(そんなお嬢様のパンツは猫さんでした)
「……なんか今声が聞こえた気がするんだけど……」
お疲れ様でした。アレですね。作者が変態じゃないから変態に描くの難しいですね