十二妖目【酒呑童子敗れたり!?】
どうも、恋です。
前回、葵さんは石にされてしまいました。しかし、座敷童子さんの機転によって外からではなく内から呪いを解くというのを試みました。
私は酒呑童子さんを探しに行き、そしてどうにか彼に葵さんを助けにいってもらいました。
その後どうなったかはわかりません。でも、楽しそうな顔をみたら、わかっちゃますね。
……少し、羨ましいです。
今は梅雨というじめじめした空気だというのに、長袖のワンピースを着ている女性がブツブツと文句を言いながら歩いていた。コスプレとも取れる猫耳とねこのしっぽが特徴的な彼女は猫又という。
そしてそんな彼女の後ろから、金髪のどこかチャラチャラした男性が付いてきていた。猫又は度々後ろをみてはその少年に聞こえるほどの大きなため息をつく。
「ちょっとちょっとねこま〜ちゃんさっきからため息多いよ〜そんなんじゃ幸せがどこかいっちゃうゾ☆」
「うるさいにゃ。にゃーはお主みたいにゃチャラチャラしたやつは嫌いにゃの……全く。本当にお主はぬらりひょん様の復活を願ってんのかにゃ?」
そう猫又がいうと少年は大きく笑いながら、キザったらしいポーズをしながら、もちろんといった。
「モチのロンしょ〜なんたってぬらちゃんはオレらの大将でしょ〜じゃ、復活しなきゃダメダメじゃ〜ん」
「本当に願ってんのかこいつ……」
思わずキャラを忘れるぐらいの声を漏らして、猫又はまた大きなため息をつく。
ドン
「うにゃ……すまんにゃ、前見てなかっ……た?」
ため息をついて前が見えてなかったのか、突然人にぶつかられる。猫又がとりあえず謝罪の言葉をいうと、ぶつかってきた影には見覚えがあった。
その影は片目を包帯で隠して、身体中が汚れでボロボロになっている少女。そんな彼女はどこか虚ろな目で猫又を見上げる。
「お主、死神じゃないかにゃ。何してるにゃこんなところで」
「猫又お姉ちゃん……ううん。すこし、散歩してただけ」
「散歩にしてはボロボロすぎにゃしないかにゃ。それに、なんか臭うにゃ……スンスン……これは、アンモニア的な……まさかお主!」
「……ごめんなさい」
「謝らなくていいにゃ……にゃるほどにゃ。だから帰って来なかったにゃね」
猫又はそう言ってウンウンと頷いていた。死神にとってはどうにかして誰にも見つからないように処理したかったことを猫又に言い当てられて恥ずかさと悲しさがごっちゃになって頭の中をぐるぐる回る。
ふと気づくと、猫又は死神の手を握って歩き出していた。そして、キョロキョロと何かを探すそぶりを始めるか、死神にとっては突然手を握られたことの方が驚いてしまう。
「にゃぁ……あのチャラ男。どこか行きやがったにゃ……」
「ね、猫又お姉ちゃん?どこ行くの……?」
「お主の祖々の後始末ができそうなところにゃ。全く……あの鬼童丸とか言う奴、ほんとうににゃぁ達の助けににゃるのかにゃ?」
そう言いながら猫又は死神をどこかに連れて行く。死神は、とりあえず、このまま流れに身を任せようと思って、猫又にピタリとひっついて歩き出した。
◇◇◇◇◇
「うーん……」
いつもの陰陽屋の事務所で、茶髪の少女、葵が腕を組みながらパソコンとにらみ合っていた。ぎこちない手でスクロールさせるサイトは、あのハンターのサイトであった。
何が気になるかというと、ハンターのサイトの更新が最近多いのだ。ここのサイトの更新があるということは、ハンターがそして、天狗が慣れた手つきでそのパソコンを操作し始める。
「そういえばどうして天狗さんはパソコンの扱いが上手いのですか?」
「ン?あァそりャ簡単だ。これしかすることがなかッたからだな」
「……なんかごめんなさい」
「謝ンなッての。別に質問しただけで悪いことはしてねェンだから。ま、強いていうならオレ自身の責任だからなァ」
そういう彼の顔はパソコンではなく、どこか遠いところを見ているように見えた。やはり、天狗の山の思い出は結構多いのかもしれない。
そういえば河童も元々は川から来た妖怪。今度里帰りみたいなものでも企画しようかと考える。前一度聞いた海の姫なるものにも会ってみたかった。
そういえばと、葵は酒呑童子の事を思い浮かべる。彼には親族と言えるようなものはいるのだろうか。ただでさえ、鬼という希少な妖怪。たまに彼の口から茨木童子という鬼の名前は聞くが、それはどちらかといえば仲間であろう。
今度聞いてみようかと考えながら、葵はパソコンをシャットダウンする。何故なら、あまりつけすぎると座敷童子がガチギレしてしまうから。
とまぁ、そんな感じに葵の一日はすぎて行く。座敷童子は今は買い物に。酒呑童子は奥の部屋でグースカいびきをかいて寝ていた。
することはないというのはかなり暇である。今日は久しぶりに閑古鳥が大鳴きしてしまっていて、何をしようかと考えながら席を立つ。
「うーん……そうだ、久しぶりに豊バァの所に行こうかな……」
「豊バァ?」
「えっと、私の行きつけの和菓子屋さんの店主のおばあちゃんです。人が良くて、味もいい。素晴らしい所です」
「成る程なァ……オレも少し食べてみてェな」
「買ってきましょうか?その代わり、お留守番お願いできます?」
「おォ。任せとけ」
そう言いながら天狗はパソコンを立ち上げた。それをみた葵は、あまり使いすぎると座敷童子に怒られるという事を天狗に注意して、玄関のドアを開ける。
ドアを開けた瞬間、ジメッとした空気が葵に襲いかかる。葵は思わず外に出るのをやめようかと考えたが、豊バァがつくる羊羹の味を思い出して、歩き出した。
「あ、安倍さん。こんにちは」
「おや、れ……楠木さん達ではないですか。どうしたんです?」
アパートの階段を降りると、そこには見慣れた学ラン少女の恋と彼女の部活仲間である翔子と宇治が立っていた。どうやら、葵に何か用があったらしく、葵はその要件を聞いてみる。
「いやぁ、素敵な雄っぱゲフンゲフン。酒呑童子さんに少しインタビューを……と思ったんです」
(翔子さんが当然「雄っぱい成分がたりねぇ!」とか言ってたことは黙っておこうかな……)
そんな翔子の不純な動機があるとはつゆ知らず、葵は律儀に今どこにいるかわからないと3人に伝える。
「安倍は今からどこに行く?どこか嬉しそうだが」
「ん?あぁ、豊バァって言う人が経営している和菓子屋さんに買い物に行こうかな、と」
「豊バァ……あ!あのとても美味しい和菓子屋さんですね!……久しぶりに食べてみたいな……宇治さん達、いきませんか?」
翔子がそういうと皆が顔を見合わせて、ウンウンと頷く。それほどまでに、豊バァの羊羹というのは魅力に溢れているのだろう。
そんなこんなで四人は豊バァの和菓子屋に足を進めた。道中、翔子が道端にいた筋肉が多い男性に絡もうとしたりしたが、そんな苦難を乗り越えて、四人は豊バァの和菓子屋にやってきた。
ガラガラと扉を開けると、和菓子の甘い匂いが漂ってきて、思わずここまでくるために感じたものを忘れることができた。
「豊バァ!いますかー?」
「あら!この声は葵ちゃんじゃない……ちょっとまってて、今手が離せなくて……あ、しーちゃん。行ってくれる?」
「はーい」
そんなしーちゃんと呼ばれたあと、女の子の声が聞こえてきて、奥の部屋からその声の主がやってきた。そして、その少女と葵達の目があったとき、ピタリと固まってしまった。
そのしーちゃんというのは服装こそいつもと違うカジュアルな感じなのだが、片目を隠す包帯、そして紫の長い髪。いつものような無表情な顔には、葵と恋はとても見覚えがあった。
「し、死神……!?何でここに……!」
そこにはどこか毒気が抜かれた、死神と言う名のしーちゃんがいたのであった。
◇◇◇◇◇
新月町の中、一人の金髪の少年と同じように金髪のギャルのような少女が道を歩いていた。
「いやぁ、きっちゃんすごいね!!この町の中で初めてきっちゃんみたいな男に会えてまじあげぽよ!」
「うんうん!オレも君みたいな超絶可愛いプリティガールに会えてあげぽよだよ☆!」
会話はどう聞いてもとても頭が悪くなる内容だが、当の本人の二人はとても楽しそうだった。
きっちゃんと呼ばれた少年はギャルの方をちらりとみて、にひひと笑いかける。それをみたギャルは顔を赤く染める。
「本当、この町あまり私みたいな人がいなくてさ……毎日が退屈なんだけど……あんたみたいな人がいて嬉しいよ」
「うんうん☆オレも君みたいな可愛くて美しい子かいて本当に……本当に嬉しいよ」
そう言う彼の顔は、笑顔だったが言葉の端に少しギャルの少女は恐怖に近いものを覚えた。しかし、すぐに頭を振ってその思いを消す。
ふと気づくと人気のない所に二人は立っていた。いつ、どうやってここにきたかはギャルの少女にはわからない。しかし、今まで経験してないようなことが起こるような、そんな雰囲気があった。
少しドキドキしながら、チャラ男の方を見ると、彼はどこから取り出したのか、日本刀のようなものを持っていて、こちらに笑いかける。
「本当ははやくぬらちゃんのところに行かなきゃならないんだけど……まぁこれぐらいの寄り道は許してくれるよね」
「あ、えっと……」
「そうだ。一つ質問しちゃうよ〜☆女の子の一番美しいところは、どこかわかルン?」
チャラ男はそう言ってニコニコとこちらに近づいてくる。ギャルの少女はなにか、恐ろしいものを感じて、逃げようとするがなぜか足が動かない。
兎に角少女はわからないという意味を込めて頭を横に何度も降る。彼はそれをみて、大きくため息をついて、少女の髪の毛に手を伸ばした。
「オレはね、髪の毛が一番美しいって思うんだ☆だからーーー」
彼がそう言った瞬間、ザンッと何かを斬るような音が聞こえて、少女は目を瞑る。そして、それが少女が見た最後の光景になってしまった。
ボトン。と地面に落ちた少女だったものを見ながら、少年は小さく笑い、髪の毛を小さな袋の中に丁寧に入れて、その場を去っていった。
「さて、と。少し遊びすぎたね☆……そうだ、ぬらちゃんに会う前に会いたい人がいるんだよね〜☆それにもともとその妖怪に会う予定だったからね……うん。何も問題ないね……まっててねマイファザー☆」
そういって彼は歩き出す。もう人通りが多いところにいた。先程の残虐な行為をしたとは思えないほど、もう日常に彼はすっかり溶け込んでいた。
◇◇◇◇◇
「えっと、お待たせしまし、た」
そんなたどたどしい態度で死神は和菓子を葵達に渡す。葵は少し迷った後、和菓子を翔子達にポンと手渡した。
「申し訳ございませんが、先に帰っててくれませんか?ちょっとしーちゃんとおはなししたいので……」
「あ、わ、私もお話しし、したいです!から、あの、その……」
そう、葵と恋に言われて、翔子達は顔を見合わせる。そして何かを察したように笑顔になり、二人は先に帰っていく。それを見送った後、改めてしーちゃんこと死神の方を見る。
彼女は、モジモジとしていて、本当に今まで戦った死神と同じ妖怪なのかと、疑問に思うほどであった。が、彼女も葵のことを知っていたため、あの死神に間違いはないだろう。
「死神さん。なんで、豊バァのお店にいるんですか?」
「……か……ら……」
「……?なんですか、死神さん」
死神は恥ずかしそうに下を向く。今までと違うような彼女の行動に、葵達は顔を見合わせた。そして、死神は意を決したように、口を開けた。
「ここの、和菓子が美味しかったから……でもお金ないから、その為にここで働かせてもらってるの……」
そう言われて、二人はまた考える。もしかして豊バァの願いがそれかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。本当に自分から働きたいといったのだろうか。
「えっと、どうしてここにいるのです?」
「……色々あって、私の仲間が連れてきてくれたの。その時に豊お姉ちゃんがくれた和菓子が美味しくて……」
「今に至る。というわけですか」
葵はそういって腕を組む。はっきり言ってこの話を信じろという方が難しい。なんせ、相手はあの死神なのだ。
もし、豊バァに危害があると考えると、彼女を引き離した方がいいのだろう。しかし、彼女は親戚の手伝いきてる女の子というような風に見えた。
「安倍さん、死神さんはきっと大丈夫だと思いますけど……」
「……そう、ですか……」
「……信用できないかもだけど、私は豊お姉ちゃんを襲わない。これは、本当だよ」
そういう死神の目を見て、葵達は何かを確信して二人はコクリと頷いた。
恋がヨシヨシというように死神の頭を撫でる。死神はとても嫌そうな顔をしていたが、先程ああ言ったからか、されるがままとなっていた。
暫くすると奥の方から豊バァが死神を呼ぶ声が聞こえてきた。死神は返事をして、葵達の背中を押して店から押し出していく。
和菓子屋の外に出されてしまい、二人は道を歩く。とりあえず、豊バァに危害を与えることはなさそうと思い、ホッと胸をなでおろした。
「安倍さん、良かったですね……?どうしましたか?」
「ーーーつっ、いや。なんでもないです。少し、頭痛が起きただけで……」
そう言って葵は頭を抑える。恋がもう一度大丈夫かと聞こうとしたら、遠くの方から人が歩いてきたのが見えた。
「グゥッ!?」
「え。だ、大丈夫ですか!?」
向こうから来ているチャラそうな少年を見て、葵は顔を苦痛に歪めて地面にうずくまる。恋は葵とチャラ男の顔を交互に見て、どうしようかと考える
。
「あれ!可愛いお嬢さん大丈夫かい?」
「つぅ……い、一応は。だんだんと慣れて来ました……」
「そうか☆それなら良かった……あ、そうだ。オレいま探してる奴がいるんだけど……知らないかな?えっと……」
そう言って彼はあごの下に手を置いた。葵はゆっくりと立ち上がり、少年の言葉の続きを待った。
「マイファザーなんだけど……えっと……そうだ!思い出した!!酒呑童子って言うんだけど……知らない?」
酒呑童子という名前を聞いて、二人は顔を青ざめる。そして、目の前の少年がいつのまにか取り出した日本刀を構えていた。
「貴方、何者なんですか?」
「オレ?オレはね鬼童丸っていうんだ……知らない?」
鬼童丸という少年はそう言ってあははと笑う。普通なら人懐こいような笑顔だが、彼が構えている日本刀から、とても禍々しいものを感じ取れた。
彼が一歩歩くと、葵達は一歩後ろに下がる。ジリジリと距離を縮められて行き、鬼童丸はかちゃりと日本刀を抜き出す。
「オレね、こう見えて妖怪の用心棒やってんの。んで、今回の依頼はぬらちゃんを助けろって。確か、小さな女の子の声だったね☆うん。まぁそんなことどうでもいいかっ!!」
そう言って鬼童丸は日本刀を振り抜いた。二人は慌てて地面に伏して、その頭上を剣筋が通り抜けていく。
横を見ると、石垣が真っ二つに切断されており、もしアレに斬り裂かれたらどうなるかと思うと、二人はぞっとする。
「あ、あの……話し合いを……!」
「何言ってんの?話し合いってのは対等の存在でやっとできるんだよ。キミとオレは対等じゃないから、無理……というか、早く出て来てよ〜マイファザー。じゃないとこの二人殺しちゃうよ☆」
鬼童丸がそういうと、奥の道の角から一つの影が片手にビニール袋を持ちながら、こちらにやってくる。その影を見て、葵達は思わず声かを出した。
「酒呑さん!遅いですっ!!」
「そうそう。気配感じ取れたんでしょ?じゃ、早くこっちに来てよマイファザー☆」
「まぁな。とりあえずコンビニの安い瓶酒はあんま旨くねぇのな……で、さ。さっきからマイファザーマイファザーってんけど……」
そう言って酒呑童子はめんどくさそうに頭をぽりぽり掻きながら、鬼童丸の方を指差して、言いにくそうに口を開ける。
「お前さん、誰だよ?」
「ーーーそっか。オレが産まれる前にマイファザーは退治されちゃったもんね……マジさげぽよ……まぁいいや。じゃ、改めて自己紹介。オレは鬼童丸。マイファザー……あー、酒呑童子が、俺の母さんと交わって、そして産まれた、妖怪と人間のハーフだよ!よろしくね☆」
「交わって……て……」
「うん。俗にいうS○Xだね☆」
鬼童丸がそう言うと、葵と恋が酒呑童子に冷たい視線を向ける。酒呑童子はいわれもない非難というように、手を胸の前で連続で振る。
「待て待て待て!落ち着け!」
「でも、やっちゃったんでしょ?」
「葵ってそんなキャラだったけか!?いや。まぁ、確かにしてないといえば嘘になるが……」
「……変態……」
「俺だって鬼なんだからそれぐらい許してくれ!ある意味本能なの!……兎に角、ヤったけど子供はつくらんように配慮した!それに鬼と人間じゃ子供は産まれんはずだ!」
「寝込み襲ったってマイマザーは言ってたよ☆それに、産まれないと言われるというだけで産まれないとは誰も言ってないからね☆」
鬼童丸がそういうと酒呑童子はなんだか身に覚えがあるそうで少し考え始める。そして小さな声であの日か。と呟いた。
「あの気が強い女か……妙にテカテカしてる日があったと思ったら……」
「うんうん☆この父親あってその母親ありって感じだよねん☆」
そう言って鬼童丸は何度も頷く。まるで本当に父と子の会話のようだったが、葵達は先ほど命を狙われていた。
そのため恋は少し遠くに逃げて、葵は札を構える。そして、酒呑童子に戦うようにいうが彼は手で葵を制した。
「葵、身に覚えはねぇがあのドラ息子は俺が倒すぜ」
「おお!それはいいね!いやぁ、オレも元からそのつもりだったんだよね……なんだっけ。酒呑童子は強いからなるべくそいつから倒せって言われてさ〜☆ま、これも仕事なんで許してちょ☆」
ガッとそんな音が聞こえて鬼童丸は酒呑童子の近くまで一瞬で近づく。しかし、酒呑童子はそんな鬼童丸の腕を掴んで遠くに投げ飛ばす。
背中を強く叩きつけるが、鬼童丸はそのままの勢いで立ち上がりまた酒呑童子に近づく。酒呑童子は今度はそれを軽く避けて鬼童丸の腹に強く拳をめり込ませる。
「グエッ!!」
そんな声を漏らしながら、鬼童丸ら顔を歪めるが、ニヤリと笑って酒呑童子の足を掴む。そして、そのまま体を回転させて酒呑童子の頭を蹴り飛ばす。
ゴンッと音がして、酒呑童子は思わず下を向く。その隙を逃さず鬼童丸は手に持った刀を思い切り振り下ろした。
が、しかし。酒呑童子は全くダメージを受けてないと言った様子でその刀を握りしめて、そのまま彼を投げ飛ばす。そして背中を壁に強く打ち付ける。
「いつつ……流石マイファザー。デタラメな強さだね☆チート使ってるの?」
「いいや。まぁ、年季とかそんなもんだろうな。どうだ?今から許しを請うなら見逃してやってもいいぞ」
「そう言われても、オレだって仕事だからね☆逃げるわけにはいかないのさ。それにこっちにら秘密兵器があるからね」
そう言って彼はどうだポケットから小さな緑の球を取り出した。それを見た酒呑童子は目を細めて、それを何かと見ようとした。
鬼童丸はそれを手で上に投げながらこちらに近づいてきて、酒呑童子は少し気を張りながら、後ろに足を一歩引いた。
「これ何かわかる?これ、ミキプルーンの苗木」
「嘘をつくな。それから、何かやばいオーラを感じ取れるぞ」
「……酒呑さん。あの球はかなりやばいと思います。一旦逃げましょう」
葵がそう提案するが酒呑童子は大丈夫だというように逆に前に一歩進んだ。
「そんな球見せても楽しくねぇぞ。早く帰ってお母さんと遊んでこい」
「マイマザーのところに『還る』のはちょっと……とりあえずやっちゃいますか!」
鬼童丸はそう言って手にした球を酒呑童子に向けて投げ飛ばす。酒呑童子はそれを軽く手で弾くとそれは地面を跳ねてパリンと割れた。
「なんでぇ。ただのでかいビー玉じゃ……」
「そうだよ。『そっち』はただのビー玉。そして『こっち』が……」
ダンッと飛び出してきた鬼童丸の突進を酒呑童子は避けることができずに、体で受け止めてしまう。そして、その瞬間に、酒呑童子は膝をついた。そして鬼童丸は手に持っていたビー玉を握りつぶす。
「て、てめぇ……!」
「こっちも偽物。そして本物は……」
そう言って彼は酒呑童子の髪の毛の中からとても小さなビー玉を取り出した。それが取れた瞬間、酒呑童子はふらりとした気持ちになり、うしろにたおれた。
「これが本物。さっき頭を蹴り飛ばしたときにつけてもらいました☆」
「これは一体……!?」
「んー可愛い子の頼みなら教えちゃう☆これはね、簡単に言えば妖怪の力を吸い取るんだ☆代わりといえばアレだけど、作るのにクソみたいな妖力使うんだよね。よほど高名な妖怪や陰陽師じゃないと作るのは難しいんじゃない?ま。そこは流石オレって感じ?」
葵が改めて酒呑童子の方を見ると、彼はとても衰弱しており、大粒の汗を流していた。力を吸い取るというのは本当らしい。
葵はそれを返せというように鬼童丸に飛びかかろうとしたが、酒呑童子に足を掴まれて、鼻から地面に衝突する。
酒呑童子は荒い息を出しながら、立ち上がる。そして、鼻を押さえている葵の前に立って拳を構える。
「あれ、まだ戦えるの?いっがーい☆」
「へっ……契約した妖怪は主人のために戦う。それが仕事というものだろ?」
「そういうことだね」
そう言いながら鬼童丸は刀を鞘から勢いよく抜き出した。酒呑童子は手をクロスにして、その攻撃から身を守ろうとしたが、鬼童丸の刀はそれすらすり抜けた。
「ぐっ!?」
酒呑童子は初めてダメージを受けて、血を吐いた。そのまま倒れいく彼を見て鬼童丸は今度は刀を上に斬りあげた。
ザンッ!そんな音がして酒呑童子は上に打ち上げられた。体を地面に打ち付けて、酒呑童子は小さく呻き声をあげる。
「さぁて、ささっと仕事終わらせますか……!」
鬼童丸はそう言って刀を酒呑童子の首に合わせた。そして、ニヤリと笑って思い切り上にあげて、酒呑童子の首めがけて振り下ろし、葵は思わず目を閉じた。
「なにやってんにゃぁぁぁあぁぁぁっ!!!」
「あだぁあぁああぁぁぁ!?!?」
突然そんな声が聞こえて鬼童丸はドロップキックをお見舞いされる。ドロップキックをしたであろうワンピース姿の猫耳の少女は、鬼童丸の首根っこを掴んだ。
「な、何すんだねこまちゃん!あと少しで……!!」
「あと少しでなんにゃ!一般人になに手を出してるんにゃ!!」
「えっ、でもあれ酒呑童子とその愉快な仲間……」
「酒呑童子がこんなところいるわけにゃいし、もっとごついはずにゃ!なんせあの死神をあそこまで追い詰めた……そんな妖怪にゃよ!そもそもこの男から妖力全然感じないにゃ!!」
「それはオレが力を吸い取って……」
「言い訳無用にゃ!さっさとずらかるにゃ!問題にゃるまえに!!!」
そう言って嵐のようにワンピース姿の女性と鬼童丸はどこかに去っていく。葵はしばらく呆然としていたが、やがてハッとしたように酒呑童子をグラグラと揺らした。
「酒呑さん!?大丈夫ですか!?」
「お、おお……一応は、な……全く、お前の方がチートじゃねぇかよ……」
酒呑童子はそう言って、何処か遠い目をする。彼の目はどこか、少し喜んでいるように見えた。
◇◇◇◇◇
「き、鬼童丸……機嫌治すにゃ……」
「なんなんすかぁ。あと少しで酒呑童子達を倒せるところだったのに……」
鬼童丸と猫又は道を歩きながら、先ほどとは全然違う様子の猫又は鬼童丸の様子を伺いながら、ついていく。
あのあと猫又の誤解を解いて、鬼童丸の目的を知って少し後悔していた。まさか、本当に酒呑童子達とは思わなかったのだ。
「はぁ……まぁ、いいっすけ……ど……?」
そんなこと言いながら鬼童丸は喋ることを一旦やめる。彼の視線の先には、浴衣を着た面妖な雰囲気の女性が歩いてきていた。
「おやぁ?猫又はん。そこの可愛らしい男の子は誰?」
「あぁ、こいつは……」
「自分鬼童丸っス!よろしくっス!!!!」
突然鬼童丸はそう言ってビシッと敬礼をする。猫又はさっきと全然違う様子に思わず口をあんぐりと開ける。
「おやおや、元気がよいこと…… …ウチは川姫といいます。よろしおす」
そう言って川姫はぺこりと頭を下げる。そして、二人に笑顔を向けながら、何処かに去っていった。
そんな川姫の後ろ姿を見て、鬼童丸は鼻の下を伸ばしながら口を開ける。
「美しい……」
「……所詮は世界は顔なのかゃ……?」
猫又はそうつぶやいて、鬼童丸の腕を引っ張って歩き出した。鬼童丸はずっと、後ろを見続けていて、どこかに川姫がいないかと、探し続けていた。
「チョリッス☆オレ鬼童丸!」
「今回は色々と災難だったけど、最後にとても美味しい妖怪に出会えて気分はあげぽよの二乗!いやぁ、これならぬらちゃんのために一肌脱いであの川姫さんに惚れてもらうしかないっしょ☆」
「次回は例の七不思議!さぁてどんな不思議が飛び出るかな……あ、キミ、とても髪の毛綺麗だね。オレに、くれない?」
第13妖目『新月中事件ファイルその3〜音楽室で大狂騒!〜』