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うんざりするほど、君に

作者: 藤沢悠

練習で作成した小説です。

小説は自分をさらけ出さないとダメだ!と思い立ったが、

とんだ変態小説に。

個性の方向音痴。

この人、頭おかしい……。

「今日こそは貴様と決着をつけるぞ!」

 

湾岸付近の廃倉庫。

内部は網目状に組まれた剥き出しの鉄骨と正面にコンテナがひとつ。

その不自然にひとつだけ取り残されたコンテナは、真横に向けられているため、舞台のように見える。


「我らがキメラX団世界征服の野望を成就させるため、貴様を亡き者にしてくれる!」

 

ここでコンテナの上に立ちはだかる怪人豚女はいつも通りに「いけ! 戦闘員共!」と量産型合成怪人たちに号令を出す。


「ちょっと待った」

 

俺は戦闘開始の合図に割り込んだ。


豚女は意表を突かれ、振りかざそうとした腕を中途半端な位置で停止させた。

コンテナの下に群がる戦闘員たちも戸惑って中腰のまま硬直している。


「勝負に水を差すとは無粋な奴! 何故、止める! まさか命乞いなんぞするまいな!」


豚女は苛立ち気に眉を寄せ、桃の断面図のような鼻をフゴッと鳴らす。


「違うさ。ただ、お前にどうしても聞いてほしいことがあるんだ」


「だったら、さっさと済ませろ! くだらん内容なら容赦はせぬぞ!」


豚女は腕を組み、俺を侮蔑に見下す。

彼女の戦闘コスチュームであるV字ビキニの胸元が、組んだ両腕に押し上げられ深い谷間をつくっている。


「ああ、すぐ済むさ」


俺は地面を見つめ、深く息を吐く。


俺の心を蝕む、ある秘密。

秩序や規律をぶち壊しかねない爆弾のような秘密。

しかし、もう抑止できない秘密。伝えなくては。

 

俺は腹を括って一歩踏み出し、俯く顔を上げる。


「豚女……俺はお前を愛してしまった」


「はっ?」

 

俄かに戦場はどよめきはじめる。


「き、貴様は何を口走っているのだ。私と貴様は相克にして、相反する関係だ。

我々は敵同士、和解など決してない」

 

予想外の告白を受けて、豚女はピンク色の両耳を突っ張り、抗議した。


「そんなことは理解している。でも、駄目なんだ。

俺のこの制御不能に陥った心をぶつけずにこれ以上戦うことができない」

 

俺の告白が洒落でないと察し、更にどよめきが増す。

一旦、口にしてしまった俺はもう止められない。

恥も外聞もなく、豚女を如何に愛しているのか彼女に知ってほしい。


この純粋で潔白で無垢な気持ちを。


「豚女、俺の愛は本物だ。

なぜなら、お前の顔面を拳で変形させるたびに恋の焦がれが身を焼き、

お前のみぞおちを膝で抉るたびに己の思慕の深さを再確認させられるのだから。

この快感はお前でしか得られない。

それを愛と言わずして、なんと形容できる!」


「へ、変態じゃないか……」

 

ひとりの戦闘員はそう呟くと後ずさりした。

 

俺はくくっと笑いを溢す。


「俺を変態呼ばわりするなら、おたくの上司もよっぽどの変態だ。俺にはわかっている」


「なにをのたまう! この偽善加害者!」


「豚女様を侮辱するな! 犯罪者予備軍筆頭!」

 

戦闘員たちの野次が飛び交う。

俺は意に反さず、豚女に微笑を送る。


「わかってる。俺の暴力はお前にも快感なんだ。

お前が求めるから、俺も嬲るのさ」


「こいつ、犯罪者の常套句をあっさりと抜かしやがった……」


「豚女様っ! 黙っていないで早く否定してください! あいつ、もう手遅れです!」

 

喚き散らす戦闘員たちの視線が豚女の一点に集まる。

 

豚女はしばしの沈黙の後、観念したように肩を落とした。


「バレてしまっては仕方あるまい」


「えええ……」

 

廃倉庫は落胆の声で満たされた。

 

一方、豚女は憑き物が落ちたような清々しい表情をしている。


「そうだ、私も貴様を愛している。

殴られるたびに脊髄に電撃が走り、毎回つい嬌声が漏れてしまいそうになる。

これは貴様ででしか得ることのできない悦びだ。

しかし、だからこそ―――」

 

俺は即座に豚女がなにを言わんとしたいか察知した。

以心伝心の俺たちは口を揃えて誓いの言葉を交わす。


「我々は敵同士、和解などは決してない!」

 

俺たちははにかんだ微笑みを浮かべた。

それから、豚女は仕切りなおすべく片腕を天に翳す。


「いけ! 戦闘員共!

今、この瞬間を以て、永久の愛に身を投じろ!」


「ただのお前らのプレイじゃないか!」


戦闘員の総つっこみは俺たちの永遠を約束するウェディングベルだ。

 

俺は拳を強く握りしめ、花嫁の許へ駆け出した。

私は暴力が好きではありません。

美しい相思相愛に憧れるのです。

好みのタイプはシオニーちゃんです。

読んで頂きありがとうございました。


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