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第008話:荒ぶる魔剣

 件のゴーレム馬車は、アユム達があっさり道を譲ったため、コースを微妙に修正した。

 あの極限状況で、そんなことができるとは大した御者であった。


 だが、その腕とは裏腹に現実は彼に優しくなかった。

 彼が不幸だったのは、すでに追っ手に追いつかれつつあったということだろう。

 後ろ斜めから、騎射で首を打ちぬかれたのだ。どう見ても致命傷であった。


 しかも、彼の不幸は続いた。

 矢で射抜かれた衝撃は彼を御者席から落下させ、不幸にも馬車の車輪の前へとその体をさらすことになってしまったのだ。結果、彼は馬車の車輪に巻き込まれ屍をさらした上に、馬車を横転させる原因となってしまったのだから、色々救えない。


 「……生きていると思うか?」


 「分かりきったことを聞くなよ。馬車の中の連中はともかく、御者の方は確実に死んでる。あれで生きてたら、むしろこええよ」


 「……そうだな、馬鹿なこと聞いた」


 確かに理解はしていたのだ。だが、それでもアユムは聞かずにはいられなかった。

 なんかんだいっても、やはり人死には慣れない。

 敵ともなれば、問答無用で切り殺せそうな確信がアユムにはあるというのに、なぜだろうか?


 ――いや、あるいはこれこそが今の俺に残る現代日本人らしさなのかもしれないな……。


 そんな風にも思う。今のアユムは、かつての自分とは何もかもが違いすぎる。

 本来の「柊歩」を忘れてしまいかねない程に、今の「アユム・ヒイラギ」はあらゆる意味で逸脱しているのだから。


 「見逃しちゃー――くれないようだな」


 横転した馬車を包囲するように次々と集う賊達は、アユムやガイウスを見逃す気はないようで、問答無用で射掛けてくる。


 「そのようだ!」


 アユムとガイウスは、それをあえて切り払った。

 矢避けの加護ウインドプロテクションがあることを悟られない為だ。


 「なあ、あんたら、俺達はたまたまここに居合わせただけだ。見逃しちゃあないか?」


 それでも、駄目もとで交渉してみるあたり、ガイウスは中々に肝が太い。

 もっとも、返答は再度の射撃だったが。


 「やるぞ!」


 「応!」


 アユムとガイウスは、今度は矢を切り払わずに無視して接近するが、矢避けの加護ウインドプロテクションが尽く矢をそらす。


 虚を突かれたのか、動揺したのか、定かではないが、動きが鈍ったのを、アユム達は見逃さなかった。

 ガイウスは、飛び掛った勢いそのままに、手近な奴を引きずり落として馬を奪い、落馬した男にとどめを刺す。


 ――うまいものだ、あやかりたいところだけど、俺は騎乗戦闘どころか馬に乗れないんだよな。


 そんなことを思いながら、アユムはアユムで、走行中の馬の足を斬ってバランスを崩させるというトンデモナイ所業をやってのけていた。


 ――グランスティアーにも騎乗スキルはあったが、俺は生憎ととっていないんだよな。


 というか、ゲームと同じなら魔剣士はそもそも馬に乗れない。

 魔剣の放つ魔の気配を馬が恐れ嫌うからという設定だったのだ。


 ――そこらへんは、やっぱりゲームと同じなのかね?


 考えを巡らせながらも、アユムの体は止まらない。

 バランスを崩した奴の首を斬り飛ばし、次の相手へと狙いを定める。

 思わぬ反撃を受けて、恐慌状態にあるようだが、アユムの知ったことではない。


 ――手を出してきたのはそちらだ。報いを受けろ!


 恩には恩で、仇には仇で返すのがアユムの流儀である。命を狙われた以上、微塵の容赦もない。

 跳躍し、擦れ違いざまに両断する。


 ――流石は相棒、そら恐ろしい切れ味だ。


 愛剣の全く鈍らぬ切れ味に軽い戦慄を覚えたところで、再度矢が射掛けられるが、矢避けの加護ウインドプロテクションが当然の如くそれを阻む。

 結果、アユムの勢いを殺すことはできず、アユムはそのままさらなる標的の命を刈り取った。

 

 手近な相手を切り尽くしたアユムは、狙いを弓持ちへと変更して地を蹴る。

 接近を察知した弓持ち三人の内、二人は弓を捨て剣を構えたが、一人は弓を捨てることを迷った。

 当然の如くアユムはそれを見逃さない。反射的に盾にされた弓ごとその首を切り裂く。

 左右から、剣を抜き放った二人が迫るが、アユムは片方に奪った剣を投げつけ、もう片方には主を失った馬を斬ってけしかける。


 狙い過たず、投げた剣は首を貫き、けしかけられた馬が相手の動きを阻害する。

 アユムは自身の馬の制御に手一杯になっているそいつの首を、無慈悲に刈り取った。


 その一方で、ガイウスも騎乗戦闘で無双していたらしく、残るは一人になっていた。

 恐らく騎士であろう相手にこれとは、もしかすると前歴はどこかの騎士だったのだろうか?

 

 「お、お前達、こ、こんなことしてただで済むと思って「先に手を出したのはお前らだろうが!」ゴフッ」


 ただ一人になった賊は何事か喚いていたが、ガイウスは最後まで言わせずに剣の腹でぶったたき昏倒させた。


 「捕虜にするのか?」


 「貴重な情報源だからな」


 ガイウスの判断は正しい。

 本意ではないとはいえ、巻き込まれてしまった以上、確かに情報は欲しいのだから。


 「そんな無礼者殺してしまえばよい!」 

 

 空気を読まない発言が割り込む。

 声の方向を見てみれば、いつの間に横倒しになった馬車から這い出たのか、三人の男女の姿があった。


 今、空気を読まない発言したのは、護衛であろう気位が高そうな女騎士だ。


 「リビウム卿、気持ちは分かるが、そういうわけにもいくまい。我々にも情報は必要だ」


 それを諌めたのは、杖を持ちローブに身を包んだ魔道士然とした40位の男だ。一番落ち着いて見える。


 「……」


 一人、目の前の惨状に言葉もなく蒼褪めているのは、どこかの貴族令嬢と思しき白銀の髪をした美少女だ。恐らく賊の標的であろう娘だが、現状では役には立たないし関わるべきではないとアユムは判断した。


 (というかだ、なんでそんなに余裕なんだ?もしや、もう終わったとでも考えているのか?)

 (だとしたら、それは大きな間違いだ。恐らくこいつらは、標的を逃がさないための足止めを目的とした先遣隊だ。別に本隊があるに違いない。)


 「本命のお出ましだぜ!」


 そんなアユムの考えを証明するかのように、ガイウスが叫ぶ。

 見れば、前方に新たな土煙が上がっていた。それも、先程よりも規模が大きいものがだ。


 「「「!?」」」


 馬車にいたであろう三人が恐怖で顔色を失くす。


 「どうするアユム、捕虜はとれたし、ここでばっくれるのもありだと思うぜ」


 馬車が横転した以上、獲物であろう三人が逃げられない以上、ここで彼らを見捨ても、アユム達は問題なく逃げられるだろう。先に戦ったのは、あくまで自衛のため、ひいてはクレア達に害が及ばないようにするためだ。断じて彼らのためではないのだから。


 「それもそうだが、思った以上に数が多い。あの数に襲われては、俺達でも守りきれないだろう。

 少し数を減らしておくか」


 アユムが相棒たる魔剣に魔素マナを集中する。が、その勢いは思った以上であった。


 ――ちょっ、やっぱり怒ってたのか!


 どうやら、アユム以外に触られたり、アユムが他の剣使ったりでストレスがたまっていたらしい。アユムに不満をぶちまけるかのように、想像以上の勢いでアユムの体内にある魔素マナを吸い上げていく。それは最早、収奪と言ってもいい勢いであった。

 とはいえ、今更やめることはできない。すでに敵との距離はつまっていたし、練り上げた魔素マナを無駄にはできないからだ。


 「さて、うまくいってくれよ!」


 今から試すのは、『剣術』のアクティブスキル<飛燕剣>と魔剣士のアクティブスキル<魔刃>の併せ技だ。<飛燕剣>は斬撃を飛ばず技で、<魔刃>は魔素マナで剣をコーティングして攻撃力を上昇させる技だ。この2つを併用し、魔素マナでコーティングした斬撃を飛ばす技となす。

 

 無論、初めての試みだったが、アユムは不思議と失敗する気は微塵もしなかった。


 「斬!」


 魔剣を横薙ぎに振り抜く。その軌跡にそって、巨大な漆黒の斬撃が飛ぶ。

 それは馬首を揃えて進撃してきた賊をあっさりと上下に両断した。それも馬ごと、冗談のように容易く。首と騎手を失った馬は迷走し、本隊と思われる賊達は盛大な雪崩事故を起こした。


 ――威力過剰すぎ!前面の敵を少し削れればいいと思っていたのに。まとめて一刀両断とか。


 「名づけて<魔燕剣>とでも呼ぶか」


 「俺が一番だろ」とか「やってやった」みたいな思念を相棒から感じながら、アユムは目の前の惨状から目を背けるために現実逃避気味にそんなことを呟いたのだった。


 

 

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