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第006話:旅立ちと考察その1

 ガイウスとの腕試し以降、特筆すべきことは何も起こらず、グリース村からの旅立ちの日は訪れた。

 まあ、ガイウスと一戦した翌日なのだから、何かあっても困るのだが……。


 「本当にこれだけでよかったのか?」


 アユムが思わずそう聞き返してしまうほど、クレアの荷物は少なかった。唯一かさばるのは、亡き夫の武具くらいで、それはアユムがインベントリの腕輪に収納しているので、後は純粋に彼女の私物だ。


 「ええ、元々そんなに持っていなかったし、この村で揃えた物は置いていくわ」


 クレアは、逡巡もなくはっきりと答えた。


 「まあ、いいならいいんだが……」


 「必要なら、あなたに買って貰うもの」


 何とも言えない表情をしたアユムに、そう言って微笑むクレア。


 ――お、おう、そう来るか。


 「ハハハッ、これは一本取られましたな、アユム殿」


 思わぬ反撃に動揺するアユムを、マイルが呵々大笑する。

 そこまで笑わなくてもいいじゃないかと思ったら、意外なところからの追撃があった。


 「情けない、それくらいは男の甲斐性でしょ!」


 ――はいー、誰だか見なくても分かりますね。フィーナさんです。


 村でのガイウスとの時間をアユムに大幅に削られたせいか、あたりがますますきつくなっている。

 彼女の中での己の評価を知りたいような、知りたくないような、複雑な気分なアユムであった。


 「フィー、あんまりツンツンするな。いらん敵を増やすぞ」


 ――はい、ガイウス君減点!

   言ってることは正しいけど、君が原因なのにそんなこと言ったら、余計にへそ曲げちゃうでしょ!

 

 「……何よ、当たり前こと言っただけじゃない」

 

 当の原因に言われたせいで、案の定フィーナの機嫌がますます悪くなっていく。


 「まあまあ、皆さん、それくらいで。

 荷物の積み込みも終わりましたし、そろそろ出発しますよ。フィーナさんは馬車に。

 お三方は、打ち合わせ通りにお願いします」


 険悪な空気を感じ取ったのか、マイルが空気を変えるように言う。


 「分かりました」「了解した」「任せろ」「……分かった」


 アユム達は各々応えると、配置についた。


 「では、村長。また次の月にお会いしましょう」


 「うむ、マイルも息災でな。クレアも、体に気をつけるんじゃぞ」


 「ありがとうございます、村長。今までお世話になりました。村長もどうかお元気で」


 マイルと村長が挨拶し、クレアが別れを告げる。これで出発と思いきや、村長がアユムに向き直り、そうして深々と頭を下げたのだ。


 「アユム殿、クレアのことよろしく頼みます」


 「承知しています。お任せ下さい」


 内心で驚きながらも、アユムははっきりと応える。

 自身のような若造に他人の目があるところで、はっきりと頭を下げるとは正直意外だったからだ。


 ――情が深いということと、公の立場とはまた別ということか……。


 公私混同していないと言う意味では褒めるべきなのだろうが、もう少しましにできなかったのかとも思う。アユム的に何とも評価に困る御仁であった。

 そんなことを考えながら、アユム達はグリース村を後にするのだった。






 旅路へと入る少し前、アユムは現状を整理すべく、白紙の本を開いて、検証結果などを書き出していた。

 

 第一に、ここはどこか?

 →恐らくグランスティアーに似た異世界、若しくはグランスティアーの元になった世界

  グランスティアーと関係ないと断じるには、共通点がありすぎる

  但し、ゲームの世界ではない


 第二に、俺はどうなっているか?

 →現実の肉体がどうなっているかは現状では不明

  魂だけ憑依したのか、それとも作り替えられて転生したのかも不明

  容姿や肉体スペックから、グランスティアーのアバターが元になっているのは間違いない


 第三に、今の俺にできることは?

 (1)スキルについて

 →魔剣士固有のパッシブスキル『魔剣適性』をはじめ、『剣術』や『気配関知』などのパッシブスキルがなくっていないのは確認済み

  システムアシストは存在しない

  アクティブスキルについては、元々一つも持っていないので確認は不可能

  但し、マニュアルで再現は可能なのは確認済み

 ※特記事項として、理由は不明だが、読み書きには不自由しない模様

 

 (2)肉体スペックについて  

 →これも凄まじいが、恐らくレベルはカンスト状態から大幅に低下しており、相応にステも下がっている

  恐らくではあるが、今の俺はレベル10前後のステだと思われる

  これはグランドクエストクリアで『魔剣匠』になった際、レベル1になったため

  魔獣化したグレイウルフの群れを倒したことによるマナ吸収があるので、概算してレベル10と判断

 ※特記事項として、この世界では生物を殺すと対象のマナを吸収する

  これによる身体能力の上昇などがあるらしいので、これを便宜上「レベルアップ」とする


 第四に、所持品は?

 →現代での所持品は一切なし

  グランスティアーの所持品は金銭も含めて、魔剣以外は全て失われた模様

  →転生のグランドクエストクリアで、『魔剣匠』になったことで、魔剣以外の全装備が外れたことが原因だと思われる

  例外はインベントリの腕輪をはじめとした初期装備と一部特殊アイテムのみ

  とはいえ、インベントリの腕輪以外の初期装備は既に全損済み

  剥ぎ取りナイフのようなクエストでスキルを取得した際に手に入る特殊アイテムは残留を確認

  →スキルがあるから残っていたのか、それともクエストスキル由来だったのか、理由は不明

  剥ぎ取りナイフは運んで貰った礼として、ガウルに進呈済み

  →これによる解体スキル喪失は起こらず、他の短剣でも使用可能なのは確認済み  


 第五に、俺がなすべきことは?

 →可能ならば、元の世界への帰還

  不可能ならば、この世界で生活基盤を築くことになるのだろうが、今のところは考えたくない

 ※特記事項として、クレアの存在があるので、生活に困らない程度の金は稼ぐ必要がある


 第六に、帰還の手がかりは?

 →転生のグランドクエストそのもの

  転生させるが、文字通り異世界に転生させるならば、この状況は説明できる

  『魔剣匠』になる際、魔の神に直接謁見している

  つまり、彼の神ならば、元の世界へ帰還する方法を持っているかもしれない


 第七に、魔の神と会うことは可能か?

 →グランスティアーと同じなら可能

  『魔人』の聖地にある最高神殿に行けば、会うことはできるはず

  ただ、現状では地理が明らかでない+『真人』である己が足を踏み入れられるのかという問題がある


 つまり、結局どういうこと?

 →まずは先立つものを稼ぎましょう、情報収集しましょう、頼れるコネを作りましょう


 ――ざっと思いつく限り書いてみたが、現時点での検証及び考察はこんなところだろう。

   しかし、やることが多すぎて泣けてくるな。


 だが、右も左も分からない世界へ飛ばされたことを考えれば、残念ながら当然なのかもしれない。

 やはり、異世界に行くなんてことは、夢物語であるべきなのだとアユムは思うのだった。

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