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第010話:三者三様

全話を3人称形式に書き換えました。

ストーリーに変更はありませんが、多少の加筆も行っているので、良ければ読んでやって下さい。

イベントリ→インベントリに修正

 「ではそういうことで、ラウスまで同行させてもらえるかな?

 勿論、相応に謝礼は払うのでな」


 「はい、勿論です。かの名高き白薔薇姫と会える日がこようとは夢にも思いませんでした」


 シーバーのとマイルの交渉はあっさりまとまった。

 流石にマイルは行商人だけあって、貴族事情にも詳しく、彼からすればとても同行を断れる相手ではなかったようだ。


 アユムが聞いた所によれば、置物だった銀髪の令嬢はレティシア・ラウス・メイサン、ラウスを治めるメイサン辺境伯の娘で、『白薔薇姫』の異名で呼ばれるほどの美姫であるらしい。護衛の女騎士はレイア・リビウムといい、メイサン辺境伯家に代々仕える筆頭騎士の家の娘だそうだ。

 一人別格のシーバーことディグル・シーバーは、メイサン辺境伯家付の凄腕の魔導師であり、相談役でもあるらしい。1次職である魔道士ではなく、2次職である魔導師であるということは、相当に位階(レベル)が高いということだ。


 「それは何より。姫様、この者達にお言葉を」


 「迷惑をかけますが、皆、頼みます」


 「はいっ、お任せ下さい!頼みますよ、お三方」


 白薔薇姫直々の言葉に、マイルはのぼせ上がっているようだった。


 「……」


 アユムは何とも言えない表情で、ガイウスを見た。


 「悪い、アユム。マイルの親父は悪い人じゃないんだが、商機には敏感な人でな。――後、美人にも弱いんだよ」


 「マイルおじさんの悪いところがもろに出たわね。

 あれがなきゃ、もうとっくに店をもっていられたのにね」


 ガイウスが頭を掻きながら説明し、フィーナも深い溜め息をついて、ぼやくようにこぼした。

 基本的に人の良いマイルだが、彼は美女に弱いというある種致命的な欠点を持っていた。広い人脈を持ち堅実な商売をする彼が、40過ぎても未だ行商人なのも、そこら辺に理由があるらしい。


 「つまり?」


 「今のマイルの親父に何を言っても無駄だ。厄介なことに、何度痛い目にあっても懲りねえんだよな」


 ガイウスは心底呆れた様子でそう言うと、溜め息をついた。


 「おおう、それは何とも……。

 まあ、いい。強行軍で行くのは、了解を得られたんだ。さっさとラウスまで行ってしまえば、あの三人とはオサラバできるだろう」


 ラウス近郊で、ラウスを治めるメイサン辺境伯家の令嬢が襲われたのだ。どう考えても、おかしい。

 アユムはきな臭いものを感じずにはいられなかった。

 故、面倒なことに巻き込まれる前に、さっさと別れたいというのが偽らざるアユムの本音であった。


 「そう嫌わないで欲しいものだが」


 「人を襲撃に巻き込んでおいて、さらに平然と厄介事に巻き込む。どこに好感を抱けるか、聞かせて欲しいものだな」


 アユムは容赦しない。恩には恩で、仇には仇で返すのが、彼の流儀である。

 年長であるディグルに対して、敬語を使わないのも非礼には非礼で返しているからだ。

 それをディグルが咎めてこないのは、その自覚があるからだろう。

 

 ディグルの献身は見事なもので、アユムも一定の評価はしている。

 故、ガイウスの判断に賛成してマイルとの交渉も許容したし、その結果ラウスまでの同行も認めたのだ。


 だが、だからといって、ラウスについて以降まで巻き込まれてやる筋合いはない。

 たとえ、ディグルの狙いが、恐らくアユムやガイウスを巻き込むことであったとしてもだ。


 「我らとて、巻き込もうと思うて巻き込んでいるわけではないのだがな」


 ――最初の襲撃はそうでなくとも、これからはその気であろうによく言う。食えないオッサンだ。


 「当然だ。もし、そうなら、とっくにその首を落としている。あんたの献身に免じて、ラウスまでは許容しよう。だが、それ以降そうするつもりなら、容赦はしない」


 故、それはアユムなりの警告だった。


 「……肝に銘じておこう」


 アユムの眼光に本気を感じ取ったのか、ディグルは神妙な表情で頷いた。


 「おい、良かったのか?あのオッサン、かなりのお偉いさんだぜ」


 「だから?命の恩を受けておきながら、その相手をさらに危険に巻き込むなんて、恥知らずな真似が許されるとでも?」


 確かにガイウスの言うとおり、ディグルはかなりの社会的地位を持っているのだろう。

 だが、それで全て許容されるというわけではないとアユムは考えていた。


 世の中にはやっていいこと、悪いことというものがあるのだ。少なくとも何の縁もゆかりもない者を命懸けで守ってやる義理はない、まして、相手はすでに自分達を偶然であろうと、命の危機に無理矢理巻き込んだのだから。

 

 正直に言えば、今後のことを考えればディグルとのコネは喉から手が出るほど欲しい。

 しかし、だからといって妥協してしまえば、これからも己は相手の社会的地位によって妥協していくであろうことが目に見えていた。


 故にアユムは妥協しない。ともすれば、神に挑むことになるかもしれないのだから。


 「……」


 アユムの極寒の空気と絶対の意思を感じ取ったのか、ガイウスは言葉を失った。


 「二人にも覚えておいて欲しい。俺はこう見ても執念深い。

 そして、恩には恩で、仇には仇で返すのが俺の流儀だ。誰が相手だろうと関係ない」


 ゾクリッ、ガイウスとフィーナは背筋に冷たいものが流れるのを感じた。

 二人は、目の前の男が本当にその通りにするであろうことを確信したからだ。

 

 そして、共に戦っていたガイウスは勿論、風の乙女シルフごしに見ていたフィーナは、アユムの強さを知っている。やろうと思えば、実際にやってのけそうな実力があることに二人は戦慄し、アユムを敵に回すべきではないことを確信する。


 「……ガイウス、あいつ思っていた以上にヤバイ奴かも」


 自分の持ち場に戻っていくアユムの背中を見つめながら、フィーナは小声で囁くように言った。


 「ああ、ヤバイな。アユムの野郎は本気だ」


 ガイウスも同意する。ラウスまでは許容すると言ってはいたが、三人が危険を増やすような真似をすれば、アユムが容赦なく斬り捨てるであろうことを、彼は直感的に理解していた。


 「フィー、いつも以上に気をつけろよ」


 「うん、分かってる。

 でも、あいつのことはいいの?魔剣のことといい、あいつにもきっと何かあるよ」


 フィーナは、アユムが只者でないことを確信していた。

 何者にも縛られないはずの自由なる風の乙女シルフ達ですら、畏怖しているようなのだ。絶対に何かあるのは間違いない。


 「ああ、だろうな。

 だが、詮索はやめとけ。藪をつついて蛇がでたらかなわん。それに今は心強い味方だからな」


 「……分かった」


 フィーナとしては知りたい気持ちがある。特に人でも使える魔剣の情報は欲しかった。ガイウスの為に手に入れたかったのだ。

 だが、ガイウスの言うことも分かる。認めるのは業腹だが、アユムがガイウスを超える実力者であることはフィーナも理解している。その気になれば、自分やガイウス含む全員を皆殺しにできるであろうことも。


 故に、今は引き下がる。魔剣は欲しいが、それで自分やガイウスが死んでは元も子もないのだから。

 フィーナはそう割り切って、神妙な顔で頷いたのだった。






 「シーバー殿、なぜ平民にいいように言わせておくのですか!」


 レイアは、アユムの無礼な態度に腹を立てていた。そして、それを咎めないディグルが不満であった。

 彼女には、なぜ身分的に圧倒的上位にあるディグルがアユムに対して下手に出ているか理解できなかった。


 「そうです、シーバー卿。なぜ、あのような無礼を許すのですか?」


 そして、それは『白薔薇姫』たるレティシアも同じだったらしい。

 ただ、こちらはそれに不満があるというより、純粋な疑問であったが。


 「リビウム卿はともかく、姫様もお分かりならぬと?

 ハア、教育係は何を教えていたのやら……」


 ディグルは両者がまるで理解していないことに、溜め息をつく。 


 「まるで私達があの方に謙る必要があるとでも言いたげですね?」


 「そうです!なぜ、私達が平民に対して!」


 「あるだろう。あの方は我々の命の恩人だぞ。

 それともお二人は、命の恩がそれ程軽いものであると言われるか?」


 「!!」


 ディグルの至極もっともな指摘に、レティシアは黙り込むが、レイアは黙っていなかった。


 「あのような賊共、我らだけでも!」


 「先遣隊だけならば、可能であったろうな。

 だが、少なからず被害はでたであろうし、よしんば勝てたとしても、後続の本隊には勝てなかったであろうよ。それともリビウム卿、おぬしは姫様を守りながら、賊を全滅させられたとでも言うのかな?」


 「……」


 レイアも今度こそ黙るほかない。

 いくら彼女であっても、20騎をこえる騎兵相手に勝てるなどとは、口が裂けても言えなかったからだ。


 「で、でも、あの方達は自衛の為に戦ったのであり、別に私達を助けようとしたわけではないのでは?」


 レティシアがアユム達の言動から思い当たったのか、そんなことを言った。


 「確かにそうであるが、そもそも巻き込んだのは我らであることをお忘れではないかな?それに動機がどうあれ、結果的に我らが救われたことには変わりはない」


 が、ディグルはにべもなく、これを切って捨てた。

 偶然であろうと、アユム達を巻き込んだのは自分達で、動機がなんであれ命を救われたのは間違いないのだ。アユムやガイウスが命の恩人であることに何ら変わりはない。


 「「……」」


 「我らが彼らにかけた迷惑に、命を救われた恩義を考えれば、無礼などと言えようはずがない。

 それにリビウム卿も、姫様も一番重要なことを理解しておいででない」


 「一番重要なことですか……それは一体?」


 レティシアは考え込むが、答はでなかった。


 「我らの命を握っているのは、あの男であるということよ」


 「何を馬鹿な。あの無礼者が我らに対して何ができるというのです?」


 ディグルの物騒な物言いを、レイアが大げさだと笑う。

 彼女には、アユム達が自分達三人に何かができるとは思っていなかったからだ。


 「先の光景を見て、その見識とは。ぬしには呆れるな。

 あの力が我らに向けられたらどうなると思う?」


 「シーバー卿、それは流石にないのでは?私はメイサン辺境伯家の娘ですよ」


 「その肩書きと身分が、ここで何の役に立つのですかな?」


 「えっ?」


 「あの男を止める理由になりはせぬよ」


 「馬鹿な、シーバー殿。そんなことをすれば、親方様が黙っているわけがないでしょう!」


 「そうですよ、シーバー卿。明らかに不利益が大きすぎます」


 「なぜですかな?」


 「私が殺されれば、お父様は下手人を絶対に許さないでしょうから」


 「なるほど、確かにその通りでしょう。ですが下手人があやつだとどう証明するのです?

 我ならば、あの襲撃で死んだように見せかけますな」


 実際、アユム達がいなければ、十中八九死んでいたのだから、何も不自然ではない。最悪、横転した馬車に放り込んで、馬車ごと燃やしてやれば、まずばれないであろうと、ディグルは淡々と語った。


 「「――」」


 レイアとレティシアは言葉を失い、蒼白になる。

 彼女達は、ようやく自分達が薄氷の上にいるのだということに気づいたのだ。


 「よいですかな、身分や肩書きが意味を持つのは、城壁の内側だけなのだ。城壁の外でも、それらが意味を持つのは家臣や縁のある者達だけに対してに過ぎぬ。若しくは、それを裏付けるだけの武力を持つことだ。そうでなければ、爵位など何の意味もなさぬ。

 そして、現状で我らは一刻も早くラウスへ入るために、彼らの不興を買うわけには絶対にいかぬ。馬車が壊れ、ゴーレム馬も失ってしまった以上、我らはあの行商人の馬車に乗せて貰うほかないのだからな」


 「で、ですがシーバー殿、あの男の態度は?!」


 「無礼、非礼を言うならば、命の恩人に対し、そのようなことで目くじら立てることこそ非礼であろう。リビウム卿、ぬしは命の恩を軽いものだとでも言うか?それこそ、忘恩の徒の誹りを免れまい。

 故に、我は黙れと命じたのだ。理解したか?」


 「……ッ!」

 

 レイアは反論できず歯がみする。

 己の生まれに誇りを持っている彼女にとって、平民如きに見下される(彼女の主観)のは耐えがたいことであった。彼女は生粋の負けず嫌いでもあったから、尚更である。


 「つまり、護衛である三人を敵に回すなどもってのほか、安全のためにも私は置物に徹せよと?」


 「身も蓋もないこと言ってしまえば、その通り。強行軍になりますのでお辛いかもしれませぬが、けしてわがままなど申されませんように。大上段に命令などもってのほか、あの者達は姫様の家臣でもなんでもないのですから。リビウム卿、おぬしもよいな?」


 「分かりました、肝に銘じましょう」


 「……承知致しました」


 言い聞かせるようなディグルの言葉に、レティシアははっきりと頷き、レイアも不承不承ながら頷いたのだった。

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