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「一緒に出かけるときはいつも私から誘ってるけど、あーくんが行きたいと思う場所ってないの?」
「別にない。僕はただついていくだけでも楽しいよ。」
「ふーん。私と一緒だから?」
「ん…ぶっ…」
「あぁぁぁん!?痛ってぇな手前ぇ!」
さっきの痛々しいカップルだった。
「ぶつかってしまってすみません。気を付けます。」
「もういいでしょあんた行くわよ。」
「ったく気をつけろよ!」
「あーくん大丈夫?!」
「うん。」
「あ!血が出てるじゃん!」
男の服についていた金具で皮膚をえぐってしまったらしい。僕は自分の血をみるといつも不思議な気持ちになる。この血は僕の皮膚が破れ血管が切れてあふれだしている。そうしたプロセスで生じた出血なのだと。出血すると生きた実感が味わえるという人がいるが、僕はそうではない。ここに存在し絶えず化学反応を起こし機械的に生命を維持する肉塊のように感じられるのだ。
「けがが軽くてまだよかった。絆創膏だけは貼ったし、たぶん大事ないよ。」
「うん。ありがとう。」
つくづく僕は人に恵まれている。