閑話、とある第一王女の部屋。
アンナちゃんが出てこない話、初めてじゃね?
皆様、ごきげんよう。私はプリメフィーラ。グラスゴルの第一王女にございますわ。
……もはや、亡国の姫となってしまいましたが。
兄上とそのお仲間に連れられて、守護神の森へと参りまして。
そこから、守護神様に西の果ての大国に飛ばされて参りました。
こうなったのも、全てあの絶望が……。
絶望……彼女は。兄上達の、よく知る人物のようでして。
こちらに来てからは名前を呼ぶ事も憚られる様な雰囲気がございますが。
とても良き友人だった、そうです。
隣国の使者で、トラブルメーカーで、けれど皆の事をよく見て助言を与えてくれる様な方だった、そうです。
そして、彼女は……幼き頃に兄上の婚約者、だったそうです。
攫われ、行方不明となっていたそうですが……名前を変え、戻って来ていたそうです。
そして、彼女の親との対面の時……。
あれは、本性だったのでしょうか。
どこか……いえ、今思い出すと。
一度完全に壊れた様な。その様な……狂気。
彼女の道程に何があったのでしょうか。
何が彼女をあそこまで破壊し尽くしたのでしょうか。
本人にしか、わからないのでしょうね。
けれど。
あの時の恐怖。あの時の絶望。あの時の無力感。
それだけは、私にもわかりました。
あれは彼女が体験した事なのでしょうね。
輪廻神。
邪神によって、狩られる側から狩る側に。
恐ろしい話です。
とはいえ。巫女というものは、あそこまで強大な力を振るえるのでしょうか。
兄上の友人、そしてその姉達にも巫女がおりますが。
あそこまでの力は……。
そうそう、友人といえば。
最近逃げてきた、生き残り。
ティスカ家のリヴィナ様が回復致しまして。
たまに城でお茶をしていた事もありまして。
最近では姉のように世話を焼いて頂いております。
昔から、良き令嬢にございまして。
博識で。美しく。
とても素敵な方にございます。
こちらに来てからは、少し変わられた様な気も致しますが。
一人でここまで来られた事を考えますと、問題ない事にございます。
最近では、クルヌア家のご令嬢も保護されたとか。
やはり、頼りになりますね。
クルヌア家の方は、少し変わった方だという話にございましたが。
話すと案外、面白い方にございました。
良き友人になって頂けるやもしれません。
兄上達も、もしかしたら、まだ生き残りがいるかもしれないと沸き立っております。
今は一刻も早く情報が欲しいと、兄上達のご友人が情報をよく持ってくる方がおりまして。
その方が国内を飛び回っている様です。
飛び回っているといえば、兄上達と共に来た、魔族の方。
生き残りの魔族を集めて、絶望に対抗しようとしている様です。
あまり生き残りが見つからない様ですが。
是非とも探し出して頂いて、総力を集めて。
あの絶望に、対抗出来るまでにしたいものですね。
……勝てるかは、知れませんが。
果たして、この世界はどうなるのでしょうね。
絶望に呑まれるか、絶望に打ち勝つか。
私達の未来は……。
「……ふぅ。ここまでにしておきましょう。」
センティリアで、匿われた私達。友国の国賓だと、全員が城に饗されて。
そこで暮らす日々。
どうやら、公爵として兄上が立つらしく。
いつかグラスゴルを取り戻す為に、この国で活動していく様です。
私は、センティリア王家から婿が来るそうで。
古き昔にグラスゴルとセンティリアが兄弟国となっていた、その血を濃くしよう、という事らしく。
元々私もセンティリアに嫁に行く予定にございましたし。
嫁に行くか、婿を取るかの違いになりましたが。
この国で暮らしていくのでしょう。
そして、いつかこの世界を担う子を……。
……それも、あの絶望と戦ってから、ですね。
兄上達の奮戦を期待して。
今日も未来を夢見て過ごしましょう。
「フィー、入るわよ。」
「り、リヴィナ姉様!少々お待ちを!」
「日記?」
「見てはダメですっ!」
リヴィナ姉様と。
「見えちゃった。ごめんね。」
ナタエラ様。
二人共、一人でこの国まで来た方。私には到底出来ようもありません。
「ま、いいわ。息抜きに皆でお茶でもしない?」
「というお誘いに。」
「ええ、喜んで。」
最近兄上達も動き詰めですし。息抜きにお付きあいするのもいいですね。
それじゃあ、いきましょうか。
皆の居る、広間へ。
……お茶会の途中で、飛び回って情報を集めていた方が息を切らして駆け込んでくるとも露知らず。
その情報が、国の最東端にある領地と連絡が取れなくなっているという事も。
アンデッドにやられた訳ではない様だ、という事も。
皆が顔を強ばらせる中で。
……リヴィナ姉様とナタエラ様が、薄く微笑んだのは気の所為だったのでしょうか……。
二人共、うまく中に入り込めたみたいだねぇ。っふふ。




