赤い純白。
アンナちゃん、とうとう。
はろはろ、アンナちゃんだよ!
お祭りから数日経ちました、はい。呑めや歌えやの騒ぎだったよ。
武器も戻ってきたし、そろそろ別の街にいこうかなって。
「もう行って仕舞われるのか……。」
「寂しくなりますのう。」
あはは、ありがとね。
「土産に、この装飾をお持ち下され。旅の安全を込めさせて戴いた。」
これはなかなか。
「また、近くに来たら寄らせてもらうね。」
「ええ、是非また。」
ついでに食料も沢山貰って、道を教えてもらって。
さらば、ノーマエルフィの村!
いざ、次の街!
洞窟をひたすら進んで、進んで。出口!
おお、すげえ、ここに出るのか。
山脈の南、大森林の真ん中あたり。
ここを真っ直ぐ南に行ったら、国があるね。
グラスゴルの隣、よく分裂する敵国ってやつだね。
よし、そこへ行こう!
一路、南を目指す!
森をふわふわ。人間の姿で浮いて移動。仮面をつけて、裾の荒れた高級なローブを被れば、怪しげな魔術師の出来上がり。
そんな格好で森を行くわけですよ。
なんでかって?そりゃあねえ、あの国は子供の姿だとナメられるわけよ。面倒だけど、こうしておかないとねー。
にしても、この森でっかいなぁ。まだ端につかねーのー。
すでに一ヶ月くらい彷徨ってるのよ……。これホントに出れるのこれ……。
ははははは……。
本当にこれ道なの???
いや道ではないけどさぁ。森の中だけどさぁ。
とりあえず進もう、うん……。
お?なんか小屋があるね。ちょっと立ち寄ってみよう。
……人が出入りしてる形跡があるね。んー。
「ごめんくださーい。」
返事は、無し。
うーん。鍵は……かかってないね。
失礼して。
「こんにちはぁー……誰かいますぅー……?」
住んでる形跡、アリ。
水音。奥からかな。音的に……シャワーか。
玄関で待つか……。
で、10分くらい。音が止んだね。また少し待って、と。
「ごめんくださーい!誰かいますかぁー!?」
「しばし待て。」
返事アリ!女の人の声だったねー。
少し待って、あ、でてきた。
「スマンな、待たせたようだ。客人。」
うわ、すご。真っ白。
白い髪、白い肌、白い服、その上から白衣を羽織った綺麗な女性。片眼鏡をした奥。眼だけ、真っ赤な……人?
「ふむ。ようこそ、シャムシャラの巫女よ。話は聞いているよ。」
私の事を知っている?何者かな。
「警戒しなくていい。私は……そうだな、観測者みたいなものだよ。」
人では、ない。
「立ち話もなんだ。中に入るといい。腹が減っているだろう。なにか出そう。」
神、か?
「神などという堅物ではないよ、私達は。」
達。何者だぁ……。
とりあえず中でお茶を頂く。おや、これは。
「果物を少し入れてみた。どうだね、口に合うかな。」
うめぇ。けど、食べた事無い果物かも。
「ははは、この世界ではかなりレアものでね。なにせ我々の力が強くないんだ。故に、普及しない。」
力によって普及しない果物……?なに、それ。
「枝分かれした世界は少しずつ変わっている。同じ様に見えていても、ほんの少し変わっている。故に、次なる世界へ行くのだろうね。」
……?たしかに、ループ事に少しずつ違ってるよね。
「さて、できたぞ。軽い物だか、食うかね。」
いただきます。
うめぇ!?なにこれ!?うっま!?
「おかわりを要求する!」
「よく食うな。ほら、おかわりだ。」
サンドイッチなのに、なんでこんなにうめえの!?!?特にこの白いドロッとしたソース!これなにこれ??!?
「ははは、秘密だ。」
そこをなんとか。
「そうだな、卵と酢と油を使ったソース、かな?」
ほうほう。……酢と油って混ざらない気がするけど。
「そこが秘密だ。ふふ。案外簡単に作れるがな?」
うむむ。
「聞くとおり、食べ物に執着する様だな。」
……執着ってほどでもないけどなぁ。
「美味い飯は人を動かす。それを求めている……か?」
違います。
「ふむ、なら……嗜好品みたいな物か。」
……あってる。楽しんでる訳だし。
「そうか。ふふ、まあいい。」
ミステリアス。何者だよ本当に。
「ふふ、気になるかね?」
そりゃあ。その風貌だしね。
「そうだな。……地上の生物ではない、しかして神ではない天上のモノ。見えぬ存在への祈りではなく、我等は地上を飛び回り魔力をもって力とする。」
魔力?
「しかして、この世界では認識が薄いようだ。」
認識によって力を持つ?
頭の引き出しをめっちゃ開け閉め。うーん、これは、うーん。まさか。
「ふふ、そうだ。その認識で合っているよ。とはいえ、我等は少しズレた存在だがね。……北の、絶島へ行っただろう?」
…………ああ、なるほどね。
「そうだな、私の事は。」
ソレル、と名乗る白きモノ。
「ということは、赤と青もいる訳だ。」
「そうだ。とはいえ、別の世界にいるが。」
どこかで会っているかも知れないね?と嘯くモノ。
「今日は休んでいくといい。南へ向かっているのだろう?」
敵意はない、歓迎すると囁くモノ。
「ここから南、村へは凡そ二日だ。英気を養え。」
そして赴くままに殺戮せよと嗤うモノ。
そう言って、奥に引っ込んだ。
……。
神すら下に見る、研究者。
白き恐れの、居城に来てしまったようだ……。
やべぇ。
私では敵わないわぁ。コイツらこそ、世界の覇者ってやつ。
観測し、弄び、制御すらしてしまう、ズレた世界の王。
ここにいたんだね……うふ、ふふふ、ふふはははははははははは!!!
いつか殺してやりたいね!いやあ、上には上がいる!
やっぱり世界は…………しい!
とりあえずお風呂あるみたいだから借りよ。さっぱりしたい!
「シャムシャラの巫女。夕飯だ。」
ご飯!
「久し振りに人と食べるからな、少し作り過ぎたかもしれんが……。」
め、めっちゃ多いっすソレルセンパイ……。
「ま、まあ余ったら明日の昼飯にでもするさ……。」
案外ドジっこ?
「とにかく、食え。さあ食え。」
いただきます。……やっぱりうめえ!
「なんでこんなにうめえの?」
「普通に作ってるだけなんだが……。」
そんな味ではない。確実になにかテクニックがある!
「強いていうならば……愛、か?」
「…………。」
ジト目。
「……無かったことにしてくれ。」
ないわー。
「なんだ、その、すまなかった。」
ご飯に戻ろう、うん。
うめーなぁ。
「御馳走様でしたー。」
「よく食ったな。」
頑張ったよ私!ちょっと残ったけど!
「明日に回すからいいさ。……デザートに果物は如何かね?」
頂こうか。
……なにこれ?初めて見る。
「皮と芯は食うなよ。人には毒だ。」
丸かじりしてやがらぁ。私は大人しくナイフで剥いて、食べる。
シャクっとして、甘酸っぱくて、瑞々しい。美味しいねこれ。
「ナカゴ。と主は呼んでいるな。」
ナカゴかぁ。あ、これさっきのお茶に入ってたやつかな?
「気付いたか。美味いだろう?」
うめぇっす。
二人で無言でしゃくしゃくしゃく。
うまい。
「さて、もう寝たほうが良いだろう。その身体とて、10……いや、すでに11あたりか。子供の身体だと眠くなる時間だろう。」
そうなんですよ。もう一年経ってるんですよ。
そして確かに少し眠い。
大人しく寝ますか。
「おやすみなさーい。」
「ああ、おやすみ。」
すやぁ。
おはよう!アンナちゃんだよ!
「起きたか。顔は……洗ってあるな。」
あ、おはようございます。
「朝飯が出来てるぞ。食え。」
……なんか、こう、母親感。
「育ててやろうか?」
遠慮しときます。
朝ごはん美味しい。あ、これ昨日の残りに手加えてるんだね。けど飽きない味。
「お前を育てたら楽しそうだな。」
え、遠慮しときます。
「そうか、残念。」
なんなの!!!
そうそう、朝はコーヒーでした。にがうまー。
「世話になりましたー。」
「もう行くのか。……いや、行くにはいい時間か。」
です。
「また寄れ。どの世界でも、ここに小屋があるからな。また飯でも食いに来い。」
「またきまーす。」
「そうだ、言い忘れていたが。今から向かおうとしている国に入るなら、魔族のような姿で行ったほうがいいぞ。」
マジか。
「あそこは魔族と考えが似通っているからな。それに交流もある。魔族だと思われれば、強者として見られるだろう。」
いいこと聞いた。
「ああそうだ、弁当がある。持っていけ。」
マジか!ありがとー!
「我等はお前に興味がある。またいつか、会おうじゃあないか。」
またいつか、ね。
「気をつけてな。……汝の旅路に、良き未来があらんことを。」
「有難う。……では。」
また。
少し進んで、振り返る。
私が見えなくなるまで、手を振ってたよ。
ソレル、か。
ふふ。
いつか、必ず。
謎の存在とエンカウントしちゃったね。




