魔王領を目指して何千里?
排他的じゃないまったりした村、いいねぇ。
おはよう!アンナちゃんだよー!村長さんの所、いいベッドだったよ、小さな村にしては!
「おはようございます、旅人さん。よく眠れましたか。」
「おはよー。うん、いいベッドだったよ。お陰でぐっすり。」
「それはよかった。さ、朝食が出来ております。どうぞ。」
「ありがとー。」
美味しい朝食、いいね!
「それにしても、旅人さんは朝もその仮面つけているのですね……。」
「おや娘さん。また見たいの?」
「ぜ、是非とも。」
……そんないいモノか?ちょっと綺麗なだけの顔だよ?とりあえず外すか。
「はい。これでいいかな。」
「なんと……。」
「き、綺麗ですね……。」
「やっぱり綺麗……。」
うーん、なんだこれ。
「やはり、貴女は上位魔族で御座いましたか……。」
うん?
「その身体に伸びる魔力線、それは飽和する魔力を制御するためのモノですから。かなりの魔力を誇る上位魔族、その一握りしか出ないモノですぞ。」
「そんなのだったんだ、コレ。なんか呪われたのかと思ったわ。」
……って待て。私は魔族ではない。未だ人間だ。人間……だよね?
「ご存知じゃなかったのですか?てことは、その眼も知らない感じで?」
娘さんも知ってた感じか。ふーむ、魔族のみに伝わるアレかな?
「その眼は、魂から溢れるエネルギーが可視化されたものですよ。魔力を通すと人によって色々な魔眼、的なものが出るらしいですよ。」
「魔眼……。」
くっ、私の右眼が疼く……的な?厨二病的な?違う?
「なんとなく合ってます……。」
あってんのかい。……いよいよ人間って言い張れなくなってきた感じが。いや、私は人間だ……。
「……そうだったのか。出たの最近だからなぁ、わかんかかったよ。ありがとう。」
「いえいえ。こちらこそ上位魔族の貴女を泊めたと自慢出来ますよ。」
そんなものなの。
「そんなものです。」
……ふ、ふーん……。
「これから王領に行くのですよね?となると軍に?」
「うーん、どーしようかは決めてないね。」
「そうですか……。今軍は人員募集中、だそうで。受けてみては?」
「考えておくよ。」
人員募集中、ねぇ。
「そーいや王領までどのくらい?」
「私共の足で一日、ですかね。」
なるほどー。
「んー、ありがと。」
「いえいえ。……もう出発されるのですか?」
「いや、お昼食べてからいくー。紹介してもらった食堂、もっかい食べてからね。」
「はっは、あそこは美味しいですからな。」
うん、あそこは美味い。
とりあえず、ご馳走様でした。美味しかったよ。
「お粗末さまです。」
さて、荷造りしましょ。
お昼前。食堂!
「おや、旅人さんじゃないか。また来てくれたのかい。」
「また来たよ。一番美味しいのを頼む!」
「あいよ!」
きた。
「やっぱり、美味しい。」
「あはは、ありがとね!……もう行くのかい?」
「うん、これ食べたら行くよ。」
「そうかい。また立ち寄ってね?」
「うん、また来るよ。この味好きだしね。」
美味しいご飯はまた食べたくなる。
がっつり食べて、ご馳走様。
「うん、ご馳走様。美味しかったよ。」
「あいよ!また来てね!」
おばちゃんに見送られて、食堂を後に。さて、と。
「行きますか。」
村を後に。
「旅人さーん!また来てねー!」
村長一家が見送りに来てくれた。手を振り返す。んー、いい村だね。また来よう。
さ、いざ王領へ!
ハーイ、夜です。ゆっくり浮いて移動してましたー。うっすら遠くに灯りが見えるね。あれが王領かな。
野宿なう。魔術で結界的なもの張って、安心の野宿だよ!
にしても、星が綺麗。これぞ自然!な感じ。
月は、見えないけど。今日は新月ではない筈。満月な筈だけど。
あ、雲があるね。その後ろに月明かりがぼんやりと。月に叢雲、ってやつかな。
……こんな日は、いい事があった試しがない。昔を思い出すね。死んだ日は、こんな日が多かった。処刑前夜。魔族との遭遇。地雷女との戦闘。ああ、いつもこんな日だった。ああ。
「何も無い夜だったら良かったのに。」
月影に照らされるは、有翼の刺客。
「私の安寧を邪魔する奴は誰だ……。」
「貴様が、メテオライトを撃った魔術師か。」
魔王軍、四将が一人、魔の将。チッ、またコイツか。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も来やがって。今回もぶっ殺してやろうか。
「何の用かな、乙女の夜に。」
「貴様の力、我々に貸さぬか。」
「ふーん、で?」
「魔王様は貴様の力を欲している。」
「ふーん、で?」
「我々と共に来い。」
「ふーん、で?」
「……聞く気はあるのか、貴様!」
「ふーん、で?」
ウケる。
「愚弄するか……!」
攻撃してきた。既にパターンは全部把握してるんだよ、お前は。何度殺して殺されたと思ってる。
避ける、避ける、避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける。
「き、貴様ッ……!」
「こんなのが将かい。弱いね。」
魔術めっちゃ撃ってきてるけど、当たんないんだよなぁ。
「これならどうだ!」
おお、範囲攻撃。でも薄いなぁ……。
「薄くてパリッといけそーね。」
ポテチ食べたいなぁ、昔食べたっきりだ。あれは何ループ目だったかしら。変な男がそれで大成功してたのよね。
「これならっ!」
大きい塊、飛んできた。自然破壊はんたーい。
「何故当たらん……!」
「遅いから?」
折角翼があるのに飛び回らずに撃つだけなんて、宝の持ち腐れじゃない?
「蝿は落ちましょうね。」
だから、こうなる。氷の塊を飛ばしたら翼に穴が空いちゃったよ。あーあ、落ちちゃった。
「ぐぅっ……!貴様、何者だ……!」
何者、ねえ。
「ただの亡霊だよ。じゃあね、蝿さん。」
首を引っこ抜く。チッ、やっぱり切れ目入れなきゃ背骨は付いてこないね。
とりあえず、体は焼却。頭は……魔王城の前に飛ばしておこう、転移で。
これでよし。
……探知魔術。よし、他はいないね。
ねるかー。あーあ、やっぱりこんな日だったよ。クソが。
化物を倒すのはいつだって人間って誰かが言ってた。……アンナちゃんはどっちに入るのかな。




