深夜の邂逅。
夜は憂いを。
こんばんは、アンナちゃんよ。
⋯⋯この挨拶も、30越えたら変えようかしら⋯⋯。流石に年齢、考えろみたいな。
今は、深夜。なんとなく目が覚めて、紅茶でも飲みながら空でも眺めようかな、って。
紅茶を入れて。適当に上着でも羽織って。
洞窟の入口付近に置いた、椅子と机に。
⋯⋯おや、雨は止んだみたいね。星が綺麗。
紅茶を飲みながら、空を眺める。
未来のある、あの子達。
その未来、魔獣に壊されていいものでは無いわよねぇ。
赤い瞳で空を見る。⋯⋯おっと。
⋯⋯幻影、きれかかってる。また張り直さないと。
一度解除。
自分の姿を再確認。
⋯⋯胸の真ん中あたりまで、黒くなって。
黒い線は全身に。
目は完全に、両方とも赤い。
右腕からは、靄まで出始めている。これは結界を張り付けて、出ないようにしてる。
髪も、黒いのが混じって。
「予想では、10年持たない、か。」
それでも私は、まだ人間だ⋯⋯。
「出来る事なら、もっとマシな死に方したいわよねぇ⋯⋯。」
月は雲に隠れて。星空が煌めく。
⋯⋯綺麗。
しばらく、見蕩れる。
「⋯⋯誰だっ!」
この声は⋯⋯レーネリアちゃん。
「何かあったかしら?」
「⋯⋯目が赤い⋯⋯!しかもこの声は⋯⋯。アンナ、さん?」
しまったわ。見られた。
「何故、赤い目を⋯⋯?まさか、魔獣。けど、人の形をした魔獣なんて⋯⋯聞いたことない。」
⋯⋯。
「赤い目⋯⋯まさか、精霊王⋯⋯。」
そうきたか。
「さて、どうかしらね⋯⋯。」
少なくとも、金髪の精霊王なんて聞いたことないけどね。
「⋯⋯これが、訳アリっていう事なんだね?」
「ま、そういう事。まさか起きていたとはね。」
「さっき、ふと目が覚めたんですよね。」
「そう。⋯⋯できれば、秘密にしておいて。」
「いいけれど。⋯⋯どっち、なのかな。」
「⋯⋯見たらわかるわよ。」
右腕の結界も解除。
右腕から、身体を伝う靄。
「⋯⋯まさしく、魔獣だね。けれど、何故理性を保っているのかな。」
「私としてはその年齢でそこまで賢しいのが気になるけど。ま、いいわ。」
なんと答えよう。
「んー。そうね、気合?」
「気合入れてる様にはみえないけどぉ。」
ですよねー。
「ま、色々あるのよ。」
「色々⋯⋯。」
「そう、色々。」
「⋯⋯秘密って事だね。」
そういう事にしておいて。
「それで、アンナさんは魔獣だった訳だけど。⋯⋯元は人で、合っているよね。」
元は、か。
「元?⋯⋯私は、人間よ⋯⋯!」
「っ⋯⋯!ご、ごめんなさい。」
おっと、なんかこう靄と眼の光がぶわぁってなってた。
「失礼。⋯⋯私は人であってるわ。」
「はい。⋯⋯こ、恐ぇ⋯⋯。なにあの殺気⋯⋯。」
「聞こえてるわよ。」
「あはははは⋯⋯。」
まあ、いいや。
「それで、どうしたいの。」
「⋯⋯えーと。人を襲うつもりは。」
「それは魔獣として?人として?」
「⋯⋯人としてっつー選択肢もあるのねこの人⋯⋯両方で。」
「魔獣としてなら、襲うつもりは未だ無いわね。人としては、今の所無いわ。」
「そ、そうですか⋯⋯。」
「後々どうなるか、わからないけどね。今の所は、そういう気はない。」
「⋯⋯なら、いいんです。アイツらが危険じゃないなら。」
⋯⋯そうか。護るもの、あるのね。
「⋯⋯その護るべきものを、大切になさいな。」
「はい。⋯⋯その口ぶりだと、アンナさんもあったんだね?」
「ええ。導いて、育てて、護るべきモノがね。」
「⋯⋯子供?」
「私のじゃないわよ。けれど、あの子達の母親役みたいなものだったわ。」
きっと驚いて、探しているんだろうなぁ。
「心配なんだね。⋯⋯何故、離れたのさ。」
「⋯⋯傷付け無い為よ。ゆっくりと、けれど確実に魔獣へと変わる身。そんな姿を見せ続けるくらいなら、気付かれる前に。」
「⋯⋯わからないね。それじゃあ、遺された方は訳も分からず。探しに行くくらいしかないじゃないのさ。」
「⋯⋯貴女になら、解る時がくるわ。きっとね。」
尤も、そんな時は来ない方がいいのだけれど。
「⋯⋯ま、いいや。⋯⋯あー、そうだ。」
「何?」
「手合わせしてみたいかも。」
この流れでそうくるかお前。
「まあ、いいけど⋯⋯。」
「ならやろう!」
「⋯⋯そこの浜辺でやりましょ。」
浜辺に出る。ん⋯⋯月が綺麗ね。
「それじゃ、よろしくお願いしますーぅ。」
「ええ、よろしく。」
とりあえず、剣一本で。⋯⋯左手に持って。
「へぇ、メイスかしら、それ。」
「そうだよぅ、ンヒヒッ!」
⋯⋯雰囲気が変わったわね。
「それじゃぁ、行かせてもらう⋯⋯ぜェ!」
ほう⋯⋯。
叩きつけるのを躱す。砂浜に当たり、砂が撒き散らされる。
「そうらァ!」
横薙ぎ。切り返し、速いわね。
もう一回転、さらに上向きの逆袈裟。
「っハハ!避けてちゃつまんねーぜっ!」
私としてはこの変貌ぶりで、既に楽しいのだけれど。
「いいわ、攻撃しようじゃあないの。」
避けてねー。
メイスの振り終わり前を狙って、とりあえず一撃。
「おっととォ!」
ま、避けるよね。
「剣、速っえぇ⋯⋯。」
「ほら、驚いている暇はないわよ。」
「⋯⋯上等っ!」
突撃してくる。
⋯⋯反応。これは、魔術⋯⋯じゃないわね。
「構築ッ!」
「おっと。」
飛び退く。⋯⋯おお、砂浜から石の刺が。
「なるほどね、錬金術か。」
錬金術⋯⋯って、魔族くらいしか扱ってないと思ったけど。
しかも、グランダル周辺しか。かなりのレア物なのよね。難しいし。
「へえ、わかるんだねェ!びっくりでしょう!」
「ええ。⋯⋯グランダルが人の弟子を取ったとは聞いてないのだけれどね。」
「⋯⋯?誰、それ?」
あら、知らないの。
「魔族、錬の将。今いる錬金術師で最高の技術をもってるんじゃないかしらね。」
「⋯⋯!へえ、聞いたことあるぜ!魔族には錬金術師のすげえヤツがいるって!」
「それ、誰かから教わったのかしら?」
「いんや、錬金術師なんざ周りにはいないよ。というか聞いたことない。」
でしょうねぇ⋯⋯。
「⋯⋯ま、いいわ。その腕、確かめてあげましょう。」
「っ、いいねぇー!宜しく頼む!創造!」
おっとと。
「出が速いわね。」
「ほうら、大技いっくぜェーー!!!創造!生成!分解!形成!構築ッ!」
ほう。
「これがぁ!錬金術だァ!」
なんか凄い反応が。
「ゴル!アル・キミア!」
砂が大量に上がったと思ったら。
「⋯⋯ああ、確かに錬金術だわ⋯⋯。」
視界が金色!マジで金、錬成しやがった!
しかもドロッドロの。溶けてるやつ。
いや当たったら死ぬから。
「その技術、本当に素晴らしいわね。」
とりあえずそれ、消し飛ばしますか。
禁術発動。ブラスティラヴァ。
蒸発しなさいな。
「⋯⋯ま、マジで?金、蒸発させたの?どんな熱量だよ⋯⋯。」
ま、そりゃあ、ラヴァですもの。
「つーか、それ禁術じゃね?ヤバくね?」
そうですよ。
「⋯⋯元だけど、魔の将をやってたからね。そのくらいするわよ。」
「マジかよ⋯⋯⋯⋯まさか、あれ?最近変わったっつー、その前の、人間だったっていう。えーと名前⋯⋯。」
「⋯⋯知ってるのね。グリディナよ。」
「わぁお⋯⋯。だから魔族の錬金術師について知ってるのか⋯⋯。」
そうですとも。
「⋯⋯ねぇ、アンナさん。」
ん?
「本気の一撃、見せてよ。」
「魔術?剣術?」
「合わせてできるんじゃないの?それで!」
「⋯⋯嫌よ。」
「なんでさ!一回だけでいいから!」
「嫌。」
「ほんと一瞬だけ!」
「えー。」
「先っちょだけ、先っちょだけ!」
「それ意味わかって言ってる!?」
「なんで駄目なのさー!みーせーてーよー!!!」
駄々っ子かよ⋯⋯。
「⋯⋯はぁー。わかったわよ⋯⋯。」
「やったぜ!」
子供相手にやるのはすっごく気が引けるのよ⋯⋯。いくら凄腕の錬金術師だって言っても、ねぇ。
「ちゃんと避けてね⋯⋯。」
「おっけェ!ばっちこい!」
はぁ。魔王あたりでも想像して⋯⋯。
あの変態ぶっ壊す。
よし。
「⋯⋯いくわよ。」
浮遊。
想像。あの竜を。
魔術発動。いや、違う。
剣に、纏え。
禁術。創り出せ。
「アンノウン、ケルヴィ・ゼロ。」
「⋯⋯え、ちょっ、まってそれまって!?」
残像すら残す、高速接近。
「ッ、アル・ニグレー!熱量最大!」
右腕で。突き破る。
「っ、や⋯⋯!」
寸前、禁術解除。
「⋯⋯っ、フゥ⋯⋯。」
あぶな⋯⋯。ちょっと止めるの遅くなった⋯⋯。
「う、うぅぁ⋯⋯。怖かったぁ⋯⋯!」
あっちょっ。
「大丈夫だからね、ほらね?」
頬をむにむに。
「っ、はー。よし、大丈夫ですわ⋯⋯。」
よしよし。
「にしても、なんだったの今の!あれ、空気も凍ってたじゃん!つーかケルヴィって!ゼロって!マジなの!?」
「⋯⋯一度食らったことのあるやつを再現してみたのよ。」
「マジ!?よく生きてたね!?」
「その後こうなったけどね。」
「あー⋯⋯。なるほどー⋯⋯。」
「ま、それも倒したけど。」
「そっかぁ、それはよかった。⋯⋯にしても、その⋯⋯禁術?それ、凄いね。⋯⋯錬金術でも、再現できるかな⋯⋯。」
「やれるんじゃない?きっとね。」
「⋯⋯よし、帰ったら調べて試してみようかな。ありがと!」
インスピレーションは大事ですともー。
「さて、どうする?」
「んー⋯⋯寝る!もう数時間もないけど⋯⋯。」
「そうねぇ。⋯⋯寝ましょうか。」
「あ、その前にシャワー浴びさせて⋯⋯。」
「ええ。」
さ、戻りましょ。
将来有望な錬金術師、か。