それでも時は進んでいく。
ようやくここまで来た⋯⋯。
やっほう、アンナちゃんよ。
隠居しながら町はずれに住む薬師としてやりはじめて、また時は進んで。
アンナちゃん29歳。
町の人達からは完全に認められて、よく話したりする。
結婚しないのか、なんて聞かれたりはするけれど⋯⋯しないわ。
一人身を謳歌してるのに。独身貴族!
最近だと、たまに⋯⋯ラディーちゃんから、貰った花を通してお話したり。
今まで連絡寄越さなかったのはなんでだー!だって。いやーねぇ、忙しくて。
世間話をしながら、今世界がどうなっているかの情報収集。
魔獣、最近大きいのが目立つ様になってきたみたい。それこそ、ワイバーンとかジャイアントブルとか⋯⋯。
あと、熊。熊がよく出てくるってさ。奥地から逃げ出してきたのでしょうね。
出てきたら毎度騒ぎになるくらいの大きさのやつが、ね。
生態系、崩壊し始めてますねぇ⋯⋯。
これはいよいよ、かしら。
ラディーちゃんもよく、能力で手助けしたりするそうよ。流石に兵の処理能力がギリギリだとか。
傭兵も駆り出されて、探索者も駆り出されて。
ある意味戦争状態みたい。
戻ってこないか聞かれたけど⋯⋯この身体では、ね。
残念そうにしてた。⋯⋯いつか、一度あの国に帰ってもいいかもしれないわね⋯⋯。
私の方は、なんともなく。
のんびりまったり、継続中。
ああでも、この前大きい魔獣が出てね。
海に棲む、でっかい魚。洋上ではたまに、ブシャーってやってるらしいけど。
ブシャーって何かは知らない。
とりあえずあれが港まで来て、暴れたからまあ⋯⋯。大騒ぎよ。
私、丁度その場に居合わせたので⋯⋯。
討伐した。割と簡単だったわ。図体だけの木偶の坊。
魔石はあったけど。
色々話しかけられたけど、別に気にする事でもない。
そんなことより、薬はいりませんか、ってね。
そんな事をしながら、毎日遊んでる。
「それにしても、今日は暇。」
ラディーちゃんも通話、出ないし。
薬のストックはあるし。
今日は町の人も元気。
「こういう日は⋯⋯浜辺でのんびりするに限るわ⋯⋯。」
ワンピースに着替えて。いつもの麦わら帽子。
果物を入れた冷たい紅茶。
いつものパラソル、いつもの椅子。
本も、結構読んだわねぇ⋯⋯。まだ、沢山あるけれど。
今日も、読書。
のんびりした時間。
まったりした空気。
読み終えたら、次の本。
そんな大切な時間。けれど、それを邪魔するモノもいる訳で。
「走れよっ!」
「人居ないの!?」
子供の声。男女。
「え、こんな所に浜辺が⋯⋯。」
「おい、人が居るよ!」
「あのっ!そこの女の方!」
まあ、私よねぇ。
「⋯⋯。」
「助けてください!」
何を。
「海の上で⋯⋯友達が戦ってるんだ!」
「⋯⋯海の上?」
「あそこ!あそこの船!」
洋上の小船、遠くてわかりにくいけど。
子供が二人。これも男女。
その周り⋯⋯海の中、何かいる。
⋯⋯チッ。
魔術発動、探査。
魔獣か。魔石持ち。
⋯⋯面倒な。
「貴方達、保護者は。」
「居るけど⋯⋯その⋯⋯。」
「振り切って来た、と。」
はぁ。
「エリーが先に行くから!」
「それを言うなら私じゃなくてアウルに言いなさいよこのバカロイ!」
「俺の名前はアクロイだ!」
⋯⋯五月蝿い。
魔術、風。
「きゃぁ!?」
「ぶわっ!?」
「五月蝿い。保護者が居るなら、どうせ叱られるでしょうから言わないでおくわ。それで、喧嘩するのとアレをどうにかするの。どっちがいいのよ。」
「レーネを助けて!」
「アウルもだ!」
はいはい。
「依頼料は、高くつくわよ⋯⋯?」
行くとしようか。
魔術、先ずは浮いて。
目標、小船。とりあえずあの子供二人を回収しましょ。
高速で飛んで、小船。
「な、なんだ!?」
「援軍!?感謝するよっ!」
「残念、回収よ。」
二人を脇に抱えて、と。
はい、浜辺に戻るわー。
「あっ、何するのさぁ!あいつはエリューシャの大事な⋯⋯!」
「到着。子供が一体何してるのよ。」
「⋯⋯あいつがエリューシャの腕輪を取っていったんだ。」
「それで追いかけたんだよ!」
「二人で?魔獣相手に?」
「最初は俺達四人で行ったんだ。けど途中でアイツが暴れだして⋯⋯。」
「レーネの魔術で、二人を岸に。」
「魔術じゃなくて錬金術⋯⋯。」
「それで戦ってたんだけど⋯⋯。」
へー。
「ね、ねえ!あれ、こっち来てるよ!?」
「⋯⋯腕輪を取った、なんて言ってたけど。どうやって?」
「魚かと思いきや、腕がある!奇抜な魚だよ!あっはは!」
「笑ってる場合じゃないでしょうっ!」
⋯⋯賑やかな四人組ねぇ。
⋯⋯魔術反応。あの魚モドキの魔獣から。
「加速したぁ!」
「すごいねあの魚!腕は確かなようだよ!腕生えてるし!」
とくにこの⋯⋯レーネとか呼ばれてる娘。確実に人生楽しんでるわ。
ま、とりあえず。
「あれは食べられるのかしら⋯⋯。」
食料候補、決定。
「え、お姉さん食べるのあれ⋯⋯。」
「離れてなさいな。」
突進してくる魚モドキ。
魔術反応。
「と、飛んだぁー!」
「危ない!」
⋯⋯へぇ、誰が一番強いか、判っているみたいねぇ。
私に突撃してきた。
当たる寸前、回避して。
双剣、抜いて。
すれ違いざまに。背骨に沿って。
「三枚おろし、と。」
終了。
「す、凄い⋯⋯。」
「やべぇわ⋯⋯。」
軽く振って、納めて、と。
振り返って。⋯⋯そうねぇ、とりあえず。
「ねえ、貴方達。あれだけ騒いだのですもの、お腹が空いているのではなくて?お昼はいかが?」
「⋯⋯い、いえ、大丈」
「食べるわ!」
「おいレーネ!」
「いいじゃん。⋯⋯どうせこの奇抜なのを食べるんでしょう?」
「ええ。一人じゃ食べきれないしね。」
「食べてみたくない?私は食べてみたい!」
「⋯⋯いいだろう。私も食べてみたい。」
「なら多数決で決定!」
「二人しか同意してないだろうが!?」
「全部で五人、三人賛成!問題、なし!」
「お前なぁ⋯⋯!」
「で、来るの?来ないの?」
「行かな」
「全員行きますよー!」
「レーネッ!」
「⋯⋯お腹が空きましたわ⋯⋯。」
「ほらエリーもこう言ってるし!お嬢様を待たせちゃいけませんわ。」
「うぐ⋯⋯!」
「賑やかねぇ⋯⋯。さ、ついてきなさいな。」
この浜辺に、初めての来客ですもの。饗さないとね。
こいつらを出すまでにここまでかかるとはね⋯⋯。ははは。