なんかわらわらと。
魔術談義。
はーあーい、アンナちゃんよー。
読書中。主に魔獣に関しての本を。
周り?なんか弟子共が、向かいと横のソファー、並んで本読んでるわ。私のソファー?テルシエが座ってる。
ていうか、何で私の近くで読むのかしら。
ソファー以外にも本棚の所に幾つか椅子置いてあるじゃないのよ。
まあいいけど⋯⋯。
侍女に紅茶をおかわり頼んで、読み進める。
読み終わったら、また次の本。幾つか持ってきてるから、動かずに。
部屋の中、本をめくる音しかしないわ?
さて、次の本。
テルシエ、よく見たら寝てるわ。まあ、旅終えてその日だからねぇ。疲れも溜まってるでしょうし、寝かせておきましょう。
本から目を逸らさず指をくるくる。
魔術で浮かせて、横にさせて。あー、長さ足りてない。まあいいや、膝枕で。
毛布を出して、かけて、と。
弟子共が驚いた顔で見てくる。何よ。
「い、今魔術を使ったのですか⋯⋯?」
「⋯⋯?そうだけど。」
「発動が全く分からなかった⋯⋯。」
そりゃあ、私は魔術の隠蔽が得意ですもの。誰だろうとわかりゃしないわ。
「魔術をもっと良く観測しなさい。どういう形をとって発動まで行ってるのか。どんな魔術だろうと、その過程はあるからね。」
「は、はい。」
「魔術として成っているものはね、どんな物も最初は同じ。そこからどう辿って発動するか。⋯⋯そうね、最初は何かしら?はい、ボサロリ。」
「エ、と。詠唱、ですか。」
「はい、ツインテ。」
「ええと⋯⋯魔力でしょうか?」
「はい、細マッチョ。」
「⋯⋯充填、ですか?」
「はい、インテリ。」
「⋯⋯周囲にある魔力の吸収?」
ふむ。
「全員、違うわ。」
「なら、何なのですか⋯⋯。」
「そうねぇ。今言ったものは全部途中にあるものよ。何かがあって、自分の魔力を使って、周囲の魔力を吸収、充填。詠唱して、また何かがあって、発動。最初と発動寸前は二つとも同じ事、必ず入るものがあるわよ。」
「ええ、と⋯⋯?」
「ふふ、これは頭を空っぽにするとわかるかもね。ああ、そうそう。魔法陣はまた別の発動手順よ、あれはね。けれど、ここにも同じ事が入るわ。」
「ううむ⋯⋯。」
と、ここでノック。
「入りなさい。」
「入るぞ。⋯⋯また、面白い講義をしているな。」
おや、ゼルノとメアと、他の将。全員集合とは珍しい。
立とうとする弟子共をそのままにさせて、と。
「ああ、立たなくていい。邪魔をしたな。⋯⋯それで、答えはなんだ?」
「答えたら勉強にならないわよ。これは考える事に意味があるのだから。」
「そうか。」
「ところで、ぞろぞろと何の用かしら?」
「なに、少し将同士で交流を、と思ったのだが。」
「そう。⋯⋯椅子を用意なさい。」
「畏まりました。」
「感謝する。」
「貴方達は、そこで考えてなさいな。思考の邪魔をしてるのはこっちだからね、いいでしょう?」
「うむ。」
ソファーを少し後ろに下げて、机をもう一つ置いて。新しくソファーならべて、四角に。これでよし。
「さて、紹介しよう。まずは私、魔王のゼルノだ。」
「ええ、知っているわ。私は魔の将のグリディナ。」
「うむ。こいつが、側近のメア。」
「先程もお会いしましたが、メアと申します。」
「ええ、メアちゃんね。」
「メアちゃん⋯⋯。」
「このおっさんが、武の将、ギセン。」
「宜しく頼むぞ。⋯⋯俺はおっさんじゃない。まだ300と少しだ。」
「私からしたらジジイね?」
「じ、ジジイか⋯⋯ううむ、これが種族差か⋯⋯。」
「⋯⋯このじいさんが、練の将、グランダル。」
「よろしくのう。ギセンがジジイなら、私は骨董品かの?」
「一周回ってもはや遺物。」
「遺物⋯⋯まあ、そうなるかの⋯⋯。」
「⋯⋯⋯⋯で、この若いのが、技の将、ヒスト。」
「宜しく。⋯⋯これ、私はどうなるのだ?」
「そうね、貴方こそオッサンね?」
「⋯⋯これ、かなりダメージがくるのだが。」
「皆からしたら、私は赤ん坊みたいなものでしょ。いいじゃない。」
「確かにのう⋯⋯。」
「幾つなのだ?」
「乙女にそれを聞くのかしら?」
「言ってみただけだ。」
15です。まだ15です!!!!!
わたしあんなちゃんじゅうごさい!!!!!
はい。よく年上に見られますわ。
「それはそうと、先程の問い。皆も考えてみない?」
「そうだな。魔術に関して、さらに知ることが出来るかもしれん。」
「確かに、そこまで考えた事もなし。」
皆で頭を捻る。
「ううむ、魔術とは魔力を込めて詠唱をすれば良いのではないのか?」
「流石にそれだけではないじゃろう。」
「詠唱を短縮する、というテクニックもあるからな。」
「魔力、詠唱、発動。それ以外にも何かがある、ということですか。」
「ううむ。何だ?」
皆がうんうん唸っているのを、寝ているテルシエの頭を撫でながら見る。
というか、起きないわねこの子。
「⋯⋯なあ、グリディナ。ヒントをくれないか。」
「ヒント、か。そうねぇ⋯⋯。」
うーん。
「そうねぇ。ねえツインテ。」
「は、はい。なんでしょう。」
「貴女、詠唱はどこまで短くできる?」
「ええと。簡単なものであれば詠唱しなくても。頭の中で詠唱しては居ますが。」
「へえ、なかなかやるじゃない。」
「まて、無詠唱だと?」
「ええ、無詠唱よ?とはいえ、脳内詠唱だけど。」
「その様な事が出来るのだな⋯⋯。」
「まて、脳内詠唱、というのなら、本当の無詠唱というものも存在しているのか?」
「ええ。私は大体それよ。」
「⋯⋯この前詠唱していなかったか?」
「する時もあるわ。毎度違うけれどね。」
「待ってください、毎度違う、というのは、詠唱がですか?」
「ええ。例えばそうね。」
火の玉。
「はい、これは火の玉。」
「詠唱してない⋯⋯。」
「詠唱してみましょ。んー。」
「燃える玉、ここに出る。」
火の玉。
「⋯⋯あれ、俺の知っている詠唱とは違いますね。」
「ええ。⋯⋯炎よ炎よ炎さん、ここに浮かんで下さいな。」
火の玉。はい。
「ううむ?これでも出るのか。」
「そしてこれ。うぃるおーうぃぷすー!」
火の玉。はい。
「それはもはや種族だ⋯⋯どういう事だ?」
「うふふ。これができるのも、とある何かを使っているから。」
考えなさいな。
「火の玉の、詠唱が複数ある、という訳ではないのだな?」
「複数あるわよ?けれど、そのどれでもない。」
四つの火の玉を、お手玉しながら答える。
「簡単な事なんだけどね。皆も、必ずしている事。難しい事考えずに、頭空っぽにして考えなさいな。」
「⋯⋯⋯⋯なるほど、そういう事かの。」
「解ったのか!」
「ああ、言わないでね。これは自分で考えて導くものだから。」
「うむ、心得ておる。⋯⋯儂も、いつもやっておるのう。」
「でしょうね。特に、錬金術なんてそうでしょ。」
「うむ。錬金術と魔術は近しいものであるからな。」
「魔術が出る前は錬金術が栄えていた、って話よね。」
「そうじゃの。」
「⋯⋯わからん。」
「ま、ゆっくり考えなさいな。」
紅茶でも飲もう。
グランダルじいさんは解るでしょうね。