というわけで、仕事始め。
いつもの場所、いつもの奴ら、いつもとは違う事。
ちわーっすですわ!アンナちゃんよー。謁見の間から大体五分経ったわ!
「部屋ってこっちであってたわね?」
「え、ええ。⋯⋯来たことがあるのですか?」
「まあ、ね。」
そりゃあ何回もやってますしー。
「到着ー。掃除はしてあるのよね?」
「ええ。連絡がありましたので、綺麗に。」
「ならよし。」
入る。
「で、侍女は何人?」
「四名です。」
変わらないわね。
「弟子希望は?」
「⋯⋯四人です。」
変わったね。ていうか増えた。
「へえ、もう居る?」
「ええ。⋯⋯入りなさい。」
ぞろぞろと。
「こちらの四名が、この部屋、身の回りの世話をする者達です。」
「はい、よろしく。」
「そしてこの四名を、弟子として扱って貰います。」
釣り目ツインテ、ポニテインテリ、短髪細マッチョはいつもの。⋯⋯で。
「⋯⋯⋯⋯、アンデッド?レイス?」
「いえ、デミホーント・リッチです。」
ちっさめの、襤褸ローブの、リッチ。半分霊体。
「尚、女の子です。」
「⋯⋯少々、お顔を拝見。」
青白い、薄幸そうな女の子。ボサボサロングロリ。略してボサロリ。
「野良ネクロマンサーが死んだ為、救出された娘です。」
そ、そうなの。
また妙なのを拾いやがって、というか何故私の所に?
「魔王様が、魔の将の所で預かってもらえと仰られたので。尚、かなり強いです。」
そ、そう。
「まあいいわ。過去がどうとか、種族がどうとか、何を求めるか、なんてどうでもいい。」
私は私のやり方でやらせてもらう。
「そういう訳だから、よろしく。私はグリディナ。このプルプルしてるのが、テルシエ。こいつは私が拾った奴、素人だから色々教えてあげてねー。」
「よ、よろしくお願いします⋯⋯。」
ぷるぷる、わたしはわるいエルフィじゃないよ!みたいな。
「紹介も終わりましたし、私はこれで。」
「ありがと、メアちゃん。今度何か食べに行きましょ。ケーキとか。」
おお、ちょっとクールな顔。
「⋯⋯ええ、その時は御一緒に。⋯⋯それでは。」
メアちゃん退室。さて、と。
ソファーにだらーんと。
「弟子、弟子、弟子ねぇー。また七面倒臭いわねぇ。とりあえず、侍女達はお仕事。大抵ここの部屋やってた人達でしょう。違ったら覚えて行ってね。」
「畏まりました。」
「弟子希望達は好きな様にしてちょうだい、やりたい事があるならそれをやる、無いなら見つける。テルシエに魔術を教えてくれてもいいわ。」
あ、それと。
「後、奥の私の部屋は入らないでね?入ったら、怒るわよ?」
これでよし。
「それじゃ、解散。適当にやってて。」
「あ、あのー⋯⋯?」
「質問?はいどうぞインテリ君。」
「い、インテリ君⋯⋯。ええ、と。魔の将様は⋯⋯。」
「グリディナ。」
「⋯⋯グリディナ様は、どうなさるのですか?」
「私はー。そうね、好きな事。色々とねー。」
「好きな事、ですか⋯⋯。」
「質問がありますわ。」
「はいどうぞツインテちゃん。」
「貴女は魔の将に選ばれたのですよね。確かに、謁見の間での魔術は強力でした。」
「ええ。」
「我々は、魔の将から多くの事を学ぼうと、ここに来たのです。ですが。」
「教える気はあるのか、って事よね?」
「っ、ええ。その連れてきたという娘も、貴女が教えるのでは無く我々が?貴女には。」
「先達としての誇りがあるのか、かしら?」
「⋯⋯っ!ええ!」
これ、毎度言われるのよねぇ。ツインテ、最初は誇りとか貴族としての精神とか、そういうのこだわるのよね。
「そうねぇ。ツインテちゃん。貴女にとって、誇りとはどういうもの?」
「強者として、上に立つものとして、人を従える者として立つために必要なものですわ。強き者は弱き者に施しを与えるものだと。」
「ノブレスオブリージュ、ってやつね。」
毎度お馴染み、ね。私が言うのも、お馴染みの言葉。
「そんな誇り、捨ててしまえ。」
「なっ⋯⋯!」
侍女も含めて、全員が驚くのよねこれ。
「貴女、貴族の子女よね。ま、私もなのだけど。誇りなんて、魔術には無駄な物。むしろ、唾棄すべきものよ。捨ててしまえ、そんなもの。」
それに、だ。
「ノブレスオブリージュ。そんなものは、強者の使命なんかじゃないわ。弱者の要求よ。従う必要なんて、一切ないわ。」
弱者が喚き求めるだけのモノよ。
「⋯⋯貴女は!弱者を蔑ろにしろと!?」
「してるかしら?」
テルシエを示しつつ。
「選ぶ余地、って考えてるかしら?何を取り、何を捨てるか。まさか、全部捨てているなんて訳無いでしょう?」
「く⋯⋯!」
「それより、先程から気になっているのだけど。」
これは言わなきゃねぇ。
「貴女、自分が強者だと思ってるの?」
「なっ。」
「ねえ、聞きたいのだけど。貴女のその誇りはどこから来ているの?」
だってねぇ。
「それは、私の魔術で、」
「確かに、ここまで来たのは貴女の力かもしれないわね。けれど、そこに至るまでの教養は?力は?それを学べる環境は?全部貴女が魔術で掴み取ったのかしら?」
これは。
「そ、それは⋯⋯。」
「違うでしょう?親が、師が、与えたものでしょう。」
この言葉は。
「自惚れるなよ、貴様等。弱者だという自覚をしろ。」
「っ⋯⋯!」
「例え上に立ったところで。その上は確実に居る。確実にね。」
そう、上には上が。
「強者、結構。強いのでしょう、貴方達。しかし自惚れるな。強者は同時に弱者でもある。」
私とて弱い。
「到底至れぬ高みがある。」
遥か上。
「到底辿り着けぬ場所がある。」
遥か先。
「到底勝てぬ者がいる。」
遥か遠き、天上の。
「⋯⋯ねえ。」
問おう。怒りと愉悦を織り交ぜて!
「そういうのってさァ、すッッッッッげえムカつかねェ?」
「っ⋯⋯!」
狂気を笑みに、凄絶に!
「誇り、結構。必要だと思うなら持てばいい。力、結構。必要とあればつかみ取ればいい。教養、結構。必要なら、学べばいい。」
「過去、結構。必要なら、縋るがいい。未来、結構。必要なら、夢想すればいい。」
「それでアイツを倒せるなら。それであの場所に辿り着けるなら。それで上にいけるのなら。」
命短し進めや魂。
「貴様等はこの場所に辿りついた、結構、結構。しかしてここでは満足しないでしょう?」
「自らの力を上に、更に上に進む為に来たのでしょう?」
「ここには、その為の物が沢山あるのよ。私が教えるとしたら、その先。」
究めるには、最高の場所がここ。
「ここにある物、全て。好きに使いなさい。好きに壊しなさい。足りない物がある?書け、私に出しなさい。揃えましょう。」
「それでもわからない?なら、私の出番。私の知る全てを持って、与えましょう。」
ここは、その為の場所よ。
「長くなったけど、これが私のやり方よ。いいかしら?」
その魂に火を灯せ。
「他に質問は、あるかしら?」
「⋯⋯。」
驚き、されど炎を灯す瞳。よしよし。これでコイツらは本気でやり始める。
「無いわね。ああ、そうだ。何をするか、紙に書いて出して頂戴。偶に、どんな状況か報告しなさい。なに、時間はたっぷりとあるのだから。焦らず、されど迅速に。」
いいね。
「⋯⋯さあ、始めましょう。解散。」
各々が猛烈な勢いで書き出したものを貰って、本棚ダッシュを見送る。⋯⋯って、テルシエも行くんかい。まあいいや。
私は紅茶を飲んで、ゆったり。
それにしても。
「黒歴史よねぇ⋯⋯。」
毎度の事ながら、ガラじゃないわ⋯⋯。
とりあえず何やるか読もう⋯⋯。
細マッチョは、身体強化、魔術と格闘術の融合。魔術の効き辛い魔獣に、有効なものを、か。
インテリは、解呪と呪術。呪われ死んだ友の様なものを無くすため、か。
ツインテは、大規模魔術と禁術。仇討ち、巨大、強大な化物を殺すため、か。
ボサロリは、死霊術と治療術。屍に生を、生には治癒を、か。
テルシエは、歌と魔術の効果支援。得意な歌、それを力にしたい、か。
魔獣が出る世界だと、少し変わってくるのね。というかボサロリ、天使かお前。いい子すぎだろ。
テルシエはうん、とりあえず読める本持ってきてからかしらねー。基本はしっかり。
さてと。私は読書しよ。ここの本、大体多すぎるのよ。読みきれないから。しかも毎度違う本がある。
面白いからいいのだけどね。忘れてるものもあるし、今回も全部読みましょうか。
さ、読書といきましょう。
⋯⋯そうだ、後でメアに魔獣調査の人員を頼んでおきましょ。
ボサロリってお前、センスどうなんだお前。