道中、とある日。
馬車で進む、三人旅。
おはよう、アンナちゃんよ。
まだ、誰も起きてないみたいね。ま、いつもの事だけど。
テントから出て、周りに変化が無いことを確認。
魔術、探査。よし、周囲に危険は無し。
さて、朝ごはんでも作りますか。
焚き火、まだ火が残ってるわね、継ぎ足して、強くして。
倉庫、大量にストックしてあるコンソメ!たまに継ぎ足すあれ!
ベーコン!キャベツ!ポテト!
鍋で、煮込みます。
パンは生地を串に刺して、焚き火の周りに!
よし。あとは⋯⋯今日はコーヒーでいこう。
待つ間、水で顔を洗って。軽く化粧して。テントで着替えて。
パンの向き変えて。スープかき混ぜて。
剣の手入れして。
ん、いい感じの匂いしてきた。
テントに動きあり、あそこは魔王の。
「⋯⋯おはよう、グリディナ。」
「おはよう、ゼルノ。もうちょっとだから顔洗ってきなさいな。」
「ああ⋯⋯。」
よし、出来た。
「相変わらず美味そうだ。」
「褒めても何も出ないわよ。」
さて。
「テルシエ、朝よ、起きなさい。」
「んに⋯⋯あと五分⋯⋯。」
「朝ごはん、要らないと見た。」
「食べますっ!」
よし、起きた。
顔を洗うのを待って。さあ、朝ごはん!
「いただきます。」
「頂こう。」
「いただきますー。」
うん、我ながら美味しい。
「んむ⋯⋯。」
「はい、コーヒー。」
「ああ。」
「テルシエも。」
「あ、ありがとうございますお母さ⋯⋯あっ。」
「ブッフ!お母さんだと⋯⋯ックク。」
「誰がお母さんだ。誰が。」
「今日もありがとう、母上。っくくくははっ。」
「この野郎⋯⋯。」
一児の母になった覚えはない!
「一児、か。っくく、となると俺が父親か?」
「なっ、⋯⋯よーし、死にたい様だな!」
「ハッハッハ!」
「夫婦喧嘩⋯⋯。」
おい。おい⋯⋯。
「ッフ、いいではないか、夫婦。」
「お断りよ!」
なんなの!
食べたら片付け!
「あ、手伝います。」
「ん、ありがと。ならお皿拭いて頂戴。」
二人で片付け、ゼルノはどこからか⋯⋯もとい、自分の倉庫から出した新聞。⋯⋯今日のじゃないの。
「城の執務室にな、俺の倉庫に繋がっている魔導器があるのだよ。」
「いいわね、それ。」
「尚、新聞程度の物しか入らない。」
「ダメじゃんそれ。」
「朝刊を読むのに便利だぞ?あと、たまに報告書が入ってくる。」
「ああ、書類仕事には便利そうね⋯⋯。」
「なんなら、城に着いたら一つやるぞ?」
「頼むわ。」
「わかった。」
よし、片付け終了。
「よし、ならば出るか。」
馬車に乗って、進むわ!
御者はゼルノ。私とテルシエは、後ろ。
「⋯⋯ん。」
「どうした?」
「魔獣。二時の方向。」
「⋯⋯あれか。狼⋯⋯仕留めようか。」
「ええ。」
攻撃範囲に入るまで進む。入っても、進む。
「よろ。」
「ああ。」
御者交代。
ゼルノが飛び出て、切り伏せて。終了。
「魔石は?」
「あったぞ。」
一つ。まあまあの大きさね。
「は、速いです⋯⋯。」
「大丈夫、そのうち慣れるわ。」
「そういうものなのですか⋯⋯。」
また進む。
テルシエが御者。横に私。テルシエの練習に。
「魔獣、大きめ。正面。付近に他の反応あり。」
「あれは⋯⋯馬車の残骸か。」
「あ、一つ消えた。残り一つ。」
「ッチ、殺るぞ。」
「また消えた。残り魔獣のみ。」
「⋯⋯そうか。殺ることには変わりないがな!」
ゼルノが飛び出す。
「亀、か。悪いがここで死んでもらう!」
「援護します!活力の歌!⋯⋯〜~♪」
へぇ、歌。流石はセイレエルフィ、かしら。
「それじゃ、私も援護しましょ。」
水の刃。ほら、濡れなさい。
「そうきたか、ならば!」
ゼルノが剣を、比較的柔らかい脚に突き刺す。いいねぇ。
「離れなさい。」
「百も承知!」
魔術、ストリーマ。感電死。
「反応消失。魔石はあるかしら?」
ゼルノが叩き割る。
「あったぞ。⋯⋯一つ。」
小さめかぁ。残念。
「援護、感謝する。」
「だってさ、テルシエ。良かったわね。」
「は、はい!」
「お前もだがな。」
「ふん、さっさと進みましょ。」
馬車の残骸、遺品を回収して。遺体を火葬して、進む。
「遺品、ですか⋯⋯。」
「そうよ。旅では良くある事。」
「死んだ者を供養する事もだ。⋯⋯供養してやらないと、アンデッドになるしな。」
「そうなのですか⋯⋯。」
「ぞんびーとか、報われないしねぇ。なるべくなら、安らかに、ね。」
「旅人の義務、だな。何時かは自分もこうなるかも知れない、という戒めも含めて。」
「旅って、想像以上に大変なのですね⋯⋯。」
「この旅が楽過ぎるだけだな。普通なら、命の危険など常にある。」
「ええ。馬車なんて無し、徒歩で一人、果ての見えない旅路を進む。死神は常に傍に、首に鎌をかけて待っている。」
「しかして、旅は多くの事を教えてくれる。長き道程の先には、更なる未知を知らしめてくれる。」
「勇敢、されど臆病なれ。旅人よ、いざ進まん。」
「そして未知を求め続けよ。」
「わぁ⋯⋯。⋯⋯誰かの言葉、ですか?」
「適当。」
「即興。」
「え、えぇー⋯⋯。」
「こんなもの言ったもの勝ちよ!」
「フッ、そうだな。」
馬車は進むよどこまでも。
夜。野営!
トラップを設置して、鳴り子をつけて。
結界張って。
よし、ご飯!
肉を焼いて、塩と黒胡椒で!
それと牛のテールスープ!
パン!
「これは力がつきそうだ。頂こう。」
「いただきます。」
「いただきます。うん、我ながら美味しい。」
「お母さんには悪いですけど、断然美味しいです⋯⋯。」
「なあ、お前本当はシェフではないのか?」
「違いますー。」
「うーむ⋯⋯。そこらに居るシェフなど足下にも及ばん気がするのだが⋯⋯。」
「そんなに?」
「世辞抜きで、な。」
うーん、今度そっちあたり試してみようかしら⋯⋯。
「ところで、何を飲んでいるのですか?」
「ワイン。飲む?」
「い、頂きます。」
「俺も貰っていいか。」
「ええ。」
お気に入りのやつ。
「美味しいですねぇ⋯⋯。」
「ふむ、流石、と言うべきか。」
「美味しいわよねー。」
ストックは過去のループで沢山あるからね、減りは心配しない。
ましてや倉庫、酸化も心配なし!まあ、大抵飲みきるけど。
「倉庫、便利ですね⋯⋯。」
「あら、簡単よ?」
「ああ。少し認識を変えるだけだ。」
飲みながら、インストラクション。
「出来ましたー!やったーあぁー⋯⋯。」
ぱたり。あ、酔いも相まって寝た。
「すー⋯⋯すー⋯⋯。」
まったく。テントに運んで、と。
「⋯⋯ねえ、ゼルノ。」
「なんだ、言いたい事はわかるが。」
「なかなか筋よくない?この娘。」
「だな。⋯⋯どうだ、究められそうか。」
「それはあの娘次第ね。競い合える友人が出来れば、かなりいけるかも。」
「ふむ。同年代でなら⋯⋯アレがいるな。」
「もしかしなくてもツインテール。」
「⋯⋯まあ、間違ってはないな。ツェツィーリア嬢だ。」
へえ、そんな名前だったの。
たしか将になればツィディナ、だっけ。⋯⋯あ、そうだ。
「ねえ、確か将になったらコードネーム的なもの付けられるのよね。」
「ああ。お前は何がいい?」
「⋯⋯このグリディナって名前、元はそれなのよ。」
「そうなのか、ふむ。他の世界の俺もなかなかいいセンスをしている様だ。」
「⋯⋯出来ればこれで行きたいのだけど。」
「いいだろう。⋯⋯因みに、だが。本名、何という。」
「⋯⋯。アンナ。アンナ・グリムディアよ。」
「アンナ、か。いい名だ。」
ふん。
その後は無言で、飲み続ける。
「⋯⋯無くなったな。」
「ええ。」
寝るか。
「おやすみ、ゼルノ。」
「ああ、おやすみ。アンナ。」
テントに潜って、寝る準備して、おやすみなさい。
夜は更けていく。
何いい雰囲気出してんだこらー。