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ギルドへの訪問者



リフェ達が目指すギルド本部は王都の東にある。パレードの行われた大通りを王城とは反対に進むと、赤褐色が目立つ立派な石造りの建物が見える。それがギルド本部だ。

今日はパレードがあるとはいえ、ギルドは毎日依頼を受け付けている為閉まることはない。

立派な建物の前に来た2人は、その大きさと出入りする人々を見て目を輝かせていた。



「ギルドおっきいねぇ!」


「リフェ見た?今の有名な魔法使いカルラさんだよ!すごいカッコイイ...!」


入る前からはしゃいで田舎者丸出しな2人。通り過ぎるギルドの者にクスリと笑われるまで呆然とギルドを眺めていた。


「よ、よし!リフェ行こう!」


「うん!」


ちょっと顔を赤らめながらもべリィは意気込んで足を踏み出しリフェもそれに倣う。

アーチ型に作られた門をくぐり抜けて開け放たれた大きな扉の方へ向かう。そして扉を抜けると、優しい木の香りが最初にリフェの鼻に香った。中は木造も兼ねていて、外観の荘厳さに比べるととても過ごしやすそうな空間だった。そして部屋の中では受付で話し込む人や、依頼を確認しているのか沢山の依頼書が貼られたボードと睨めっこしている人など、大勢の人が存在していた。


「うわぁ...みんなギルドの人なんだぁ...」


「と、とりあえず受付?かな?」


リフェがそう問いかけると、べリィもぎこちなく頷く。2人とも初めてギルドに来た為か、明らかに挙動不審だった。なので傍にいた優しい青年が「受付ならそこだよ」と親切に教えてくれて、それに恥ずかしい思いをしつつお礼を言って受付に向かったリフェとべリィだった。



「おや、新規さんかな?」


「は、はい!ギルド登録したいんですが!」


緊張した面持ちでべリィが受付の男性に応えた。茶髪に茶色の瞳、年齢は30代程の柔らかな笑みが特徴的な人だった。彼は2人を見ると、優しく頷いて手元から2枚の紙を取り出した。


「ここに名前と魔法の有無を書いてくれるかな?」


「それだけで良いんですか?」


あまりに少ない情報にそれでいいのかとリフェは思わず声に出してしまった。自身について深入りされないので聞くべきでは無かったが。


「あぁ、とりあえずはね」


意味深に笑う彼に、リフェはよく分からず首を傾げるが紙に名前と魔法有りと書く。ちなみに文字は魔王国と人間の国のものもどちらも習得しているので、ここはしっかりと人間の文字で書いておいた。いつか使うだろうとリフェはローカに内緒で勉強していたのだ。


「ふむ、どちらも魔法が使えるんだね。ありがとう、じゃあ僕の後に付いてきてもらえるかな?」


2人の書いた紙を見やると、彼は徐に立ち上がって別の場所へと歩き出した。


「あ、はい!」


どこに行くのだろうかと少しドキドキしながら、2人は男性の後を付いていった。



受付のある部屋を抜けて長い廊下を歩くと、前方に青色の頑丈そうな扉があった。それを軽々と男性は押して開けると、2人に中に入るよう促した。


中は木造ではなく石造りを基調とした、全体的に白くて広い空間だった。床は大理石のように美しく輝いている。


「ここは実技練習場だよ。もう分かると思うけど、君達の腕前をまず見させてもらおう」


「え!?」


大げさな程反応したのはべリィ。実技と言うことは魔法を披露しなければならない。仮にこれがギルドに入る為の試験なのだとしたら、ここで何も出来なければギルドに入れないかもしれないと、べリィは顔を青くする。

リフェもリフェで、力加減を間違えれば怪しまれる可能性を考え思わず無言になってしまった。


そんな2人を見て男性は優しく笑って声を掛けた。


「別にこれでギルド登録に影響が出るわけじゃないよ。まずはただ、どれ程魔法が使えるか見せて欲しいだけだよ?だから肩の力を抜いて、リラックスリラックス」


男性の言葉にべリィは大きなため息を漏らした。余程気を張っていたらしい。だがリフェはそれでも気は抜けないと、表情は和らげながらも内心はぶれないよう気を張っていた。


「じゃあまずは、べリィさんから」


「は、はいっ!」


ぎこちない動きでべリィは2人から距離を取り、手を前に翳した。


「魔法は何でも構わないよ。得意なものがあればそれでもいい」


「じ、じゃあやります!」


覚悟を決めたのかべリィは強く前を見据えながら手に魔力を込めた。


「アイスニードル!」


「!」


声はリフェと出会った時よりも張りがあった。込められた魔力量も申し分なかった。だが冷気とともに現れた白銀の棘の大きさはとても小さく、べリィの目の前に現れてすぐに地面に落ちていった。小さな氷が軽快な音を立てて割れた。


「あ...」


「...ふむ」


べリィの消え入りそうな声と男性の頷く声が重なった。

これがギルドに入る為の試験でなくとも、この結果はあまり良いものとは思えなかった。思わずリフェも何も言えずに2人を見やった。


「...では次に、リフェさんお願いできるかな」


「え、あ...はい」


どうにも気まずい雰囲気だが、男性は気にもしてないのかそう告げて微笑んだ。べリィは俯いてしまっていて表情が見えない。励ましたいが今は何も言わない方がいいかもしれない。


「やります」


べリィが心配だがリフェも下手をすれば危うい存在でもある。今は魔力調節に集中して、普通位の力を出せるよう努力しなくては。いつも以上に細かな所まで気を配り、魔力量を減らしながら唱えた。


「ファイアーボール!」


翳した手から溢れた魔力が熱い炎の球となり、5m程飛んだあと大きな音を立てて消滅した。

魔法使いが使う技では初期のものだが、あらゆる上級者でも欠かさず使う必須魔法だ。魔力量も少なくて済む上、魔力調節もしやすいのだ。


「...なるほど」


変わらぬ声色で男性はにこやかにそう言うと、突然踵を返して扉の方へと歩き出した。そうしてこちらを振り返りながら優しく告げた。


「二人共、受付まで戻ろうか」


「...は、はい」


「......」


実技を見ておきながら何も言わない彼にリフェは訳が分からずも返事を返すが、べリィは俯きながら何も言わなかった。恐らく受からないと思っているのだろう。


「べリィ、まだ分からないよ。行こう」


「...リフェ...、うん」


元気のないべリィの手を引きながら、リフェは男性の後を追った。



受付に戻ると、男性はカウンターの奥にある棚から何やら小さな紙を取り出してサラサラと何かを書いていく。そこに青色のインクのついた5cm程の大きさの印鑑を押し当てた。それは2枚あった。


「はい、じゃあこれ登録証だよ。どうぞ」


にこやかに、彼はリフェとべリィにその紙を差し出した。見れば、硬めの用紙に彼のサインと印が押されていた。用紙には"ギルド本部登録証"とリフェ達の名前が明記してあった。


「.........え?」


「べリィ、これ...!」


何が起こったのか分からない様子で、べリィが用紙を手に硬直した。リフェも突然のことに驚いたが、どう見てもこれはギルドの登録証だ。そう、ギルド登録が2人共出来たのだ。それを理解して思わず嬉々とした声が上がった。


「と言うわけで、ギルド登録完了だよ。これからギルドの一員として頑張ってね、リフェさんべリィさん」


にっこりと笑ってそう言う彼に、2人は顔を見合わせてからまた彼を見た。


「あの、わたしどうして登録証を...?」


「君はまだ魔法を使い慣れてない節があるけど、将来性は凄く高いと僕は思ったよ。そういう子を育てて行くのも、ギルドの仕事でもあるんだ。それに、ギルドに入りたい子を無碍に退けたりしないよ」


「ーー!あ、ありがとうこざいます!頑張ります!」


余程嬉しかったのかべリィは目に涙を貯めて何度も男性にお礼を言った。それには彼も困ったような顔をしていたが、べリィが喜んでくれた事は彼も嬉しかったようだ。


「えっと、ちなみに私は...」


一応聞いておこうかとリフェも尋ねると、彼はリフェを見てスッと目を細めた。


「君もとても将来性のある子だと思ったよ。もっと魔法を覚えればとても優秀な魔法使いになれるだろう。頑張ってね」


「あ、ありがとうございます」


褒められているのだが、どこか怪しまれているような探られているような目に胸が嫌な音を立てた。もしかするとこの男性は、リフェが本気を出していないことに気付いているかもしれない。でも何も言わないのは、リフェが上手く魔法を使えないべリィに気を使って手を抜いたと思っている可能性もある。


何にせよギルド登録証は手に入れ、リフェの冒険者としての未来が始まろうとしているのだ。これ以上に喜ばしいことはない。


「ーーやったねべリィ!」


「うん!やったよリフェェ!!」


二人して手を取り合ってその場で何度も喜びのジャンプをした。それを男性はやはりにこやかに見ている。


「これからたくさんの依頼(クエスト)をこなして、どんどん成長していって欲しい。頑張ってね」


「「はい!」」


2人で登録証を見ながら喜びに浸っていたが、ふとリフェはずっと気になっていたことを受付の男性に尋ねた。



「そういえば貴方のお名前を聞いてなかったんですけど...」


「ん?あぁ、名乗ってなかったね。これは失礼した。僕はビリー・トメリア。この...」


彼が何か言おうとしたその時、突然リフェ達の5m程後方でどよめきが起こった。何事かと振り返ると、目に入って来たのは眩い閃光。よく見れば床が強く輝いており、それが魔法陣であることに気が付いた。


「な、なに!?」


強い魔力を全身に感じた。なぜ部屋のど真ん中にこんな魔法陣が現れたのか分からないが、どうみても異常な事が起きていた。


「...あぁ、もしかしてサボったのかな?」


「え?」


ビリーが溢れる魔力を気にもせず呆れたように声を漏らした。その言葉の意味を図りかねている内に、部屋中に煌めいていた光は収まっていた。


「何だったの...」


今一度目を開けて魔法陣のあった方を見やった。そこには数人の男女がいて、どうやらどこからか高位魔法で転送して来たようだった。だが現れた者達はどれも見覚えのある顔をしていた。


「ーーーーー!!!?」


それを見た瞬間、リフェは瞬時にべリィの後ろに隠れた。とんでもないことが起こっていると、リフェの心臓は尋常じゃない速さで動いて治まらない。じっとべリィの背から離れないリフェに彼女が不審がっていると、件の者達が動き出した。


「いっやぁ〜〜、パレード最高だったね!でもやっぱ堅っ苦しいのやだしここが一番♪」


「......寝るか」


靴音を響かせて何故かリフェ達の方へと歩いてくる。それはアクアマリンの髪の美少女と緑髪の青年だけでなく、一際目を引く金の髪と美しい翡翠色の瞳を持った美青年も同じだった。

そしてその3人を見てため息をつきながら声を掛けたのはビリーだった。


「全く、サラさんだけ残して逃げてきましたねアインス?」


「...ただいまマスター」


アインスと呼ばれた金髪の美青年ーー勇者は、ビリーにそう返答した。

どうやら彼はこのギルドのマスターだったようだが、今のリフェにとってはそんなこと取るに足らないことだった。何故なら目の前に宿敵である勇者がいるのだから。


「それにリーティとマルアもサボったね?」


「だって疲れるしさぁ」


「同意だ」


「...後でしっかりサラさんに説教受けるんだよ」


げぇぇ、と嫌そうな声を上げるリーティ。マルアは無表情だがどこか面倒そうな雰囲気が出ていた。


「それより、魔王討伐お疲れ様。よく頑張ったね」


マスターが先ほどよりも笑みを深めて、彼等を見やった。だがその言葉が発せられると、一瞬だが静かな間があった。


「ーーあ、あはは...いやまぁ頑張ったよ!大変だった!ねぇ、マルア!?」


「...死闘だった」


「ほんと魔王めっちゃ強くてさ!結構大変だったんだから......ほんと、うん...大変だった...」


どこか慌ただしかったが後半何かを思い出したのかげんなりした表情を浮かべるリーティ。

それを見て周りの人々は労りの言葉を投げかけ、リーティは曖昧に笑ってお礼を言ったりしていた。


「その様子じゃ、色々苦労したんだね。本当によく頑張ったよみんな」


「あ、うん...頑張ったけどこれから更に頑張らなきゃいけないよーな...」


「そんなことより」


ふいに、勇者がリーティの声を遮って声を発した。

周りがそんなこと!?と驚きでざわついているのも無視して彼はその目をべリィへと向けた。

いや、正しくはべリィの後ろにいる少女に。



「.........」


「あ...ぇ...ぁ...リ、リフェ、リフェってば!ゆゆゆゆ勇者さんだよ!?こっち見てるよ!?」


「ーーーッ」


何度も(ドモ)りながらべリィが後ろに隠れるリフェに声をかける。だがリフェは頑として動こうとしなかった。するわけには行かなかった。どちらにせよ状況は最悪でどうにも出来ないだけなのだが。




「...そうか、君の名はリフェと言うんだな」


「ッ!?」


優しく静かな勇者の声が、リフェの名を口にした。それだけなのに、何故か胸がギュッとなった。変に息がしにくくなる、とリフェは顔を歪めた。


(ていうか、バレバレだ......)


勇者はどういうわけかこちらから目を離さない。リフェと話でもしたいのか何なのか、考えるのも怖いがこのままではどうにもならないとは思う。

ここは腹を括って話をするしかないのか。リフェはべリィの背後で大きく息を吐いた。


意を決して、だが恐る恐るべリィの肩口から顔を覗かせた。



「...リフェ、やっと会えた」


「ゆ、勇者...さん」


リフェの目に入ったのは、翡翠色の目を細めて柔らかに微笑む勇者の姿。何故、そんなに嬉しそうに笑うのだろう。

そして何故、会いたかったなどと恐ろしい事を言うのだろうか。


「リ、リフェ...?勇者さんとし...し、知り合いだったの...!?」


べリィもべリィで目の前に憧れの勇者がいる為、顔は赤くなり動揺も激しかった。でもそれにすら構ってあげられない程リフェも動揺していた。


「...な、何で...」


たじろぐリフェは声も上手く出せない。

その時、勇者の隣にいたリーティがリフェの顔を見てその目を大きく見開いた。


「あーーー!!何でこんな所に!あんた魔ぉんんん!?」


「うるさいぞリーティ」


いきなり叫び出したリーティの口をすかさずマルアが押さえた。お陰でとんでもない単語が飛び出すのを防げたが、彼等には確実に魔王であることはバレているようだった。



「リフェ、怪我はもう平気か?」


「え?あ、...うん...」


リーティの事を気にもしてないのか勇者はまたリフェに話しかけた。それに怯えつつも、彼が自分を助けてくれたことを思い出して頷いた。怪我と言うのは恐らく森を出てすぐ眩暈で倒れた時に、地面に打ち付けた腕などの擦り傷を言っているのだろう。


「良かった」


「ーーー」


リフェの言葉にまた勇者は柔らかに微笑んだ。その笑みにリフェはどうしたらいいか分からない。


「それから俺のことはアインスと。いや、アインでいい」


「へ...」


呆けるリフェに、勇者もといアインスはにっこりと笑った。まるで何かを待っているようにリフェを見つめて。


(え...まさか、名前呼べってこと...?)


そんな馬鹿なと思ったが、彼の目がそれを待っているように見えた。

一体何を望んでいるのだろう彼は。魔王と馴れ合ってどうするつもりなのだろうか。いくら考えても分からないリフェは、とにかく今の状況を変えるためにもその重い口を何とか開いた。



「...えっと......ア、...アイン?」


「ーーリフェ」


自身の名を呼ばれた瞬間、彼は誰もを虜にする蕩けるような笑みを浮かべてまたリフェの名を口にした。それは無意識に出たもののように見えた。それ程、彼は嬉しそうに笑ったのだ。


「ーーー!?」


途端に目の前のべリィが顔を真っ赤にして床に倒れ、周りにいた女性陣も次々と床に倒れていった。漏れなく全員顔が赤く何故か幸せそうだった。

当のリフェも間近でその微笑みを見てしまい、倒れることはないが顔は赤かった。その反則的な笑顔はずるいとリフェは動揺しながら思った。


(ーーて、何照れてんの!?相手は勇者!そんなことしてる場合じゃないよリフェ!よく分かんないけど、今はやばい!......でも)


逃げたい衝動に駆られるが、どうしても勇者に聞きたいことがあるのだ。ローカ達は無事なのか、そして何故魔王を倒したことにしたのか。それを聞かなければやはりスッキリしないし、この先の未来の為にもきっと重要な事だ。


「あ、あの勇者...」


「アイン」


すかさず名を呼ぶよう咎めるアインスに、リフェは若干引きながらも何とか声を振り絞った。


「あ、...アイン...その、私聞きたいことが」


「うーん、まずはこの状況を何とかしてからお話してくれるかい2人共?」


カウンターに立つマスターは、女性陣がほぼ全員倒れた異様な部屋を見渡しながらため息混じりにそう告げた。

確かにこの状況は最悪だ。リフェもここでする話では無かったとようやく思い至った。動揺していて気付かなかったが本当に危ない所だった。


(一旦落ち着いて、状況を整理しなくては...)



「ーーーちっ」


「聴こえてるからねアインス」








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