58話 手痛いお仕置き
「君たち待ちたまえ。
僕はまだそこの者と話をしているんだよ?」
そう言われた護衛たちは、大人しく手にした武器を下げた。と言っても下げているだけだが。
周りも騒がしくなってきた。
登録が終了したばかりの新人が、貴族に絡まれてそれを突っぱねている状態。パッと見は世間知らずが息巻いてるとしか思えない光景だな。
面白がるのが殆どで、後は迷惑がっているか心配そうに見ているかだ。心配だったら止めて欲しいものだが、貴族の愚行を止められるのは殆ど居ないだろうな。
「君も頑なに断らないで、僕の提案に乗ったほうが良いと思うが如何かな?」
護衛も居る事で未だに強気の肉は、再度フリムに手を伸ばそうとする。
「俺は断ると言った」
肉がその手でフリムに触る前に、腰に装着していたP90を抜いて照準を肉の額に合わせた。
伸ばしていた手が止まるも、なおも強気な肉は肩を竦めながらヤレヤレといった感じで語ってくる。
「君もいい加減にしないと僕の護衛たちが襲ってしまうよ?
彼らは僕に対して物凄く忠誠的な働きをしてくれてね、僕のためになら危険な事も顧みずにしてしまう事もあるんだ。それが違法な事でもね。
だから彼らが動かないうちに素直にそのフリムドラゴンを渡すんだ。そんな箱が何の役に立つと言うんだい」
あぁ、これが銃だと言う事が分からないのか。
分かりやすいように、肉の足元に向けて1発だけ発泡させる。
分かりやすい銃声と足元に空いた穴で、これが銃だという事が分かったはずだ。
再度無言のままP90を額に向ける。
「・・・す、凄いね、それは銃かい?
そんなに小さいものは王都でも見た事がないよ。
でも貴族である僕に対して撃つなんて無礼過ぎるよ?それに弾丸は再度装填しないと撃てないんでしょ?確か連発出来るものを開発中とは聞いているけど、まだまだ開発途中らしいしね。
ドラゴンと合わせて、僕へのお詫びとしてその銃とそこの女を寄越せ。
その銃も珍しいし、女は可愛がってやるからさ」
これが銃だと分かった肉は顔色を青ざめさせながらも撃たれないと思っているのか、まだフリムを要求してきた。更にタチが悪いことに銃とイエイヌまでも要求してくる。
要求の追加を聞いていた外野の中に居た女性陣から避難の声が小さく漏れていた。
要求されたイエイヌは、俺の背中の服をキュっと掴んできた。見えては居ないが、その手は震えていた。
多分、奴隷にされていた時の事を思い出したんだろう。
「ゲスが、本当に死ぬか?」
「残念だよ、本当に残念だ。僕の優しさが理解できないなんて。
お前たちヤレ」
肉の指示で、護衛たちは一斉に俺に襲いかかって来る。
肉自身は自分の勝利に確信を持っているようだがその確信は一気に覆された。
物体操作で操られたもう一丁のP90とMP5を展開させて、ほぼ同時に護衛たちの関節を撃ち抜かれてその場に崩れたからだ。
「僕の言う事を聞けぇぇぇぇ!!」
今度こそどうしてやろうかと考え出した時に肉が自分の腰に付けていた無駄に装飾されている細身の剣を抜いて斬りかかってきた。
ダンっと1発撃って剣を握っていた手を撃つと撃たれた手を押さえて痛む肉、だが俺はそれで終わらせずにそれぞれの足と腕を撃ち抜いていき最後に額に照準を合わせる。
「・・・ソーマさん、もう大丈夫ですから。・・・それ以上はダメです」
イエイヌの静止でこれ以上は止めようと思った俺は、銃を元の場所に戻した。
イエイヌに止められなくてもそろそろ止めようかと思っていたんだがな。
「どうすんだよアレ」
「貴族を攻撃するなんて」
「剰え怪我をさせてるじゃねえか」
周りの野次馬たちもこの状況に騒ぎを大きくさせていく、そうだと思った俺は野次馬に声をかけた。
「誰かこのバカ息子の親を呼んで来い!
今なら王城に居るはずだ!ソーマがバカ息子の件で急いでいると言え!後で報酬も出させる!!」
報酬が出ると聞いたからか、2.3人程駆け出て行った奴らが居た。
これでゼルフも来るだろう。
「ばっ馬鹿な奴め、父上をよっ呼びに出させるとは。こんな状態の僕を見たらきっ君は間ちっ違いなく処罰されるよ」
「煩い黙れ無駄肉が」
肉を黙らせるべく、床に転がっている肉に空いている銃を踏みつけて黙らせる。
何度も話しかけようとした時に合わせて踏みつける。それを暫く続けると、建物の外が騒がしくなった。
「ソーマ殿如何した!!」
騒ぎの正体のゼルフが護衛の騎士たちを伴ってギルドに慌てて入ってきた。
そのまま人の群れをかき分けてその中心を見たゼルフは絶句していた。
「ゼフ!
それにソーマ殿これはどう言う事か!」
ゼルフの言うことも最もだろう。事の顛末を知らないゼルフが見たのは地面に倒れこむ息子と護衛たち。その傷痛いた息子を踏んでいる俺に、怯えた様子で俺の傍に居るイエイヌ。
状況だけ見れば俺が悪者に見えるな。
「まぁ落ち着け、説明するからな。このバカがした事を」
状況が掴めないゼルフに俺は事の顛末を説明し始めた。




