44話 自主トレ
「こんな感じで良いんですか?」
再出発してからの休憩中、俺は、当初の予定通りにガードナーの人たちから体の動かし方、戦闘中に無駄な力を使わないようにするのを相手をして貰いながら教わっていたが、これが難しい。
なにせ、急激にステータスを上げた所為で力加減が出来ていない。
日常生活の動きでも、ちょっとした瞬間に力加減が出来なくて物を壊してしまう。
組み手の相手もして貰ってもいるが、こちらが加減しているつもりでも全然できていない。
「そうだな、もう少しだけ力を抑えると良いと思うぞ」
「私から言えるのは、魔力を使う際にも同じように抑えると良いと思います。
慣れてくれば、魔力も体を使うのと同じように、無意識でも出来る様になりますから、今は、焦らずに慣らしていくと良いでしょうね」
今回の護衛に来ているガードナーの人たちは、同じパーティーでの参加の様で、皆で俺の事を鍛えてくれている。
ただし、食事提供が条件になっているけどな。
ちなみにパーティー名はホーグランの盾と名で、何でも、ホーグランって名前の街があって、そこの外壁は、作られてから今までの一度も破られた事が無いようで、国外でも有名らしい。
そこの外壁の通称が、ホーグランの盾と言うそうだ。
そこから取って名前を決めたそうだ。
今、講師として助言をしてくれたポジション剣士と魔法使いの男女がパーティーのリーダー格でその下に何人かの仲間が居るそうだ。
2人以外の残りのメンバーは、それぞれポジションやLVにステータスの違いがあるものの、全体で考えればバランスの良い人員構成になっていて、その全員が俺の組み手相手になってくれている。
そしてクタクタになって地面にへたり込んで居たりするんだけど、それは仕方のない事なのかもしれない。
訓練とはいえ、極端な話、ドラゴン相手に訓練している様なモノだからな。
ドラゴンに会った事が無いから知らないけど。
「皆さんありがとうございます。
これから食事のようですので、俺も準備しますね」
っと、言ってもコンビニで買ってくるだけだけどね。
「あぁ、期待してるよ。
正直、支給分だけだと物足りないし、味気無いからな」
「では用意してきますね」
彼らと離れて、コンビニに移動する。
最近、品ぞろえが増えて、弁当の中身が、現代的な容器に入っている物から、昔ながらの竹製の弁当箱に入った弁当もある。
竹製の物ならあちらに持って行っても問題はないと思う。
それを、人数分と、粉末スープを追加で買って行く。
弁当は、人数分を全部温めてもらう。
神爺さんに文句を言われたが、仕事なのだからやって貰った。
まぁ、人数分、合計8人分だから言われても仕方がないか。
コンビニから戻ってからは簡単で、空の鍋に水を入れて沸かしていき、そこに少し少ないかも知れないが野菜を入れて煮込んでいき味付けに買ってきた粉末スープを入れて味を調える。
用意が出来た時とほぼ同時に、呼ばずしてホーグランの盾のメンバーが来ていた。
「もう出来ていたのか、早いな」
「スープだけでも助かりますね」
何故だか知らないけど、スープだけだと思われている。
あ・・・コンビニに言っている間の時間が止まっていたのを忘れていた。
「あぁ、そこにある竹製の弁当箱に入っているのも食べて良いですよ。
人数分もありますから」
「あれも良いのですか?
いつの間に作られたんですか?
そんなに時間は経って無いはずなんですけど」
「そこは秘密です」
笑顔で答えて、教えませんよと示す。
「皆、これも食って良いってよ!」
リーダー格の男が言うと一斉に弁当を取り出して無くなっていった。
全員に行き渡って、そのままスープが入った鍋を囲むように座って食べ始めた。
「食事の時ぐらいはフードを取れ」
「すみません、つい忘れていました」
リーダー格の男に注意された、もう1人のリーダー格の女がフードを取ると、思わず俺は見入ってしまった。
今まで神爺さんとミルエル以外で、普通の人種以外の人を見た事が無かったからだ。
その特徴的な長く尖った耳と綺麗な顔つきは、よく聞くエルフのモノだった。
知識としては知っていても実際に見ると内心感動するな。
「?
エルフが珍しいのですか?」
「分かりません。
俺は、メルギルに来るまでの記憶が無いので、他の種族もそうですけど、見た事が有るのか無いのか・・・まぁ今の俺としては初めてですけどね」
便利な言い訳、記憶喪失を使ってやり過ごす。
「そうなんですか、大変でしょう」
「いいえ、皆さんが良くしてくれるので不自由な事はありませんよ」
疑う事無く信じてくれる。
やはり便利だな。
「メルギルは、人間が殆どだからな。
あまり他の種族の者たちを見かける事も少ないだろう」
リーダー格の男が俺に言ってきた。
「他の種族の人たちが入るのに制限とか有るんですか?」
「いいや、そう言ったモノは無いな。
あの街は基本的に領主の考えで往来も定住も自由だ。
あの方が街の領主になる前に居た、他の家の領主が、他種族に圧制をしいていてな、そのせいで少なくなっていたんだ。
オイバザード様が来てからは、これでも増えてきていたんだ。
街の人たちも元々立種族に偏見は持ってなかったしな」
そうなのか、だったら今後も見かけたりするのも増えていくのかな?
「そうですか、これからも見かける事が増えて行く事が有るんですね。
色々な話を聞いてみたいです」
「それはご自分の記憶探しの為ですか?」
「それも有りますけど、ただ聞いてみたいだけなんですよね」
知らない話を聞くだけでも面白そうだしな。
「フィー!」
なんて話をしていたらフリムが元々の小さいサイズで飛んできて俺の膝の上で甘えだしてきた。
「その子は貴方の使い魔ですか?」
「そうですよ。
まだ生まれてからそんなに月日が経って無いので、まだまだ甘えたがりですけどね」
フリムの頭を撫でながら答える。
「そいつ、フリムドラゴンか?」
「正解です。
フリムには悪戯しないでくださいね。
最近ブレスが使えるようになって、直ぐ使ってきますからね」
俺も極力我慢させようとしているのだが、まだ小さいからか我慢がなかなかできない。
それでも人には使わない様に何とかなった。
戦闘中は別だけど。
「別にそんな事をする奴は家には居ないさ。
ただ珍しかっただけさ、使い魔になっているフリムドラゴンは珍しいからな。
しかも生まれたばかりなんだろ?」
「えぇ、さっき言った通りです。
あ・・・すみません、フリムを馬車に運んできますね。
寝ちゃったので」
撫でられたままフリムは寝てしまっていた。
断りを入れてから、ミルエルたちが使っている馬車にフリムを運び入れて寝かしておいた。
丁度そのまま移動の時間になったようで、片付けを済まして移動となった。
今回は、休憩前とは違い、ミルエルたちの馬車の横での護衛となった。
移動中、ミルエルとアイマさんが、俺だけ歩いているのを申し訳なさそうに見ていたが、気にするなと言っておいた。
好きでやってる事だし、早くなれないとイケないからな。
さっきもフリムを運び入れていた時、馬車の床を踏み抜きそうになったからな。
さてと、次の休憩までは、体を動かす事と魔力の使い方の自主トレでもしてますかね。




