41話 殲滅と制御
さて、向こうも迂闊に攻撃してこなくなったが、俺も動く事に躊躇していた。
別に、殺し殺される事に対して、恐怖や嫌悪感を抱いているのではなくて、俺自身が、ステータスをあげた事によって体を緩急をつけて上手く動かせないからだ。
「ほら、来ないのか?
来ないなら、俺から行くか?」
腰に付けていたFN P90(以降P90と表記します)を2丁とも物体操作で空中に浮かせる。
左右に展開させて、ターゲットロックを使ってそれぞれに狙いを付けておいた。
俺にはパーティーメンバーが居ないからな、こうでもしないと数の力に負ける可能性がある。
これだったら3人で攻撃するのとかわりないはずだ。
P90から弾丸が飛び出すが狙いが甘く、敵にダメージを与える事が出来ない。
飛んでいった弾丸は、足元や脇を通りすぎるだけで、良くてもかすり傷になるだけだ。
「早くどうにかしないと当てに行くぞ?」
余裕がある感じで話しているけど内心は焦っていた。
強制的に上げたステータスやスキルが上手く扱うことが出来ない。
いつもなら銃弾も当てる事が出来るのに、今はそれが出来ない。
さっきまで使っていた結界とかは、動かさなくてすんだから何とかなったけど、それ以外となるとかなり難しい。
魔力を使うことに対して、できるだけ大急ぎで慣れていけるようにする。
討ち漏らして、俺に攻撃してこようとしたやつには直接タボールで撃ち殺すとしよう。
「あれを撃ち落とせ!!」
商人と名乗っていたやつの命令で、P90を後衛陣が攻撃してきたが、狙いを絞らせないように、前後・上下左右にランダムで動かしながらも撃ち続けた。
動きが複雑になったせいで、制御が一層厳しくなってきた。
それでも少しずつ慣れていくと、弾丸を当てれるようになってきた。
まだまだマグレ当たりの領域だけど、その精度は上昇してきている。
「チッ!
くそが!」
P90に意識を集中しすぎて、回り込まれたのに気がつかなかった。
そのまま気がつかなくて、切りつけられてしまった。
運が良かったのは、剣での攻撃を事前に貼っていた物理操作の膜が効いていた事だった。
同時に幾つもの魔法などを使っていて制御が甘かったのに助かった。
振り向き様に、切りつけてきた男にタボールの弾丸をフルオートで打ち込んだ。
そのまま胸の辺りに弾丸を浴びた反動で、男は倒れながら死んでいった。
慌てて後ろに振り向いてしまったのが余計だったらしく、P90の狙いがそれ、俺の近くにいた奴らから剣での攻撃を仕掛けてきた。
タボールの銃口を右から左に流すように移動させ、弾丸を撃ち続けた。
それでも無事な連中は、突撃しようと纏まって来るので、タボールに付けてあるグレネードランチャーを撃ち込んで一掃する。
吹き飛ばされた連中の中で、生きている者も居たが、自身が負った怪我のせいで動けずにいた。
生きていても腕や足等の一部が欠けていたり、死んで粉々になされた仲間の武器や防具の破片を浴びてしまっているのだ。動ける方が凄い。
そろそろ時間切れかな?
幾つものスキルと魔法を同時に使っていたせいで、いくらMPの回復スキルがあっても消費スピードが高ければあまり意味がなくなってくる。
精神的疲労が高まってきたから残りMPが少ないのだろう。
「終わらせてもらう」
タボールを右手だけで腰の辺りで構えて、残った左手でMP5を同じように構える。
建物に貼っていた結界と自分に使っていた物理操作の膜を消して、その分をマウントボルトを使用している武器に使う。
マウントボルトは、今使える最大まで威力を高めてあるので、麻痺だけで済まず、高電圧によって感電死するはずだ。
改めてターゲットロックでの狙いを定めて、定め終わると一斉に引き金を引いた。
一斉に発射された弾丸は、それぞれ敵の防具や結界を貫通していき、文字通り蜂の巣にしていった。
どの様な理屈なのかはわからなかったが、貫通力も上がっていたらしく、紙を貫通しているかの様に抵抗無く貫いていた。
少しだけ、結界を貼っていた1人の男が頑張りを見せていたが、その頑張りも数秒で散っていた。
全員が崩れ落ちても、討ち漏らしが無いように更に弾丸を浴びせた。
魔力が限界に近づいた所で撃つのをやめた。
死体は全て穴だらけになっていて、生きているものは居ない事は確実だった。
「恨むなよ、そっちから仕掛けてきたんだからな」
目を見開いたまま死んでいる商人と名乗っていたやつに近寄り、そう言ってやった。
後悔はしてない、俺だけ逃げても後味が悪かったし、自分が知っていながら、知人が死んだり悪事に加担させられてるのに黙って日々を過ごせるほどできちゃいないから。
銃をそれぞれの場所に戻していると、エンがやって来た。
「お疲れ、安全が確保できたようだな。
それじゃ、案内を宜しくな」
元気良く返事したエンは、案内しようと飛び出した瞬間、俺に止められた。
「ごめん!ストップ!!
フリムを忘れてた!」
エンと一緒に裏に行くと、フリムが大人しく、犬のようにお座りして待機していた。
近くにはやはりと言うか、男たちの死体が幾つか転がっていた。丸焦げになって。
「良くやったなフリム」
褒めながら頭を撫でてやると、嬉しそうに泣いてくれた。
後で、しっかりと遊んでやらないとな。
「それじゃあエン、悪いけど改めて頼むよ」
再度お願いして案内をしてもらう事にした。
歩き出した瞬間、疲れが出たのか、ふらついて歩けなくなってしまった。
「どうするか・・・」
地面に座って、考えているとフリムが頭で突いて来た。
「どうした?」
フリムを見ると、体が輝きだして大きくなりだした。
胴体だけでも馬ぐらいはありそうだ。
「フィー」
フリムは屈んで、自分の背中を俺に見せた。
「何?
乗れって言うのか」
「フィー!」
えっと、そうなのか?
返事をしたと言う事はそうなのだろうけど、1つだけ言いたい事があった。
「お前、いつの間にこんなにデカくなったんだよ。
成長が早すぎるぞ」
「??」
何言ってるの?って目をされてしまった。
こいつからしてみたら当たり前に成長したんだろうから仕方がないのかも知れないな。
「これで良いか?
できるだけソっと飛んでくれ、初めてなんだから」
フリムの背中に乗った俺は情けないお願いをしていた。
空から落ちた俺が無事で居られるは分からないし、少しだけ高い所が苦手なんだから勘弁して欲しい。
俺のお願いを聞いてくれたのか、ゆっくりと飛んでくれた。
って言うか、フリム、お前はいつの間に人を乗せても大丈夫なほど飛べるようになったんだ?
少し前まで全然だったのに・・・
そんな事を考えながらもエンの案内で、合流するべく移動を続けていた。




