31話 伝言
3日目の昼過ぎにメルギルに着いた。
着いてからは、エンの使い魔の印を買うことになり、相馬さんに買ってあげた。
円は、成体になっているから大きさが殆ど変わらないそうだ。
だから印の値段も安かった。
買い物が終わったあと、ギルドに一度顔を出しといた。
受付に居たエレスに挨拶したら、相馬さんの事を聞かれたから答えづらかった。
勇者って言う訳にはいかないし、同じ冒険者って言う訳でもないからな。
何とか誤魔化しつつ、今までの往復分で手に入った討伐証明部位と素材を換金していった。
新人講習場で待機していたガインと教官たちに、依頼の達成と別の相馬さんの事を依頼を報告しておいた。
ここでも相馬さんとの関係を聞かれたけど、ここの連中は暇なのか?
メルギルの領主が居る屋敷は、以前エレスに街を案内して貰った時に教えて貰っていたから、問題なく案内はできた。
案内はできても直ぐに会えるかは分からないけど。
「そこの2人止まりなさい。
この屋敷は領主、オイバザード様の屋敷だ。許可のない者はここから先を通す事は出来ない」
館の前に居た、門番だと思う2人組の1人に声をかけられた。
「済みません。領主様にお話がありましてここまで来ました」
「済まないが、オイバザード様はお忙しい方だ。
直ぐにお会いすることはできない。
早くて3週間後だからその時にでも来なさい」
「そこを何とかお願いします!」
案の定、直ぐには会えないみたいだ。
相馬さんは門番の人と押し問答してる。
「相馬さん、あの人・・・名前は何だっけ?
その使い出来たと言えば良いんじゃないの?」
「あの人ってアリシアさんの事ですか?」
「待て!お前たちはアリシア様を知っているのか?」
「俺は知らないが、こっちの彼女がその人から領主への伝言を預かっているんだ。
重大な事だから今直ぐに会いたい」
アリシアって何者だ?門番がえらく反応してきたが。
「分かった、済まないがココで待っていてくれ!
話を聞いてみるから!」
もう1人の門番にここを託したようで、そのまま声をかけてきた方が屋敷に入っていった。
暫くして、屋敷から門番が戻ってきた。
門番と一緒に燕尾服を着た初老の男性もコッチに来た。
「待たせたな、こちらは執事長のベイルさんだ。
ベイルさんが案内してくれるから、一緒に言ってくれ」
「ベイルと申します。
オイバザード様の所にご案内致しますので、ご一緒にお願い致します」
「はい、お願いします」
ベイルさんの後に続いて屋敷の中に入って行く。中は流石に領収が居る屋敷なだけあって豪華な作りだった。
高そうな花瓶や無駄にでかい絵画とかがいたる所に置いてあった。それでも雑多な感じではなく、洗礼されている感じだった。
「こちらの中でお待ち下さいませ」
案内されたのは応接室の様な所で、そこで待つことになった。
「済みません、急に来まして」
相馬さんが、ベイルさんに謝っている。
「良いのですよ、アリシアお嬢様から何かお話をお預かりしているとの事でございますし、それよりもお座りになってお待ち下さいませ。
オイバザード様もまもなくコチラに来られると思いますので」
アリシアって人はイイ所のお嬢さんなのか?
ベイルさんは知っているみたいだが。
しばらく待ち続けることになったが、その間にお茶などを出してもらったからそんなに待たされた感じではなかった。
相馬さんの方は、落ち着かないみたいだ。ずっとキョロキョロしたりソワソワしたりしている。
「申し訳ない、待たせてしまったね。
君たちがアリシアからの伝言を預かっている者たちだね?」
入ってきた男は優しそうな笑みで、コチラを見ていた。
「初めまして、蒼真と申します。
自分ではなく彼女の方です」
「初めまして、相馬優香と言います。
アリシアさんと一緒に居た者です」
俺に続いて相馬さんが挨拶する形になった。
「まぁ立ち話も何だから座って話そうか。
あぁ名乗るのを忘れてたね、私はオイバザード、これでも一応は領主になるんだ。
宜しく。
それで、娘からの伝言とはどんなものかな?」
「俺から話すか?」
娘って、アリシアさんって言う人は領主の娘なのか!
「・・・いいえ、これは私が自分で話さないといけない事ですから」
辛い役目だと思って言ってみたが、相馬さんは自分で話すようだ。
父親に娘の死を伝えるのは嫌だろうに。
「まず私はエンギニアの城に居ました。
その理由ですが・・・・」
相馬さんの話を聞いているうちにオイバザードさんは、笑顔が消えていった。
近くで待機していたベイルさんも同様だった。
「それでは確実に娘・・・アリシアは死んだのだね?」
「はい・・・私が看取りました。
済みません!私が足を引っ張らなければ!」
「頭をあげなさい、君の責任ではないよ。
君も被害者だ。
良くココまでたどり着いてくれたよ」
「・・・ありがとう御座います。
それとこれがお話した魔道具であり、形見にもなるものです」
相馬さんは、身につけていたポーチから魔道具を取り出して、オイバザードさんの前に置く。
「そうか・・・これがアリシアの・・・・・・娘は最後までしっかり働いたようだね」
その言葉は震え、声には出さなかったが、オイバザードさんは泣いていた。
それを見てあの時の感情を思い出したのか、相馬さんも泣いていた。
しばらくの間、部屋は静かに涙を流す2人の小さな嗚咽だけが聞こえていた。
「見苦しい所を済まなかった。
話を続けようか、大体は分かったが君はいつから彼女に関わったのかな?」
話を再開したオイバザードさんは、俺に話を振ってきた。
相馬さんはまだ落ち着かないからだろう。
「俺が関わってくるのは最後付近です。
隣街のサハンで相馬さんと出会いました。
たまたまギルドに寄った時にです。
そのまま彼女の話を聞いて護衛としてメルギルまで連れてきました」
「どうして彼女の護衛を受けたんだい?
元々彼女はまともな報酬を払うだけの金額を持っていなかったそうじゃないか」
「そうですね、まずコチラを鑑定するのをやめて頂いて、影に隠れている人たちをどうにかして頂いたら話しても良いかも知れませんね」
最初にこの部屋に入った時から気配だけが感じられるのに目には見えなかったのが2人分あった。
更にベイルさんからは、ずっと魔力を伴った視線を感じていた。
これが鑑定される時の感覚だろう。
「・・・いつ気がついた?」
「最初っからです」
これに驚いたのか、ベイルさんの視線が自然な物に変わった。
相馬さんは気づかなかった様で、別の意味で驚いていた。
「君たち、出てきて良いよ」
オイバザードさんの指示で、隠れていた2人が姿を現して出てきた。
「これで良いかい?
まさか気がつかれるとはね」
少し自傷気味に笑っているオイバザードさん。
「これから先はなるべく他言無用でお願いしたいのですが」
「それが条件なら構わない、約束しよう」
「約束してくれるのでしたら話します。
まずこれは把握して欲しいのですが、自分も相馬さんと同じ異世界の人間です」
「それは、彼女の様に召喚されたというのかい?」
「いいえ、違います。
自分の場合、人に召喚されたのではありません。
召喚したのは世界そのものです」
「世界に?
世界が意思を持っていると言うのかな?」
「そうです。
ここに来る直前、神に出会い、そう説明されました」
「神とはまた・・・
それで?」
「神が言うには、世界が呼び寄せるには何らかしらの目的があっての事だそうです。
それが、例えば世界を救って欲しいとか、世界に何かしらの変動をもたらすためにだそうです」
「それで、君は何をするつもりだい?」
「何もしません。
この世界に来たのも約1ヶ月前です。
なるべく静かに過ごしたいんですよ。
ギルドに居る人たちには記憶喪失で通してますし。
もし戦争とかになってしまったら自分が居たい場所、関わってきた場所ぐらいは守りたいとは思いますけどね」
「そうかい、分かった。
君にはなるべく負担をかけないようにしよう。
彼女のことはどうする気だい?」
「そうですね、自分がお役御免になるまでは護衛として居ますが、それ以降はまだ分かりません」
「こちらとしては、しばらくは一緒に居て欲しいね。
それと、今日はこのまま泊まっていってくれないかい?
少しこちらでも考える時間が欲しい。
明日の朝にでも結論を伝えるから頼むよ」
「分かりました。
相馬さんも良いよね?」
相馬さんも頷いたため、今日はこのまま屋敷に泊まる事になった。
明日の結論がどうなるかは分からないけど、穏やかにはいかないだろうなとは思っていた。




