29話 メルギルに向かって
今回は、文字数が少なめになっています。
今回の移動は、少しだけゆっくり目の異動にして貰った。
理由は相馬さんだった。
今まで不思議と魔物や盗賊たちに襲われずに済んでいたが、これからもそうなるとは限らないからだ。
だからこそ、今のうちに自分を守れるくらいには戦えるようになって欲しいのだ。
「・・・分からないですね」
移動中の今は、魔力を感じられるように、練習している。
魔法の才能が無いから、感覚を掴むのに苦労すると思うけど、大丈夫だろう。
聞いた所によると、勇者補正によりスキルの獲得や、ステータスの上昇補正が高いらしい。
ここだけ聞くと羨ましい効果だ。
「焦らず行こうか、少なくても水龍のナイフや防具の方は問題なく使えたんだから」
魔力を感じる事ができなくても武具の付属効果は使えた。
魔道具の様な側面もあるからだろうか?使えることは使えたが、威力が強すぎた。
どうやら魔力の使い方などが分からないからだと思う。
馬を休ませる時間を多めにしてもらい、その間に訓練と練習を続けていく。
たまに襲ってくる魔物と動物を相馬さんも一緒に戦わせながら撃退していった。
一緒と言っても後方での見学とかなんだけどな。
行動を開始して初日の夜、俺が火の番と周りの警戒していると相馬さんが起きてきた。
今までの逃避行のせいで、短い時間しか寝れなくなってしまったらしい。
無言でいる事にお互い耐え切れなくなって、どちらともなく会話を始めていた。
会話自体は何でもない事ばかりだった。
日本に居た時の事をメインに話をした。
この世界に話はしないようにした。いい思い出ではないからな。
相馬さんと俺は意外と近所に住んでいたみたいだ。それどころか、高校も一緒だった。
俺が先輩と分かった時、改めて俺の年齢を聞かれて答えたら驚かれた。
見た目は俺の方が年下なのだから仕方のない事だけど何か変な目で見られた。
しょうがないだろが、ゲームだと思って買ったらこうなったんだから。
「蒼真さんは怖くないんですか?」
そう聞かれた時、俺は相馬さんの目を見て答えた。
「怖いよ、ゲームとか夢じゃなくてここは現実なんだから」
「じゃあ何で戦ったりできるんですか?
死んじゃうかも知れないじゃないですか」
「戦うのは自分が生きるためだから。
死ぬかも知れないけど何もしないで死ぬのは嫌だし、何よりも自分が何もしなかったから他人が死ぬかも知れない。
そう思うとね、怖いけど戦える」
「強いですね」
「強くないさ、何度も死にかけたし。
殺したことでトラウマになりかけたよ、でもその時は周りが助けてくれたんだ。
だから俺は強くないさ、助けて貰った分ぐらいは返していくさ」
「強いですよ、私は止まってしまいそうです」
けして夜で暗いせいではないだろう、相馬さんの表情は暗い。
「・・・止まって良いんじゃないの?」
焚き火に薪を追加しながら言ってみた。
「へ?」
「だからね、止まって良いと思うよ。
周りがどうしたって効果がない時もあるさ、そんな時は立ち止まって過ごすのも良い物だと思うよ。
時間が解決する時もあるし、自分で答えを見つけられる時もあるからね。
あ、紅茶飲む?
お湯湧いたから飲めるよ?」
「頂きます、何だか年上みたいな事を言いますね」
「年上だって」
入れた紅茶を笑ってツッコミながら渡す。
「それ飲んだらもう寝な、明日も早いし訓練とかもあるんだから」
「はい、そうしますね」
紅茶を飲みながら会話を続けて、相馬さんが飲み終わると寝ると言ってテントに戻っていった。
また1人で残った紅茶を飲みながら夜を過ごしていった。
フリムが夢の中で何か食べてるのか、寝ているのに口がむしゃむしゃと動いているのを見るとホッコリしてしまう。
その日のうちは問題なく過ごすことが出来て次の日を迎えることになった。




