26話 少女の告白2
次の日から私たちには戦うための訓練と勉強が待っていました。
私には直接戦う力はあまりありませんでしたが、魔物を使い魔として戦わせる力があった為、戦闘をメインとする組み分けに入れられました。
戦闘組以外には、裏方としての支援組が居ました。
この組は、生産系のステータスを持っている人たちがメインに組まれている組み分けです。
初日からの数日は基礎として力の使い方や魔物の倒し方を習い、それ以降は実戦として戦っていく予定になっていました。
実践が始まる初日、私は高熱を出して寝込んでしまいました。
直ぐにお城の人に魔法で治療して貰いましたが、安静にした方が良いと言われ、その日は1日医務室で寝ておく事になりました。
夕方、寝ていると体を揺すられて目が覚めると、いつもお世話になっているメイドさんが慌てた様子で私を起こしていました。
「どうしたんですか?
アリシアさん、何か御用ですか?」
「シッ!
静かにいてください、急いでここから逃げますよ」
小声で真剣に言ってきましたが、私には何の事だか良く分かっていませんでした。
「逃げるって何でです?
何を言っているんですか?」
「時間が無いのです!
安全な所まで行きましたらご説明しますので、私の信じて付いてきて下さい!」
有無を言わさない迫力だったので、思わず頷いて、返事をしてしまいました。
そのままアリシアさんは、周りを警戒する様に辺りを見回しながら私の手を繋いでお城の通路を進んで行き、私たちの部屋がある所とは反対の所に進んで行きました。
そこは、メイドさんたちが普段仕事をしている所で、洗濯物等もたくさんあったりして、大変そうでした。アリシアさんは私に、シーツが入っているカートの中に入れと言ってきたので、状況が分からないままカートの中に入ると、アリシアさんは私を覆い隠す様に何枚ものシーツを被せていきました。
暗闇の中、振動でカートが動いているのが分かりました。
移動している途中途中で動きが止まり、その度に男の人たちの声がして「ユウカ・アイマを見なかったか?」等と私を探している様でした。その度にアリシアさんが見かけていないと、男の人たちの質問をかわしていました。
「もう出ても大丈夫ですよ」
アリシアさんから声をかけられてカートから出ると、そこには運搬用の荷馬車がありました。
「ユウカ様、コチラに着替えて下さい」
渡された服は私たちの制服ではなくて、こちらの世界の服であろうモノでした。
言われたまま服を着ると、荷馬車の荷台の影に隠れていて下さいと言われて隠れました。
アリシアさんは私が隠れたのを確認すると、そのまま荷馬車を走らせ始めて行きました。
城門で一旦は止められましたが、食料品の買い出しだとアリシアさんが伝えると、あっさりと門を通過しました。
このままの勢いで、街と思われる所を通過していき、街の出入り口になっている検問所も通過できました。
ある程度街から出て移動すると、もう出てきて大丈夫ですよと言われたので、アリシアさんの横に座るように移動しました。
体中が緊張のせいで、痛くなってしまってました。
初めてきちんと見る外の世界は緑に澄んだ空、綺麗な川や湖で、感動しました。
それから馬が移動できるギリギリの所まで移動して、森の中で隠れるようにして休みを取りました。
ここで初めてアリシアさんからお城での出来事の説明があったのです。
「ユウカ様、私は・・・実は城の人間ではないのです」
「あのお城で働いてた訳ではないんですか?」
お互い向かい合う様に座っていたので、アリシアさんがこちらの顔色を伺う様に見ていたのが分かりました。
「正確には私が所属していたのはエンギニアでは無いという事です。
私が所属していたのは、中立国クレメル。
そこの諜報部隊の一員として働いて居るのです」
クレメル、その言葉を聞いた時に私は無意識にアリシアさんから距離を取ろうとして後ずさってしまいました。
「警戒しなくても大丈夫ですよ。
クレメルが戦争を仕掛けたのはあの国の嘘ですから」
「証拠はあるのですか?」
証拠も何もなしには信じられない。私はその時そう思っていました。
「証拠ですか。
まず移動中少しは見ていたと思いますが、戦争中とは思えないほど平和に見えませんですたか?
まるで戦争自体が無いかの様に。
それと場内で兵士たちがユウカ様を探していたのも聞いていたはずです」
「確かにそう見えませんでした」
そう、戦争自体が無いように見えました。
それに毎回食べたりしていた料理も、戦争をしていて、それも負けそうに無っているとは思えない豪華さでした。
それこそ危機感がない感じです。
「それと、これは魔道具でして、声を記録して再生できるものになります。
これを聞いて下さい」
出された物は小さくて手のひらサイズの箱のような物でした。
そこから聞きなれた声が聞こえてきました。
「それで、あ奴らは全滅したのか?」
「いいえ、ユウカ・アイマだけが逃れています。
何でも体調を崩して休んでいたとか、それ以外の戦闘組が全滅いたしました」
「やはり高ランクダンジョンは無理があったか。
まぁ良かろう・・・次の勇者を召喚すれば良いだけだ。
して、残りの者たちの処遇は?」
「はい、以前の様に既に捉えておりますので直ぐに処分ができます。
残りは部屋に居なかったユウカ・アイマ1人だけです。」
「分かった、捉えたものは戦えん者ばかりだから直ぐに殺せ。
あ奴らは必要ない。
残りの1人も直ぐに殺せ」
「畏まりました、国王様」
「全く、いつになったらあの国を手に入れることができると言うのだ」
「次の者たちに賭けましょう。
次に召喚できるのは2年後となりますが、その時にこそ」
「そうで有りたいものだ。
そち・・・・・・・」
ココで話が途切れた、ココで録音が終わったから。
これを聞いていた私は呆然としていました。
友達が、クラスの人が皆死んだと言っていたのです。
しかも戦争は嘘で、私たちが戦争を仕掛けようとしていたのです。
その証拠となる魔道具の記録した声は、紛れもなく国王と初日に説明してくれた大臣だったのです。
「何で・・・何でみんなを助けてくれなかったんですか!!」
私はアリシアさんに掴みかかっていました。
「落ち着いて下さい!
私がこの話を聞いた時にはもう無事だったのは貴女だけでした!
いくら助けたくても私にはユウカ様で精一杯です!!
ここには見方も居ないのですよ!」
私を押さえつけたアリシアさんは、ゆっくりと、そしてハッキリと私に言い聞かせるように話していました。
「今では貴女が唯一の生存者。
せめて貴女だけでもクレメルにお連れしますから、私を信じてください」
何を信じて良いのか分からなくなっていました。
考えるのも次第にやめていき、私はその時は機械のように言われたことをする存在になっていました。
アリシアさんも、時間が経つにつれて変わっていく私を見て心配してくれていましたが、心と感情が不安定になっていった私には何も感じないままでした。
次の日からは荷台を捨てて、馬だけで移動する形になりました。
アリシアさんは移動の休み休み、世間一般の常識を教えてくれましたが、何の喜びもありませんでした。
こうして機械のような私、次第に疲れていくアリシアさんのクレメルへの逃避行が続いて行ったのです。
もう少しだけ話が続きます。
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