魔法(物理)2 深遠への課題
以下は、今後の考察深化のための下地となるべく書き出すキーワードセンテンスです。
論考としての取りまとめはありませんが、お読みになられた方が発想を飛躍されるに際して叩き台とでもなれるところありましたら幸いに存じます。
1.ワープは空間ではなく時間の現象ではないか
ワープ(Warp)とは、「ねじる、歪める」という意味の言葉で、もともとは平面の紙を折り曲げてくっつければ端と端を接触させることができて、経路として移動する場合の中間部分を飛び越えさせられるといった考え方。
しかし、どんなに空間を捻じ曲げたところで、肝心の「壁」を突破する手段も理論的許容もない。
ならばいっそ時間を遡らせればいい。先人たるSF作家先生方は考えられた。
時間T軸の遡りが「過去」の負点にまでは至らなくても、「現在」のプラスマイナスゼロ点に限りなく近い位置を保ち続けるいわば「川の流れに逆らいながら泳ぐ」もしくは川の流れ(の抵抗性)から浮き上がってしまえば、長大な距離の移動を果たすことが空間的構造の破綻に頼らず達成できるとした考え方。
外の系から見た場合、長大な距離を「一瞬で」移動したかのように見える。内の系から見た場合、長大な距離を移動するにふさわしいだけの「手順」が消化されているわけだが同時に実時間が動いていないため観測・認知・影響が表れることもほぼなく、たとえば宇宙船の搭乗員から見たとしても実感としては「一瞬で移動したような」形となる。特段の老化現象なども起きない。
本稿が則る「ソーサル・ロウ(魔法)/ソーサリオン(魔法力子)」理論においては、ソーサリオンの備える性質の内、質量への干渉性をもってこの時間遡行性について考察する。
質量の発生はヒッグス場の抵抗性およびそれを他の素粒子に伝えるヒッグス粒子の働きによって生じているものと現行では考えられる。宇宙事象の「本来の速さ」は光速(と呼ばれる速度の域)であってそこが万物の基準(上限側の絶対零度のようなもの)であったが、宇宙の発生初期の「沸騰した宇宙」が冷めはじめインフレーション過程が収束するにともなって光速よりも運動の遅くなる粒子が現れてきた。それは宇宙のいわば「粘性」のようなものに引きずられる影響を受けて速度が低下したものであったが、この「遅さ」が見かけ上は「重み」と同義であるため、「光速よりどれだけ速度が落ちているか」が素粒子の世界においてはどれだけ重いかとイコールで結ばれる。
現実に物質を構成する素粒子グループ(フェルミ粒子と呼ばれる)は、上述の「速度が落ちて重みを帯びた」粒子たちである。逆に、力(働き)を媒介する粒子(ボース粒子と呼ばれる)は、光速で動き回る粒子たちでありすなわち重みを帯びておらず質量ゼロである。
仮定的擬似素粒子ソーサリオンもまた、力を媒介する粒子として定義しているため質量はゼロであると定義すべき(少なくとも常態においては)となる。
時空の構造理論には緒論あるが、超弦理論とそこから深化したM-理論を例にとるならば「潰れて畳まった」高次元を介して重力だけが越境的な影響を及ぼしうる要素といえる。この場合、重力子(グラビトン)が仮定的な粒子概念であることを覆す必要が薄れてしまうが、ソーサリオンは他のすべての素粒子に干渉性を備えると定義しているため重力を介した多次元・高次元経由の「基底三次元構造を飛び越えて見える」影響を表しうるものとする。なお、スピンネットワーク理論のように時空構造が先立つものではなく遍在する素粒子のスピン定義によって空間的広がりおよび時間流的事象手順が成り立っているとした場合、ソーサリオンはそのスピン配置とベクトルを操作できることになるため、似たような結果を達成することの余地はある。
ただし、いずれの場合も十分な観測・識別・計算に基づく制御が間に合うならばとなって実現性はほとほと怪しいものであるが、あくまで原理の考察であるため実際の多寡はここでは問題としない。(加え、不確定性論が言及するところの観測不可能問題も影響が懸念されるが、素粒子論においては不確定性が必ずしも先に立つものではないとする見解もあってここでは前提論とまでは組み入れない。)
なお、超弦理論とM-理論が言及するところの「折り畳まれた高次元」に関しては別項(後述)において扱うものとする。
ワープが空間ではなく時間を跳び越えた(浮き上がった)ものだとした場合、いわゆる「魔法」における空間移動術、あるいはSFにおける超光速航法の、いくつかの問題に対し解決を見いだすことができないだろうか。
ひょっとしたら、明らかに時空に穴を開けている行為と見受けられる異界ゲートのたぐいにおいても、重力の多次元越境性を介して「こじ開け」やスピンネットワークの時空構築操作などを考えれば、似たような形で達成の余地を含みうるのかもしれない。
2.神は筋肉に宿る
人の思念思考、意志の在り処(ありか)は頭蓋の内に閉じ込められている。
しかし現代の技術発達によって、脳波を計測しこれをロボットアームの動作コントロールに転じてやるとすれば、人の思念が物理的影響力を発揮し、他系に対して実在の運動量をもって干渉しうる見地が啓かれた。
ところがこれはさらに視点を転じてみたならば、人体には初めから、神経が直結し己が思考の念じるところを物理的運動力として発揮できる仕組みがある。
そう、筋肉である。
筋肉こそ、人が生まれ持ち恵まれたまさに奇跡であり、神の配剤、神意を問うべき先の象徴ではなかろうか。
「神は筋肉に宿る!」……現代に生きる人々の信仰心と、科学的な真摯さ、そして絶えざる思索を費やし続けた遥かなる到達点、二十二世紀へ向けて教えを見いだすべき新機軸にして回帰ではなかろうか。
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以上、筋肉神教の序説より抜粋。
(詳しくはこちら⇒https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/288175/blogkey/1033468/)
神秘の奇跡ではなく魔法を問うとき、似たような論を述べうる観点がある。
体外の他なる系に干渉することよりも、体内の自己支配下にある系に干渉することの方が、その干渉の効率において段違いに有効であろうということだ。単純な伝達距離の遠近においても。
それらが意味するところ、すなわち、
魔法 = 筋肉
……は、さすがに冗談だとしても、自己の肉体を形成する物質が最も操作対象として効率的だという論は、不自然でないだろう。
前稿「魔法(物理)概論」において魔法現象をもたらす“何らかの環境因子”に対する指令発信を脳波の出力をもってたとえたが、それは見方を少し変えればいかにも間接的かつ弱々しい、迂遠なやり方だと評せざるを得ないだろう。
しかし体内であれば神経の直接的命令経路がもとより行き届いているのであるから、「思い通りに」干渉操作する対象としてこれ以上のものはないといえる。
いわゆる肉体強化といった干渉の発揮法はありきたりであるのでここでは省く。(おおむね生体組成を変化させる必要があるだろうことから、強化というより“人間を辞める方法”とでもいった方が正確にも思えるが。)
血・肉・骨の一片から他の物質(分子)を組み替えたり、質量をエナジーに分解して光熱波として放ったりなどである。(ただし一発ごとに指先一つを消耗する。)
その発想の究極たる一つとして必殺技を提案したい。
「質量解体」――己が肉体を形成する物質(原子)の陽子核結合すなわち「強い力」の作用を解き、弱い力の粒子変換によるベータ崩壊などといった安定遷移すら許さず、ひたすらに莫大なエナジーとして放出する、カミカゼ自爆アタックである。
全身を犠牲にすれば大陸規模で大穴を空けられることだろう。(星の地殻に致命的なヒビが入るかどうかは微妙なラインか。ちなみに原子分裂な爆弾の“リトルボーイ”が純粋な質量損失量としてはわずか1グラムにも届いていなかったらしいので、もし体重が60キログラムある大人の男性がその全質量を解体したとしたら……? ただし自爆と同時に干渉の持続が損なわれるとすると陽子や中性子が即座に“落ち着こうと”する、弱い力が正しくベータ崩壊などの手順を経てやはり“落ち着こうと”低位への遷移を開始するだろうことから、実際の解体損失量は数分の一に止まってくるかもしれない。)
基本的には一回きりの「最後の切り札《ラストリゾート》」であるが、もし片手首から先だけ消費材に使うとすると、手首から肩付近までを制御用(電磁遮蔽/電磁結束誘導路形成)に使う二段階制御によって、自身と側面より後方には被害をあまり及ぼさない形で指向性の整った放出ができなくはないかもしれない。
3.超弦理論、そしてM-理論
よく十一次元としてサイエンス系雑誌などに一時期よく掲載されていた考え。現在では必ずしも肯定されているものではない。
宇宙の基底的構造を織り成す三つの空間次元と一つの時間次元、これに加えて第五次元としての極小円形をとる一つの空間次元と、その円に巻きつくような形で「ねじれ・つぶれ・折れ曲がった」膜状(メンブレーン)の六つの空間次元、それらを合計して十一次元である。
カルツァ=クラインの理論として知られるこの第五次元によって最小半径に収まる“整数の波”がそれぞれの粒子の種類と電荷を規定し、また素粒子のスピン数および電子の極小の大きさにも関わっている。重力と電磁気力が統一されてくる上位ステージとも言及される。
十一次元である理由は、空間次元が“力の統一”を求めて数式化した場合に最も破綻なく収束してくる数が十であるため。実在の事象としては根拠がない(確かめられていない)。また、時間次元が果たして一つきりであるかどうかは確かめようもなく、やはり根拠はない。
前提となっている超対称性理論などがほぼ失脚的位置に落ちていることも観点として忘れない方がいいだろう。(超弦や超ひもの“超”はこの超対称性の超に由来しているそうだ。)
他にも超重力理論、量子重力理論、ループ量子重力理論といったものとの関連もあるが、ここでは細かくは触れない。(気になる方は調べてみてください、そこそこ面白いです。)
これらはブレーン宇宙論などとも相互発展し、重力だけが余剰次元(第五次元以上の空間次元)を伝播してゆけるものとしている。よって、魔法事象(ソーサリオン干渉)においても重力を介するならば、“次元の隔たりを越えた”現象を操作する余地があるかもしれない。
また、高次元数については多いもので二十六次元、十の五百乗倍の並列宇宙次元を含むといったそれこそファンタジック極まる言及もある。ただしこれは厳しく現実主義的・実証主義的な観点を持った科学者たちからは支持されていない。
4.魔法の源泉、折り畳まれた高次元
魔法、ソーサル・ロウ、そしてソーサリオン。あくまで仮定的擬似素粒子として当初は提示し、その実体性に関しては言及しなかったが、上述「3」項より「折り畳まれた高次元」および「その向こう側」の諸々を考察したならば……ひょっとしたら、魔法とも呼べるような不可思議、あるいは不条理が、そこには潜んでいるかもしれない。
著者(あんころ)のいくつかの作品においては、この点を意図的に拡大解釈して魔法力子(魔力的なものの素子)が「折り畳まれた高次元」を源泉として漏れ出してきたもの、もしくは折り畳まれた高次元の振る舞いの内から実証物理に反映されていない不明領域においてプランクスケール上の極小粒子として擬似的に振る舞うものから流用して、それぞれ定義している。
(一番あからさまにやっている作品がこちら⇒https://ncode.syosetu.com/n4922ci/3/です。該当話の直接URLです真ん中あたりまでスクロールを。いずれソーサリオンの呼称も出てくるかもしれません。もともとは「ぼっちーと」のSF面を支えるために作った考えだったのですが……。)
魔法の働きを体系づけるとき、その力の源は、上述してきた数々のいわば“宇宙の隙間”とでも呼ぶべきものの中から、果たしてどのように生じうるものか。
調べた言葉を突いて叩いて引っくり返してみたならば、意外とそこら中に言霊を秘めた概念が転がっているのかもしれない。
……それこそ、魔法のように。
※本稿では魔法を主に立てるべく視点から物理に言及しているため、わりと無茶苦茶な量子力学のファンタジックな発想を好んで取り入れています。
しかし、それが現実的に正しいわけではないので、発想が飛躍しすぎて他者から理解を得られる範囲を超えてしまわない程度に抑えていられるよう、対論的視点についても簡単に知っておくとよいでしょう。
たとえば、ファンタジックではない物理論の観点から反論するとしたら……
・ 光子など無理やりの仮定概念に過ぎず、現象のすべては波として(古典的な電磁波として)説明できる上、その方が現実的に無理がない。
・ 光子にスピンなどない。振動は単なる波としての性質であって、つまり電磁波であるということに過ぎない。
・ 電子にスピンなどない。光速の数百倍速だなんて馬鹿げている。(陽子のスピンであれば光速未満なため現実的である。)
・ 極小粒子(素粒子)のスピンなどといった考え方は、数式の上から数式を発想した仮定的産物の幻想に過ぎず、実体としての物理事象のイメージに基づいていない。
・ 二重スリット実験は量子力学の“重ね合わせ”などという珍妙極まる多世界解釈を持ち出す必要なく、実在のド・ブロイ波によって説明できる。
・ 現代の量子力学はまったくもってファンタジー化してしまっている。
・ ファンタジー量子力学が屁理屈を差し込んでくるせいで、正しい実証科学の発展が阻害されてしまっている。
などなど。
そうした厳しく現実的な観点からの現代物理論に対する指摘と解説については、下記の参考先サイトさまが激しくオススメです。(敬称略)
「新しいボーア模型によるヘリウム原子 - 2014。」
http://www7b.biglobe.ne.jp/~kcy05t/niho.html
著者(あんころ)は毎度のごとく大変お世話になっております。この場を借りまして勝手ながら厚く御礼申し上げます。
※念のため。あくまで創作を楽しむため、深めるための概念遊び、いわば言葉遊びともいえる屁理屈こねこねに過ぎません。
一見して小難しく見えるだけのこうした論じ立てに惑わされて、お読みになれたあなたが既に構築された世界を壊してしまわないようご注意ください。あなたのオリジナルな世界の空想をどうか大切にしてください。
こうした思考遊びは、楽しんで役に立つところがあればそれでいいのです。踏み台にしてください。消化不良を起こしそうであれば捨ててしまってください。




