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xross adventure-neverend challengers-  作者: 鬼々崎うらら
生徒会編
5/13

01;02 after.

マーベラス国立学院。

カツンカツンという音を鳴らし、大人の色香をほんのり放ちながら教室を出て行く影が一つ。とても生徒とは思えない程の、ひたすら素晴らしいエリートオーラを纏いながら、1人の女子生徒が帰りの会終了のチャイムと同時に教室から出て来る。

夕焼けの眩しい光が廊下をオレンジ一色に染めている夕方、生徒会長・エイリーン=フログムウェルはとある場所へと向かうべく、やや急ぎ足で身体を進める。

階段の隣にあるエレベーターに乗り込み、向かう先は29階。

ぐんぐんとエレベーターは上昇していき、多少の時間を要して目的の29階へと辿り着いた。

エレベーターのドアが開くと同時にせかせかと足を進めて降りていき、最終的な目的地へと目指す。

エレベーターを降りるとそこは、薄暗い廊下であった。薄暗い、というと、どうも怪しい場所にように感じると思うので、正しく表現するには「落ち着く雰囲気の廊下」と言うべきだろう。

赤煉瓦の洋館を意識したようなアンティーク電灯に黄ばんだ仕様の壁、さらに床にはレッドカーペットが敷かれており、下の階のモダンスタイルな教室や廊下と比べるととても同じ建物内にある場所とは思えない。まるで別世界に来たかのような感覚さえ感じる場所だった。

そんな別世界のような光景に、まるでいつも見ているかのように目もくれず歩いてゆく。


ふと、エイリーンは足を止めて左側へと身体ごと向ける。

目の前には大きな木製の扉があった。

扉に掛けられた木の板には、綺麗に文字が彫られていた。

「事務会長室」。

そう彫られた板が掛かっている扉を、エイリーンは丁寧に両手で押し開けた。


「失礼します」


エイリーンの声が響いた室内には、洋風のひたすら長いテーブルが置かれていた。テーブルの上には白いテーブルクロスが敷かれており、エイリーンはそれを奥まで視線で辿ってゆく。

そのテーブルの一番奥の隅に、目的の人物が座っていた。


マーベラス国立学院の絶対的トップ、生徒会長であるエイリーンの上をゆく最強的権力の保持者。

この学校を運営する最上級組織であるマーベラス国立学院事務会のトップに立つ人間。

マーベラス国立学院の、一番上。

マーベラス国立学院事務会会長・アルヴヘンテこそ、まさに彼本人であった。


事務会会長である筈・・・なのだが、いかにも新人サラリーマンのような雰囲気を醸し出し、着用しているスーツでさえもシワ一つ無いまさに新人のものかと思える。

ワックスでキメた茶髪を少し揺らして、アルヴヘンテは来客の方へと視線を向けた。


「やあやあ、待っていたよ。親愛なるエイリーン君」


落ち着き払ったような、しかし若さ故の少し幼い声。一見丁寧な喋り方に聞こえなくも無いのだが、アルヴヘンテの喋り方は常に'嘘で塗り固めたような喋り方'をする。

まるで外側だけ取り繕っているかのような、中身の見えない喋り方。

優しそうな表情の裏腹に隠しているものを、エイリーンは知っていた。

エイリーンは、この男が怖い。

それは単に、相手が男だからとか気持ち悪い位のキザ野郎だからでは無く。

彼の'計り知れない、底無しの黒さ'を、エイリーンは唯一知っていたから。

「で、どうだい?最近の学校生活は上手くいっているかい?」

いつの間にか暗い顔をして俯いていたエイリーンに、アルヴヘンテの方から会話を続けた。

「ええ、まあ」

「そうか!それなら僕としても嬉しいばかりだよ」

ーーーーまただ。

外見ばかり取り繕ったような笑顔。

エイリーンは一々それに怯えながらも返事をした。

「・・・例の件ですが、」

話は、エイリーンから切り出した。

今日、わざわざ嫌なこの場所にまでやって来たのは、ある報告をする為だった。

「沙村賢治が、今日退院したそうです」

エイリーンが報告すると、アルヴヘンテはその笑顔を崩さずにエイリーンの目を見て言った。


「これで、計画の続きが出来る訳だね」


「・・・ええ、そうなりますね」

この話題自体、本来は会話にすら出したくないエイリーンだったが、今の彼女にはこうするしか無かった。

現在アルヴヘンテが密かに実行している計画に、参加せざるを得ない理由があった。

私は・・・。

私は、生き延びなくては、ならない。

アルヴヘンテが会話を続ける。

「君たち生徒会にはもう少し悪役を演じてもらうことになるね。本来の計画から視点を生徒会に向けさせなければ話にならないしね」

エイリーンが気付いた時には、既にアルヴヘンテは彼女のすぐ隣まで迫っていた。

常に存在感の無いような人物でもある。エイリーンはすぐ右隣のアルヴヘンテという男がひたすら奇妙だと感じていた。

アルヴヘンテを一言で表すならば。

"幽霊"、しか無かった。

アルヴヘンテは、エイリーンに最後の質問をした。

「出来るよね?」

エイリーンは質問をされたものの、アルヴヘンテのとある計画の参加者である限り、答えは一つしか無かった。今のエイリーンは、たった一つの答えしか答える権利は無かったも同然だった。

そっと、俯いていた顔を上げて、アルヴヘンテの顔を見る。

「勿論です」

ただ、そう言うしか無かった。




「賢治くん。君も恐らく気付いてはいるだろうけど、」

眼鏡の医者は、少し曇った表情で賢治に打ち明ける。

「君のその額のものは、ここに搬送されてから埋め込まれたものなんだ」

眼鏡の医者が表情を曇らせながら打ち明けたその言葉には、強い責任感を持った彼の申し訳無い感情が色濃く出ていた。

「・・・すまない。病院でありながら、僕が患者から目を離してどこかへ行ってしまうとは情けないばかりだよ」

今度は、賢治に深々と頭を下げて謝罪した。

「すまない・・・!それを取り除くことさえも出来なかった・・・!本当にすまない・・・!」

医者曰く、賢治を病室にまで運んでから手当の準備を急ぎでしていて、病室に戻ったら額に'何か'が埋め込まれていたという。

眼鏡の医者もそれを取り除く作業をしたものの、まるで賢治の身体の一部のように毛細血管が通っており、下手に取ることさえ出来なかった。このような事例は実に初めてであった為、眼鏡の医者はまさかと思い、未確認物体の研究機関に調査に依頼した。

しかし。いや、やはりというべきか。

結果は正体不明、神器でも無ければ他の星から来たような新発見物質でも無く。

本来、この銀河中どこを探してもある筈の無いものだった。

だが、それでも賢治は取り乱すことなく眼鏡の医者の話を聞いていた。

「あー、まあ別にそれは良いんだけどさァ。何となく心当たりあるしなァ」

まあ、と賢治は付け足す。

「責任感じてんだったら、俺は別に気にしちゃァいねェから、医者としての勉強にでもしといてくれ」

「・・・ありがとう」

眼鏡の医者は、また深々と頭を下げた。



この世界は、おおよそ5つの大陸で形成されている。

アトランティス大陸、ムー大陸、パシフィス大陸、メガラニカ、レムリア大陸。

そのうちの一つ、巨大な逆三角形型の陸地を二つ並べてくっつけたかのようなアトランティス大陸は、この5大陸の中で最も巨大な面積を誇る。

アトランティス大陸の、二つの逆三角形型の陸地を綺麗に分けるかのように建てられた超巨大級の石壁が存在する。

その石壁の麓に建築された、真っ白なオフィスのような建物こそ、賢治の所属している停戦同盟軍の本部である。

停戦同盟軍の説明は後程にするとしよう。

賢治のマイホームでもある停戦同盟軍本部に帰って来た人物が1人。

本部の受付の自動ドアが開き、受付で自身が停戦同盟軍メンバーであることを証明する暗号文を言って、それぞれのメンバーの個室がある本部2階部分へとエレベーターで移動する。

賢治は、やっとの思いで退院できた今日という日にマイホームに帰るというのに、どうも沈んだ表情をしていた。

賢治は、入院中も退院した後も敢えて触れることはしなかったが。


'彼を5年間育ててきた義母が、入院中も退院時にも一切見舞いに来なかったこと。'

鈴と生徒会長しか、来客が無かったこと。

義母と、入院時から一度も会っていない。


家族であれば、入院したとなればまずその地点でお見舞いに来るのが普通だろう。

賢治も、義母がそんなに冷たい人間でないことはよく承知していた為、だからこそ、'尚更不審に感じていた。'

見舞いに一度も行けない理由があったのか。

養子である自分を見捨てたのか。

どちらも有り得ない、賢治の義母がそのような人物であることはよく承知していたからこそ。


家に帰るというのに、嫌な予感が襲うばかりで身体が震えていた。


「・・・マヤ、大丈夫だよなァ。お前ならさァ」

夕焼けがちょうど沈む時間帯、賢治は薄暗い廊下で呟いた。

目の前には、「マヤの部屋」と書かれたダサい自動ドアがある。

目の前の自動ドアで本人確認の網膜スキャンさえ行えば、賢治は自身の部屋へと帰ってくることが出来る。

だが、どうしてもそれが出来ずにいた。

賢治は、怖かった。

殴られて入院してからずっと、義母の顔を見ていない。ずっと、自分の元に彼女が来ることが無かった不審感。

自分がいきなり殴られて、さらに額に'何か'を埋め込まれたように、彼女にも何かあったのでは無いかという不安感が、賢治の頭の中でグルグル回っていた。

「まァ、考え過ぎかねェ」

そう自分を誤魔化しながら、網膜スキャンを終えて部屋の自動ドアがゆっくりと開かれた。




ちょうど夕日の沈む時、賢治の目に映ったのは、荒らされた家具だった。

10畳程の部屋の中にあるソファがひっくり返され、カーペットが荒らされ、キッチンでは割れた皿や凹んだ鍋(!?)が散乱し、何やら地獄絵図となっていた。

その中で唯一、まるで生き残ったかのように立っているリビングテーブルの上に、水晶玉が置かれていた。

透き通るような、静かな紫色。

中心部分には、召喚陣を表す六芒星の印が浮かんでいた。


部屋には、義母・マヤ=パスカシア・コットはいなかった。



































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