01;10
鬼々崎うららです。
まだまだ駄文ではありますが、最後までどうぞよろしくお願いします
xross adventure -atomic runners- 01;10
賢治の着ているブレザーのポケット内から、聞き覚えのある声がした。
それを聞くと同時に、賢治は何かを思い出したかのようにハッとする。
「そうか・・・ッ!ベロンベロン!」
「オベロンだ」
賢治はポケットに入っていた水晶を取り出し、その中ーーーー”妖精王”オベロンに召喚を促す。
たちまちその場は眩しい光に包まれ、気がつけば賢治の目の前に紫のウェディングドレスの金髪少女が立っていた。
いつ見ても見蕩れてしまうような、幻のような美貌である。
「それで?賢治よ。其方、私に何を頼みたいんだ?」
普段の賢治なら「いや別に呼んでもねェよ」と返すところだが、今現在の状況に焦っている賢治はそんな余裕すら無かった。
「さっき俺らの話聞いてただろ!あの救急車を捕まえてェんだよ!」
賢治は先程マーベラス国立学院正門を急いだ様子で出て行った救急車を指さすが、学院前のバイパス道路には渋滞の海が広がっており、既に救急車の姿が見当たらなかった。
「クソッ、見失った・・・!あの救急車の中に’鈴がいるかもしれねェのに’・・・!」
「この広い道のどこかにあるのは確かなのか?」
「見えねェがそう遠くまでは逃げてねェ筈だ・・・・で?」
「なら大丈夫だ。すぐに見つけられる」
そんな賢治とオベロンの会話を眺めながら、賢治の隣にいたアヴァはポカンとした表情でいた。
「オベロン、って・・・?あの『真夏の夜の夢』の妖精王・・・、よね?どうして賢治が?そもそもなぜ女性なの?男性じゃなかったの?」
「名乗らずに質問攻めしてくるそっちの五月蝿いのは何だ、賢治」
「あーあーあー面倒くせェ!アヴァだ!それより救急車追えるんだったらとっとと行けよテメェッ!!」
「まあそう焦るな」
するとオベロンは賢治の元へとスタスタ歩いて行き、鼻が触れるか触れないかという距離まで近付いてじっと賢治を覗き込む。
賢治の包帯の巻かれた額を見ている。
いきなりのことだったので、賢治は驚愕の表情でオベロンを見ていた。
「なッ・・・・!?近ェンだよ!何だテメェ・・・・」
フム、と何か不思議な表情でじっと賢治を見つめた後、オベロンは少し顔を顰めた。
「賢治・・・・。其方、’何か隠していることはないか’?」
唐突の質問に、賢治は「はァ?」と零す。
「今関係ねェだろ・・・・。こんなことしてる暇があンなら早く追いかけてこいよ!」
「・・・・賢治、其方、やはり隠しているではないか」
「はァ!?・・・・ハァ。じゃあ俺が何を隠してるっって言いてェんだテメェは」
「能力”影;完成”、か」
そう呟くなり、オベロンは自身の右腕を賢治の方へ伸ばし。
気付けばオベロンの右腕は賢治の頭の中に’入っていた’。
すり抜けて入っているイメージである。
「なッ・・・・!?ちょ、ベロンベロン!何してンだッ!」
「少し・・・・其方の力を借りるぞ」
「はァ!?」
そう言うなり、オベロンは賢治の返事も聞かずに右腕を引き抜いた。
オベロンがクルリと身体の向きを変え、再び学院前バイパスを見つめる。
「賢治・・・・。なかなか使い勝手が良さそうな力じゃないか」
「待てやコラァ!ベロンベロン、今俺に何しやがった!?」
するとオベロンはフッと鼻を鳴らした。
「成る程、まだ自覚していないのか・・・・。大丈夫だ、恐らく近いうちに分かる」
するとオベロンは校門前でしゃがみ込み、そして。
’地面に潜った’。
正確には、影に。
「ベロンベロンのヤツ、影の中に潜れるのか・・・・?珍しい能力っぽいが・・・・初めて知った」
「ほえー・・・・」
そして賢治とアヴァが待つこと少々、オベロンが校門周辺の影から顔をニュッと出した。
「待たせたな。救急車なら止めたぞ」
「随分早ェな。本当にここから出て行った救急車だったンだろうなァ?」
「大丈夫だ。救急車の中身を確認しておいたからな。確かにあれで間違いないだろう」
オベロンが指差す方向を見ると、渋滞で溢れ返りそうなバイパスの中、灰色の煙をあげている箇所があった。
賢治はオベロンに確認する。
「鈴が・・・・本当にあの中に乗ってたのか・・・・?」
「ああ、間違いない。水玉模様の入っている、前髪が直線の赤い着物の幼女だろう?」
「やっぱそうか・・・・。アヴァ、行くぞ」
「え・・・・あ、う、うん」
現在の状況に呆気にとられているアヴァを連れ、走って校門を出て行こうとする二人を見送りながら、オベロンは呟く。
「・・・・あの幼女で合っている、筈だよな?」
もくもくと灰色の煙が立ち上る救急車は、タイヤ四輪ともまっすぐな断面になっていて、明らかにオベロンが何かしらのアクションを加えた形跡が残っていた。
倒れてボロになった救急車の後部扉が勢いよく外れ吹っ飛び、渋滞の他車両のフロントにぶつかって車両がへこむ。
ぶつけられた車両の運転手が文句ありげに席を降りてつかつかと救急車へと近付く。
「おい!こんな渋滞のど真ん中で事故するのはしょうがないとしてもな、この俺の車どうしてくれるんだよ!それにあともうちょっと深くいってたら俺は押しつぶされてたんだぞ!」
そんな救急車の後部から、降りてくる小さな人影が一つ。
光を失ったような、憂鬱な目。
パッツンの、黒髪ロング。
水玉模様の赤い着物を着た、人形のような少女。
「ーーーー標的対象、ではありません。私の標的対象は、別の人物ですので」
三上鈴は、そこにいた。




