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琴音ちゃんの話(前)

予定より長くなってしまったため琴音ちゃん編は前後になる予定。

PC発熱で途中まで書いてたのが消えたときにはどうしようかと思いました。

幡野うさぎは要領のいいやつだ。

うさぎはマイペース、スローペースなやつで、歩くのも話すのも考えるのも遅い。

そんなんじゃ困るだろうにうさぎは絶対に困らない。必ず誰かが助けてくれるのだ。

例えば朝、登校はうさぎの兄に手を引かれて歩いている。手を引いていないとうさぎはただでさえ歩くのが遅いのによく立ち止まる、ふらふらどこかへ行こうとする、と学校に行く気があるのかと問いただしたくなるほど一向に進まなくなるのだ。だから兄が手を引き、たまに引きずり登校してくる。下校も同様に誰かに手を引かれて帰る。

話すのだってゆっくりだ。だから周囲はうさぎに合わせてゆっくり話すし、うさぎが何か言おうとすればそれを待ってやる。初対面の人間だって、普段はやかましいギャルだってうさぎが相手だとそうなる。あるふざけた研究チームをくんでるやつらがうさぎフィールド効果だとか言っていた。まぁ、納得だ。うさぎののほほんとした穏やかな雰囲気は心を落ち着かせてくれるものがある。そのおかげか会話がゆっくりでも誰も気にならない。

考えるのが遅いのでたまにだいぶ前の話題の返事をしてきたりするがまぁ、気になら・・・、うん、気にならない。

テストのときは先生が横でせっついているのはいつものこと。ゆっくり考えすぎていつまでも答案が埋まらないだろううさぎは先生に早くしろ早くしろとせっつかれてようやく6~7割の答案が埋まる。そしてそれが全問正解なのがまた小憎らしいが、だれも妬まない。もはやうさぎクオリティと誰もが納得しているのだろう。


そんなうさぎと私が出会ったのは高校の入学式。いつものように兄に手を引かれたうさぎが私に引き渡されたのがきっかけだった。

うさぎ兄はイケメンだ。イケメンに手を引かれる小さな女の子はかなり人目を集めていた。

もちろん私も目を引かれた。そして現れたうさぎ兄は新入生を見渡し、私の方を見るとこちらに向かって来たのだ。

驚いている私の目の前に来た彼は私にクラスを尋ねてきたので一組だと返したする。と妹とつないだ手を差し出した。

「ちょうどよかった。この子も一組なんだ。名前は幡野うさぎ。入学式から下校までの間この子のことよろしくね。終わったら迎えに来るから。あ、移動中はうさぎの手を離さないでね。」

といってうさぎの手を私に押し付け去って行った。

残されたのはにこにこ笑ううさぎと戸惑う私だけだった。



しかして、もともと面倒見のいい性格だったためうさぎを放っておけず、何よりどこかへふらふらいこうとするうさぎの危うさを目の当たりにしてしまった私はうさぎの手を引いてやることとなった。うさぎ兄は生徒会長で教師への手回しは既に済んでいたらしく入学式では私とうさぎはセットで扱われていた。



こうして押し付けられたうさぎの世話だったが面倒ばかりではなかった。

私はせっかちなところがあった。待ち時間は苦痛だし、ゆっくりと進む物事にはイライラする。

だが、うさぎフィールド効果か、うさぎと一緒だとそんなものは気にならなくなるのだ。

これくらいはいいか、と思えるようになったのだ。それに「琴音ちゃん」と慕う気持ちの込められた声で呼ばれるのも悪くない。まるで手のかかるかわいい妹を手に入れたようで、心が温かくなるのを感じた。



そうしてうさぎと親友だと言えるほど仲良くなり近くのケーキ屋さんの季節限定品がおいしそうだったので食べに行こうという話になったときのことだった。

うさぎは放課後デートだ!と喜んで私とつないだ手をぶんぶん振りながら上機嫌で珍しく早足で歩いていた。

かわいいやつめ、と目を細めてうさぎを眺めていたら突然あたりが強い光に包まれた。

突然のことにぎゅっとうさぎと繋いでいた手を強く握ろうとした。だが、手の中の感覚は消えうせ、手のひらにつめが食い込むのを感じただけだった。

光も収まりなんとか目を開くとそこにはおっさんたちがひしめいていた。前後左右見渡す限りおっさんだ。筋肉隆々のおっさんも多く実にむさくるしい。その中に見慣れたうさぎの姿がないことにホッとした。あの子はこの訳のわからぬ事態に巻き込まれなかったのだ。


成功だ!と喜ぶ周りのおっさんどもにいらっと来た。

「ちょっと!何よこれ!」

声を上げるとおっさんどもの返事より先に声がかけられた。

「琴音ちゃん!」

うさぎの声だ!驚いて聞こえてきた足元を見れば、ウサギがいた。

丸っぽいふわふわの毛玉のような茶色いウサギだった。そのウサギが頭を限界まで上げてこちらを見上げていた。まさか、これが・・・

「う、うさぎ!?」

抱き上げてみると、なんだか落ち着いた。まさにうさぎ効果だ。

それでも、どこか認めたくない気がして思わず確認した。

「あ、あんたほんとにうさぎなの?幡野うさぎなの?」

「うさぎだよ、琴音ちゃん。わからない?どうして琴音ちゃんだけおっきくなっちゃったの?」

本人もうさぎだと名乗るならこのウサギはやはりうさぎなんだろう。なによりこのちょっと間の抜けたしゃべり方と質問はうさぎらしかった。きっと自分の方が姿かたちが変わってしまっているなど思いつきもしないのだろう。

「……うさぎ、あのね、私が大きくなったんじゃないの。あんたがちっちゃくっていうか、その……ウサギになってんのよ……」

事実を教えてやるが抱き上げたうさぎは首を傾げ、ひげをそよがせるばかりでいまいちわかっていなさ気だ。

「あんた、動物のウサギになってるのよ。」

言いなおしてやると今度こそぴんときたのか丸い目が今より少しだけ見開かれ、耳がピンと立っていた。

そして恐る恐るというように手、というか前足を見て体がびくりと震えた。うさぎはようやく自分の変化に気付いたようだった。


琴音ちゃんの発言でうさぎが聞いたのと異なる部分がありますが、間違いではなく仕様です。

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