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退魔光剣シェルザード!  作者: 優パパ★
第一部 パーティ結成編
8/40

第二章「二枚目王子の挑戦」その4

     5


「乾杯!」

 ヒョウが音頭をとり、三人はグラスを勢いよく合わせた。


 夜、一行は火を囲んで、ささやかな新パーティの結成式を開いていた。そうなるとやっぱお酒でしょう♪ということで、ヒョウがライデル王家秘蔵のとっておきのワインを、ジークとクリスに気前良く振る舞う。


 しかし、実はこれはヒョウの仕組んだ策略だったのである!


(ふっふっふ、ここで邪魔なジークさえじゃんじゃん飲ませて潰してしまえば、後はお酒の入った女の子一人……そうなればこっちのものさ)

 内心の笑いを隠すために、ヒョウはワインを一口飲んだ。ちなみにヒョウはプレイボーイの基本として酒の強さには自信がある。飲み比べに持ち込めば負ける気はしなかった。


 だが、そんなヒョウの思惑とは裏腹に、ジークはちびちびと口をつけるだけで、あまり飲もうとしない。


「どうした? 飲まないのか?」

「んー、こんないい酒、一気にやるにはどうももったいないくてなぁ……」

 ジークはしみじみとつぶやいた。


(……ど、どこまでもセコい奴……)

 このままではラチがあかない。焦れたヒョウは無理に笑って言った。


「いいから飲めよ、ここはオレのおごりだ」

「……そう言えば親父、酒好きだったよなー。なのにいつも貧乏でろくに飲むこともできないで……何か悪い気が……」

 酒が入ると妙に暗くなるジークだった。


 ぷっつん、ヒョウの堪忍袋の緒が切れる。


「ごちゃごちゃ言わずにさっさと飲まんかっ!」

 ヒョウは無理矢理ジークの口を開かせると、ワインをビンごと突っ込んだ!

 もが~~、ジークはしばらく目を白黒させていたが、ビンが空になると同時に真っ赤になってぶっ倒れた。


(さてと……)

 ヒョウは一息入れると、一人やけにおとなしく飲んでいるクリスに目をやった。

 クリスはすでに酔っているらしく、顔をほんのり赤く染めて、また一段と可愛らしさを増していた。


「静かな夜だね」

 ヒョウはキザにささやくと、クリスの横に腰を下ろした。


 ぐが-、ぐが-とジークの豪快ないびきが辺りに響く。


「やかましい!」

 ヒョウはジークにさるぐつわをかましてくると、気を取り直してクリスの横に座り、空を見上げてみせた。


「ごらんよ、星がきれいだ。まるで君の瞳みたいに、ね」

 こんなセリフを平気で吐いて、しかもきっちりキメる所がヒョウの恐ろしさである。


 しかし、クリスはピクリとも反応しない。--というか、まるで聞いていないようだった。

 ヒョウは右手を軽くクリスの前で振ってみせた。


 反応が無い。


 ヒョウは思わず地面に両手をついた。

(せ、せっかくキメたと思ったのに……)

 しばし落ち込むヒョウだったが、じきにあることを思い付いて顔を上げた。


(ものは試しだ)

 ヒョウの右手がそーっとクリスのミニスカートに伸びる。


 クリスはぼーっと虚ろな目をしたままである。


 そんなクリスに対し、ヒョウは慣れた手つきで、すっと優しくその太股をなで上げた。


 ぴくん--一瞬クリスの表情が微妙に変化したが、相変わらずその目は宙を泳いでいる。


(よし、今なら何をしても気付かれん。なら遠慮せず……)

 ヒョウの目がキラリと光る。どうせなら口説き落とす方が面白いとは言え、基本落としさえできれば何でもアリというのがヒョウであった!


(フッ、どうせその後はオレの虜になるんだから、順番が少々逆になっただけのことさ。久々の上玉……楽しませてもらうぜ!)

 ヒョウはほくそ笑むと、まずはクリスの愛らしい唇を奪うべく、ゆっくりと顔を近付けていった。


 そして二人の唇がまさに触れ合おうとしたその寸前! 急にクリスが口を開いた。

「ねぇ……」


 ギクゥゥゥッ! ヒョウは一瞬心臓が止まるかと思った。


「あ、あの、これは、つまり、その……」

 わたわたとうろたえるヒョウ。だが次にクリスが言ったセリフはいささか予想外のものだった。


「……お酒ない?」


「は、はぁ?」

「お酒はもうないの? って聞いてるの……」

(やっぱ酔ってるのかな……?)

 と、クリスの様子をうかがおうとしたヒョウの鼻先に、いきなりナイフの刃が突き付けられた!


「どわぁぁっ!?」

 心底驚いて飛び退くヒョウに、クリスの罵声が飛んだ!


「耳ついてんだろ!? 酒持ってこいってんだよ! 酒!!」

「は、はい……ここに……」

 大慌てでヒョウは新しいワインのビンを差し出した。


「よーし」

 クリスはワイルドにナイフの柄でビンを砕き割ると、グラスになみなみと注いで一息に飲み干していく。


 ひっく、あっという間にクリスはビンを空けてしまうと、とろんとした目をヒョウに向けて尋ねた。

「もっと……ないの?」


「あの……クリスさん、もう止めた方が……」

 ひきつるヒョウの横をナイフがかすめて飛んでゆく。


「わ、わかった! わかりました!!」

 ヒョウが残っていた最後の二ビンを取り出すと、クリスは満足そうに微笑んでさっそく一本をぐびぐびやり始める。


(ま、まさかこんな可愛い顔して酒ぐせが悪かったとは……)

 頭を抱えるヒョウだったが、その肩がガッ!とつかまれたかと思うと、その口の中にいきなりワインのビンが突っ込まれた!!


「何辛気くさい顔してんだよ! ほら、お前も飲めよ!! オラオラッ!!」

「☆※★△£♂●▽!!」

「キャーハッハッハッ、おっかし~!」

 目を白黒させて手足をばたつかせるヒョウの様子を見て、クリスは無邪気に笑い転げる。


「し……死ぬかと思った……」

 やっとすべてを飲み干して、ゼーゼー荒い息をつくヒョウ。さすがに頭もガンガンする。だが、そんなヒョウに追い打ちをかけるべく、クリスが口を開いた。


「もう無くなっちゃった……新しいのちょーだーい」

「え、あ……あの、今のでその……」

 思わず口ごもるヒョウ。


「何、何? もっと大きな声じゃないと聞こえなーい」

「あの……もう……終わりなんです……け……ど……」

 冷や汗だらだらでヒョウは答えた。


「そっか……もうないのかぁ……」

「そ、そう、今ので終わりなんです……よ……」

 ははは……とヒョウが乾いた笑い声を立てる。


「ふーん、そうだったのかー☆」

 にっこりと、やけに明るくクリスが微笑んだ。まるで天使のような無邪気な笑顔に、ヒョウは内心ホッと胸をなで下ろす。

(良かった……これで一安心……)


 と思ったその瞬間!


 バキィィ! ヒョウの首にクリスのラリアットが炸裂し、「げふっ!」とたまらずヒョウは吹き飛んだ! 


「ゲホッ、ゴホッ……な、何を……!?」

 咳き込みながら転がり回るヒョウの背中に、クリスが勢い良く飛び乗った!


「ぐへっ!」

 カエルがつぶれたような悲鳴を上げるヒョウの背中に、クリスがピッタリとくっつくようにうつぶせになると、その耳元にささやきかける。

「……てことはキミ、ボクの分のお酒を飲んだんだね?」


(ボクの分って……無理矢理飲ませたんじゃないか!!)

 ひきつりまくるヒョウ。今のヒョウには押しつけられたクリスの身体の柔らかさ、暖かさを味わえる余裕はまるで無かった。


「吐き出せよ……」

 ボソリとクリスはつぶやくと、いきなり両手でヒョウのあごをつかみ、思いっきり引っ張り上げた!


「ギャァァァァ!!」

 メキメキと骨のきしむ音と共に、ヒョウが絶叫する!

 

「吐けよ! ボクのお酒だゾ!! 吐き出せよ!!」

 クリスは叫びながら、容赦なくヒョウの身体をエビぞりに締め上げる!


「た……たるけ……れ……」

 ヒョウは激痛と闘いながら、かすかな期待を込めてジークの方を見たが、ジークはさるぐつわをされたまま、酔いつぶれて完璧に熟睡していた。


 うっぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!! そこら中の闇を引き裂くかのように鳴り響くヒョウの絶叫と共に、荒野の夜は静かに(?)更けていった。

 

     ※     ※


 翌朝。


「何よキミ達ってば、たったあれだけのお酒でへばっちゃったの? だっらしないなぁ!」

 二日酔いで苦しむジークと全身の痛みに耐えるヒョウに対し、クリスはやたらと元気そうだった。どうやら昨晩の事はまったく覚えてないらしい。


(く……くそ……だがこれしきのことで諦めてたまるか! このヒョウ・アウグトースの名に賭けて、次こそは必ず落としてみせる……!!)

 襲いかかる激痛と闘いつつも、心の中で強く誓うヒョウ。


 だが、そんなヒョウをジークが真っ向からにらみつける。

(……ぜーったいにてめぇの思うようにはさせねぇからな……!!)


 バチバチと二人の視線が火花を散らす!


「ほら、ヒョウさんもジークも元気出しなよ! 冒険の旅がボク達を呼んでるんだから☆」

 そして、そんな二人の想いも知らず、今日も明るく元気に笑う、クリスであった--

 

     ※     ※


 ヒョウを加えて三人になった一行が迎えた朝の一光景--


 だが彼らはその時まだ気付いていなかった。彼らを狙う闇の牙が、すでにすぐそこまで迫っていたことを!!

 

  (第三章「魔道を使う妙なネコ」に続く!)

第二章についての裏話&こぼれ話はこちらから!

http://yuya2001.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/post-21e7.html


第三章は9/23(日)にUPの予定デス(´ω`)

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