第二章「二枚目王子の挑戦」その2
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「どうしたの? 知ってる人?」
キョトンとするクリスの前で、ジークは続けて叫んだ!
「て……てめぇはライデルの軽薄王子っ!」
負けじとヒョウも叫ぶ!
「お……おまえはトロキアの変態王子っ!」
「誰が変態だっ! この色情狂!!」
「なんだと、この貧乏人!!」」
たちまちにして、二人の間に大ゲンカが始まった!
「やめなさ----いっっ!!」
クリスの荒野に響き渡る大声に、さきほどの呪文ではないが、ピタッと二人の動きが止まる。
「もう、何だよキミ達は!? いきなりケンカなんかして。さっきまで一緒に戦ってたのに!」
「へっ、こんな奴助けに来るんじゃなかったぜ」
「フン、おまえの助けなんか無くても勝ってたね」
一触即発。
「あ~~もうすぐケンカする!」
頭を抱えるクリスを、ヒョウの目が鋭くとらえた。
「おい、ジーク、この子はどうしたんだ? 極度……というか異常な女嫌いのお前が、どういう風の吹き回しだ?」
「いや……付いてきたいって言うんで……仕方なくと言うか……」
「何言ってんのよ! そもそもジークのせいだし、お金がないキミにボクが付いてきてあげてんでしょーが」
ふんだ、とクリスは鼻を鳴らすと、そんなことよりさーとジークに尋ねた。
「ねぇジーク、結局この人は一体誰なの?」
「こいつか? こいつはヒョウ・アウグトース。ライデルの大馬鹿王子だ」
投げやりに答えるジークであったが、そんなジークを「どけっ!」と押しのけるようにしてヒョウが前に出たかと思うと、透き通った空のような青い瞳でクリスをじっと見つめた。
(へぇーすっごい美形☆)
クリスはちょっとドキドキしながらヒョウの視線を受け止めた。
「お嬢さん、お名前を聞かせていただいてよろしいですか?」
「え……ク、クリスです!」
慌ててクリスは答えた。『お嬢さん』などと呼ばれたのは初めてである。
「クリスさんですか……可愛い名前だ。名は人の姿を表すと言いますから、ね」
白い歯が煌めく。クリスはポッと頬を赤らめた。
「私の名はヒョウ・アウグトース。北方の誇り高き魔道王国ライデルの第四王子にして、《魔法戦士》の称号を与えられています」
ヒョウはフッと笑うと、キザに髪をかきあげた。その仕草の一つ一つがことごとく決まっている。
「また、ライデルの民は私のことを《太陽の王子》と呼んでいるようですが、ね」
「《太陽の王子》ですか……とっても似合ってます☆」
いつの間にか二人だけの世界を作り上げてしまったヒョウとクリスを、ジークは面白くなさそうに眺めていた。
(へん、なーにが《太陽の王子》だ。裏じゃあ《王家の種馬》って言われてやがるくせに。クリスもクリスだ。デレデレしやがって。火傷してもしらねーぞ!)
大分ジークの個人的感情も含まれてはいたが、実はその通りなのであった。
ヒョウはその端正な甘いマスクと、「王子」という地位を利用して、夜な夜な美女を漁り、ライデルの王都ヴァノーンにおいて、妙齢の美女ならば、婚約者がいようが人妻であろうが、はたまた未亡人であろうが、彼の手に落ちなかった者などいないと言われるぐらいであった。
同じ「王子」でも誰かさんとはえらい違いである。
ちなみにこの二人が初めて出会ったのも、ヒョウが女を口説いている時であった。
グラード公国で建国百年を祝う式典が行われた時の事だった。来賓として招かれていたヒョウは、グラード一の美少女と呼ばれる姫君を見事口説き落とすことに成功し、人気の無い一室に連れ出して暗がりの中いざこれから! という時に、広い王宮内で道に迷い、偶然通りがかったのが同じく招かれていたジークだったのだ。
裸の姫君を見たジークはもちろんバーサークし、そしてヒョウは瀕死の重傷を負った。
それが二年前。二人の王子の因縁の始まりであった--
まぁ、それはさておき。
ジークがふて腐れている中、ヒョウの鷹のように鋭いプレイ・ボーイの目が、クリスのスペックを的確にとらえていった。
(ふむふむ、年齢は16歳。小柄ではあるがそれなりに発育はしている感じ。顔はオレの好みだ、文句無い。これから磨けば更に光るだろうな。それに何よりまだ『処女』だ)
ヒョウの目がキラリと光る。
(ふふ……こんな辺境の地でこんな上玉に会えるなんてな。こいつは楽しませてもらえそうだぜ……!)
内心ほくそ笑むヒョウの前で、クリスは何も知らずに無邪気に笑っていた。