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退魔光剣シェルザード!  作者: 優パパ★
第一部 パーティ結成編
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第二章「二枚目王子の挑戦」その1

 第二章 二枚目王子の挑戦


     1


「あ~あ、た-いくつね-」」

 道無き荒野を馬に揺られながら、クリスはあくび混じりでつぶやいた。


「……」

 ジークは聞こえていないのか、単に無視しているのか、無言で少し前を進んでいる。

 ちなみにクリスがこのセリフをつぶやくのは、本日これで8回目である。


「ねぇ、聞いてるのー? ジークったらぁー」

「……」

 またもや返事はない。


「……もう!」

 クリスは軽くふくれたが、やがてあきらめたように肩をすくめると、ジークの背中から代わり映えのしないあたりの風景へと視線を移した。


 とにかく荒野! であった。やたらだだっ広いだけで、有るものといえばせいぜい雑草と岩ぐらいである。少なくとも鑑賞欲をそそる景色ではない。こんなもの、5秒も見れば十分だ。

 そしてこんな景色がここ3日ほどひたすら続いていた。そうでなくてもあまり気の長い方ではないクリスがイヤになるのも、いい加減ムリもない。


「ああ、やだやだ」

 もううんざり、とばかりにクリスはため息をついた。


「ねぇジーク、一体いつになったら《竜の台地》に着くのよぉ?」

「そんなに簡単に着くわけねぇだろ、大体ラコール出てまだ一週間もたってねぇじゃねぇか……」

 さすがに面倒くさくなって、ジークがたしなめる。でもクリスは相変わらずぼやき顔だ。


「それにしてもさー、いい加減怪物の一匹や二匹ぐらい出てくればいいのにね。だってこれじゃあ全然冒険らしくないじゃない!」

「……おまえ、滅茶苦茶言ってないか?」


「だってせっかく冒険の旅に身を乗り出したっていうのに、やってる事っていったらただボーッと馬に乗ってるだけなんだもん。まだ初めはゴードンの奴が追ってくるくるかもしれないからハラハラしてたけどさー、でもそれも無いみたいだし。なんて言うかさーこう、スリルってのがないのよねー」


「……おまえねー」

 何か言ってやろうとしたジークだったが、不意にその黒い瞳がはるか前方に立つ砂塵をとらえた。

「おや?」


「どうしたの?」

「いや……よく見えないんだが……」

 じっ、と目をこらすジーク。


「どうやら何かが戦っているらしい」

「えっ? 何、敵なの!?」

 クリスは急に元気になると、背中のザックから遠眼鏡を取り出し、ジークに渡した。


「どんな奴なの? 何匹くらい? ねぇ、ねぇ」

「んー、あれは多分リザードマンだな。数はひの、ふの……結構いるぜ。八匹ほどだな」

「リザードマンが八匹ぃ~!?」

 思わずクリスの声が裏返った。


「ああ、それと騎馬の男が二人。どうやら派手にやり合ってるみたいだな。どちらもかなりの数がやられてるみたいだけど、騎士達の方が押されてる」


「なら早く逃げようよ!」

 キッパリとクリスは言い切った。

「その人達がやられちゃったら、次はボク達の番じゃない!」


「スリルって奴はどうしたんだ?」

 皮肉っぽくジークが突っ込む。


「リザードマンが八匹もなんて冗談じゃないよ! ジーク、キミはか弱い女の子を危険な目に遭わせる気?」

「……あんまりか弱い女の子とは思いたくないんだが」

 やれやれ、とばかりにジークは髪をかくと、遠眼鏡をクリスに投げ返して、スラリと剣を抜き放った。


「じゃあ、おまえはここで待ってな。すぐ戻ってくるからよ」

「えっ?」

 クリスはその大きな緑がかった瞳で、じっとジークを見つめた。


「まさか助けに行く気なの!?」

「決まってるだろ? 魔物にやられそうな奴を見捨てられるかよ」

「何考えてるのよ!? わざわざ危険に飛び込む必要なんてないじゃない!」


「いいから待ってろ!」

 ジークは耳もかさずに叫ぶと、馬の腹に蹴りを入れて、乱戦のただ中へと突進していった。


「もう……正義感だけはやたら強いんだから!」

 ボクは知らないよー、ため息をつくクリス。


 その頃、騎士達とリザードマンの戦いは佳境に入り、残っていた二人の騎士の内一人がとうとう魔物の刃の前に倒れた。


 残る騎士はただ一人。その白馬にまたがった騎士は、見たところかなりの使い手のようだったが、何と言っても多勢に無勢、一匹のリザードマンを打ち倒したものの、たちまち危機に陥ってしまう。


 そのとき、リザードマンの群れのただ中に、《闘気》を纏ったジークが猛然と突入してきた!


「うげぇっ!?」

 何が何だかわからない内に、一匹が青い体液をほとばらせて崩れ落ちる!


「義によって助太刀するぜっ!」

 ジークは叫ぶやいなや馬から飛び降り、突然の事態に混乱するリザードマン達を次々と蹴散らして行った。


「ひるむな! 新手と言ってもたかが一人! 我らガロウ辺境警備隊の敵ではない!」

 どうやらかなりの訓練を積んでいる一隊らしい。隊長格と思しきリザードマンが叫ぶとたちまちにして混乱は収まり、逆に組織的な反撃を開始してきた。


「おっ? 結構やるじゃねぇか、このトカゲ野郎!」

 前後左右からの攻撃をきわどくかいくぐりながらも、ジークのつぶやきは妙に楽しげだった。


「そうこなくっちゃなぁ!」

 ザン! 左からの攻撃を盾で受け流すと、振り向きざまにジークの刃がその敵を斬り捨てる。


「おら、次ぃ!」

 ジークが嬉々として叫ぶ。どうやら何だかんだと言っても、ジーク自身、クリスとの二人旅の緊張もあってか、だいぶストレスが溜まっていたようである。


 だが、あまりに浮かれていたためか、一瞬、ジークの背後に隙ができた。

 すかさず一匹のリザードマンが迫る!


 が、前の敵を相手にしていたジークは気付かない。

 リザードマンが剣を振り上げた! そして--!


「うぎゃあっ!」

 背中を鋭い痛みが走り抜け、リザードマンは崩れ落ちた。その背中にはナイフが二本、深々と突き刺さっていた。


「あぶないなーもう、見てらんないよ、全く」

 いつの間にか現れたクリスが、世話が焼けるんだからぁ、とちょっと得意げにため息をついてみせる。


 が、今度はそのクリスの後ろで、隊長と思しきリザードマンが剣を振りかざした!

 

「え”っ!?」

 凄まじい殺気を感じて、すかさずクリスが飛び退く。間一髪、軽く腕をかすめただけでかわしたものの、クリスはバランスを崩して転倒してしまった。


「キャアッ!?」

「くっくっくっ、よくぞかわした。だがそこまでだ小娘、我らが神、《闇》の魔神バドゥに捧げる生け贄になってもらおうか」

 リザードマンがゆっくりと歩み寄る。


「くっ!」

 シュバッ! クリスの手からナイフが飛ぶ。しかし敵は軽くそれをたたき落とした。

「無駄だ。この辺境警備隊長タース様にそんなものは通じん」

 チロチロと先の割れた不気味な舌を出して、タースがせせら笑う。


「クリス!」

 ジークが慌てて助けに行こうとしたものの、残り三匹のリザードマンがまとわりついて身動きがとれない。

「くそっ、邪魔だ! どきやがれ!!」

 苛立ちを込めたジークの剣がたちどころに二匹を仕留めるものの、その間にタースはクリスめがけて剣を振り上げた!


「死ね、小娘っ!」

(ジーク!!)

 クリスが目をつぶる!


 そのとき、少女の危機に気付いた白馬の騎士の身体から、青白い炎のようなものが立ち上る!

 そして騎士は、今にも剣を振り下ろそうとするタースめがけて、叩き付けるような叫びとともに人差し指を突き出した!


「《呪縛ホールド》!」


と、同時に、タースの姿が、まさにその瞬間で静止した!

「が……!?」

 タースがうめくも、身動き一つできない!


「えっ?」

 何が起こったのかわからずに、キョトンとするクリス。


 しかし、


「う~、限界……」

 それもほんの一瞬で、ヘタ~と騎士は馬の背中に倒れ伏してしまった。


 それと同時に、もちろんタースは行動を再開する。

「今度こそ、死ねい!」

 タースの剣がクリスに迫る!


「キャアッ!!」

 再びクリスが悲鳴をあげた!


 が、その剣がクリスの身体をとらえる前に、ジークの投げた剣の一撃がタースの心臓を深々と刺し貫いていた。ほんの一瞬でも、ジークにとっては残りの一匹を倒すには充分な時間だったのである。


 血しぶきをあげてタースが倒れるのを見届けると、ジークはニヤリと笑って言った。

「あぶねぇなぁ。見てらんねぇぜ、全く」

 べーっとクリスは舌を出して見せたが、ジークの右肩から血が流れているのに気が付いて、ハッとなった。


「ねぇ、どうしたの!? その傷!」

「ん、これか、たいしたことねぇよ」

 クリスを助けるために少し強引な戦い方をした結果受けた傷だったが、ジークは涼しい顔をしてみせる。


「そんなことないよ! 血が出てるじゃない! 見せてみてよ!」

「うわ、よせ、やめろ、そんなに近づくんじゃない!!」

 ザックから傷薬を取り出して身体を近付けてくるクリスに、思わずおびえるジーク。


「そこのお二方」

 そのとき、不意にジークの後ろから、白馬の騎士が声をかけてきた。

「助太刀感謝する。是非、礼を言わせてもらいたい」

 騎士は白いマントをひるがえらせると、軽やかに馬から降りた。


 馬から降りてみると、意外と長身であることがわかる。

 スリムな身体に華麗な金色の装飾を施した純白の甲冑が、見事にフィットしていた。


(……? どっかで聞いたような声だな……)

 何か嫌ーな予感がしてジークが振り返った時、騎士はゆっくりと兜を外した。

 キラリ、見事な金髪が太陽の光を浴びて煌めく。


「我が名はヒョウ・アウグトース、魔道王国ライデルの……」


 だが、その視線がジークの顔に止まった時、騎士の名乗りが止まった。

 二人はしばらく無言で互いの顔を見つめ合っていたが、やがてほぼ同時に絶叫した!


「あ”~~~~~~っっ!!」

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