終章「魔を退ける光の剣」その3
ラストバトルです!(>_<)
4
光も無く、風も無く、音も無い。
あるのはただ永劫たる闇--一切の光をこばみ、すべてを暗黒の中に帰す、永遠の夜の世界。
まるで深淵をのぞきこんだような、底知れぬ暗黒がジークの周りに果てしなく広がっていた。
(……暗い……なんて静かなんだ……)
無限の闇をまるで波間に浮かぶように漂いながら、ジークはぼんやりと考えた。
寒い。すべての光を拒否した暗黒の空間は、身震いするほどの寒気を感じさせる。そしてそれは身体だけでなく、まるで心の奥底まで染み込むように、ジークの気力を萎えさせていった。
〈大丈夫ですか!? ジークさん!〉
そんなジークに向かって、シェルザードが必死に呼びかける。だが、この完全なる闇の空間において、唯一ほのかに輝くシェルザードの光も、今にも消えそうな程弱々しい。
「ああ……何とかな」
ジークはかすかに微笑むと、周囲の闇を力無く見回した。
「それにしても……ここは一体どこなんだ……?」
〈僕にもわかりません……覚えているのは、あふれ出した《魔闘気》に飲み込まれたとこまで……〉
そこまで言った時、シェルザードはハッと息を飲んだ。
〈じゃ、じゃあ……まさか……ここは?〉
--クックックッ
そのとき、突如不気味な笑い声が闇の空間に響き渡った。
〈そ、その声は!?〉
「バドウかっ、どこだ!?」
--クックックックッ……!
だが、聞こえてくるのは不気味なせせら笑いだけで、バドウの姿は全く見えない。
その笑い声も、四方八方からこだまして、魔神の場所をつかむ手掛かりにはならなかった。
(いや……それどころじゃねぇ……これはまるで……)
今や割れ鐘をたたくかのように激しく響き渡るバドウの嘲笑に、ジークはゴクリと息を飲んだ。
(……『闇そのもの』が笑っている!?)
--クックックッ、ソウダ。オマエノ考エテイル通リヨ。
ジークの心を見透かしたように、その瞬間、『闇』がニタリと笑った。
「なっ!?」
別に目に見えたわけではない。だが、ジークは確かに感じたのだ。『闇そのもの』が、底知れぬ悪意を持ってこちらを見つめているのを!
「……ま、まさかこの空間は……!?」
思わず絶句するジークに、『闇そのもの』が再びニタリと笑う。
--ソロソロ教エテヤロウ。コノ世界コソハ我ガ《魔闘気》ガ生ミ出シタ亞空間--《永劫ナル闇》! ソシテソレハ言イ換エレバ、コノ『闇ノ空間ソノモノ』ガ余ノ一部デアルトイウコトダ!
〈《永劫なる闇》だって!?〉
その言葉に、ギョッとしたようにシェルザードが反応する。
〈ま、まさかあれを使っただなんて!?〉
--ホウ、サスガニ覚エテイタカ。
シェルザードの声が震えるのを、『闇そのもの』が楽しそうに眺める。
「シェルザード、そのエタ……なんとかって何なんだ?」
〈《神魔戦争》でバドウが一度だけ使った、最凶最悪の暗黒魔道です……一度生み出された亞空間は生きとし生けるものすべてを飲み込み、その絶望と恐怖を糧として更に広がっていく……まさに世界を《闇》そのものに塗り替える恐ろしい禁呪……!〉
「!?」
--ククク、アノ時ハ大陸一ツ分ノ命ヲ飲ミ干シタ所デ、るーまニヨッテ阻マレタガ、今トナッテハ止メラレルモノナドイナイ。余ノ力ガ完全デナイ分、時間ハカカルカモ知レンガ、マァソレモ一興……世界ヲジワジワトコノ亞空間デ飲ミ尽クシテクレヨウゾ!
バドウの邪悪な哄笑に、暗黒の空間が揺れ動く。
「ふざけんな! そんなこと……させるかよ!」
激しい怒りに突き動かされて、ジークはシェルザードを闇の空間に向けて突き出した!
シェルザードの切っ先から緑の光弾が飛ぶ!
だが、その光弾も距離を経る中で次第に力を弱めていき、最後には闇に吸いこまれるようにして消えてしまった。
「くそぉっ!」
ジークは更に立て続けに何発もの光弾を放ったが、どれも同じように消滅していった。
〈ダ、ダメです……僕の《光》の力が全く通用しない……〉
--無駄ダ、無駄ダ。コノ世界ハ一切ノ光ヲ遮断スル。確カニるーまノ奴メハ、カツテ《しぇるざーど》デコノ《闇》ノ空間ソノモノヲ断チ切ッテ見セオッタガ、神ナラヌ身デアルオ前ニソンナ事ハ不可能ダ。
〈そ、そんな……〉
がっくりとうなだれるシェルザード。
--サテ……ソロソロ気ガスンダカ?
不意に『闇そのもの』がせせら笑うのをやめると、ジークに向かって冷酷極まりない口調で告げた。
--じーくヨ、人ノ身デアリナガラ、良クゾコノ余ヲココマデ楽シマセテクレタ……ソノ褒美ヲ与エテヤロウ!
その瞬間、ジークのまわりの闇が一斉にうごめいた!
「!?」
ハッとしてシェルザードを構えるジークの心に、その瞬間、何かが襲いかかってきた!
闇が身体中にまとわりついてくる。そしてその度に、ジークの心に様々な感情が次々とあふれ出した。
憎しみ、ねたみ、そねみ、悲哀、欲望、孤独、狂気、妄執、絶望--
ありとあらゆる負の感情が嵐のようにジークの中で吹き荒れる!
「う……うわあぁぁぁぁ!!」
肉体にではない。精神そのものへの攻撃に、さしものジークも絶叫した!
頭が割れるように痛い。まるで心そのものが汚染され、破壊されるような激痛!!
〈ジ、ジークさん!〉
頭を抱えてのたうつジークに、シェルザードが悲痛な叫びを上げる!
だがその間にも、悪意に満ちた闇の空間は、情け容赦なくジークの心を責めさいなんだ!
--ハハハハハハハ! 苦シメ! アガケ! ソシテモダエ死ヌガイイ!
『闇そのもの』が--魔神バドウが残虐な笑いを響かせる!
「ぐわあああああああっっ!!」
ジークの絶叫。そしてそれに重なるようにしてバドウの哄笑が、《永劫なる闇》の中に勝ち誇ったようにこだましていった。
※ ※
ゴゴゴゴゴゴ……不気味な振動音と共に、《竜王の間》に闇の空間が広がっていく。
「く、くそっ! 一体中では何が起こってるんだ!」
闇に飲まれる前に何とか救い出したニャーゴロを抱きかかえたまま、歯がみをするヒョウ。だが、いくら闇の中をにらんでも、空間は一切の光を遮断して、その中に消えたジーク達の姿も、また闇の中央に存在するはずの魔神剣の姿も全く見いだせない。
「……ククク、これぞ究極の暗黒魔道《永劫なる闇》……」
その時、床に倒れ伏していた《智魔竜》ゴブの口から、不意に低い笑い声が漏れた。
「なっ!?」
「生きてたの!?」
ギョッとして振り向くヒョウとフレイの前で、ゴブがゆっくりと顔を上げる。幽鬼のようなその顔に、瞳だけは狂気に輝かせて、ゴブはまるで呪うように言った。
「終わりだ……もはや誰にも止められぬ。世界は闇に飲み込まれる……」
それだけ言うと、ゴブは最後の力を振り絞るかのようにして、じわじわと広がる闇に向かってにじり寄った。
「バドウ様……どうか……この私も偉大なる《闇》の一部に……」
恍惚とした表情さえ浮かべながら地を這うゴブの指先が、広がり続ける闇に触れた時、不意に闇の一部がまるで触手のように伸びたかと思うと、ゴブの身体を絡め取り、そのまま闇の中に引きずり込んだ!
「!?」
思わず息を飲むヒョウ達の前で、ゴブの姿はけたたましい笑い声とともに完全に闇の中に消え去ってしまった。
「……ヒョ、ヒョウ!」
その光景を呆然と眺めていたフレイがハッと我に返ると、ヒョウの腕にしがみついて訴えかけた。
「こんなの勝てるわけないよ! あたしとウインが魔竜形態になれば、ここから逃げられる! だから早くみんなで遠くに……!」
ウインもまたその言葉にうなづきながら、ガロウとティアナの所へと駆け寄る。
だが、ヒョウの口から返った答えは、予想外のものだった。
「いや……まだだ……」
「えっ!?」
「中ではまだジークとシェルザードが闘ってるはずだ」
そう言うと、ヒョウはギュッと強く拳を握りしめて、広がる闇の中央をにらみすえた。
「ジークの野郎は単純で、無謀で、無神経で、救いようもないバカだが、でも尋常じゃ無く『しぶとい』んだ。あいつはそんなに簡単にやられやしない。むかつく奴だが、オレはあいつの底力を信じてる……!」
「ヒョウ……おまえ……」
罵詈雑言の中に隠されたヒョウの熱い想いを感じて、それ以上何も言えなくなってしまうフレイ。
……だが、その間にも《永劫なる闇》は徐々に徐々に広がっていく。
もはや広がる《闇》がこの《竜王の間》を完全に飲み込んでしまうまで--ほんのわずかな時間しか残されてはいなかった!
5
永劫の闇の空間を、ジークは力尽きたように漂っていた。
目はボンヤリとうつろで、力を失った手足がダラリと垂れている。
(もう……ダメだ……)
力無いつぶやきが、その唇から漏れる。
もはや身体も、そして心もボロボロだった。
度重なる死闘によるダメージと、取り巻く闇による精神への攻撃が、ジークから全ての力を奪ってしまっていた。
その右手はまだかろうじてシェルザードを手放してはいないとはいえ、しかしすでに柄を握る力も無く、シェルザードの光もまた、いつ消えても不思議ではない程に弱々しい。
--クククク、ツイニ力尽キタカ。
そんなジークとシェルザードの姿を見て、その周囲を取り巻く『闇そのもの』が嘲笑う。
「……」
だが、普段なら沸き起こってくるはずの『負けたくねぇ!』という想いすら、今のジークには浮かんでこない。
もう何もかもどうでも良かった。抗うにはあまりにも敵は強大すぎ、そしてジークはもはや疲れすぎていた。
--ドウダ? ソレコソガ『絶望』トイウモノダ。コノ《闇ノ魔神》ニ刃向カッタオ前ニハ、フサワシイ末路ヨ。後ハソノママソコデノタレ死ヌガイイ!
そう言ってひとしきり嘲笑うと、やがて、もはや興味など無いとばかりに、ジークの周囲からバドウの悪意に満ちた気配が消えていった。
後にはただ、闇の空間を漂うジークとシェルザードだけが残されていた。
〈ごめんなさいジークさん……〉
ぐったりとしたままのジークに、シェルザードが力弱くささやきかけてくる。
光をエネルギー源とするシェルザードの力もまた、この暗黒の空間の中でジワジワと失われていき、もはや尽きかけようとしていた。
〈僕の力じゃ……僕なんかの力じゃ……結局、何の役にも立たなかった……!〉
シェルザードの《太陽石》から、涙がにじみ出る。
「いいんだよ……もう……」
むせび泣くシェルザードに、ジークがかすかにではあるが、優しく微笑みかけた。
〈でも、でも……!〉
「お前は弱虫のくせに一生懸命がんばってくれたじゃねぇか。正直言って、最初の頃はお前なんか絶対役に立たねぇって思ってたんだ……」
過ぎた冒険の日々を懐かしむように、ジークは視線を虚空に漂わせた。
「でも今は違う……お前を仲間にして……ホントに良かったぜ。ありがとな、『相棒』」
〈ジークさん……!〉
その言葉に、ますますシェルザードの嗚咽が激しくなる。
「いろんな事があったよな……いろんな出会いがあった……俺の旅はここで終わっちまうんだろうけど……でも旅をして良かったぜ……」
ジークの薄れゆく意識の中を、これまでの思い出が走馬燈のように駆けめぐっていく。
そして最後に浮かんだのは、サラサラの栗色の髪を揺らして、明るく笑う少女の姿--
(クリス……)
その時だった。
--諦めちゃダメだよジーク。
「……えっ?」
不意に聞こえてきたそのささやきに、ジークの閉じかけた瞳が驚きに見開かれた!
〈あ……!?〉
シェルザードもまた驚きに息を飲む!
そこにクリスがいた。永劫に続く闇の空間の中、一糸まとわぬ身体を淡い光に包んで、ジークに寄り添うようにして微笑んでいる。
「クリス……!? 何で?? ゆ、夢、なのか……?」
思わず茫然とするジークの前で、まるで淡い光そのもので出来たようなクリスが口を開いた。
--ジーク……ありがとうね。
「……えっ?」
思いがけない言葉に戸惑うジークに向かって、クリスは少し照れたような微笑みと共に続ける。
--昔のボクは心のどこかで諦めてたんだ。きっとボクの人生はラコールのケチなスリで終わっちゃうんだって。いつか『王子様』がボクを迎えに来てくれるって、そんなことを夢見ていたケド、でもしょせんそんなのはおとぎ話だって、そう思ってた。
ほんの少し前までの自分を思い出して、ちょっとだけ寂しそうな表情を浮かべるクリス。
だが、次の瞬間にはその表情が一変し、瞳をいきいきと輝かせながらクリスは続けた。
--でも、ジークに会えて。ボクの人生は変わったんだ! 一緒に冒険の旅に出て、色んなことを体験できて、すっごく楽しかった! それも全部ジークのおかげだよ☆
クリスはニッコリと微笑むと、ジークの瞳をじっと見つめて言った。
--だからジークも諦めないで! だってジークはボクの『王子様』なんだから。ガサツで、乱暴で、女の子の気持ちがわかってなくて……でもまっすぐですっごく優しい……そんなジークが大好きだよ……
そう言うと、さすがに頬を赤く染めてうつむいてしまうクリス。
「……クリス……」
ジークの口からつぶやきが漏れる。
そのとき、ジークはクリスのほのかに光る裸身を見ながら、心の底からキレイだなと感じていた。
どうしてずっと怖いなんて思っていたのだろう。こんなにもキレイで……そして愛しい……
ドクン……ドクン……弱り果てていた心臓が、再び熱い鼓動を刻み出す。そしてそれに合わせて、失われていた力が身体の隅々に戻っていくのが感じられる。
--負けないで、ジーク! ボクも一緒に闘うから……そしてみんなで一緒に、《闇の魔神》を倒そうよ!
シェルザードを持つ手に、そっとクリスの手が添えられる。その手の温かさを感じながら、ジークは再びシェルザードの柄を、ぎゅっと握りしめた!
カカッ! 瞬間、シェルザードの刀身が光を取り戻す!
まるでジークの心にあふれる想いに呼応するかのように、その輝きはぐんぐんと強さを増し、やがてまばゆいばかりの煌めきになってジークとクリスを包み込んだ!
そして光に包まれる中、ジークは同時に感じた--この闇の奥に潜み、人々の運命を弄ぶ、邪悪の根源の居る場所を!
--ナ、何ダト!? 貴様、イツノ間ニ!?
急激に高まるシェルザードの力を感じ、再び《闇の魔神》の意識が空間に満ちる。
--ダガ、無駄ダ! 今一度絶望ノ底ニ沈ムガイイ!
バドウが吠えるように叫んだ瞬間、周囲を取り巻く《闇そのもの》による精神攻撃が再度ジークに迫る!
だが、押し寄せる《闇》の念波はことごとくジーク達を包み込む光に阻まれ、溶けるように消え去っていった!
--バ、馬鹿ナ!? 光ノ差シ込マヌコノ《永劫ノ闇》ノ中デ、ナゼしぇるざーどガココマデノ「力」ヲ!?
〈バドウ、お前なんかにはわからないだろう、この力が何なのか……〉
周囲の闇を切り裂くばかりに煌々と光り輝きながら、シェルザードが叫ぶ!
〈人を想う気持ち、諦めない強さ、そして信じる願い--どんな絶望の闇の中だって、負けずに輝く《心の光》がある限り、僕の力は無限なんだ!〉
--《心ノ光》ヲ「力」ニシタダト……!? ソ、ソンナ馬鹿ナ……!!
愕然とする《闇の魔神》に向かって、ジークがたたきつけるように叫んだ。
「行くぞ、クリス、シェルザード! 今こそ魔を退ける時だ!!」
その言葉に、クリスが力強くうなづき、そしてシェルザードもまた刀身に満ちる緑光の輝きを更に増して答えて見せる。
「「うなれ……! シェルザード!!」」
手に手を取り合って、ジークとクリスがシェルザードを振りかぶる!
狙うはただ一点。この《永劫の闇》の奥の奥--この暗黒の空間を生み出している邪悪の根源が潜む場所!
--キ、貴様ァァァァァァ!!
それを察した《闇の魔神》が怒りを露わにして絶叫した。そして周囲の闇が殺気に満ちた破壊の波動となって、ジーク達に四方八方から襲いかかる!
だが、その暗黒の波動がジーク達に到達するよりも一瞬早く、全てのオーラを刀身に集中させ、シェルザードが激しく光り輝いた!
「「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」」
その煌々たる光に照らされながら、二人は一瞬目を見合わせると、全ての力と想いを込めて、同時にシェルザードを--振り下ろした!
※ ※
そのとき、《竜王の間》を飲みこまんばかりに広がった闇の一角から、突如として目もくらむばかりの緑の閃光がほとばしった!
「!?」
思わず息を飲むヒョウ達の前で、次々と光の柱が内側から闇を貫くと、《竜王の間》を照らし始める。
「何だっ……!?」
「光っ……!?」
そのあまりのまぶしさに、目を伏せるヒョウ達。
闇の中からあふれ出した幾筋もの緑光の柱が次第に広がると、ゆっくりと暗黒の空間を引き裂いてゆく。
そしてその光が集まって一つとなり、巨大な光と化して大きく膨れあがったとき--
光が--爆発した!!!
「うわっ!?」
「まぶし……!?」
「きゃああああ!?」
《永劫の闇》の生み出した亞空間を粉々に吹き飛ばし、おびただしい光の奔流があふれ出す!
--グワァァァッァァァッ!!
瞬間、何かが砕け散る音がしたと同時に、バドウの凄まじい絶叫が轟いた。爆発する光の中心でヴォルザードの《魔光石》が粉々に砕け散り、そしてその破片が圧倒的な閃光の中で、次々と溶け去っていく。
--馬鹿ナ……コノ《闇ノ魔神》ガ……人間ゴトキニィィィィッ!!
そして緑の光は、砕かれた《魔光石》から逃げ出した魔神の《魔闘気》を、一片あます所なく滅しさると、そのまま全てを飲み込んで広がっていった。
「きれい……」
「すごいですぅ……」
緑の光に包まれながら、フレイとウインが陶然とつぶやく。
暖かい、まるで母親の胸に優しく抱かれているような温もり--その大いなる光に包まれているだけで、まるでこれまでの幾多の死闘で傷付いた身体と、絶望にうちひしがれそうだった心が、ゆっくりと癒されていくかのようだった。
そして、どれくらい時間が経ったであろうか--光がゆっくりと収まっていったとき、ついさっきまで無限の《闇》が広がっていた空間の中心に、シェルザードを振り下ろした状態で立つ、ジークの姿が残されていた。
--やったねジーク! さすがボクの『王子様』だ……☆
だが、そう言って笑ったクリスの姿は、もうそこには無い。
二人で放ったシェルザードの渾身の一撃が、《永劫の闇》の中核であるヴォルザードの《魔光石》を打ち砕き、大いなる光が全てを包んだその時--まるでその中に溶けていくかのように、クリスの姿は光の粒子となって消えていった。
--また……いつかきっと会えるよね?
無言でうつむくジークの脳裏に、クリスが最後にささやきかけてきた言葉が、今なおこだまする。
「ああ……また……きっと会えるさ……」
やがて、泣き笑いの表情で顔を上げたジークの瞳に、消えていく光の中、確かにクリスがにっこりと微笑むのが見えたような気がした。
ジークの頬に涙が流れる。そしてジークはあふれる涙をぬぐおうともせず、そのままシェルザードと共にその場に立ちつくしていた。




