第八章「激突!《竜の台地》」(後編)」その3
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「……そうかい。シグマの兄ちゃんもくたばったかい」
暗闇の中で口笛の声が響く。どこかラリっているかのような、危ない響きの声である。
「で、じゃあいよいよオレ達、《闇の狙撃兵》の出番ってわけか、ゴブの旦那?」
男はニヤッと口元を歪めた。
「ガロウ様の命です。ザイザロック、奴らを一歩も城内に入れてはなりませんよ」
「OK、OK」
ペッと口からガムを吹き出して、ザイザロックが立ち上がる。
「よーしいくぜっ! 野郎ども!」
YEAH! 闇の中から奇声が響いた。
だが、声からするに明らかに何十人もがいるはずなのだが、その姿はすっかり闇に溶け込んで、まるで闇そのものがざわめいているかのようだった。
「《闇の狙撃兵》か……」
ザイザロックの詰め所を後にしながら、ゴブはポリポリと頭をかいた。
「ま、時間稼ぎぐらいにはなるでしょう……ねぇ……」
※ ※
魔竜戦隊が空けた大穴から何とか脱出し、いよいよ《竜魔城》に辿り着いたジーク達の前に、巨大な城門が立ち塞がっていた。
「ギャーハッハッハ! よく来たなベイビー!」
その上に立つ一人のダーク・エルフが、胸をそらしまくって傲然と笑った。
「オレ様の名はガロウ四天王の一人、ザイザロック! てめぇらにバラされちまった二人の兄弟の仇はオレ様たちがとってやるぜっ!」
FUCK! 黒いグラサンに黒い革ジャンと全身黒ずくめのダーク・エルフが、ジーク達に向かって中指をおっ立てる。ちなみにとさかのようにとんがった髪型は、金髪にピンクのメッシュというド派手なものだった。
「てめぇらはここから先には行かせねーっ! 最強の番兵であるオレ達がいる限り、城に入ることはできねぇぞ! 野郎共、出てきやがれ!」
ザイザロックが指をパチリと鳴らすと、城門の上にズラリとダーク・エルフの射手が現れた。彼らもみな、ザイザロックと同じような格好をしている。
HAHAHAHAHA、舌に空けたピアスをジャラジャラさせながら、ザイザロックとダーク・エルフ達が哄笑する。そして彼らは一斉に矢をつがえた弓をジーク達に向けかまえた!
「ダーク・エルフは狙った的ははずさねー! 恐怖の狙撃部隊、《闇の狙撃兵》とはオレ達のことだぜ!」
「……やかましい奴らだなぁ」
うんざりとした口調でジークがつぶやく。
さっきまでの《魔竜戦隊》との闘いが実にハードだっただけに、こういうバカが出てくると無性にイライラするものである。ヒョウやニャーゴロも同感のようだった。
「おい、シェルザード。《浄魔光斬》でこいつらみんな吹っ飛ばしちまえよ」
〈無茶言わないでくださいよぉ! ジークさんが酷使しすぎなせいで、僕はもうフラフラなんですからね! しばらくは休ませてもらわないと……〉
「仕方ないですねぇ。じゃあここは私が☆」
不意に聞き覚えがある若い女性の声がしたかと思うと、いつの間に変身したのか、そこにはニャーゴロもとい《銀の聖女》が立っていた。
「な、何でその姿になってるんだよ!?」
「長い呪文を唱えたりとか複雑な印を結ぶにはこっちの方が便利なんですよ。いやぁ、久々にレアな呪文とかも使ってみたいかなぁって思って♪」
ちょっと気取った仕草で《銀の聖女》が前髪を払うと、胸元の大きな黄色い鈴がリンと揺れる。
「おお!? 急にマブいハニーのお出ましだぜ!」
そんなやり取りは聞こえぬザイザロックが、《銀の聖女》の姿に歓声をあげる。それに合わせて部下達が、ヒューヒュー! と口笛ではやし立てた。どうやら誰もニャーゴロが変身したのには気付かなかったらしい。
《銀の聖女》はそんな歓声に応えるかのように、ダーク・エルフ達を見上げてニッコリと微笑んで見せると、何やら呪文を唱えながらトコトコと城門に歩み寄った。そしてしばらく複雑な印を結んだかと重うと、最後にまるで悪戯っ子のおでこをメッ☆とするように、重い鉄の扉に人差し指をツン♪と突っついた。
瞬間、その全身が《魔道》の霊光に包まれ、長い銀色の髪がわずかに浮き上がる。
だがそれもほんの一瞬のことで、その後《銀の聖女》はくるりとジーク達に振り返ると、悪戯っぽく笑ってこう告げた。
「さ、できるだけ門から離れましょ☆」
「……お、おう?」
ワケもわからぬまま、《銀の聖女》にうながされて門から遠ざかるジークとヒョウ。
「HA! 逃がすかよ。行くぜ、野郎共! 針ネズミにしてやれや!」
YEAH! ダーク・エルフ達が一斉に弓を引き絞る。《闇の狙撃兵》達は皆、恐るべき弓の名手であり、決して狙った的を外さない。そしてその矢が今一斉に、ジーク達をロック・オンしていた!
「ただしあの女には当ててんなよ? あの女は後でオレ様がゆーっくりベッドで穴だらけにするんだからよ!」
HAHAHA、ザイザロックの下品なギャグにダーク・エルフ達が哄笑した--そのときだった。
ゴゴゴゴゴ……不気味な鳴動と共に、いきなり彼らの足下が揺れ始めた!
「な、何だ!? 地震かっ!?」
慌てふためくザイザロックをしり目に、揺れはますます激しくなっていく。
ビシッ、ビシビシ……不吉な音と共に、門に次々と亀裂が走った!
「おい、ニャーゴロ、一体お前何やったんだよ?」
いぶかしげなジークに向かって、《銀の聖女》は小悪魔な微笑みを浮かべてみせた。
「大したことありません。ちょっとだけ、門の分子の結合を緩めただけです☆」
「ちょっと……って。それ凄い高レベルの魔道なんですけど……」
相変わらず桁外れの大魔道士っぷりに、思わず呆れるヒョウ。
そしてジーク達が遠巻きに見守る前で、《分子崩壊》の呪文を受けた竜魔城の城門は、盛大に崩壊した。
がらがらがらがら……どどーん!!
※ ※
「あースッキリした♪ やっぱり良いですよねー、ド派手な魔道を使うのは☆」
青空に向けて気持ち良さそうに伸びをする《銀の聖女》。
その前ではついさっきまで堂々たる威容を誇っていた城門が今や跡形もなく崩れ去り、累々たるガレキの山と化している。
そして城門の崩壊に巻き込まれた《闇の狙撃兵》達もまた、ひとたまりもなく壊滅していた。
「何だったんだ、あいつら?」
〈……何だか人生の無常を感じちゃいましたね〉
なむなむ、思わず合掌した後、ジーク達は城内へと突入していった。
ひゅううううっ、ガレキの山を一陣の風が吹き抜けてゆく。
だが、ジーク達が去っていってからほんのしばらくして、不意にガレキの一角がボコッと盛り上がった!
「ぐっ……ファーーーーック!」
頭にのしかかる門の残骸をはねのけると、ザイザロックは血塗れの身体を引き起こした。
続いて、二人のダーク・エルフが姿を現す。
だが、他は皆、哀れ城門と運命を共にしたようだった。
「畜生! これで全部かよ!?」
憎々しげにガレキの破片を蹴飛ばすザイザロック。
「兄貴! これからどうしやす?」
生き残りのダーク・エルフの一匹が、情けない声で尋ねた。
「ガロウ様は失敗は許さねぇってことですし……このままとんずらしちまいますか?」
「バカ野郎! 何ビクビクしてやがる、てめぇにはロック魂はねぇのか!?」
「ロ、ロック魂って言いましても兄貴……」
「ヘッ、何が《竜の支配者》だ! そもそもオレ達は竜じゃねぇっつーの!」
ザイザロックは不敵に笑うと、乱れた髪をくしでオールバックに撫で付けた。
「もうガロウの時代は終わりだぜ。いくらあの野郎でも、さっきの奴らに勝てるわきゃねぇ、ってことはだ……」
ザイザロックの頬に邪悪な笑みが浮かぶ。
「もう奴なんかに遠慮はいらねぇってことさ。これまでこき使われた分、好きな事やらせてもらおうじゃねーか!」
「なるほど、さすが兄貴、ロックっすね、ロック!」
ダーク・エルフの一人がニヤリと笑う。
「で、何をやらかします、兄貴?」
「フッ、まぁオレに任せときな。てめぇらにもいい思いさせてやるからよ!」
ザイザロックはそう言うと、革ジャンのほこりを払ってスッと立ち上がった。
「さぁ行くぜっ! 野郎共!」




