被検体
大好きなお姉さんをぶち殺してしまったバカタレは一体どうなるのでしょうか。
...
ぷっ、あはっ。ごめん、ごめん。最近ショートで観たから真似したくなっちゃって。
「ねぇ?お姉さん、これ面白い?ねぇ...ねえってばぁああ.....」
お姉さんの顎に優しく触れる。数分前まではあれほど乱暴に刺して刺して刺して刺して刺しまくったのに。
刺しまくったのに!!!!!
刺しまくったのに!!!!!
刺しまくったのに!!!!!
あぁぁぁもうもうもう...お姉さん。
「あぁぁ...お姉さん...ああぁぁ!!!」
枕に顔を突っ込んでは、その中で叫んで、持っていた包丁をヤケクソに壁に放り投げた。
それは刺さることなく叩きつけられ、壁に当たりそのまま自由に落下。
その先の床にトツンッと刺さった。
だから、何?
何かいいことあった...?
ねえ!!
「...お姉さんあんなに綺麗で可愛くて私の全てだったのに...血、臭い。血ってこんなに臭いんだね...お姉さんの身体もったいない...あぁ勿体ない勿体ないぃ...ぃ...」
「お姉さん...今日のご飯なに...?んふふ...ねぇ?なんで無視するの...?ねえってば...昨日、話したよね?今日は一緒に遊園地に行くって...ジェットコースター乗って、ぬいぐるみ買って、美味しいご飯食べて...そうなるはずだったじゃん...!!なんで殺しちゃったんだろう!!!ねえ!!!ねえええ!!!」
異変を嗅ぎつけた近所の人も、警察も、殺しちゃったぁぁぁぁあ!!!
もう元に戻れなくなっちゃったあぁぁぁ!!!
私の人生終わっちゃったあぁぁあああああ!!!!
あっああああああああ!!!!!ぁぁぁぁあああああああ!!!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああごめんごめんごめんなさいごめんなさいごめんなさいお姉さん許して許して許して許し
カチッ.....カチャ...ツーーーーー...
「音声記録だ。私の名前はクロエ・グレイス。基地の司令官を務め、今日まで生きてきた。
さて、すぐに本題に入ろう。被検体Aの報告書はもうそちらに届いただろうか?
彼女を初めとして、媒介として、この世界には「人裂き症候群」と呼ばれるものが流行した。
突如殺人衝動が芽生え、溢れ出し、身近にいる大切な家族や友人、恋人を殺害する。
そんな現場には必ずと言っていいほど、殺人自殺が見られた。愛する者を自分の手で殺してしまった自責に耐えられず、自らの喉を掻っ切って皆死んでいくのだ。
そんな無惨な光景は、報道機関だけじゃなく我々自身も目の当たりにし、既に深く刻まれてしまっているはずだ。
それほど世界は侵された。
人生を一瞬で狂わせる流行病に。
社会は混沌を極め、インフルエンサーに芸能人、国の重要人物までもが殺害されている。既に何ヶ国かが活動停止を余儀なくされている。
しかし全てが終わったわけではない。その中でも意志あるものは集い、再起のため準備、待機している。
これは戦争だ。病と、我々人類の。
しかし我々には、対抗手段がない。一刻も早く研究し、病の治療法を確立しなければならないのだ。
第一発症者、被検体Aである彼女は現在施設の職員を殺害後、逃亡している。
我々はまだ彼女の足取りを掴めていない。
初めて病を発症しただけじゃない。あれほど乱れた思考神経でありながら自我を保っていることは非常に稀。というより、彼女と私以外には確認されていない。
貴重な研究材料そして、最危険人物である彼女を逃がしてしまったことは我々の活動の中での最大のミスだ。深く心に刻み、次に活かしてほしい。そう、次に...。
...非常に。
......非常に…悲しいが。
今後は私が被検体Bとして観察対象となる。
私の犯した罪はもう拭えない。
私は、皆のため、国のため、この身体を捧げたい。
この苦しみを止めて欲しい。
どうか、私の心からナイフを取り除いてくれ。
お願いだ。」
カチャ...ツー...ツー......
被検体Bは現在、逃亡を続けている。




