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「ほんの些細なボタンの掛け違いで 地球(せかい)は案外コロッと滅ぶ」

ダ・ヴィン치画伯が『失敗作』とした作品たちは、外部の人間から見れば極めて完璧で、神聖そのものの絵でした。しかし画伯は全く満足されなかった。あの壁画で見た神聖さと畏怖の念が足りない、と。そのため、ダ・ヴィンチ画伯は晩年に至るまでその男の絵を描いては失敗し、また描いては失敗することを繰り返したそうです。ひどく絶望し、また絶望されたといいます。


そして、これはまことしやかな噂ですが、ダ・ヴィンチ画伯は25歳の時、この絵を完成させるためにある『神』と契約まで交わしたそうです。その代償として生涯独身を貫いたという噂もありますが、あくまで噂に過ぎません。


……ところで、本来イタリアにあるはずの絵が、なぜこのドイツにあるのか、少し不思議に思いませんか? 実はこの絵は、ダ・ヴィンチ画伯の死後、数多の権力者たちの手を渡り歩いてきました。最初の持ち主は、フランスのフランソワ1世皇帝だったと言われています」


「あら、この絵に描かれている男の子、なかなかいい男じゃない。ねえ、わたくし が持って帰ってもいいかしら? レオナルド・ダ・ヴィンチの未完成……」


「……?」


その瞬間、全員が呆気に取られたまま、3分もの沈黙が流れた。


「王女殿下、申し訳ございませんが、この作品は現在ドイツ、フランス、イタリア、イギリスの固有機密文化遺産です。マリー王女殿下がフランスの王女であらせられるとはいえ、もし独占所有などなされば、他国が間違いなく政治的訴訟を……」


「あら、私がそんなことをいちいち考えなきゃいけないの? 訴訟でも何でも起こさせなさいな? もしそんな真似をすれば、フランスの軍隊が彼らを蹂躙するだけだわ」


「……ご存知ですか? 王女殿下のその選択が、第3次世界大戦という混沌を巻き起こしかねないことを……」


「あなた、私のお父様を知らないの? シャルルマーニュ・ソードワード14世。ヨーロッパの太陽、シャルルマーニュ大帝の現身げんしんと呼ばれる存在よ。これ以上、言葉が必要かしら?」


「流石はあの方のご息女……」


「王女殿下……いけません……この作品だけはいけません……。どうか、伏してお願いいいたします……。これはきっと陛下だって……」


驚くべきことに、先ほどまでマリーの無茶な要求をすべて実現させていたベルトランまでもが、マリーがその名画を手に入れるのを必死で止めていた……! そもそも、あれを持ち帰れば第3次世界大戦……いや、この地球が終わるかもしれない……!!!!


「いけません……。どうか、王女殿下……」


「マリー……あれはいけない……。本能的に感じるんだ……あれは危険だ……。エカチェリーナ2世は おれ の先祖だから分かる。父上から聞いたんだ……あれを手に入れた後、先祖は毎日悲鳴を上げていたと……」


エドワードは痛切に感じていた。あの二人がいくら足掻いたところで、マリー王女はやり遂げてしまう人物だということを。


「もう、あなたたち何なの? この絵をちょっと持って帰るって言ってるだけなのに、何がそんなに不満なわけ? まったく……大袈裟だわ。それは全部、これを持っていた連中が弱かったからよ。弱・か・っ・た・か・ら・だ・わ」


「あの……王女殿下、これはどう考えてもまずいと思うのですが……?」


「シンクレア君、あなたは黙ってなさい。飼い犬が飼い主に逆らうんじゃないわよ」


エドワードは感じた。ベルトランさんやニコライさんは、まだ『奴隷』として人間扱いされているが、自分は『獣』扱いなのだと……。


「まあまあ……ご心配には及びません。申し訳ございませんが、この絵は現在、複写本レプリカです」


「は? 複写本ですって……?」


「はい。言葉通り複写本です。原本はヒトラーが死ぬ直前、軍人に命じて焼却させたと言われています」


「何よ。一気に冷めちゃったわ」


「違う! 何を言っているんだ神父、あれは間違いなく……**おれ**の鼻はごまかせな……」


ニコライが問い詰めようとした瞬間、ベルトランが即座にその口を塞いだ。


「王女殿下、偽物であれば持ち帰る価値もないかと存じます。陛下もきっと不快に思われ……」


「嫌よ。持って帰るわ」

偽物レプリカだとしても、どうせ一、二枚しかないんでしょう? そう思わない……ええと、誰だっけ。ルーキス?」


「ルーカスです、王女殿下。ええ、あれと予備の一枚を含めて、世界に二枚しかございません。お持ち帰りいただいても結構ですよ」


「そう、こうでなくっちゃ。ほら、エドワード。運びなさい。さあ、行くわよ。ケルン大聖堂、観光終了ね」


「いけません!! 王女殿下……!!! これを持ち出せば国際的な外交問題になります……!!!!」


「ダメだ、マリー……!!!!」


二人は必死に止めたが、マリーは聞く耳を持たず、すでに持ち帰る準備を終えていた。


「……ルーカス神父。本当に僕たちが持っていってもいいんですか?」


「もちろんですとも、少年。これを見れば分かるでしょう。ほら、ここにあるじゃないですか。もう一枚の写本が」


ルーカスは驚くべきことに、カーテンの裏に隠されていたもう一枚の複製画を見せた。


「貴様……この聖堂の末端神父だと聞いた……。貴様の愚かな独断で、フランス王家……いや、全世界を血の海に沈める気か? たとえ写本だとしても……これを持っているだけで国際問題になるのだぞ……」


ベルトランの怒号を、まるで他人事のような目で見つめて微笑んだ後、神父は言葉を続けた。


「そんな恐ろしいことを仰らないでください……オリヴィエ騎士団長殿……。幸いにも、当聖堂の神父たちと先ほど相談した結果、お持ち帰りいただいても良いと合意が得られました。それに、他国のこの作品に権限をお持ちの代表の方々も、王女殿下のものになっても構わないと仰っていますよ」


「ああ、ご存じないでしょうが、ここは最先端の監視カメラと音声探知機が四方に張り巡らされた場所です。さらに、盗もうとする輩に備えて、至る所が罠だらけです。ですが、皆様が来られた時に何一つ作動しなかったということは、すでに皆様の出入りは許可されており、さらにマリー王女殿下のお言葉に何の反応もなかったということは、許諾されたも同然なのです」


「そして、私の妄想だと思われる団長のために、これもお見せしましょう。代表の方々が私に送ってくださったメッセージです」


驚くべきことに、そのメッセージにはこう記されていた。 『我々<審判の剣>保存協会一同は、<審判의 剣>複写本の所有権を、フランスの王女であり王位継承順位第1位のマリー・アントワネット・ソードワード12世に移譲することを許可する』


「……これでもですか? ご覧なさい、団長。世界は王女殿下の味方ではありませんか。誰もが喜び、贈り物をしたいと願っているのに、なぜ団長だけがそんなに恐ろしい顔で祝福を拒むのですか?」


「…………王女殿下。ひとまず、陛下にご相談を……」

銀魂風タイトル:

「温室育ちの花が最強なのは その温室が『神の庭』だからだ」


その瞬間、静寂に包まれていた聖堂に、鼓膜を突き破るような警報音が鳴り響き、続いて周囲から悲鳴が聞こえてきた。


「おやおや……愚かな異端の神父よ。権力という力に屈するあまり、我らのような『異邦人』がこの絵を奪いに来ることなど、微塵も考えていなかったのですか?」


エドワードは本能的に察した。血のように赤い逆十字が刻まれた、青白く不気味な白い修道服。そしてあの指輪……。ルシファーを崇拝する狂信者集団であり、世界で最も凶悪かつ残忍なテロ組織、悪魔絶対主義そのものである『A.A団』の信徒たちだった。


「ふむ……異端なのは貴方たちの方では? 神の言葉を捨て、堕ちゆく明けの明星に縋って生きる方々よ」


「何かしら、あいつら」


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