よい奴でも悪い奴でもすべて訳はあるものだ.2
その時、呼び鈴が鳴った。誰かが入ってきたのだ。 「エドワード君、いますか……?」という声が聞こえた。 エリザベスが「いらっしゃいま……せ」と言いかけて、驚いたような表情を浮かべた。
「あなたは……フランツさん? ここにどうして……?」 「あ、それが……エドワード君が心配で……」
僕は驚いた。フランツ、君がなぜ……ここに……。 彼女の名前は、フランツ・アイナ・アインス。僕が学校で出会った女の子だ……。皆が僕を敵に回した時、唯一味方でいてくれた子。 僕は、彼女にまで被害が及ぶのが怖かった。
「フランツ、僕とは関わらないほうがいい……。僕は高危険度犯罪者なんだ……」
すると彼女は言った。 「エドワード君……。私たちは友達じゃない。困った時に助け合うのが友達だよ、エドワード君……。だから、私はただ君を助けたいの。友達だから……」
その時、ノートパソコンを熱心に叩いていたシャルルさんが、こちらをチラリと見て軽く言った。
「お? 客か?」
しばらく状況を観察していた彼は、首をかしげた。 「え? ただのあいつの友達だって?」
彼は僕を一回、フランツを一回、交互に見つめた。 そして、ほんの一瞬……彼の視線がフランツのところで止まった。だが、何事もなかったかのように彼は笑い始めた。 その後、すぐに興味を失ったかのように手をひらひらと振って言った。
「おいシンデレラ、客じゃねぇならさっさと追い出せ」
シンデレラは「でも……」と言いかけたが、シャルルさんは彼女の答えなど眼中にないようだった。 「うちはただの相談所か何かか?」 そう言い放ち、彼はフランツを追い出した。フランツは出て行く直前、「エドワード、6時にケルン大聖堂で待ってるね……。私たちが毎日会っている、あの場所で……」と言い残し、微笑んで去っていった。
シャルルさんは鼻で笑いながら、僕の方をチラリと見た。
「おい、本当に行く気か? ギャハハ! テメェ、今は指名手配犯なんだぞ、坊主」 彼は肩をすくめ、おどけるように付け加えた。 「行ってどうするつもりだ? 市民たちに『僕を捕まえてくださ~い』って広告でもしに行くのか?」
口調は軽かったが、その笑い声の後ろには妙に力がこもっていた。
「おい……。テメェ、女にそんなにうつつを抜かしてると、人生とんでもなくこじれるぞ。『酒色雑技』という言葉も知らねぇのか?」
だが、僕はその言葉をあえて無視した。 「……僕の個人的なことです」
短く答えた後、そのままドアの方へと向かった。 後ろからシャルルさんが何か言いかけてやめる気配が伝わり、彼は舌打ちをしてから言った。 「おい。世の中ってのは他人に寄りかかって生きるんじゃねぇ。お前自身、お前が自分を信じて、一人の力で生きなきゃならねぇんだ」
僕はそれを無視し、パーカーのフードで顔を隠したままフランツに会いに行った。ケルン大聖堂には、僕とフランツしか知らない場所が一つある。それは、地下。 正確にどうやって入り込んだのかは僕もよく覚えていない。だが、運良く鍵を見つけ、それ以来、僕たちはそこを自分たちだけの居場所として使ってきた。
「エドワード君、来てくれたんだね……」
彼女が答えた。むしろ、僕の方がありがたかった。僕を最後まで信じ、こうして守ってくれるなんて……。
「当然だよ」と僕は答えた。
「エドワード君はあんな犯罪を犯すような子じゃないし、まともな人間なら、無実の人が濡れ衣を着せられたら助けるのは当然だから」 そう言いながら、彼女は僕の襟元を整えてくれた。
僕はしばらくためらった末、ついに本音を漏らした。 「フランツ……正直に言うよ。僕、もう諦めたいんだ」
言葉が口からこぼれた瞬間、胸の奥が崩れ去った。 「すべてを……もう、全部」
手に力が入っては抜けた。呼吸が少しずつ乱れていく。 「時々、そんなことまで考えちゃうんだ。自分が何をしたか覚えていないんじゃなくて……僕が直接、自分の記憶を消したんじゃないかって」
その後の言葉は続かなかった。喉が詰まり、視界が滲んだ。 理由も分からぬまま、涙がこぼれ落ちた。
「僕……本当に凶悪犯なのかもしれない。そんな自分自身が……大嫌いだ」
その瞬間、彼女が無言で僕を抱きしめた。温かな体温が伝わり、強張っていた呼吸が少しだけ解けた。
「違うよ、エドワード君」
フランツは静かに、だがはっきりとした声で言った。 「そんなに否定的に考えないで」
彼女は僕を離さないまま、言葉を続けた。 「君が自分自身を諦めた瞬間、それが本当の終わりだよ。だから……君が自分を信じなきゃ。君が正しいってことを、自分で証明しなきゃいけないんだ」
わずかな沈黙の後、彼女は微笑んだ。「私も手伝うから」
僕は彼女から、家でも感じたことのない「安らぎ」という感情を抱いた。彼女は僕をきつく抱きしめたまま、静かに口を開いた。
「どうしても……あの事務所の社長に任せなきゃいけないの……? いくらシンデレラがいても、あこの社長は危険だし、信用できる人じゃない気がする。……嫌な予感がするの。君のお金だけ取って、君を売るかもしれない……。私と逃げちゃだめかな?」
「私と一緒に逃げよう……? ねぇ……エドワード君……」
その言葉は哀願に近かった。彼女は心から僕を心配していた。それが伝わってきたからこそ、余計に胸が痛んだ。だが、僕は首を振った。彼女の言葉は純粋な心配からくるものだと分かっていたが、僕にはもう、他に道がなかった。
「ごめん……方法がないんだ……。あの人の実力は本物だよ、フランツ。だから、そこは心配しないで……」
「分かった……結局、君の選択はあっちだったんだね……。君の選択がそっちだとしても、私は応援するよ……エドワード君。……ちょっと飲み物と食べ物を買ってくるね。君は今指名手配中なんだから、勝手に動いたら危ないから」
彼女はそう笑って外へ出た。
僕はしばし、自問自答した。……このまま、この選択をしてもいいのだろうか。数多くの選択と交差が頭をよぎった。やはりフランツと逃げた方が……。その時、無視して通り過ぎたシャルルさんの言葉が思い浮かんだ。「世界は他人に頼るんじゃなく、自分自身を信じて、一人の力で生きなきゃならない」と。
数分後、彼女が戻ってきた。 「エドワード君、飲み物買ってきたよ」
彼女は微笑みながら言葉を続けた。 「急いで行ったからかな、ミネラルウォーターは売り切れで炭酸水しかなくて……。仕方なく炭酸水を買ってきたよ、ごめんね……。この3週間、辛かったでしょ……」
僕は彼女に微笑みかけた。 「ううん, フランツ。僕は炭酸水でも大丈夫だよ。むしろありがとう、フランツ。食べ物まで持ってきてくれて……。少し生き返るよ」
彼女は言葉を続けた。 「ねぇ、エドワード君……。急に言ってごめんね、紹介したい人がいるの」 「誰だい?」 僕は尋ねた。
「僕の兄さんなんだけど、名前はクローマー・アインス。今は小さな教会で神父をしてるの……。幸いなことに、あなたの助けになりたいって言ってくれたわ。エドワード君、本当によかったわね……。じゃあ、明日ここでまた会いましょう。私はもう行かなくちゃ……。ごめんね、エドワード君……」
彼女は僕の耳元で囁き、消えるように去っていった。
ケルン大聖堂の入り口に行くと、シャルルさんが立っていた。彼はまるで全てを見透かしているような目で僕に言った。
「……で、逢瀬は楽しかったか? この世間知らずの坊ちゃんが!」 彼は僕の額に、強烈なデコピンを見舞った。
「痛っ!! 何するんですか……」
彼は言葉を続けた。 「痛ぇだと? 俺がなぁ、お前を探すのにどれだけ苦労したと思ってんだ? ケルン市内を這いずり回ったんだぞ。……手がかりを見つけて報告に来てやりゃあ、女とイチャついてやがって……。ったく……。まぁいい、その情けないツラを拝借して悪事を働いてる犯人の手がかりを見つけた。調べてみりゃあ、そいつは相当な常習犯だぜ。おえぇ……」
彼は吐き気を催すふりをした後、衝撃的な事実を並べ始めた。 「自分を殺してお前をディープフェイクしたと思ってただろ? だが、ありゃ『メナス』だ。相手の身体能力から姿形、果てはメナスの特性までコピーできる身体系のメナスだ」 彼はあくびをしながら続けた。 「要するに、そいつは自分の体で殺したんじゃねぇ。お前の体を『コピー』して殺したんだ。心当たりはねぇか? 見たところドイツ人じゃねぇな。正確には、お前の周囲の人間じゃない確率が高い」
「……その大事な彼女さんもな、その犯人とグルの可能性があったから、こっそり遺伝子検査しといたぜ」 彼はフランツがいたあの短い時間に、サンプルを採取していたようだった。 「だが、シロだったわ。……安心しろ」
僕は驚いて問い返した。 「一体どうやってサンプルを……?」 彼は自信満々に答えた。 「実はな、ギャハハ! お前らがイチャついてる間、ドアの前で全部盗み聞きしてたんだよ! おぉ、見てられなかったぜ……。コホン。まぁ、とにかく。そこでお前のサンプルとその女のサンプルも手に入れたってわけだ」
「じゃあ、その犯人のサンプルはどうやって手に入れたんですか?」 「あぁ、あれか? 知り合いにそういう専門の奴がいてな。そいつに頼んだのさ」
僕は言った。 「じゃあ……彼女は犯人じゃないんですね……」 「まぁ、今のところはな^^」
僕は彼の言葉に集中せざるを得なかった。信じられないほど仕事が早い。 「……あなたは、なぜ僕を助けてくれるんですか? 僕を助けるのは危険なはずなのに」 僕の言葉を聞くと、彼は心底呆れたような顔で答えた。
「何当たり前のこと聞いてやがる……」 彼は指でお金のマークを作りながら言った。 「当然、これのためだろ。他に理由があるか? お前の親父さんは、息子の濡れ衣を晴らしたとなれば、俺にたーーっぷりと報酬をくれるはずだからな。お前を守ってるのは全部これ(金)のおかげだ、この野郎。金のないガキなら即座にサツ(警察)に突き出してるぜ。金持ちの親父に感謝しな。……あ! そうだ! 今日はチャンピオンズリーグ、バイエルン・ミュンヘン対マンチェスター・シティの16強戦じゃねぇか! 必死こいて予約したんだ。見ねぇわけにはいかねぇ。おい坊ちゃん、俺はCL見てくるからな。どっか行かずに大人しくしてろよ!」
そう言い残して、彼はサッカー観戦に行ってしまった。……一体何なんだと思いつつも、行く宛のない僕は事務所に戻った。事務所ではシンデレラが迎えてくれた。 「エドワード君……。みんな心配していたんだよ……」 彼女の心配に対し、僕は「あぁ、フランツに会いに行ってたんだ。少しだけ」と答えた。 「そっか、フランツさんに会ってたんだね……。一言言ってくれればよかったのに」 「ごめん, 急いでたから……」 「戻ってきてくれてよかった。本当に……」
その時、白雪が騒がしく近づいてきた。 「な~んだ、捕まってないじゃん。よかったね~、本当に!」 彼女は心配しているのか、それとも馬鹿にしているのか分からない口調で続けた。 「君、あの間にまたやらかしてたよ! 賞金がさらに上がったって。70万ユーロ!! 上がるスピードがワン○ースの麦わら並みじゃん? この際、海賊王目指してグランドラインにでも行けば? ギャハハ!」




