よい奴でも悪い奴でもすべて訳はあるものだ
この物語は、僕――エドワード・シンクレアが、身に覚えのない罪で「高危険度犯罪者」の烙印を押され、ある男を訪ねることから始まる物語だ。
ドイツ、ケルン市の片隅にある路地裏。僕は、どんな不可能な依頼でも引き受けてくれるという、『何でも引き受けます』という怪しげな事務所を訪ねていた。
……いや、それにしても、あまりにも胡散臭い看板だった。子供の落書きじゃあるまいし……変な棒人間が「何でも引き受けますよ!!」と言っている看板で、しかも虹色だ。小学生が図工の時間に作ったとしても、これよりはマシなものができるだろう。だが……僕にはもう、後がないんだ。
(ドアを開けながら)「あの……ここが『何でも引き受けます』で合っていますか……?」
ドアを開けると、エプロン姿の一人の少女が迎えてくれた。 「いらっしゃいま……えっ? シンクレア君??」
その反応で分かる通り、彼女と僕は互いに知っている仲だ。 彼女の名前は、エリザベス・トレメイン。学校では「シンデレラ」と呼ばれ、男子生徒なら誰もが一度は恋心を抱く、まさに**「みんなの少女」**と呼ばれる女の子だ。最近、学校で見かけないと思ったら、こんな怪しい場所でアルバイトをしていたのか。
「久しぶり、シンデレラ……。こんな形で会うなんて思わなかったよ」
僕は戸惑いながら挨拶したが、彼女は顔を赤くして「そ、その名前で呼ばないで……。あ、いけない。ここに来たってことは、『あの方』に会いに来たんだよね?」と言った。僕は『あの方』……? と首をかしげたが、「ついてきて、シンクレア君。あの方がどこにいるか案内するね」という彼女の言葉に従い、奥へと進んだ。
案内された先では、一人の女性が「ねぇ先輩~、仕事なんてしてないで私と遊びましょうよ~」と言いながら怪しげな男にべたべたと抱きついていた。男はそれを心底嫌そうに、「あぁ、失せろこのクソアマ!! 俺はお前みたいに男に媚びを売る女が一番嫌いなんだよ!!」と突き放していた。
シンデレラが「社長……お客様ですよ」と声をかけると、その男は「あぁ、そうか? シンデレラ! カモ……いや、お客様を早く席にご案内しろ!」と言い放った。
(ちょっと待て……今、この男……僕のこと『カモ』って言おうとしなかったか……!? 言いかけたよね!!?? この男、本当に信じていいのか……?)
不安が募るが、あのエリザベスがバイトしている所なら、きっと大丈夫なはずだ……。その男は、奇妙な三枝カットに後ろ髪を束ね、サングラスで瞳を隠した、見るからにファンキーで怪しい風貌をしていた。
「さて……。それで、うちのちびっ子のお客様は、どんなご用件かな?」 (これまでの苦労がにじみ出るような、哀愁漂う表情で) 「それは……。時は一ヶ月前……」
突然、その男が言葉を遮って言った。 「おい、俺たちは今第1話で読者の注目を集めなきゃいけないんだよ。お前のそんなくだらねぇ過去回想で1話を丸ごと食いつぶすわけにはいかねぇんだ。だから回想に入るんじゃねぇ。要点だけまとめて話せ(鼻をほじりながら)」
(な……何だって!!?? この親父、僕の過去回想をぶった切りやがった……!! 切ったぞ、本当に切りやがった……!! これ、アリなの? 普通, こういう作品なら最後まで聞いてくれるだろ!! これじゃあ読者が離脱しちゃうよ!! ……だけど、今の僕はこの状況に甘んじるしかないんだ……)
「……わ、分かりましたよ。一ヶ月前までは、僕は平和に暮らしていました。ですが、正確には2週間前……ある犯罪者が僕の姿にどうやってか成り済ましたようで……僕が殺人を犯している様子が生中継されたんです。僕が人を殺す映像や、アメリカ大使館を襲撃する映像がニュースに大々的に報じられて……」 僕の悲痛な訴えを聞きながら、その男は必死に笑いを堪えているように見えた。
「あぁ、そ……そうか(笑いながら)。分かったよ。それで、俺に何をさせたいんだ?」
「僕に成り済まして犯罪を犯している犯人を捕まえ、僕の濡れ衣を晴らしたいんです……」 男は心底面倒くさそうな顔をして問いかけた。 「で、金は?」 「えっ……お, お金ですか……?」 「ちなみに……500万ユーロからだぞ? ギャハハ!!」 高いだろうとは思っていたが、あまりにも良心がない価格だった。
この男、僕が高校生だと知っているはずなのに、容赦ない金額をふっかけてきている。 「おい、俺はこの業界じゃ超有名なんだぞ? 他の依頼人なんて最低でも800万ユーロは持ってくるんだ。お前は幼そうだから特別にまけてやったんだよ。感謝しろ、分かったか?」 僕はただ呆然とするしかなかった。
だが、僕は承諾するしかなかった。 「あの……後払いにしてもらうことはできますか……?」と聞くと、彼は「はぁ? 正気か?」と食ってかかってきた。 仕方がなく……僕は言った。 「あの、僕は『シンクレア家』の人間なんです……」 「シンクレア家……? おい、お前シンクレア家だって? あのシンクレア家か? ヨーロッパ五大名家の一つで、ドイツで最も影響力があるあの家柄か!?」 彼が興奮気味に聞き返してきたので、僕は「あ……はい」と答えた。
すると彼は、さっきまでの僕を見下していた態度はどこへやら。 「あいよぉぉぉぉぉ~お客様……いえ、若様……!! お仕えさせていただきますよぉ……。あのシンクレア家のご子息が濡れ衣を着せられたというのなら、直ちに晴らしてみせましょう……!!」 彼は手をすり合わせ、揉み手をしながら僕に媚びを売ってきた。……この上なく卑屈な表情で。僕は引き気味に「あ……ありがとうございます……」と答えるしかなかった。
すると男は、おふざけは終わりだと言わんばかりの表情になり、落ち着いた声で言った。 「ひとまず、俺の事務所にいろ。今のテメェは一級テロリストだ。A+級のヴィラン扱いを受けてる。暇を持て余した連中が、傭兵、キラー、ヒーロー、ハンター問わず、テメェ一人を狙ってるはずだからな」
そして彼は僕に問いかけた。 「何か心当たりはねぇのか?」 僕にはなかった。誰かに恨まれるような真似をした覚えはないからだ。 「僕は、誰かに恨みを買うようなことはしていません……」 そう答えると、彼は心底呆れたような顔をして言った。 「……テメェ、本当に苦労知らずなんだな? 坊主、世の中ってのはな、恨まれるようなことをしなくても突っかかってくる奴がいるんだよ。テメェみたいな高貴な貴族のガキなら、なおさらそんな奴らが寄ってくるんだ。……はぁ、テメェの親父さんは何て言ってたんだ?」
「……父さんは、自分一人の力で解決しろと言いました……」 すると彼は鼻で笑った。 「賢明な父親だな。まぁ、テメェは将来、家を継ぐ当主なんだ。こういう困難を処理する能力を養えって考えてるんだろうよ。……だけどさ、今考え直してみたけど、テメェの親父さんマジで鬼畜だな。いくら何でも、高校生の息子が全世界から注目されるテロリストの濡れ衣を着せられてんのに、『獅子は我が子を千尋の谷に落とす』みたいな真似して放置するのは笑えるわ、ギャハハ!!」
どう見ても親への悪口だったが、僕は反論できなかった。正論だったからだ……。 男は「まぁ休んでろ~。テメェに濡れ衣を着せた野郎は、俺が探し出してやるからよ~」と言いながら、直ちにシンデレラに命じた。 「シンデレラ、あれを持ってこい」 お茶を飲んで休んでいた彼女は「は……はいっ……!! 社長……!!」と答え、ノートパソコンを男に手渡した。
彼は受け取ったパソコンを手に持ち……。 「タラリラッタラーン!! 万能ノートパソコン~!」 彼はドラ○モンのものまねを、それも絶望的に下手なくせにイラッとするほどノリノリで披露しながら言葉を続けた。 「このノートパソコンはだな!! あの有名なリンゴが描かれた会社の製品で、他のデバイス同様、ボッタクリ価格を誇る代物だぜ~!! だが、性能はピカイチなんだ。」
(おい、やめろ……。アップルに訴えられるぞ……。頼むから……頼むから……!! ドラ○モンのマネもやめてくれ……! こっちも訴訟が来るかもしれないだろ……!!)
彼はそのクソみたいなものまねを終えると、言葉を続けた。 「とにかく、この○ップルブックで俺は整理をするから、あっちで休んでろ。テメェはあそこだ」 彼は窓際を指さして言った。
「失礼ですが、お名前は何とおっしゃるんですか……?」 気になっていたことを僕が尋ねると、彼は「あぁ? 俺か? 本名は教えられねぇが、業界のニックネームは『シャルル・ゲドン・ソードワード14世』だ」と言って、ピースサインをしながら軽く答えた。
僕は呆れ返った。彼は今、フランスの皇帝の名前を侮辱したような別名を使っている。 「訴えられたりしませんか……?」と僕が聞くと、彼は「あぁ、まぁどうせバレねぇよ~」と受け流した……。一体、何者なんだ? 他国の国王の名前をあんなにも卑俗な名前に変えて使うなんて、僕の頭では理解できなかった。
だが、僕は考えるのをやめて、休めと言われた席に戻った。すると、最初に見た時にシャルルさんにべたべたしていたあの女が、今度は僕に興味を持ち始めた。
「ねぇ君、可愛い顔してるね~? 先輩とは違う。完全なワンちゃん顔じゃん? 何歳~?」 「……17歳です」 すると彼女は興奮気味に、「おぉ! あたしも17歳なんだけど~! 名前は?」 「エドワード・シンクレアです。あなたは?」 「あたしは白雪~! 変わった名前でしょ? これからよろしくね、エドワード^^」
悪い人には見えない。ただ、典型的な「男好き」のようだった。
「でもさぁ~、ニュースに出てるのを見るとちょっと変じゃない? 君みたいにまともに見える子が、あんなことしたなんてさ~」 「あたしには全部話していいよ。先輩は変わってるからねぇ~。なんていうか、一緒にいても自分にしか分からないことばっかり並べ立てるから、聞いてて退屈っていうか~」
「僕もよく分からないんです。正直、これが全部夢だったらいいのにって思うし……。本当に重荷ですよ。起きてみたら高危険度犯罪者に1級テロリスト、A級ヴィランだなんて……」
白雪は言葉を続けた。 「でもさぁ……君の賞金、半端ないことになってるよね? 誰が捕まえても合法だってさ~。20万ユーロ~! いっそ、あたしが捕まえちゃおうか~? ヒヒッ、どう? 特級犯罪者になった気分は?」
「いいわけないでしょう……? 世界が崩れ落ちるような気分です……」




