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第7話 崩壊するかつての仲間

追放は“感情”ではなく“損失”として返ってきます。

暁の剣側の視点回(ざまぁの下地)です。

 森の深淵へと消えていく馬の蹄の音が、次第に遠ざかり、やがて完全な沈黙へと溶けていった。

 俺は、偵察員が残した焦燥の残滓が森の霧に消えるまで、その方向をただ無機質に眺めていた。


 偵察員によって、俺の居場所は特定された。予測される敵対勢力の接触まで、最短で七十二時間。状況はリスク管理フェーズへと移行した。


 脳内で論理回路が火花を散らし、防衛プロトコルを次々と組み上げていく。

 先ほど排除したオーガの死骸は、既に俺の『事象の再定義』によって黄金の魔力土の栄養分へと解体済みだ。呪われた森の澱みは消え、境界線付近には清廉な空気が漂っているが、それと引き換えに、俺の生存という「事実」は王都へと持ち去られた。


「……効率が悪いな。彼らは、俺がもたらしていた利益の損失を、ようやく理解し始めたということか」


 俺は腰に差したナイフの柄を軽く叩いた。

 『暁の剣』のリーダー・ガラムの性格上、俺が秘境で楽園を築いていると知れば、即座に「本来自分たちが享受すべきリソース」の回収へと動くだろう。彼らにとって、俺は仲間ではなく、利便性を提供する「道具」に過ぎなかったのだから。


「アリスティアさん……」


 背後でリアナが不安げな声を漏らす。彼女の指先は、浄化された畑の土を握ったまま、微かに震えていた。


「来るだろうな。だが、想定内の誤差だ。俺はこの土地に投資した。その資産価値(平和)を損なう要因は、すべて排除するように定義を書き換える。お前は、この土壌の維持に専念しろ」


 俺は静かに踵を返し、黒銀の城塞へと歩き出した。


 一方その頃、王都近郊のダンジョン『黄昏の地下墓地』。

 かつては『暁の剣』にとって散歩道に等しかったはずの場所で、猛烈な金属音と罵声が響いていた。


「ちっ、なぜ倒れん! この程度の雑魚が……重い、装備が重すぎるぞ!」


 リーダーのガラムは、オリハルコン製の長剣をアイアンベアの肩口に叩きつけた。だが、かつてなら紙のように断っていたはずの肉体は、今は鉄壁の防壁となってガラムの腕に痺れるような衝撃を返してくる。


「リーダー、リキャストが間に合いません! 魔力の消費が異常です!」

「装甲バフが剥がれました! 接地の安定化が効かない……地面が、滑るんです!」


 後衛たちの悲鳴。

 彼らはまだ気づいていない。かつて彼らの装備が常に最高の結果を出せていたのは、アリスティアが戦闘の度に物理定数を書き換え、摩擦を消し、硬度を極限まで引き上げていたからだという事実に。

 その不可視の補助を失った彼らは、皮肉にも「カタログ通りの脆弱な一流」へと成り下がっていた。


 数時間後、王都のギルド本部。

 ボロボロの装備で帰還したガラムの前に、森からの偵察員が飛び込んできた。


「リーダー! アリスティアを見つけました! 『嘆きの森』です。奴は……奴はあそこで、魔化オーガの群れを瞬殺し、土地を黄金に変えていました!」


 その報告を聞いた瞬間、ガラムの顔に張り付いた屈辱が、ドス黒い強欲へと書き換わった。


「黄金の土……? ふん、あのゴミめ。俺たちに黙って、森の聖遺物アーティファクトを独り占めしていやがったか。本来、それはSランクパーティである俺たちの所有物だ」


 ガラムは刃こぼれした長剣をベルトに叩き込み、歪んだ笑みを浮かべた。


「全軍に伝えろ。これより『嘆きの森』への遠征を開始する。名目は、我がパーティを裏切り、共有財産を持ち逃げした『雑用係』の拘束、および資産の回収だ」


 王都から不快な風が吹き抜けようとしていた。

 だが、その風が届くよりも早く、アリスティアは城塞の奥で、次の論理式の記述を終えていた。



彼らが崩れる理由は「運が悪い」ではなく「前提が消えた」から。

次話、その前提を知らない使者がやってきます。

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