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第2話 魔素濃度4.2倍の森で、生存仕様を展開する

高濃度の魔素地帯に突入。生存は「気合」ではなく「仕様」で通します。

足元の草が冷気を帯びて軋む。王都を追放され、この高難度地帯『嘆きの森』へ足を踏み入れた瞬間から、俺の課題は「生存」という一点に集約されている。


「……測定完了。周囲の魔素濃度、王都の4.2倍」


独り言は、思考を論理的に固定するための儀式だ。この濃度では、凡庸な魔術師なら数分で魔力酔いに陥り、内臓を焼かれるだろう。俺は『事象の再定義』を自身に適用し、この空間の理を「無害な背景ノイズ」と再定義し続ける。


「効率が二%低下しているか。……許容範囲内だな。計算上、持続時間は二十四時間」


俺は背負い袋のストラップを締め直し、灰色に沈んだ小さな集落へと接近する。未知の居住区だが、ここで安全な拠点を確保できるかは、今後の生存率に直結する。


村の広場と思われる場所の中央に、ひび割れた石造りの井戸があった。そこで一人の少女が膝をつき、必死に両手を組んでいた。白い法衣は汚れ、祈るような指先からは断続的に青白い魔力の光が漏れ出している。


「……観測終了。術式の結合強度が不足しているな」


彼女が練り上げている魔力は、本来なら井戸の深部へと指向性を待って放射されるべきものだ。だが、実際には発動の瞬間に構造が崩壊し、霧散している。まるで穴の開いたバケツで水を汲もうとするような、絶望的な徒労。


「無駄だ。やめておけ」


俺の声に、少女が弾かれたように肩を揺らし、こちらを振り返る。その瞳には、絶望と、見知らぬ闖入者への警戒が混在していた。


「あ……あなたは。どこから……」

「アリスティアだ。ただの放逐者だ。名乗るほどの背景はない」


俺は彼女の視線を井戸へと誘導する。

「それよりも、自分の術式を直視しろ。あんたが『呪い』と呼んでいるものの正体は、地下水脈の出口で魔素が結晶化した物理的なプラグだ。そこへ不純物を排斥するだけの定型文を叩き込めば、結晶構造はさらに硬化し、閉塞を強固にする。あんたの努力が、そのまま事態を悪化させているわけだ」


少女は呆然と唇を震わせ、組んでいた手を力なく解いた。

「そ、そんな……。では、もうどうしようもないというのですか?」


「……計算外だな。俺は『不可能だ』とは言っていない。ただ『やり方が間違っている』と指摘しただけだ」


俺は条件を提示した。今夜の宿と、この森に関する正確な情報。それを対価とするなら、俺はこの物理的な閉塞を排除してやる。


少女は深く頷いた。

「わかりました……。もし、本当に水が出るのなら。お願いします……助けてください」


俺は井戸の縁に右手を置いた。スキルの起動。物理法則の基底にアクセスし、『遮断』という定義を『流動』へと動的に置換していく。


掌から伝わる石の感触が、キチキチと鳴る微細な振動へと変わる。直後、井戸の底から重低音の轟鳴が爆発した。


閉塞を解かれた地下水脈が、蓄積された圧力を一気に解放し、深淵から猛烈な勢いで逆巻いてくる。数秒ののちに濁りは消え、本来の透明な水が勢いよく姿を現した。


「奇跡……。本当に、水が……」


膝をつき、数年ぶりの冷たい水に涙する彼女に、俺は背を向けた。利害関係はこれで成立した。


「約束通り、今夜の宿を借りる。案内しろ」


背後で水の音を聞きつけた村人たちの叫び声が近づいてくる中、俺は次のフェーズへと思考を切り替えていた。


制約(持続時間など)が出てきたので、今後も“万能ではない万能”で進めます。

次話、最初の契約相手(村)と接触です。

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