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井口とのバディ

「課長、コーヒーです」

「あ、ありがとな」


甘すぎだろ!

砂糖どんだけ入れてんだコイツは…。


「井口、甘すぎる!」

「すみません…。でも、疲れてる課長はこれくらい糖分摂取した方がいいかと…。当分この甘さの方がいいですよ。糖分だけに★」

「…」


こいつがうざいのは変わらないが…こいつのうざさでしか得られない栄養があることが初めて身に染みた…。

しかし、こいつの二人三脚のバディとは不安だ…。


「おい、井口」

「今日から尾行するぞ」

「え、ええ!MTをですか!?」

「ああ」

「なんか、MTってマニュアル車みたいでかっこいいすね!」

「人の嫁をマニュアル車扱いすんな!」


こいつは、本当に不安だ…。


「いやでも、今日は課長疲れてますし早退きした方がいいですよ。局長には僕から伝えておきます」

「お前は、バカか!ターゲットは俺の嫁なんだぞ!」

「はい」

「家に帰った瞬間、仕事と尾行が始まるんだよ!」

「つまり、もう課長は仕事場が家で家が仕事場みたいなものなんですね!」


閃いたような笑顔で井口はそう言った。


「んん?ん?いや、まあ間違いではないが。まあ、今日から俺は24時間365日仕事になるんだよ!」

「ええ!そんなに仕事なら、課長の奥さんが可哀想じゃないですか!たまには、奥さんと一緒の時間を作ってリフレッシュしてくださいね!」

「バカか!俺の嫁がターゲットなんだよ!一緒の時間なんてリフレッシュできるか!」

「ああ、そうか」

「これほど、タイムマシンが欲しいと思ったことはない!過去に行きたい!10年前の出会った頃に行きたい!」

「課長、タイムマシンなんて存在しないんですよ…。僕は15歳の頃から分かってましたよ」

「俺も、存在しないことぐらい分かるわ!ていうか、15歳って気づくの遅すぎだろ!」


コイツいると、疲れる…。

しかし、家ももう安息の地ではない…。


「課長…辛かったら俺1人で頑張りますよ…」


井口は、真剣な表情でそう呟いた。

普段バカみたいに冗談だらけの男のこんな深刻な表情を見るのは辛い。


「井口、それはダメだ。俺たちは、今日からMT調査のバディなんだよ。二人三脚だ」

「課長…」

「お前が、尾行したら秒でバレる」

「ええ!そっちの心配!?」

「当たり前だ。しかもお前に俺の奥さんのプライベートなんて見せられるか!」

「いや、ガッツリ私情挟んでる!もう、課長の奥さんは危険人物なんですよ!そんな事言ってられませんよ!」

「ああ、分かってる…」


俺は、力強く空の紙コップを握り閉めた。

本当は、泣き叫びたい。

ここで布団にうずくまって寝たい…。

恵を信じたい。

だが、俺は公に務める国全体の奉仕者だ!


「井口、今すぐMTの尾行を開始する。今すぐ無線機諸々準備しろ」

「本当に大丈夫ですか課長?心が折れる音してますよ」

「してねえよ!…いやしてるけど。してねえ!」

「してるじゃないですか!」

「うるせえ!早く準備しろ!」

「はい!」


はあ、コイツと恵の尾行なんて不安でしかないな…。


井口は得意げにホイワイトボードに文字を書き始める。


井口がホワイトボードに書いた作戦名は

『MT捕獲作戦』


「そのまんま、というか人の奥さんを捕獲ってモンスターか!」

「私情は挟まないでください課長!今日は、まず課長の奥さんの日常生活、一日のスケジュールなどを確認します!」


やけに井口はやる気がある。

その反面、俺はやる気がゼロ。


「でも、井口。1日のスケジュールなんて俺が聞けばよくないか?」

「甘いです課長!じゃあ、奥さんが今日行くスーパーどこか分かるんですか?」

「うーん…それは…」


言葉に詰まる。

そこで、井口は畳み掛けてくる。


「でしょ、分からないんですよ。だから、課長の奥さんが今日行くであろうスーパーをピックアップしました!」


机にはうちの近所のスーパのチラシが並べられた。


「課長、今日の夕食は分かりますか?」

「いーや分からんな。毎日サプライズだからな…」

「じゃあ、ここですね!」

「お前、もう分かったのか!」


井口の狙いは、スーパーかもめ。


「なんで、スーパーかもめなんだよ」


俺は井口に詰める。


「それは…、今日はポイント5倍だからですよ!こんなの、行かない方がおかしいです!」

「お前な、そんな簡単いたら苦労し…」



「いるし…」


井口は横でドヤ顔。


恵は、スーパーの入り口前で今日の特売を眺めていた。

その姿もかわいい。

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