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ガラパゴス・ガーディアンズ2 あるいは航空宇宙消防本部第十八小隊  作者: 霧山純
第十二話「シンギュラリティ宣言(後編)」(第一部最終話)
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シンギュラリティ宣言(後編)・1a

 クロノ・シティの周囲を回る二重の輪は、ベゼル・リングと呼ばれる。外側のアウター・リングは、上下を貫く宇宙エレベーターに対して直角に横回転している。内側のインナー・リングは、そのアウターに対して直角に縦回転している。


 二つのリングが回転する目的は二つある。それは、クロノ・シティに地球と同じ1Gの重力を生み出すことと、大気を中に閉じ込めるための磁場をそこに発生させることだ。


 ベゼル・リングに異常があれば、クロノ・シティの大気は乱れる。天気が荒れ、気温の乱高下は予測不可能になり、何より生物が生きていくために絶対に欠かせない酸素の濃度が不安定になる。

 そういった理由から、ベゼル・リングの修復は復興の最優先事項として扱われている。そこにもっとも多くの資材と人員を集中するのは当然の成り行きだった。


 ベゼル・リングの修復工事を取り仕切るのは、宇宙開発企業の中でビッグ(ファイブ)と呼ばれるものの一つである、メルシー・スチール工業株式会社インダストリアル・カンパニーだ。その傘下には百を超えるグループ企業が存在し、それらが総出で今回の工事を請け負っている。


 つい昨日に入社したばかりのステファニー・フーリエは、その巨大企業メルシー・スチール工業の現場監督という重職を担わされていた。もちろん、彼女が工事のすべてを監督しているわけではなく、何百という、細かいセクションに分けられた現場のそれぞれに監督がおり、彼女はその一つを担当しているだけに過ぎない。


 しかし、彼女が受け持つことになったのは荷取船(にとりせん)(ローディング・プラットフォーム・シップ)の監督という、極めて重要な役職だった。まるで空母のような巨大な宇宙船に、工事に必要な資材を搬入し、材料を必要として集まってきた各船にそれらを受け渡すのが仕事だ。


 当然ながら荷取船の周囲は宇宙船で混雑する。荷物を受け取ったり、渡したりするためにはたくさんのアームを持ったエンケラドス(巨大多腕ジャイアント・モータイアーム式組立機・アッセンブリー・マシン)が動き回らなければならない。


 そのアームの一つとステファニーが衝突する事故を起こしたことで、そこに警察と消防が介入する事態となった。


 今日はその聴き取りの二日目だ。荷取船の船橋(ブリッジ)には臨時の応接室が設けられ、そこに現場監督で事故の被害者でもあるステファニー・フーリエと、ベテランのチーフエンジニアであり船長も兼ねるギリシャ人のメガロス氏、そして、この事件を担当するルミエール刑事が同席した。


「ご両人、お忙しいところ、お越しいただきありがとうございます。必要な調書が取れ次第、私はすぐに退散いたしますので、二三、質問にお答えいただければ幸いです」

 ルミエール刑事は古風な中折れ帽とトレンチコートを身に着けた、絵に描いたような刑事だった。彼が懐古主義でそういう服装を選んでいるのかはわからないが、帽子を持ち上げて軽く会釈するその姿は、なかなかに似合っていた。


 ステファニーとメガロス船長は隣り合う椅子に座り、睨み合うでもなく、適当な距離感を維持していた。

 大柄で髭の濃い船長は、年季の入った白い作業服に身を包み、大きなお腹の周りにはたくさんの工具が詰まったツールベルトをぶら下げている。彼自身も現場の最前線で動き回っていることが、そこからも見て取れる。


 それに対する監督のステファニーのいでたちはいくらか華やかだった。彼女は銀一色で身体をぴったり覆う宇宙服を着ており、そのしなやかなプロポーションが強調されている。手に持っている仕事道具といえば、片手に収まるクリップボード型のタブレットだけだ。


「なんでも訊いてくれよ、刑事さん」

 そう言うなり、メガロス船長は首に巻いたタオルで顔の汗を拭った。それは彼が何かで動揺しているというわけではなく、たんに汗をかきやすい体質のようだった。彼はちょいちょい窓の外に目をやって、現場の進捗を気にしているようだった。その姿は、何よりも仕事を第一に考えるベテランそのものだった。


「私も事をむやみに大きくするつもりはありませんから、何でも正直にお答えします」

 ステファニーは真摯に答えた。これから、現場監督としてこの船長と一緒に働いていかなければならないのだ。それなりの覚悟は彼女の中にも当然あった。


「では、一つ、お訊きいたします」

 テーブルの向こうでこちらを見据えるルミエール刑事は、もったいぶった口調で言った。「現場では、新しい監督への中傷など、なにがしかの悪い噂のようなものはございましたか?」


「そんなこと……」

 メガロス船長が何かを言おうとしたときだった。

 船のすぐそばで、大きな爆発が起きた。

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