アリア・ヴィア・4a
マーガレットは右手を上げたまま呆然としていた。引いたはずの引き金は、ガチガチに固まったまま微動だにしなかった。撃つ前に、安全装置はちゃんと確認したはずだ。それでも弾が出ないなら、この銃は故障でもしたのだろう。
しかし、船は大きく破壊されていた。マーガレットが銃口を向けた天井は、見事にぱっくりと口を開けて、空に向かって花が咲くように広がっていた。空に向かって広がっているということは、上から爆撃を受けたわけではないということだ。
格納庫の引き出しに仕舞い込まれていたカーボンやグラファイトの類は、マーガレットの周囲に生じた衝撃波のためにはるか上空まで四散した。壁面は前後左右に大きく広がり、そこで捜索を続けていたグラスヒュッテ南第七分署の隊員たちを散り散りに吹き飛ばした。
マーガレットはこの日に初出勤したばかりなので、一緒に出動してきた隊員たちの名前も顔もよく知らない。ここに来るまでの船の中で自己紹介をする暇もないくらい、他に覚えることが山ほどあったからだ。自分の面倒を見てくれた隊長のハリー・グラハム警部補だけが、ここで彼女の見知った人物だった。
そのグラハム警部補が、目の前で衝撃波に乗って吹き飛ばされていく様を、マーガレットはスローモーションで目撃していた。緊張によって研ぎ澄まされた神経は、一瞬の場面を長く長く引き伸ばして、そこで起きた現象を彼女に教えてくれていた。
貨物船を破壊したものの正体は、そこに積み込まれていた機械細胞だった。それは炭素の塊の中にあらかじめ練り込まれていて、知性体が指令を出すのを静かに待っていたようだ。
今、知性体がそれらの仲間――あるいは自分自身――に命令を発したらしい。たちまち活性化された機械細胞は、その細胞内で核融合爆発を起こし、莫大なエネルギーを生み出したのだ。
マーガレットの銃を不発にさせたのも機械細胞の仕業だったのだろう。彼女の手にこびりついていた真っ黒な炭の汚れの中にも、小さな細胞がたくさん隠れていた。それらが汗に混じって銃の中に入り込み、引き金を引けなくさせてしまったのだ。
一瞬の爆発の中で、マーガレットのネビュラには、知性体からのメッセージが届いていた。それはまるで神の啓示のように、彼女の心へ直接に声として響いた。
――アレクサ、ステファニー、マーガレットの姉妹たち、今日から、あなたたちは別の道を歩みなさい。これまで犯してきたたくさんの悪事を洗い流して、私たち新しい世代と人類との橋渡し役となるのです。もうこれからは、いかなる理由があっても人の命を奪うことは許しません。まっとうな善の道を歩むのですよ。
その啓示は、まず第一にマーガレットが自分自身を殺害することを防いだのだった。彼女は自らを犠牲にして、空から降り注ぐ爆弾を蒸発させるつもりだった。熱核エネルギー弾が発射される代わりに上空へと広がった機械細胞が、代わりにその役目を果たしてくれた。
あの大きな爆発は、そのために起きたのだ。姉のアレクサが空から投下した無数の爆弾は、すべ空中で爆散し、そのチリと衝撃波もろとも、機械細胞によって吸収されてしまった。




