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アリア・ヴィア・2b

「マルコ! そっち行った! 走れ!」

「はいはいはいはいはい!」

 頭上いっぱいを第三階層が通過する中、その下を真っ白い塊が飛んできた。それは眩い光の点となって、見上げるだけで目が眩むようだった。


 上ばかり見ていたので、すぐ足元の腐葉土がぐずぐずに腐っていることに、マルコは気づくのが遅れた。

「ごめん、足がはまった!」

「何やってんだ、バカ!」


 地面に這いつくばっているマルコの身体を、ステファニーの長い脚が大きく跨いだ。彼女が履いている沼地歩行用のマッダー・ブーツが、通り過ぎざまにマルコの頭をごちんと蹴った。それは硬質ゴムの塊だ。

「痛い!」

「ドジするからだよ!」


 ステファニーは泥と腐った葉の塊を蹴りあげながら、フットボールの選手のように飛んでくる赤ん坊を追いかけた。彼女の鍛え上げられた太ももの筋肉が、ぴっちりしたジーンズの下で弾けるように躍動している。


 宇宙船に押し倒された木の幹の上を、ステファニーはいくつも飛び越えていった。それはいくつも折り重なって彼女の行く手を塞いだが、今度こそは絶対に取り損ねるわけにはいかないと、彼女は覚悟していた。もうこれ以上、姉妹たちに迷惑をかけるわけにはいかない。特に、これまでずっと面倒を見てくれた姉のアレクサの期待だけは裏切りたくなかった。なんとしても、あの白い塊を捕まえてみせる。


 ブロンドの髪を振り乱し、背中のアサルトライフルをがちゃがちゃ鳴らしながら、ステファニーは斜め前の方向へと全力で走った。


 多重軸で複雑に回転するクロノ・シティには、ほとんど予測不可能なコリオリの力が働いている。遠心力は回転の中心から外へまっすぐ働くのに対し、コリオリの力は遠心力の向きに対して垂直に働く。クロノ・シティでものを投げると、それはまっすぐではなく、まるで空を飛ぶ龍のような複雑な軌道を描く。


 その奇妙な物体の飛び方を利用した、クロノス・フットボールという、野球とサッカーを組み合わせたような球技は、クロノ・シティの市民たちがもっとも熱狂する新種のスポーツだ。

 今のステファニーは、まさにそのクロフトの花形選手のようだった。観客たちの目は彼女に釘付けになっている。打ち上げられたボールを受け取り、追手をかいくぐりながら相手のゴールに到達することができれば勝ちだ。


 クロフトではネビュラの使用は禁じられている。ボールの複雑な軌道を読むのが一番の醍醐味なのだから当然だ。しかし、ギャングのステファニーがそんなルールに縛られるはずもない。ギャングは目的のためなら何をやってもいいのだ。それがギャングというものだ。


 ステファニーは、ネビュラによる自動追尾と、自分の肉体のコントロールとを同期させた。多少、無理な動きをしても、さっきみたいに腐葉土に足を突っ込む心配はない。そのためのマッダー・ブーツだ。このときのために、こんな不格好な履物を用意してきたのだ。


「マルコ! そっちでボードの動きを乗っ取れるかい?」

「今やっているところだよ!」

 マルコは、さっき貨物船をコントロールするために使っていた機械の箱を操作していた。それはまるで百年前に使われていたような古臭い見た目ではあるが、どんな環境でもびくともしない頑丈さを備えた優れものだった。


「君と僕がコンビを組めば、怖いものはないよ」

「減らず口を叩くなら、すぐ撃ち殺すからね」

 ステファニーとマルコは、空を飛ぶ白い塊を見上げながら、息の合った掛け合いを見せた。

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