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ガラパゴス・ガーディアンズ2 あるいは航空宇宙消防本部第十八小隊  作者: 霧山純
第一話「桃井翼、ジャーナリストになります!(前編)」
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桃井翼、ジャーナリストになります!(前編)・4a

 いつしか雨はやんで、明るい青空が広がり始めた。古いエアコンががあがあと冷たい風を吐き出している。

 古代ギリシャの女神のような幸子は椅子に腰かけ、高校生の翼と智香は畳の上で脚を崩して座っている。


 三人はこれから、二年もの間消息不明になっているディビッド・リップマンの行方を探る旅に出ようとしていた。

「何から始めますか?」翼は訊いた。

「とりあえず電話してみようよ」

 幸子にしては意外にまともな取っ掛かりだ。


 幸子が空中でぱちんと指を鳴らすと、クラシックな黒い電話がぱっと現れた。それはもう、魔法としか言いようがなかった。

 翼と智香が大げさに驚くと、幸子は嬉しそうに笑った。

「アポなしで会いに行くのはさすがに失礼だもんね」

 幸子が受話器を取り、ジーコジーコとダイヤルを回すと、電話の向こうで呼び出し音が鳴り始めた。


 翼と智香は、わくわくしながら待ち構えている。

「幸子さんは、リップマンさんのご自宅をご存じなんですか?」

 翼が訊くと、幸子は受話器を耳に当てたまま、「知ってるよ」と答えた。「何年か前にもらったクリスマスカードに住所が書いてあったもん」

「どこなんですか?」と翼。

「ニューヨークのアッパーウエストサイドだよ」

 智香は思わず姿勢を正して叫んだ。

「ひゅー、さすがですねえ。やっぱり大物は違います」


 受話器の向こうでは、呼び出し音がずっと鳴り続けている。

「今掛けているのが、ニューヨークですか?」と翼。

「そうだよ」

「なんか、留守みたいですね」

「留守なのかな」

 幸子はぽつりとそう言った後、急に両手で指を折って何かの計算を始めた。

「何してるんですか?」翼は訊いた。

「ニューヨークって、今何時なのかなと思って」と幸子。


 わざわざ指を折って時間を数えている幸子の前で、智香はネビュラを使って一瞬で調べた。

「こっちが午後二時過ぎですから、向こうは十四時間遅くてちょうど夜中の十二時ですよ」

「じゃあ、寝てるんじゃないですか? 迷惑だから切りましょうよ」

 翼が慌て出したので、幸子も「そうだね」と言って、受話器を置いた。「ちん」と虚しい音がした。


 翼は訊いた。

「リップマンさんのご自宅には、ご家族の方もいらっしゃるんですか?」

「今は一人暮らしみたいだよ。リップマンさんには奥さんと息子さんが二人いるんだけど、その人たちは別の場所に住んでいて、今は連絡を取り合っていないみたい。ネビュラは通じないし、どうしたもんかな……」


 幸子が困ったようにポリポリ頭を搔いているので、翼もなんとなくそれを真似て頭を掻いた。

 翼の頭の上にはお団子が一個あって、そいつを揉み揉みするとときどき良いアイデアが浮かんできたりする。このときも翼はお団子を揉み揉みしてみた。髪をまとめてくれているリングには機械細胞(マシン・セル)が組み込まれているので、どんなに強く揉んでもお団子が崩れることはない。


 翼の頭の中で「ちーん」と音が鳴った。

「ひらめきました」翼は言った。

「なにがだね?」と幸子。

「これからニューヨークに行って、リップマンさんのご自宅を直接訪ねてみましょうよ」

 ひらめいたと言うわりには、あまりにも当たり前のアイデアだった。


「君は簡単に言うけどね」

 幸子は意外にも慎重だ。「あの人のアパートはものすごいセキュリティで守られているんだよ。アポなしじゃ誰も入れてくれないよ」

 いつもなら大胆不敵で考えなしに行動するはずの幸子が、意外過ぎるほどまともなことを言っている。


 翼は不満だった。

「そんなの試してみないとわからないじゃないですか」

「試してみたからわかるんだよ」

「あ……、試してみたんですね……」

 やっぱり幸子は大胆不敵で考えなしに行動していた。行動してダメだったということなら、翼も納得できた。何もしないうちから諦める人間たちと、やるだけやって諦めた幸子とでは、やはり明らかな違いがある。


 道理でご丁寧に電話でアポを取ろうとするはずだ。以前に幸子は何の連絡もしないでリップマンの自宅を訪ね、セキュリティスタッフに散々な目に遭わされたことがあるのだ。彼女はそれで懲りていた。


「正面から突っ込む作戦はうまくいかないよ」

 幸子は腕組みして考え込んだ。「うーん、どうしようかなあ……」

 そこに智香が、じれったそうに口を挟んだ。

「とにかくニューヨークに行ってみてから考えましょうよ。こんな静岡の片田舎で悩んでいたって埒があきません」

「智ちゃん、ニューヨークに行きたいだけなんじゃない?」

 翼が突っ込むと、智香は「てへへ」と苦笑いした。


 幸子もさすがにこれではらしくないと思ったのか、ついに椅子から立ち上がって、何やら不思議なダンスを踊りながら念仏を唱え始めた。

「何やってるんですか? 幸子さん」と翼。

「これからここに、わがさっちゃん号を呼び出そうとしているんだよ」

「さっちゃん号?」と智香。


「七代目さっちゃん号に乗って、いざニューヨークへ繰り出さん」

 幸子は大仰に言うと、大きく腕を振って奇声を上げた。

「きええええええい! 出でよ、さっちゃん号!」

 たちまち部屋に白い煙が立ち込めた。

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